2021年5月15日、西武鉄道はレオライナーこと山口線で「西武園ゆうえんちラッピング電車」の運行を開始した。19日に開業した西武園ゆうえんちのアクセスルートとして、真っ白な車体にレトロカラーのラッピングを施した。

 西武園ゆうえんちは19日に昭和レトロの雰囲気をテーマにリニューアルしており、レオライナーの車体も1960年代の「西武電車」をモチーフにしている。

 当連載の4月16日版「西武園ゆうえんちの準備は整った しかし、足りない要素が2つある」で、私は「アクセスラインの演出とホテル」が足りないと書いた。せっかく昭和レトロな世界へ行くという気分のところへ、白くて未来感さえある新交通システムのレオライナーは似合わない。

 しかし西武鉄道はそんなことは先刻承知で、ちゃんとレオライナーのラッピングを用意していた。発表は5月12日だが、モチーフとなる題材、色の選定、関係各所の決裁など、準備はもっと前から着手していたに違いない。結果的に西武鉄道に失礼なことをしてしまった。この場を借りてお詫びしたい。しかも西武鉄道から「報道公開日に見に来てください」とご招待いただいた。恐縮しつつ拝見した。

●レオライナー、昭和カラーに変身

 私にとってレオライナーの乗車は04年以来の17年ぶり。すっかり忘れていたけれど、車内はボックスシートだった。これは昭和の長距離電車に通じる。欲をいえばスピーカーから昔の電車の「うぉぉぉん」というモーター音を流してほしかったけれど、鉄道エンターテインメント施設ではないと納得する。

 ちなみに、西武球場前から出発して西武園ゆうえんちに到着する片道だけ「オリジナルの西武園ゆうえんちPR放送」が行われる。今回は多摩湖駅側から行ったので聞けなかった。次は西武球場前駅側から乗りたい。そのためには西武池袋線の西武球場前直通の準急に乗ったほうがラクだ。なるほど、ちゃんと西武鉄道も運賃を稼げるルートができている。

 西武鉄道の広報からレオライナーのラッピングについて「あえてかつての“西武鉄道”ではなく(当時呼ばれていた)“西武電車”とプレスリリースに書きました。気付いていただけましたか」とのこと。気付かなかった。参った。

 西武園ゆうえんち駅に着いて、駅舎を出た途端、そこから昭和レトロが始まっていた。路面電車と停留所があり、その奥にチケット売り場があって、見上げれば昭和レトロ風の外観を模した映画館がそびえ立つ。

 路面電車は都電風の塗装だけど、顔つきが左右非対称で違和感がある。実はこの車両は19年まで、長崎電気軌道の1051号車として路面電車で走っていた。さらにさかのぼると1948年に仙台市電向けに新製された電車だ。都電としては違和感があるけれども、昭和レトロ世界を東京都内に固定しないためには、この顔のほうが良かったかもしれない。

 長崎電軌軌道では、維持管理費の問題で151号車と1051号車の2両について譲渡先を募集した。151号の方が都電風の顔つきだったけれど、151号はもともと箱根登山鉄道の小田原市内線で走っていた電車だから、小田原市の有志が「里帰りプロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングで費用を集めて実現させた。これも良い話だ。

 アプローチの演出に浸りつつ、入場ゲートの屋根を見上げると、どうやら鉄橋のような作りだ。映画館「夕陽館」の丘から見下ろせば、やっぱり鉄橋だ。廃線の鉄橋跡かなと思って尋ねたら、わざわざ鉄橋をモチーフにして造ったとのこと。なるほど、ここに「鉄道会社系ゆうえんち」というアイデンティティをさりげなく示していた。

 レオライナーと西武園ゆうえんちのアプローチを拝見して確認取材は終わった。しかしせっかく招待いただいたので、本題から離れるけれど西武園ゆうえんちの感想を少し。

 昭和の鉄橋を模した入場ゲートの先は、アーケードのある夕日の丘商店街だ。ここでは街の人々に扮したキャストが「泥棒と警官」「野菜の叩き売り」「紙芝居」「歌うウェイトレス」などのパフォーマンスを繰り広げる。

 感心した1つめは「地面に砂がひいてある」点だ。これはパフォーマンスするときに滑りやすくしたのかもしれないけれど、昭和の商店街はこんな風に埃っぽかった。懐かしい。もう1つは商店街の奥にある銭湯「朝日湯」だ。商店街の人々は忙しくて朝しか風呂に入れないから「朝日湯」という名前にしたという。これも「昭和のリアル」だ。夕日の丘商店街は昭和の郊外に見られた「銭湯まち」である。

 「銭湯まち」は、寺がきっかけで門前町ができるように、銭湯がきっかけで作られたまちだ。地主が土地の借主を募るときに、まずは銭湯を誘致した。当時は内風呂がないから、銭湯に人が集まる。そこで銭湯の周囲に商店が作られる。

 歴史的に栄えた「門前町」「宿場町」の次に「駅前通り」があり、その郊外に「銭湯まち」ができた。私の母の実家が東京都大田区の駅から離れた銭湯だったから分かる。現在も都内で駅から離れた商店街を見掛けるけれど、そこには銭湯があった。

 その商店街の雰囲気からつながる丘の上に「夕陽館」という映画館がある。外観はレトロだけれども中身は最新技術の「ゴジラ・ザ・ライド」だ。これはもう言葉では表現できない激しさと面白さ。「どうせ4DXみたいなものだろう」と思ったし、上映開始後は視野全体にスクリーンがあって「なるほど、IMAX+4DXか」と思ったら、とんでもない。想像を遙かに上回る。誰が思いついたんだ、こんな仕掛け。

 内容は体験してのお楽しみで野暮なことは書かないけれど、アドバイスとしては「ポケットの中身はすべてバッグにしまって椅子の下のネットに入れておきなさい」だ。私は肘掛けにつかまったり、ベストのポケットを押さえたりとかなり慌てた。ペットボトルを落とした記者もいた(笑)。

●観光アクセス鉄道は、鉄道経営の基本だった

 西武鉄道が観光アクセス路線を意識しないわけがない。もともと西武鉄道は秩父、川越の観光地にアクセスする特急「レッドアロー」を走らせてきた。「レッドアロー」は「ニューレッドアロー(NRE)」そして「Laview」に進化し、大きな窓をしつらえて目的地のワクワク感と乗り心地の良さをアピールしている。

 なぜなら、川越は東武東上線というライバル路線があるし、秩父も東武東上線寄居ルート、JR湘南新宿ライン熊谷ルートというライバルがあるからだ。しかも、都心から現地までの到達時間でいえば新幹線で熊谷に出る方が早く、同じ運賃レベルでも湘南新宿ラインのほうが早い。西武特急も頑張っているけれどもスピードでは勝てない。そこで「楽しさ」を追求して対抗している。観光地の楽しさを出発地から楽しんでもらおうというわけだ。

 この考え方にならえば、西武園ゆうえんちのアクセス路線はレオライナーにとどまらず、西武池袋線、狭山線直通で池袋〜西武球場前を結ぶ特急、あるいは特急に準じた楽しい列車の運行もあるはずだ。

 そう思っていたら、西武園ゆうえんちのグランドオープンに合わせて、5月22日〜6月6日の土日限定で、西武新宿〜多摩湖間の直通列車を運行すると発表された。池袋〜西武球場前間はすでに定期列車の直通があるから、これで新宿、池袋の2大ターミナルから直通列車が走る。西武新宿〜多摩湖間も定期列車になると思うし、帰りは着席保証の列車があれば嬉しい。ぜひ検討してほしい。

 西武園ゆうえんちに足りない2つのうち、アクセス路線はできた。もう1つはホテルだ。これは遊園地付近ではないかもしれない。西武鉄道は路線網の中心にある所沢を中核として、秩父・飯能・川越・狭山湖・多摩湖の新都市圏を造ろうとしている。だからホテルは所沢に中核となる大型ホテルを置くプランがいい。

 今のところ所沢駅、西所沢駅、新所沢駅、多摩湖、狭山湖にホテルがある。所沢にもうひとつ大型ホテルがほしい。しかし西武ホールディングスは、新型コロナウイルス関連の不景気を受けてホテル資産を売却している。西武グループが手掛けられないとすれば、他のホテルチェーンのチャンスかもしれない。それが所沢の活性化につながれば西武HDにとって悪い話ではない。

 西武鉄道以外に目を向ければ、小田急「ロマンスカー」、東武「スペーシア」、近鉄「しまかぜ」「伊勢志摩ライナー」「さくらライナー」なども観光地のアクセス列車として誕生し、魅力を高めてきた。東急は自社路線網に観光地がないけれども、グループで古くから伊豆の観光開発に力を入れていた。アクセス路線としては国鉄・JRの特急に任せきりだったけれど、横浜発の「THE ROYAL EXPRESS」は、東横線の終点と伊豆を結ぶ観光アクセスルートを自前で整備したといえる。

 これほど長距離ではなくとも、観光地の入口役となる鉄道路線は多い。別府ラクテンチ、近鉄生駒ケーブル、箱根登山ケーブルカー、高尾山ケーブルカーなどのケーブルカーもしかり。観光地までの高揚感を引き立てる存在だ。

 残念ながら消えてしまった路線もある。小田急は向ヶ丘遊園駅と向ヶ丘遊園間にモノレールを運行していた。その前身は豆汽車と呼ばれる軽便鉄道だったという。しかし老朽化と向ヶ丘遊園の入場者数減少の影響で廃止された。名古屋鉄道もモンキーパークモノレール線が老朽化の影響で廃止されている。老朽化路線をリニューアルするほどの乗客が見込めなかった。

 しかし、日本の鉄道史をひもとけば、京急電鉄は川崎大師、京成電鉄は成田山など、参拝客を当て込んだ参詣鉄道の多くは観光アクセス路線のルーツである。ともに発展し、片方が低迷すれば一緒に沈む運命共同体だ。

●ローカル線の観光開発は目的地とセットで

 観光地と観光アクセス路線は表裏一体。ともに力を合わせて発展していく。この視点で見ると、赤字ローカル線の観光路線化は、鉄道路線の改良だけでは不十分といえる。観光列車は「観光地の移動手段」ではなく、「それ自体が観光の目的」となる列車として脚光を浴びた。しかし、観光列車ができれば自動的に観光地が栄えることはない。

 観光地がしっかりと魅力を持ち、発信することで観光アクセス路線は成立する。逆に、観光列車で成功した路線は、沿線の観光開発でさらに発展するだろう。新型コロナウイルスの影響で、JR西日本のほかローカル線の運行縮小も始まり、路線廃止も危惧されている。その路線を残すだけの観光列車だけではなく、その先の目的地の魅力作りが必要だ。

 その意味で、現在期待している路線は徳島県と高知県を結ぶ阿佐海岸鉄道だ。世界で初めてDMV(デュアルモードビークル、道路と線路の両方で走行可能)を走らせ、観光客を呼び込もうとしている。この路線はもともと南海トラフ地震時の交通手段として温存されており、その経費削減を目的にDMVを導入する。しかしそれだけではまだ赤字だし、珍しい車両を走らせたいから観光に役立てたい。

 しかし、DMVだけでは観光の目的にはなりにくい。DMVを見たいなんて鉄道ファンくらいだ。ほとんどの人はまず観光地に注目し、そのアプローチの楽しみとして交通手段を捉える。だから「珍しい車両を走らせる」だけで安堵してはいけない。これは全国のローカル線に共通する課題だ。

 国民の多くがワクチンの接種を接種すれば、いままで観光を我慢してきた人々が一斉に動きだすだろう。その時のために観光アクセス路線と観光地を整備しておきたい。レオライナーと西武園ゆうえんちの関係を見て、あらためて思った。

(杉山淳一)