楽天と日本郵政(以下郵政)の提携が発表され、大きな注目を集めています。この大型提携の背景にはどのような事情が隠れているのか、今後のいかなる展望が予想されるのかという観点から、この話題を掘り下げてみます。

 まず公表された今回の提携における趣旨ですが、両社は既に2020年12月に商品配送業務を軸とした業務提携を発表しており、今般の資本提携が加わることで関係をより強固なものにしていく、とのことです。しかし資本提携については、郵政が楽天の第三者割当増資を引き受ける形で1500億円を楽天に出資することで持株比率8.32%の筆頭株主(オーナー関係株主を除く)になるのに対し、楽天から郵政への出資はありません。当事者が「歴史的提携」という割には違和感満載な資本提携なのですが、その実態はどうなのでしょうか。

 次に、楽天の三木谷浩史会長兼社長、郵政の増田寛也社長が出席した共同会見を受けて、報道された表向きの提携メリットをみてみます。楽天サイドとしては、本業のEC事業で郵政との提携強化による商品配送の迅速化および低コスト化が見込まれる点、モバイル事業においては郵政からの資本供与を課題となっている基地局充実に充てることができる点、さらには全国2万4000局にのぼる郵便局内でのモバイル契約窓口の設置を挙げています。

 対して郵政サイドは、12月にも強調されていた年間3兆円規模とされる楽天のECサイト商品の配送を優先的に引き受けることに加え、全般的に後れを取っているデジタル技術に関して人材を受け入れるなどして強化が図れること、を挙げています。両社のメリットとも、何となく薄味な感じがするのは気のせいでしょうか。

 そんな薄味な双方のメリット以上に気になるのが、今回の「資本提携」のタイミングです。というのは、本発表のちょうど1カ月前に楽天の2020年12月決算が公表され、その内容が1141億円の巨額赤字計上という大変ショッキングなものだったからです。前年同期も赤字でしたが、その額は318億円。赤字幅は3倍以上に広がった形です。

 赤字の理由は明白でしょう。携帯電話事業は、免許業務として事業を管轄する総務省の目が光っており、楽天モバイルも一日も早く大手3キャリア並みの通信エリアの拡大と質の安定が求められています。大手3キャリアと比べて、通信エリアおよびその質で明らかな後れを取っていることからモバイル事業の4G基地局増設に向けた投資を急ぐ必要があり、その莫大な費用が赤字を生んでいるのです。また、基地局開設の遅れは、楽天モバイルのサービス開始が当初予定よりも半年遅れた最大の理由でもあります。総務省だけでなくサービスインを待ち望む顧客のためにも、投資を急がざるを得ない状況に置かれているのです

 ちなみにこの決算では、同社の本業である国内EC事業はコロナ禍での巣ごもり需要の盛り上がりもあって、営業利益が前年比13%増の約580億円を計上しています。つまり、前述の通りいまだ設備整備がおぼつかないモバイル事業の大赤字が完全に全事業の足を引っ張っているわけです。しかも悪いことに、モバイル事業はとにかく誤算続きで泥沼化しているのです。

 まずは、ブランドイメージの毀損です。先にも述べた基地局準備に対する見通しの甘さから、当局からも事業開始にストップがかかりサービスインが遅れ、出ばなをくじかれてしまいました。加えて、昨秋の菅政権誕生により一気呵成した携帯電話料金の官製値下げ圧力です。NTTがドコモを完全子会社化する形で本気の値下げに取り組んだことで、業界の「横並びブレイカー」として投入されたはずの楽天までもが値下げ競争に巻き込まれてしまいました。こうした大誤算が重なって、今後の事業展開に暗い影を投げかけています。

 業界参入当初、価格破壊的に掲げた「月2980円」の楽天価格でしたが、官製値下げでドコモがこれに追い付きました。後発かつ通信環境で劣る楽天はさらなる値下げせざるを得ず、月1980円という限界価格を提示するに至りました。この値下げは、1契約当たりの収益低下だけでなく、当初契約数700万件としていた損益分岐点契約数に大幅な上乗せを余儀なくさせる由々しきものです。現時点での契約数はようやく250万件を超えたばかり。事業の黒字化は果てしなく遠くなったといわざるを得ないでしょう。

 今後の基地局への投資負担も重くのしかかります。現状の4G対応だけで、従来計画の6000億円からさらに3〜4割の上乗せを公表しており、利益が減る中でも出費はかさむのです。しかも、この先に控えているのは5G、加えて6G対応に向けた投資です。ただでさえ世界に後れを取っている5G対応で早期に追い付き、かつ6Gでは覇権を取り戻すというのが政府方針でもあり、通信事業という公共性を担う免許事業に乗り出した以上、楽天がこれに従うのは当然の責務です。要するに、今後も兆単位の投資が必要になる事業であり、NTTがドコモ単体では手に負えないとして完全子会社化によりグループの総力をあげての取組姿勢に切り替えたことが、何よりその事業の先行きの厳しさを物語っています。

 このような状況を踏まえて郵政からの1500億円出資を考えてみましょう。すると、一般的には莫大な金額である1500億円も、今の楽天にとっては4G基地局の増設投資分にも満たない微々たる存在であることが分かると思います。今回、郵政の他にも中国のネット大手テンセントや米国の大手流通ウォルマートなどからも出資を受け、郵政の出資と併せた資金調達総額は2400億円となります。これでようやく4G基地局増設投資分に符合する程度であり、今回の資金調達は新たな前向き投資資金の確保とはおよそいい難いのです。

 では、なぜ今回主な資金の出し手が郵政なのでしょうか。中国資本のテンセントから657億円の出資を受けるというのも非常に気になる点ではありますが、本稿では郵政との提携に焦点を絞って見ていきます。

●いまだに「実質国営」の郵政

 郵政は法律で民営化の方針が決まりながらも政治的綱引きが続き、いまだに国の資本が50%を超えている「実質国営企業」です。その郵政が1500億円もの大金を一民間企業に出資をする場合、当然大株主である国の了解を得ているはずです。常識的に考えれば、「実質国営企業」が一民間企業へ一方的に出資して資本提携するということを、国としては慎重になるはずではないでしょうか。ということを考えると、むしろ私には、国が主導で郵政から楽天に出資をさせたのではないか、とさえ映るのです。

 すなわち、楽天は当初国からも「横並びブレイカー」を期待され携帯電話事業の免許を取得したものの、国の方針で携帯電話料金値下げに巻き込まれました。その結果、図らずも収益を圧迫されている現状を、免許を与えた国としておもんばかったのではないかと思えてなりません。共同会見では、今回の資本提携について楽天サイドからの申し出であると三木谷氏が明言しています。これは、モバイル事業が足を引っ張る形での大赤字決算が見えた段階で、提携先の郵政を通じて国へSOS信号を発したのではないか、とも受け取れるわけです。

 そうでなければ、こんないびつな一方的かつ多額の資本提携を、「実質国営企業」である郵政の戦略として大株主である国があっさり認めるわけがありません。すなわち、今回当事者が資本提携と称するものは、実質的に国による楽天への資本注入なのではないのか、ということです。

●楽天がNTTの軍門に降る可能性も?

 この先にあるものは恐らく、国が「楽天の大株主の大株主」としてその動向に目を光らせていくということでしょう。そして国策として強化を押し進める5G、6G対応に向け先行きの暗い楽天のモバイル事業を、いずれは売却させる(買い手は、同じ国が株主のNTTでしょうか)、そんな腹があるのではないかとまで想像が膨らむのです。

 そもそも5G、6G戦略に関しては、国の見通しも甘すぎました。東京五輪後をターゲットにしてきた5Gの本格稼働が、新型コロナ感染拡大により五輪が延期される間に、予想以上のスピードでDX化の波が世界で広がり状況を一変させました。外部環境の激変という側面は否めませんが、楽天を第4の通信キャリアとして参入を認めたときと今とでは、状況があまりに異なってしまっているわけであり、国としても当然方針変更を迫られます。

 そして楽天も、現状では規模、事業姿勢、収益状況等から判断して、国防上ますます重要性が増している通信キャリアに、およそふさわしいとはいえない状況にあるわけです。通信事業という公共性を帯びたビジネスを甘く見て、基地局設置の遅れなどが露呈したびたび業務改善命令が発せられている時点で、国は早々に楽天を見限った感が強く漂います。楽天新規参入の意義まで無視して携帯料金の官製値下げを強行に進めた裏には、国の「楽天の賞味期限切れ」という判断もあったのではないかと思うのです。

 今回の「資本提携」とは名ばかりの実質資本注入で思い出されるのは、19年のヤマダ電機から大塚家具への資本注入です。会見で当時大塚家具社長だった大塚久美子氏は「資本提携」を強調していましたが、実際にはヤマダ電機から大塚家具への一方的な資本注入であり、救済策であることは誰の目にも明らかでした。大塚家具が結局、1年後には完全に創業家の手を離れることになったのは、記憶に新しいところかと思います。

 官製値下げ圧力で収益が細り、他方4Gキャッチアップに5G、6G対応で支出増加を続ける携帯業界。新規参入の楽天にとっては、あまりにもタイミングが悪いといわざるを得ません。間接的とはいえ国の資本下に置かれた楽天に、今後どのような展開が待ち受けているのでしょうか。「横並びブレイカー」としての賞味期限が切れた同社が、消費期限切れになる前に勇気ある撤退を含めた決断を迫られる日は、そう遠くないようにも思われます。

(大関暁夫)