2018年はスマートフォン2億4000万台を販売し、世界シェアで2位に立ったファーウェイ。19年も出荷台数は世界2位を死守したが、米政府の規制がなければ3億台が視野に入っていた。20年はアップルに抜かれて3位に後退し、調査会社Counterpointによると、21年2月のシェアは4%まで下がった。

 胡厚崑(ケン・フー)副会長兼輪番会長は「フラッグシップモデルは計画通り発売する」「今後も世界でリーダー的地位を維持する」と発言したが、21年の出荷台数は7000万台前後に落ち込むと見られ、中国メーカー4社に抜かれて7位にとどまる見通しだ。

 ファーウェイは生存のため、抗日戦争に由来する「南泥湾プロジェクト」に着手した。全3回に渡るファーウェイ特集の最終回は、「脱スマホ」「脱アメリカ」の鍵となるキーワードを紹介する。

●米企業に頼らない「南泥湾プロジェクト」

 ファーウェイは18年12月の孟晩舟副会長兼CFOの逮捕、そして19年5月の最初の規制発動に直面し、自社製品の安全性を世界に訴えた。表舞台を嫌い、「謎の創業者」とされていた任正非総裁も精力的にメディアに露出した。

 だが孟副会長の拘束や規制が長期化し、ファーウェイは戦術を変えた。「ファーウェイを政治の切り札にしている」と米政府を批判し、19年8月には米国のサプライチェーンを離れても自活できる体制を目指す「南泥湾プロジェクト」をローンチした。

 「南泥湾」とは1940年代前半の抗日戦争中に、経済的苦境に立たされた中国共産党が陝西省延安市の荒地だった南泥湾を開墾し、手工業、工業、商業を育成して前線の戦いを支える基地を建設した史実に由来する。

 任総裁は今年2月、同プロジェクトに初めて言及し、「南泥湾とは自給自足によって自力救済することで、石炭、鉄鋼、音楽、スマートスクリーン、PC、タブレットなどの領域を開拓することも計画の一環」と言明した。

●一次産業、二次産業のICT化にフォーカス

 スマートフォン生産を封じられたことで、ファーウェイは「5Gネットワークを活用したICTソリューションを提供する企業」という原点に立ち返った。5G時代に入ると、スマートフォンや家電など端末はもちろんのこと、空港、港湾、鉱山、工場などもICT化の対象になる。

 今年2月には、中国有数の炭鉱地域である山西省で、5Gやクラウドコンピューティングなどの先進技術によって、鉱山経営の効率と安全性を向上させるプロジェクトを発足した。

 「中国には5300の炭鉱、2300の金属鉱がある。これらの鉱山の経営を効率化・無人化できれば、気象条件が劣悪で、人々が生活できない場所にある鉱山の採掘が可能になる」(任総裁)

 中国で豚の価格が高騰していることを背景に、ファーウェイが養豚業に乗り出すとの噂も広がり、胡輪番会長が3月31日の決算会見で、わざわざ「養豚はやらない」と否定するほど注目が集まっている。ただし同社はAIや5Gを使って養豚場の無人化、経営効率化を進める「スマート養豚ソリューション」を既に発表している。

 鉱山や養豚場のICT化は欧米企業が入ってきにくい分野で、かつ新興国での需要が期待できる。国有企業、欧米大手との競争を避け、農村やアフリカからシェアを広げたファーウェイの歴史を考えれば、「らしい」選択でもある。

●スマホの穴埋めるコネクテッドカー

 ファーウェイは鉱山や養豚場に目を付け、ブルーオーシャン開拓に取り組みと同時に、レッドオーシャン化している次世代自動車にも投資を拡大している。同社は19年5月、コネクテッドカーソリューションを手掛けるビジネスユニット(BU)を設立し、自動車メーカーなどと業界団体も立ち上げた。

 3月31日の決算会見で胡輪番会長は、「自動車はホットイシュー。ITの会社が自動車について語れないと時代遅れと思われる一面がある。自動車産業は他の産業と同様にDXの重要な一面に入っている」と述べ、スマートコックピット、つながる車、スマート運転などの分野で、部品サプライヤーを目指すと表明した。一方で、自動車そのものの生産については、任総裁が「永遠に参入しない」と否定している。

 自動車ビジネスユニットは、スマートフォンなどを管轄する消費者向け事業グループに置かれていることから、スマートフォン事業の穴を埋める存在としても位置づけられているようだ。

●他社の5Gスマホから特許使用料

 ファーウェイはスマートフォンだけでなく、世界首位の5Gでも逆風にさらされている。19年にファーウェイ排除を明確に表明していたのは、米国、オーストラリア、日本など一部の国だけだったが、20年にコロナ禍が拡大し対中感情が悪化すると、イギリスやフランスもファーウェイ排除に転じた。

 ただし、5G網からファーウェイを排除したとしても、同社は5G技術特許を世界で最も多く保有しており、5G対応スマートフォンを生産するメーカーは関係を断つことが難しい。

 ファーウェイは21年3月、同社の特許技術を使用する5Gスマートフォンの特許使用料を、1台当たり上限2.5ドル(約270円)に設定したと発表した。ノキア、エリクソンより価格を抑えており、米国がファーウェイの通信機器を排除しても、同社は一定の収入を得られると見込んでいる。

 ファーウェイは4G技術でも特許使用料を徴収しており、19年から21年までの3年間の知的財産権収入額を12億〜13億ドルと公表している。

 また、南泥湾プロジェクトの一端とも言える独自OS「Harmony OS(ハーモニーOS)」は、米国の規制でグーグルのサービスを利用できなくなったことを受け、今年からファーウェイのスマートフォンに搭載される。

 20年にサブブランドの「Honor(オナー)」を売却するなど、スマートフォン事業の縮小基調は続きそうだが、2月に発表した折りたたみスマートフォン「Mate X2」は中国で在庫切れとなるほど売れており、同国では引き続き存在感を維持しそうだ。

●アリペイ、WeChatの牙城、「決済」に参入か

 ファーウェイは3月29日、中国の決済企業を完全子会社化し、決済事業のライセンスを手に入れた。

 同社は中国でモバイル決済が爆発的に普及した5年前、決済に進出しない方針を示しているが、19年に発表したハーモニーOSのエコシステムを拡張するために、アリババの「アリペイ」、テンセントの「WeChat Pay」のような決済システムを整備する可能性を指摘されている。

 現在、モバイル決済市場ではアリペイとWeChat Payが9割のシェアを握っているが、スマートフォンメーカーのファーウェイなら一定の競争力を有するとの声もある。一方で中国当局がIT企業の金融事業を厳しく規制するようになっていることから、他の新規事業と比べると、政治リスクが高いと見られている。

 ファーウェイは、スマートフォン事業からは撤退しないと言明している。だが、半導体の調達規制によって生産を封じられており、出荷台数がこのまま減少すれば、スマートフォンメーカーとしての色は薄れ、新事業の開拓なしに生き残りは図れない。

 ただ、「スマートフォンはICT端末の1つに過ぎない」というファーウェイ幹部らの発言は、長期的に見れば正しい指摘だろう。中国IT大手・バイドゥ創業者の李彦宏CEOは19年、中国国営テレビの新年特別番組に出演し、「人工知能(AI)時代の到来で、スマートフォンは20年以内に消える。今、スマートフォンがやってくれていることの多くを、家電などに搭載されたAIがやってくれるようになる。そうすれば、もう手元にスマートフォンを置く必要はないだろう」と持論を語った。

 トランプ大統領はファーウェイをグローバルの舞台から排除しようと目論んだが、それは同社を「スマートフォンの次の時代」へ向かわせることとなった。短期的に力を削がれても、持久戦を持ちこたえ、米企業のサプライチェーンに頼らない企業に“進化”する可能性も残っている。

(浦上早苗)