あのイーロン・マスク氏も太鼓判を押していたビットコインが、今大暴落している。4月には1BTC=700万円の大台を突破し、1年で約7倍にまで膨れ上がったビットコインだが、足元では“ESGに課題がある”という懸念が市場を駆け巡った。20日の早朝には最高値の半分以下となる1BTC=327万円近辺の水準まで下落し、そこから1BTC427万円程度まで急激に戻すという、変動の激しい相場となっている。

 これらの暴落相場の背景には、中国による規制や、納税のための換金売りのタイミングが重なった点ももちろんあるが、やはり最大の要因はESG懸念に基づくマスク氏の「心変わり」にあると見られている。

●“ESG懸念”で仮想通貨市場は崩壊

 米EV企業のテスラや、同宇宙開発大手のスペースXといった「夢ある会社」を率いるマスク氏は、これまで仮想通貨による決済に積極的だった。

 テスラの決済にはビットコインが使える予定であったし、スペースXの決済手段には「ドージコイン」というジョークから生まれたコインを採用しようとするなど、これまで投機の手段に過ぎないともいわれていた仮想通貨(暗号資産)に、現実の利用シーンを提供する姿勢もあって仮想通貨の強気相場をけん引する存在であった。

 しかし、13日にマスク氏は突然、テスラのビットコイン決済の導入をキャンセルしたことで、今度はマスク氏が突如下落相場をけん引することになったのだ。

イーロン・マスク氏のツイート

 テスラはビットコインを使う自動車購入を停止した。我々は、ビットコインの採掘および取引に伴う化石燃料、特に最悪の排ガス源である石炭の急速な利用増を懸念している。

 仮想通貨はさまざまな面で良い考えであり、その将来性が約束されたものであると信じているが、それは環境にばく大なコストを課してはならない。

 テスラは手元に保有するビットコインを売却することはなく、ビットコインがより持続可能なエネルギー由来の採掘になり次第、決済手段としてに採用するつもりだ。そして我々は、ビットコインのエネルギー使用量/決済の1%にも満たない、他の暗号資産の数々に注目している。

 マスク氏からこのような心変わり声明が出てきた背景として、以前からビットコインに対して、環境面、ESG面からの批判が強かった点が挙げられる。なぜなら新たなビットコインの採掘(マイニング)に、コンピュータによる大規模な計算が必要な、いわゆるPoW(プルーフ・オブ・ワーク)を価値の源として採用しているからだ。

 大手マイニング業者の多くは電気代の安い国で大規模なマイニング施設を建設し、化石燃料による発電をエネルギー源として毎年ばく大な電力を消費し、温室効果ガスの排出を促している。

 そのような背景を知ったマスク氏が心変わりするのは理解できないわけではない。なぜなら、同氏がCEOを務めるテスラは、ガソリンという化石燃料を使う従来型の自動車の存在に疑問符を投げかける企業であり、ESGやSGDsといった市場のトレンドも背負う存在だからだ。

 そんな“環境に優しい”企業が、環境に悪いお金といわれるビットコインを決済手段に使うことは、世間や株主にも説明ができにくかったのであろう。マスク氏は持続可能なエネルギーによってビットコインがワークすれば再び決済手段として採用するという姿勢であるが、これは10年単位の動きになり、当分は無理だろう。各業者ができるだけ安く採掘するためにしのぎを削っている業界構造である以上、法による規制が世界的に及ぶなどの極端な事例がない限り、マイニング業者が再生可能エネルギーを使って高い電気代をわざわざ払う理由はないのだ。

●ESG投資とは何者か

 さて、ここまででたびたび挙がったESGだが、最近ではSDGsという言葉とセットで使われることも多い。この単語はビットコインのような仮想通貨だけでなく、JTのようなタバコ企業など、株式市場においても特定の企業における株価に深く関わっている概念であり、今後はESGに気を払わなければ相場の見通しを誤る可能性があるため、注意が必要だ。

 ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、およびガバナンス(Governance)の頭文字を取った用語で、持続可能性や社会的なプラス影響を投資判断の材料としていく考え方だ。SDGsは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略称で、こちらは2015年の国連サミットで採択された17目標の総称を指している。

 どちらにも共通する概念として挙げられるのが、持続可能性だろう。ESG-SDGsの題目に沿っていない企業は、一言で言えば、「今は利益を出せても将来的に地球に大きなダメージを与え得るため、中長期投資の対象にならない」という烙印(らくいん)を押される。そしてこの投資の意思決定は、金融市場において主流になっており、市場での影響力を増している。先に挙げたJTは、そんなESG投資によって最もダメージを受けている上場企業ではないだろうか。

 同社は健康に害があるタバコを販売しているとして、たびたび機関投資家のポートフォリオから除外されたり、その動きに乗じて売りが入るなどして、国連サミットのあった15年から、株価は半額以下にまで落ち込んでおり、株高の恩恵にあずかれなかった。同社は禁煙を促す広告や、医薬品事業も拡大することでESGアピールを行っているが、本業がタバコ販売である以上、今後も厳しい展開が続きそうだ。

 このESGの概念は、これまでは株式投資やベンチャー投資といった文脈で使われることがメインだったが、今回はビットコインという主体がなく、機関投資家のような市場参加者もそれほど参入していない投資対象についても語られだした点が特徴的だろう。これは個人投資家のレベルにもESGの概念が浸透し始めていることを示唆しており、テスラのようにビットコインに投資した企業が、自社のESG評判を落とすリスクを鑑みて積極姿勢を崩すような動きにもつながっているといえるだろう。

●ESGの問題点

 ただし、ESGの基準はあいまいで問題も多いのが現状だ。一説にはビットコインはアルゼンチン1国分クラスの電力消費量があるともいわれている。しかし、産業全体で見ると、最も地球温暖化をもたらしているのは「畜産業」で、全温室効果ガスの18%が畜産動物の排出するメタンガスなどの形で排出されているという。

 そうすると、食肉を扱う企業は温室効果ガスを間接的に多く排出し、地球温暖化に積極的であるとしてESG投資対象から外されてもおかしくはないはずだが、良くも悪くもこの辺りは“柔軟”だ。

 他にも、ESG投資は「受託者責任」の面で問題もある。ESGの理念に従えば、本来であればより利益が期待できる投資対象でも投資を行わないこともあり得る。これは、投資信託などの受益者利益に反する取引を行わないことを定めた「忠実義務」に反する可能性もある。

 そんなESG投資は「利益は出なかったけれども、“いい会社”を応援したから問題はない」という免罪符にも半ば使われ得る。ESGは、投資に対してパフォーマンス以外に投資家を測る「付加価値」として今後も利用されていくのかもしれない。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)