ワタミが展開する「焼肉の和民」が好調だ。

 焼肉の和民は、コロナ禍のライフスタイル“ニューノーマル”に対応した、高品質な焼き肉をリーズナブルな価格で提供する焼き肉店として、2020年10月に1号店を東京都大田区にオープン。早くも、3大都市圏で23店にまで拡大している。

 居酒屋から業態転換した1号店の大鳥居駅前店に関して同社が検証したところ、20年10〜11月の売り上げは前年比で283.6%。3倍近い大幅な売り上げ増となった。一方、「和民」などの居酒屋業態は59.2%にとどまった。

 ワタミはこの検証結果を踏まえて、今後は居酒屋業態120店を順次焼き肉業態に転換することを決断した。ニューノーマルの中、外食シーンで大人数が集まる宴会が激減。少人数の仲間内の集まり、ファミリー、1〜2人での利用がメインになる流れを捉えて、本業を居酒屋から焼き肉へとシフトした。

 4月25日〜5月11日の第3次緊急事態宣言を受け、東京都、大阪府、京都府、兵庫県で、飲食店は午後8時までの時短に加えて、酒類の提供が禁じられている。今後も同様な疫病が流行するリスクがあることを鑑みれば、外食企業として生き残るには、お酒がメインの居酒屋にすがることはできない。

 現に、ワタミでも緊急事態中、4都府県にある居酒屋236店を休業している。

●換気が良いイメージの焼き肉業態

 焼き肉業態は換気が良いイメージがある。そのため、外食がコロナ禍で全体的に苦戦している現状においても、健闘している。日本フードサービス協会の「外食産業市場動向調査」によれば、2020年における外食全体の売り上げは前年比84.9%。1994年に調査を始めて以来、最大の落ち込みとなった。一方、焼き肉は89.1%で、テークアウト需要が多いファストフード96.3%、中華90.2%に次いで健闘していた。中華もギョーザ、唐揚げなどのテークアウトが好調だ。

 焼き肉はテークアウト需要が旺盛とはいえないが、郊外ロードサイドでは焼き肉のテーブルバイキングが伸びている。例えば、「焼肉きんぐ」が大半を占める物語コーポレーションの焼き肉部門における20年7〜12月の既存店売上高は、前年同期比105.7%と成長している。「GO TO イート」の効果もあって、コロナ禍でも絶好調といっていいほどである。

 焼肉きんぐと競合する焼肉チェーンに、ワン・ダイニングの「ワンカルビ」やジー・テイストの「肉匠坂井」などがあるが、いずれも好調と伝えられる。ジー・テイストは、21年7月には焼肉坂井ホールディングスと商号を変更する予定で、焼き肉を中心とする外食企業だと内外にアピールする。

 一方、焼肉の和民では単品でも注文できるが、テーブルバイキングも採用している。焼肉きんぐ、ワンカルビ、肉匠坂井などとバッティングするロードサイドを避け、大都市近郊の駅前に立地を定めた。

 そればかりでなく、焼肉和民では、回転寿司でおなじみの商品を席まで速達する「特急レーン」を導入。注文は席で、タッチパネルを使って行う。また、食べ終わったお皿を下げる際に、店員ばかりでなく、配膳ロボットが活躍する。従来の居酒屋業態に比べて、最大で接客による接触を80%削減しており、非接触性が高い。

 排煙・空調に関しては、3分に1回、店内の空気の完全な入れ替えを行っている。

 入店時には、自動検温カメラで顧客の体調をチェックし、アルコール消毒液を設置して顧客は手指を消毒してから着席する。従業員も勤務時の検温、手洗いとアルコールによる手指の消毒を義務化。就業中のマスク着用を徹底している。

 このように、焼肉の和民はコロナ禍によって開発された業態だけに、感染症対策を十分に行ったうえで、外食の楽しみを提供しようといった姿勢を打ち出しているのが特徴だ。

●焼肉の和民の戦略とは?

 それでは、焼肉の和民の内容を詳しく見ていきたい。

 焼肉の和民は、「ワタミカルビ」と「和民和牛」を看板メニューとする業態だ。

 ワタミカルビは、希少部位プレートフィンガー(中落ちカルビ)を、独自のタレで味付けた看板メニュー。Sサイズを429円という低価格で提供しており、値段以上の価値を追求した顧客満足度が高い商品である。

 また、和民和牛は独自に開発したブランド和牛。牛本来のうま味やアミノ酸が豊富に含まれており、低脂肪・低カロリーのヘルシーな和牛としている。「和民和牛カルビ」(649円)などがある。

 3月からはコロナ禍で影響を受けた生産者たちを支援するため、A5黒毛和牛の仙台牛(関東の店舗)や薩摩牛(関西・東海の店舗)のカルビも提供しており、カルビのメニューが特に充実している感がある。

 サイドメニューのオーガニックリーフのサラダ、エイヒレの炙り焼きのような居酒屋メニュー、ラーメン、各種デザードなどは、居酒屋としてのDNAを継承する要素もある。フードメニューは全140種に上る。

 ドリンクメニューも、ソフトドリンク、お酒を合わせて80種類ほどと豊富にそろえている。

 単品だけでなく、テーブルオーダーによる100分の食べ放題を実施しており、3種類のコースがメインである。

 具体的には、55品「わいわいカルビコース」(3168円)、110品「和民カルビコース」(3828円)、130品「極上A5和牛コース」(4818円)となっている。それぞれ、小学生は半額、未就学児は小学生の半額、0〜3歳は無料、65歳以上が400〜500円引きだ。

 わいわいカルビコースは、厚切りを含む3種類のカルビをメインに据えていて、サラダ、ご飯、スープ、クッパ、うどん、冷麺、ラーメン、デザートなどのサイドメニューも充実。和民カルビコースはワタミカルビ、極上A5和牛コースはA5黒毛和牛が売りとなっている。

 全体的に、小さい子どものいる家族、高齢者に恩恵があり、価格が高いコースほどお得感が増す設計になっている。

●郊外ロードサイド向けの「かみむら牧場」

 ワタミでは、郊外ロードサイド向け「幸せの焼肉食べ放題 かみむら牧場」の1号店(東京都大田区)を、20年5月にオープン。これは、焼肉の和民よりも早い出店だ。同店はコロナ禍にもかかわらず、累計で8万人を上回る顧客が来店している。

 かみむら牧場も非接触を実現するため、特急レーンを導入。換気、消毒などを徹底させており、その成功が焼肉の和民につながっている。鹿児島にある国内有数の和牛生産者、カミチクグループとワタミで合弁会社ワタミカミチクを設立。国内4店、海外は台湾に1店を展開中だ。

 カミチクグループのブランド黒毛和牛である薩摩牛を中心に、オーストラリア生まれの豪州Wagyuをカミチクで肥育した「南国黒牛」、米国など海外産を織り交ぜてリーズナブルに提供している。

 価格は、100分食べ放題で、約86品「ジャストミートコース」(3278円)、約110品「王道!かみむらコース」(3938円)、約120品「和牛マニアコース」(4378円)となっている。小学生以下や65歳以上には焼肉の和民と同じく割引がある。

 また、サラダバーや巻き寿司が提供されており、他チェーンとの差別化になっている。

 平日ランチタイムには、カルビの定食を638円から提供している(ご飯お代わり自由)。ランチの価格は1人でも手軽に焼き肉を楽しみたい人には魅力的だ。

 これまで、ワタミはロードサイドの実績が乏しく、焼肉の和民に比べてもかみむら牧場の展開には慎重だ。

 その他、ワタミはテークアウトの需要が多い唐揚げ専門店「から揚げの天才」、韓国フライドチキン「bb.qオリーブチキン」といった新ブランドや、デリバリーの「ワタミの宅食」など、ニューノーマルに向いた業態の強化・拡大に熱心だ。特に、から揚げの天才は92店(4月6日現在)まで増えた。居酒屋を中心としたビジネスモデルからの脱却へと、待ったなしの覚悟が伝わってくる。

●牛角と立地で競合

 都市部郊外駅前立地で、焼肉の和民と最も競合しそうな焼肉チェーンは、コロワイド傘下レインズインターナショナルの「牛角」だ。

 牛角は日本最大の焼き肉チェーンで、展開を始めたばかりの焼肉の和民とは比較にならないほど、全国に浸透している。

 しかし、近年の牛角は、焼肉きんぐなど新興の食べ放題チェーンの勢いにあらがえず、自らも食べ放題企画に走る、王者らしからぬ傾向が目に付く。

 牛角における最近の目玉企画は、平日午後6時までの来店で70品以上が90分食べ放題となる「早割食べ放題」(1人2178円)である。20年9月3日から国内236店舗でスタート。394店舗にまで広げて実施してきたが、同年12月7日から一部内容を変更。一部店舗を除く国内606店舗(20年12月1日現在)にまで拡大した。

 牛角では、平日の午後7〜9時は混み合いやすいが、午後5時台は比較的混雑が少ない。早い時間への利用を促して混雑を分散し、感染リスクを下げるのが狙いだ。

 タン、カルビ、ホルモンなどの定番肉に加えて、サラダ、おつまみ、スープ、ごはんなどが、テーブルオーダーで食べ放題となっている。

 狙いは良いのだが、問題はその内容である。食べ放題のうち、牛肉は牛バラトロカルビのタレ・塩ダレ、牛ホルモンの塩ダレ・みそダレ・旨辛みそだけで、豚肉や鶏肉のメニューばかりが目立つのだ。タンは豚のみ2種類、カルビも豚が5種類あって牛よりも充実している。鶏も、鶏もも4種類に加えて、希少部位のぼんちりが4種類ある。

 売価が安いから、値段相応の肉しか出せないのは理解するが、「牛角」を名乗る以上、豚と鶏がメインなのは“がっかり感”が大き過ぎる。多少値段が高くなっても、あくまで牛で勝負してほしい。

 焼肉きんぐの場合、同じ2178円の「ランチコース」で、カルビ、ホルモンに加えて、ロースも牛なのだ。そのうえ、シメになるビビンバや冷やしぶっかけうどんなどもある。牛角では、同価格のコースで白いご飯しかないのと大違いだ。実は、焼肉の和民でも2178円の食べ放題ランチを土日祝日限定で実施している。内容は牛角と似通っているが、シメのクッパやラーメンがある分だけリッチな気分になれる。

 今のところ、牛角の客足が落ちたとは聞かない。しかし、競合他社と比べても勝っているか疑わしい企画を懸命に推すくらいなら、別の方法があるのではないか。例えば、3828円の通常食べ放題メニュー「牛角コース」で提供している30日間熟成の厚切り「カルビステーキ」などをなぜもっと宣伝しないのだろうか。また、鴨ロースもある。焼き肉店で鴨肉を提供すること自体が珍しいのだが、運営側は特にアピールすべき点だと考えていないようだ。

 黒毛和牛というストロングポイントを適切に宣伝している焼肉の和民と比べても、牛角は推すべき商品を間違えているように感じられて仕方ない。

 もっとも、今の牛角の顧客層は価格に対してとても敏感で、単価が高い商品の宣伝方法が難しい面があるのかもしれない。

 新興の焼肉の和民は、既にブランドを確立している牛角の牙城を崩すことができるか。ワタミがから揚げの天才などと共に焼き肉業態を伸ばして、居酒屋中心の外食企業から脱却してコロナ禍を乗り切り持続していけるのか。今後の動向を見守りたい。

(長浜淳之介)