こんにちは飲食店コンサルタントの三ツ井創太郎です。コロナ禍で多くの業界が大打撃を受けていますが、そんな中でも業績好調な企業の取り組みを分析していきたいと思います。

 突然ですが皆さんは「寿司ロボット」をご存じでしょうか? その名の通り、寿司を握るロボットです。 今や多くの回転寿司チェーンやスーパーの寿司コーナーで導入されており、1時間で最大3600個もの「握り寿司のシャリ」を握れるロボットもあります。さらに、巻物や軍艦をつくるロボットもあり、寿司職人がいなくても、新鮮な寿司ネタをロボットがつくったシャリにのせるだけで、安定した品質の寿司を提供できます。日頃から手頃な価格で寿司を食べられるのは、このロボットの活躍のおかげとも言えます。

 先日、寿司ロボットで世界シェアナンバー1を獲得している上場企業、鈴茂器工(東京練馬区)が決算を発表しました。

 今回は、コロナ禍でも業績好調な寿司ロボットメーカーである鈴茂器工についてお話をしたいと思っています。

●コロナ禍でも増収増益

 鈴茂器工の売上高は、2020年3月期が89億3000万円だったのに対して、21年3月期は94億8600万円(前年対比106.2%)と伸びました。営業利益に関しては、20年3月期の7億6500万円に対して、21年3月期は9億1900万円(前年対比120.1%)でした。コロナ禍にもかかわらず増収増益を達成しています 。

 同社の業績数値をさらに細かく見ていきましょう。地域別売上構成比では、国内が76.6%、海外が23.4%です。製品別売上構成比では、寿司ロボット関連が70%程度です(出所:鈴茂器工決算説明会資料)。

 ここで鈴茂器工の成り立ちを見ていきます。

●なぜ寿司ロボットを開発したのか

 鈴茂器工は1961年に創業しました。当初は寿司ロボット製造ではなく、アイスキャンディーの凝固剤や最中のあんこの充填機など、菓子類の量産化支援を中心に事業拡大を行ってきました。しかし70年代に入ると同社の未来を変えるきっかけとなった出来事が起こりました。それは政府による米の「減反政策」です。

 技術革新などで米の生産量が増える一方、日本人の食文化が洋風化。「米離れ」が進み、米が供給過剰となっていきました。そこで政府は、生産調整を行うようになります。

 同社の創業者である鈴木喜作氏は「高級な寿司を身近なものにできれば、もっと米の消費が拡大するはずだ」と考え、当時は誰もが不可能だと思っていた寿司ロボットの開発に着手します。

 ロボット化する上で最もネックになるのは、何と言っても「シャリ」の食感です。寿司職人は長年の修行により「手でつまんでも崩れず、口の中にいれた瞬間にほぐれる」シャリを握ることができます。鈴木氏はこの食感を再現するため、寿司職人の動きを徹底的に研究しました。

 5年の研究開発を経て、81年に世界初となる寿司ロボットの開発に成功したのです。開発当時は全国の寿司職人から激しい批判を受けました。しかし、80年代はちょうど回転寿司チェーンが次々と全国展開を行っていた時期であり、同社の寿司ロボットも市場の成長と共に販売台数を大きく伸ばしていきました。

 同社が開発した寿司ロボットが普及するにつれて、それまで高級料理であった寿司の大衆化が進んでいきます。

 91年には「海苔巻きロボット」の開発にも成功。海苔の上にシャリを平らに敷く職人の技術を再現し、スーパーの総菜売り場などに普及していきました。

 85年、同社の寿司ロボットはアメリカの製品安全規格である「UL規格」を取得し、海外への輸出も可能にします。職人がいなくても寿司を提供できるロボットは、海外でのニーズも非常に高かったのです。同社は海外販売戦略に力を入れており、現在では米国やシンガポールの拠点を中心に、世界20カ国以上に販売代理店を広げています。

 では、世界的な経済危機を招いたコロナ禍の中で、なぜ前年を大きく上回る収益を上げることができたのでしょうか?

●輸出と国内のテークアウト需要が急拡大

 同社の東南アジア地域における売上高は低迷しました。一方、北米、欧州、東アジア地域における海苔巻きロボットなどの販売回復が進み、海外売り上げは前年実績を上回りました。

 国別のシェアを見ていくと、東アジア31.1%、北米29.7%、欧州18.2%、東南アジア10.5%、その他地域が10.4%です。

 同社では握ったシャリを自動でテークアウト用の寿司トレーに並べるロボットも開発・販売しています。このロボットを使うと、1時間に最大4200貫ものシャリをテークアウト用寿司トレーに並べられます。これは人間の手仕事では到底できない技。コロナ禍に伴う巣ごもり需要で、回転寿司チェーンのテークアウト寿司や、スーパーマーケットの寿司カテゴリーの売り上げが増加しました。そのため、こうした最新機器の設備投資需要も増え、同社の国内売り上げを大きくけん引しました。

 国内のテークアウト寿司需要の拡大については、大手回転寿司チェーン「スシロー」を展開するFOOD&LIFE COMPANIESの業績からも見てとれます。

●寿司のテークアウト&デリバリー需要が増加

 FOOD&LIFE COMPANIESの21年9月期第2四半期決算(20年10月〜21年3月)を確認すると、売上高は前年対比で110%の伸び率となっています。テークアウト&デリバリーの売り上げは、昨年の緊急事態宣言下においては前年の3倍以上、21年3月においても対前年比150%と大きく伸びています。

 1年間で13億皿以上の寿司を提供しているスシローは、鈴茂器工と共同開発した寿司ロボットを使っています。シャリの内部に空気を含ませることで、口の中でほどける食感を実現しています。また、ヒーターによって人肌にシャリをあたためたり、職人が握った際にできるシャリ玉の下部の凹みを再現したりする機能などがあります。このように、職人が握った状態を最大限に再現するための工夫が随所にみられます。

 スシローでは、シャリロボの他にも軍艦巻きロボ、細巻きロボなど1台150万円〜250万円する寿司ロボットを3種類以上も店舗に導入しています。

 また、スシローは回転寿司以外にも駅ナカ、駅ビルなどにテークアウト専門店を出店したり、大衆寿司居酒屋「杉玉」の店舗拡大を計画したりしています。

 大衆寿司居酒屋業態に関しては、コロナ禍においても他の居酒屋業態と比べて売り上げの落ち込みが少ないことから、スシロー以外の外食企業の参入も増加しており、これからますます寿司ロボットの需要は増加していくことが予想されます。

 実は、コロナ禍前から寿司ロボットの市場規模は伸び続けています。ここで外食産業におけるロボット普及の理由について考えていきます。

●人材不足が深刻化する外食産業の救世主

 19年7月に帝国データバンクが実施した人材不足に関するアンケート調査によると、非正社員だと飲食企業の80%、正社員では飲食企業の60%以上が「人材が不足している」と回答しています。農林水産省が行った調査でも、飲食店・宿泊業の欠員率は全産業と比べて2倍以上高いという状況です。

 その中でも職人力を必要とする「寿司職人」は深刻な人材不足に陥っています。

 話は少しそれますが、実は私もコンサルティング業界に入る前は、寿司店の厨房で働いていた経験があります。当時、任されていたのは、小魚をさばく、甘えびの殻をむく、ホタルイカの目をピンセットでつまんで取る、シャリを炊く、まかないをつくる、サラダを盛る、ドリンクをつくるといった仕事がメインでした。そのため、カウンターで寿司を握るというのは憧れの仕事でした。初めてカウンターの隅っこで「鉄火巻き」をつくらせてもらったときのうれしさは、今でも鮮明に覚えています。

 昔から寿司の世界には「飯炊き3年握り8年」という言葉があり、最低でも修行に10年以上かかるとされてきました。しかし、某調理師学校の方の話によると、卒業生60人のうち寿司職人の希望者は1人だけだったそうです。寿司職人を目指す若者は年々減少しているのです。

 昔からある個人の寿司店は、店主の高齢化と共に全国的に減少傾向にあるものの、回転寿司やテークアウト、宅配寿司市場は伸び続けています。また、コロナ禍でアルコールを中心とした業態が大きく影響を受ける中で、寿司業態に参入する飲食店も増加しています。

 最近では、都内を中心に「金の蔵」「東方見聞録」「月の雫」などを展開する居酒屋チェーン「三光マーケティングフーズ」が、直営店の居酒屋10店舗を年内に寿司店に業態転換する方針を明らかにしました。

 こうした市場成長と人材不足が相まって、寿司ロボットの需要はこれからますます高まっていくことが予想されます。

 今から50年前に減反政策が行われ、市場環境が変化しました。そんな中、寿司ロボットの開発に成功し、世界トップシェア企業となった鈴茂器工。コロナ禍の巣ごもり需要や人材不足に伴う省人化というニーズを受け、さらなる躍進を遂げています。「激しく変化する市場環境」の中で未来を見据え、自社の強みを生かし、いち早く時流適応していくことの重要性を改めて学びました。

 本記事がコロナ禍の影響を受ける事業者の皆さまにとって、少しでも経営のヒントになればうれしく思います。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(三ツ井創太郎)