焼売(シューマイ)がブームになっている。

 点心では、1990年代に鉄鍋餃子や宇都宮・浜松などのご当地餃子、2000年代に小籠包、2010年代には焼小籠包や肉汁餃子が次々とブレーク。そして今、コロナ禍による巣ごもり需要の増大や、蒸し料理のヘルシーさといった要因により、焼売の見直しが進んでいる。

 そうしたトレンドを的確に捉え、とんかつチェーン「かつや」では4月9日から99円を追加すると、定食のご飯を焼売入りに変更できる「焼売ご飯」の提供を始めた。

 焼売ご飯は、カラッと揚げた焼売3個に刻みネギで彩りを添え、しょうゆで仕上げる。定食のご飯をよりおいしく楽しむ「全力ご飯!」の一環で、「めんたいご飯」「ちょいがけカレー」「ツナマヨご飯」の3種に、数量限定で加わる。かつやは、緊急事態があったにもかかわらず、今年に入ってからの既存店売上高を前年並みに維持。全力ご飯!の貢献度は高い。

 また、焼売ブランドで全国区の知名度を誇る「崎陽軒」では、20年の秋ごろから首都圏ロードサイドでの店舗展開に力を入れ始め、近郊住宅地などへの浸透を図っている。

 日本初の焼売データベース構築を目指す、焼売研究家のシュウマイ潤氏は「ここ3年くらい、特に2020年から東京、関西、福岡などで焼売専門店、特に焼売居酒屋が急増していて、20店くらいにはなっているのではないか」と語る。焼売がコロナ禍で苦境に陥っている外食の救世主と期待されているとの指摘だ。

 冷凍食品でも、味の素冷凍食品が21年2月に「大海老焼売」を発売。イートアンドフーズでも「たれつき焼売」を新提案するといったように、焼売の新商品が続々と登場している状況だ。

 「焼売は、餃子のようにニラ、ニンニクを使わないので、食シーンを選ばない」(味の素冷凍食品・広報)といった意見も聞かれた。

 唐突に訪れたかに見える、焼売ブームの現状をレポートする。

●崎陽軒はロードサイドへ

 焼売ブームの立役者として崎陽軒が挙げられる。日本で最も有名な焼売製造・販売会社にして、横浜駅の名物駅弁「シウマイ弁当」で知られる。

 横浜駅にとどまらず、首都圏の主要駅、駅ビル、百貨店などに約150店を直営で展開し、絶大なブランド力を誇っている。年商は262億円(19年度)。

 20年春の緊急事態以来、駅や百貨店に来る人が激減。その影響で、最大に減った月で前年より7割ほど売り上げが減少した

 一方、郊外にある店舗は健闘していて、コロナ禍が始まる前の水準を上回る売り上げを達成しているケースが多い。そこで、崎陽軒から顧客の居住地に近づいていく戦略を展開。20年9月から、ロードサイドへ月に1店のペースで出店している。

 現在のところ、戸塚、横浜・市沢、座間(以上、神奈川県)、荻窪(東京都)、川口(埼玉県)の5店が存在し、販売は順調だ。

 コロナ禍では、公共交通機関を使うよりも、マイカーで移動したほうが感染リスクが低いと考える人も多い。広い駐車場を持つ食品スーパーやドラッグストアが活況という背景がある。

 商品ラインアップは、駅弁各種、シウマイ、月餅や肉まんといった点心にとどまらず、「売り子はっぴ風あったかはんてん」といったオリジナルグッズを販売。

 また、20年8月に通販限定で発売して注文が殺到した冷凍弁当「おうちで駅弁シリーズ」や、同年9月に発売した「チーズシウマイ」などといった冷凍商品も販売している。

●「シウマイ」は栃木弁の発音に由来

 崎陽軒の創業は1908年(明治41年)。旅客に寿司、牛乳、サイダーなどを販売していた。15年から本格的に駅弁を販売したが、横浜駅が始発駅の東京駅に近すぎるため売れなかった。

 初代の野並茂吉社長は、売り上げを伸ばすために何か名物が必要と考えた。野並氏は当時南京町と呼ばれていた中華街で焼売を突き出しとして提供していて、土産物として持ち帰る人がいたことに注目。その頃の横浜には名物がなかったが、「それなら新しくつくろう」と28年にシウマイの販売を開始した。

 シウマイの名称は、野並氏の出身地である栃木弁の焼売の発音に由来するという。

 ただし、点心は基本的に温かい状態で食べるもの。冷めると味が落ちてしまう。駅で売るには冷めてもおいしくなければならないので、開発は困難を極めた。試行錯誤の末、干しホタテ貝柱と戻し汁を使うことでこの難題を解決。豚肉の臭みもなくなった。

 しかし、シウマイが売れるようになったのは、戦後になってからのこと。50年に「シウマイ娘」という駅のホームでシウマイを売るキャンペーンガールを投入。そのシウマイ娘が新聞小説『やっさもっさ』(獅子文六著)の題材となり、映画化もされてシウマイが一躍脚光を浴びた。

 シウマイのヒットを受けて、シウマイ弁当を54年に発売。これも売れた。

 デパ地下や、横浜駅以外の駅に販路を拡大したきっかけは、64年の東海道新幹線の開通も大きい。それまで、全ての列車が停車していた横浜駅を新幹線は素通りするので、危機感を持って出店を重ねた。その結果、首都圏一円に崎陽軒の強固な販売網が構築された。横浜名物のシウマイが首都圏の住民にとって身近な存在になった。

 このように、同社は焼売の日常食化に貢献していると言えよう。

●冷凍食品で焼売の売り上げ増

 冷凍食品では、焼売の売り上げ増が目覚ましい。

 冷凍焼売でトップシェアを持つ、味の素冷凍食品では、2016年に発売した「ザ★シュウマイ」が好調。20年8月以降、売り上げは前年比2桁以上の伸長が続いている。男性をターゲットにしており、パンチのある味が特徴。一方で40〜60代の購入者が多く、なかなか若者には浸透しないという悩みを抱えていた。

 そこで、21年2月14日に新商品「大海老焼売」を投入。ジューシーな豚肉に大ぶりのえびがゴロっと入り、コクが深くて海鮮のうまみがきいており、上品でやさしい味わいが特徴だ。えびの他にも、いか、しいたけ、たまねぎなどの素材を加え、ホタテだしのうまみが素材の味を引き立てている。

 肉主体のしっかりとした味わいでご飯がガツガツ進む「ザ★シュウマイ」とは真逆の商品で、女性や若者をどれだけ取り込めるか。注目の戦略商品である。

●マルハニチロも焼売強化

 マルハニチロでも有名店「赤坂璃宮」のオーナーシェフである譚彦彬氏が監修した「新中華街」シリーズにて、20年3月から「五目シュウマイ〜香りと旨み〜」を全国で発売した。

 同社の調査によれば、従来品の焼売に対して特に女性が「味が濃い」「脂っこく味が単調で食べ飽きる」「1個当たりの大きさが合ってない」といった不満を抱いていた。そこで、適度な大きさで薄味ながらうまみがあり、飽きの来ない焼売を開発した。夕食の献立に推奨している。

 豚肉、鶏肉、たけのこ、たまねぎ、しいたけ、千ぎりしょうがを使用し、具材感を感じるように仕立てた。鶏がらとホタテのダブルスープとし、塩分を抑えた味付けと、適度な食べやすいサイズもポイントだ。味の素冷凍食品「大海老餃子」との販売競争になりそうである。

●冷凍食品の焼売を大阪王将が

 イートアンドフーズでは、中華専門店「大阪王将」が届ける冷凍食品シリーズとして、21年2月末から「たれつき焼売」を発売。冷凍食品で初のたれ付きが特徴。からしも付いている。同社の調査では、冷凍焼売を食べる時にたれなどを付ける人が6割、からしを付ける人が4割となっていた。

 同商品は国産の豚肉と鶏肉を使用した大粒の肉焼売で、たけのこのシャキシャキ感がアクセント。同社が冷凍食品で推進する、香料・甘味料・着色料・保存料・化学調味料を使わない「5つのフリー」を実現している。

 イートアンドフーズでは、焼売のアレンジレシピをWebサイトで公開。焼売と長ねぎを串に刺してフライパンで焼くだけの「居酒屋風 焼売ねぎま」、パンで焼売とレタス・トマト・チーズなどを挟んだ「肉焼売のミニサンド(ミニハンバーガー)」などを紹介している。

 このように、冷凍食品各社では積極的に焼売の新商品を発売し、顧客開拓に熱心。一部で競合商品も出てきて、ブルーオーシャンが少し赤みを帯びてきた感がある。

●存在感増す焼売専門店

 さらに、焼売市場を活性化させているのは焼売専門店の存在である。

 前出のシュウマイ潤氏は「6〜7年前に東京にできた『野田焼売店』と『ミニヨン坂ノ上』が、現在増殖している焼売酒場の原型になっている」と説明する。

 食品卸売業のクサマ(東京都新宿区)が2015年から展開する野田焼売店は、6種類のバラエティ豊かな焼売を前面に出した中華食堂。蒸す「焼売」にとどまらず、焼く「焼焼売」、揚げた「揚焼売」、スープに浸かった「水焼売」、唐辛子が刺さった「辛焼売」、チーズとバジルのイタリアン風「チーズ焼売」をそろえる。さらに、タレを9種類から選べるようにしている。

 野田焼売店は焼売の他に、担々麺、四川麻婆豆腐を提供する。また、居酒屋としての利用を促せるように、よだれ鶏、油淋鶏といったメニューを用意。店舗は、東京・紀尾井町と駒込にあり、3月12日には埼玉県所沢市の「Emio新所沢」にスピンオフ店の「野田焼売店 辣痺(RABI)」を出店した。

 また、東京・渋谷のミニヨン坂ノ上は、和食のビストロで焼売を出す店だったが、19年に「焼売酒場 小川」としてリニューアル。同店は岩手県のブランド豚「岩中豚」を使った焼売に加えて、自然派ワインやダッチオーブンを売りにした店づくりを行っている。

 野田焼売店と焼売酒場 小川は、一般的な中華料理店で提供される焼売の枠を超えて、日本独自の焼売が大衆的に広がっていることを印象付けた。

 そして、福岡の「焼売酒場いしい」、川崎の「焼売のジョー」、東京・新橋の「Tokyo焼売マニア」、大阪・アメリカ村の「スタンド酒場 焼売銭湯」といったように、焼売をメインにした居酒屋が続々と新規オープンしている状況だ。

●焼売居酒屋の多店舗化が進むか

 注目されるのは、新進気鋭の焼売酒場いしいや焼売のジョーなどが、豚肉ではなくて鶏肉を使った焼売で顧客をつかんでいることだ。焼売酒場 小川も20年末から鶏焼売を提供し始めた。スタンド酒場 焼売銭湯は豚と鶏の2種類の焼売が看板商品だ。

 「2021年はより上質な鶏焼売の専門店が生まれるのではないか」と、シュウマイ潤氏は期待している。

 焼売のジョーは、ラーメン「らぁ麺 はやし田」などを展開する外食企業INGS(東京都新宿区)の新業態だ。20年6月に神奈川県の川崎で1号店を立ち上げた。その後、あっという間に東京の多摩センター、町田、立川と埼玉の大宮へとチェーン化して5店になった。同チェーンに限らず、これからFC(フランチャイズ)を含めた焼売居酒屋の多店舗化が急速に進む可能性がある。

 居酒屋の業態でテークアウトの需要がある店は、焼売のほかには餃子くらいのもので、非常に少ない。その意味では、緊急事態や「まん防」などで時短を強いられ、売り上げが激減しても泣き寝入りするしかなかった居酒屋にとって、救世主となる業態が出現したと言える。

 焼売ブームは果たしてどこまで拡大するのか。

 ブームに乗って地域活性化に役立てようという動きもある。崎陽軒初代社長の出身地、栃木県鹿沼市では「シューマイのまち」を目指し、JR鹿沼駅前に「シウマイの像」を建てる計画が進む。現状、鹿沼で焼売が流行っているとはいえないが、崎陽軒も鹿沼の街おこしに協力していく方針だ。

 焼売ブームが粗製乱造となって消滅するリスクもあるが、横浜の名物にとどまらず日本の国民食になるレベルにまで成長してもらいたい。

(長浜淳之介)