世界最大の小売チェーンで、米国では人口の90%が店舗の10マイル圏内(約16キロ)に住んでいると言われているウォルマート。そのウォルマート内に店舗を構え、約30年にも渡って営業を続けてきたマクドナルドが、いま米国でビジネスの転換期を迎えている。

 ウォルマート内で営業しているマクドナルドは、ピーク時には米国内で1000店ほどあったのだが、それを2021年の夏までに150店ほどに縮小する予定だという。

 長きにわたり、両社にとってメリットがある関係を継続してきたのだが、なぜそれがいま崩れてしまったのだろうか?

 もちろん、新型コロナウイルス感染症のまん延が少なからず影響しているのは間違いない。店内での飲食が厳しくなったことや、ソーシャルディスタンスを保つためウォルマート店内への入場制限もあり、客足が大幅に落ちたからだ。

 しかし、実はそれだけが理由ではないようだ。一番の要因は、大手小売店内にマクドナルドが間借りするビジネスモデルが時代に合わなくなったことが大きい。

 確かにウォルマートは米国内で数多く店舗を持ち、売上高でも規模でも圧倒的な影響力を持つ企業ではあるが、マクドナルドにとって以前ほどの魅力がなくなっている。

 実は少し前から、ウォルマート内で営業するマクドナルドの店舗数が減少し始めていた。これまでの経緯を調べてみると、12年に約870店だったのが、17年には約640店ほどまでに減少している。

 そして、20年の始めには約500店になっていたが、大きな動きがあったのはコロナ禍真っ只中の20年7月になる。マクドナルドは、ウォルマート内で営業する店舗で、業績がよくない100店ほどを閉店すると発表したのだ。

 マクドナルドによると、新型コロナの流行よりも前に撤退することを決定していたが、その計画が少し早まったという。

●ウォルマート内に店舗を置く必要性

 マクドナルドにとって、ウォルマート内で営業するメリットは、客足の多さにある。それが、新型コロナによって、流れが急激に変わってしまった。多くの人がネット通販を利用したり、ストアの外でクルマに乗ったまま購入商品を受け取ることができる「カーブサイドピックアップ」と呼ばれるサービスを利用するようになったりしたことで、ウォルマート内に店舗を置く必要性を見出せなくなった。

 さらにウォルマート内のマクドナルドが、ドライブスルーを併設していなかったことで客を呼び込めず、ダメージが大きかったことも影響している。なぜなら、コロナ感染がピークだった昨年春には、米マクドナルド全体の売り上げの約90%がドライブスルーの利用から発生していたからだ。ドライブスルーが同社にとって重要なチャンネルとなっていたのだ。

 今回、うまくいっていた関係がコロナ禍で崩れたわけだが、もちろん、ウォルマートとマクドナルドの関係はずっと順調だったワケではない。パートナーシップを組んだ90年代から、これまでにもいくつか危機があった。

 その一つが、2000年代にトレンドとなったヘルシー嗜好(しこう)の流れだ。ファストフード業界でも、野菜をたっぷり使用し、低カロリーでヘルシーなサンドイッチが売りの「サブウェイ」が台頭してきたのがこの時期になる。

 それまで、ウォルマート内で営業するファストフード店はマクドナルドだけだったのが、2000年半ばころからサブウェイの店舗が急激に拡大していった。

 消費者の健康志向に対応するように、ウォルマートでもオーガニック食品などヘルシーな食品を取り扱うようになって、従業員の健康管理にも力を入れていた時期でもある。そのため、マクドナルドの新規店舗数を上回る勢いで、サブウェイの店舗が次々にウォルマート内にオープンしていった。

 ちなみに、ウォルマート内のファストフード店を利用しているのは買い物客だけではなく、およそ3分の1の売り上げは従業員によるものだという。こういった背景も少なからず影響していると思われる。

 当然、マクドナルドも健康志向のトレンドに対応するため、メニューの見直しを行うなど、ブランドのイメージアップを試みて危機を乗り越えてきた。しかし、今回の新型コロナによる影響は、同社に大きな決断を促したようだ。

●次の一手は「ゴーストキッチン」

 そこで気になるのが、マクドナルドの店舗が撤退した後に、ウォルマートがその穴をどう埋めるかだ。ウォルマートにとって、定期的なテナント収入を失うのは大きな痛手だ。さらに、買い物客を引きつける別の手段を考えるのは、かなりの難題のはずだ。

 しかし、そのような心配は無用のようだ。ウォルマートは次の戦略を進めているようだ。新たなビジネスモデルとして、テークアウトにフォーカスした店舗のテスト導入を始めている。いわゆる、テークアウトを専門とするビジネス形態の「ゴーストキッチン」である。

 そのゴーストキッチンで提供されるのが、例えば、カスタマイズできるサラダ専門店の「Saladworks(サラダウォークス)」だ。テークアウトだけでなく、デリバリーも提供可能なため、より時代のニーズに合ったダイニングとして注目されている。

 また、ウォルマートは最近、生鮮食品を取り扱うネットスーパーとオンラインストアを統合させるなどして、Eコマースに力を入れている。そして、実店舗やオンライン、デリバリーなどを連携させて、よりスムーズに顧客が自分にとって便利で最適な方法で商品を購入できるようにする「オムニチャンネル化」を進めている。

 最新の決算報告によると、同社のEコマースの売上高は、前年比79%増と飛躍している。実店舗への客足が減っても、ネットでのトラフィックが増えているため、デジタルシフトはますます加速しそうだ。

 その一方で、ウォルマートでの存在感が低くなるマクドナルドも新たなアプローチで事業を強化しようとしている。近年、マクドナルドは新規店舗の拡大よりも、既存店のリノベーションに力を入れているのだが、新型コロナをきっかけに、これまで以上にドライブスルーの強化を重視していくようだ。

 ちなみに、マクドナルドは米国内にあるおよそ1万4000店舗の約95%にドライブスルーを併設している。コロナ禍でドライブスルーの重要性が再認識されていることもあり、その強みを最大限に生かしたいようだ。

●次なる成功に向けて

 ドライブスルーでのサービス向上には、「早さ」と「正確さ」が求められるため、近年マクドナルドは音声認識やAI(人工知能)技術をもつ企業を買収するなどして、業務改善に努めている。

 特に、注文を受けてから商品を提供するまでにかかる時間の長さは、極めて重要なポイントになる。オーダーをさばく時間を短縮できれば、より多くの注文に対応できるため、ドライブスルーを利用するクルマの流れもスムーズになる。これまで待ち時間が長くて、途中でドライブスルーの利用を諦めていた顧客の取りこぼしも改善できるはずだ。

 そのため、マクドナルドではメニューを絞ってシンプルにしたり、ドライブスルー用のタイマーをスタッフ用に導入したり、キッチン設備を改善して従業員の負担を減らし、サービス提供までの時間を大幅に縮めている。

 そのほかにも、AI技術を取り入れた「デジタルメニューボード」を設置し、天気や時間帯、人気商品や季節ごとのプロモーションなどを自動的に表示させて、顧客が注文しそうなメニューをカスタマイズして提案している。

 また、AI技術を使うメリットは、ピーク時にキッチンのオペレーションをスムーズにする商品をメニューボードで客に提案したり、プログラムの方法によってはアップセリング(より高額な商品を売る)したり、効果的に適用できるという。

 気が付けば、ここでも最新技術を使ったデジタル化が着々と進んでいるようだ。ただし、マクドナルドが目指しているのは、食に癒しを求める顧客に応えることだ。一般的にはヘルシーではないが、馴染みのあるハンバーガーやポテトは、コロナ禍でコンフォートフード(食べた者に郷愁を呼び起こす食品)として必要とされている。

 コロナ禍で「離別」が決定的になったかのように見えるウォルマートとマクドナルド。どちらもデジタル化を進めたり、ビジネスの多様化を進めている。コロナ禍で生まれた新たな時代のなかで、両者はそれぞれに、次なる成功に向けて前進しているようである。

(藤井薫)