北海道夕張市の名産品「夕張メロン」が、人手不足のため8万玉分の減産となる旨のニュースが先日「日本農業新聞」で報じられた。メロン農家はかねて高齢化が進んでおり、慢性的な人手不足状態であったが、特に今般の減産理由が「メロン栽培の主戦力であった、中国人の技能実習生がコロナ禍のため来日できなかった」ことである点が話題となっている。

 本件については農家の苦境を憂うよりも

・技能実習生が来日できないから減産ということは、『技能を習得してもらう』という趣旨が建前でしかなく、実質的に技能実習生が単なる『低賃金・重労働の担い手』だと露呈しているのでは

・JA夕張市では日本人アルバイトも募集していたが、条件は北海道最低賃金の時給861円。真夏の重労働を最低賃金で募集して人が集まらず、『人手不足』などと言っていること自体がおかしい

・農家だけの問題ではなく、同じような事象が食品生産加工、繊維縫製、製造業などでも起きている。これは事実上、低賃金労働者の移民制度だ

――などと厳しい意見の方が多く見られた。では果たして、技能実習制度とはそんなに欺瞞(ぎまん)に満ちた、問題を孕んだ制度なのか。また技能実習生に頼らざるを得ない事業主はいずれも努力不足で、「苦境に陥っているのは自己責任だ」と突き放してよいものなのだろうか。

●そもそも「技能実習制度」とは

 わが国では1960年代から、外国人を受け入れて技能研修を行う形の外国人研修制度が存在していた。これはあくまで座学中心の研修であったが、93年に現行の「技能実習制度」が創設されてからは、実習生は研修終了後、企業と雇用関係を結んだ「労働者」として生産活動に従事しつつ、実践的な技術を習得する形となった。当初は研修・技能実習の期間は合計で最長2年間だったが、97年からは最長3年間に延長されている。

 しかし、当初制度下では実習生に対して労働関係法令が適用されなかったため、賃金や時間外労働等に関するトラブルが多発。結果として2010年に法律が一部改正され、技能習得期間のうち実務に従事する期間中は全て、労働法が適用される労働者として扱われることとなった。

 その後、16年に技能実習生の保護に関する法律が施行され、技能実習の適正実施と技能実習生の保護を目的として「外国人技能実習機構」が設立された。技能実習計画を認可制、実習実施者を届出制、管理団体を許可制として、実習生に対する人権侵害行為への禁止規定を設け、違反には罰則が課されることが盛り込まれた。現在技能実習の対象となっているのは、農業関係、漁業関係、建設関係、食品製造関係、繊維・衣服関係、機械・金属関係、その他の合計85職種156作業で、受け入れ人数は一貫して増加傾向にある。

 17年に施行された「技能実習法」において、本制度の目的と理念は次のように定義されている。

【目的】

・人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的とする

【理念】

・技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備され、かつ、技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行わなければならない

・労働力の需給の調整の手段として行われてはならない

 しかしこれはあくまで建前的な部分もあり、実際は、日本人の採用が困難な低賃金・重労働の職場に対して、途上国の安価な出稼ぎ労働者をあてがうシステムになってしまっている面もあるようだ。

 冒頭の夕張メロン農家に限らず、労働力の多くを外国人実習生に頼っている事業所は多い。例えば、国内有数のホタテ水揚量で知られる北海道猿払村においても、ホタテの殻を剥く作業の人手を地元では確保できず、多くの中国人実習生で補っている。加工場経営者はメディア取材に対し、「実習生なしでは、この加工場、いや村はもうやっていけない」と述べていた。まさに実習生の存在は、理念で否定しているはずの「労働力の需給調整手段」そのものなのである。

 さらに問題なのは、建前と実態の乖離(かいり)のみならず、技能実習生が劣悪な労働環境によって被害を受けているケースが存在することだ。17年には、テレビ東京系の番組「ガイアの夜明け」において、有名アパレルブランドの洋服を製造している岐阜県の孫請け工場が取り上げられ、中国人実習生の女性たちが約2年半にわたり、劣悪な環境での労働を余儀なくされている様子が全国放送された。具体的な被害実態としては、

・休みは7カ月で1日だけ

・残業197時間で手取り13万円

・時給400円

・約620万円の未払賃金支払いを免れるために倒産

・労災保険を利用して国から立替払いさせる

――という衝撃的なもので、当時の視聴者からは「ここのワンピースを買ってたのでショック」「中国人研修生を奴隷のようにこき使って作られた服なんて絶対買わない」と批判が殺到。会社側はその後の公式発表において「製造工場とは直接の取引がなかったため、労務問題の存在を認識していなかった」「取引メーカーの先の縫製工場において、不適切な人権労働環境のもと製造されていた実情を知り得なかったことは大いに反省すべき点であると認識」「同工場での製造は終了するとともに、今後は製造現場についてさらなる関心を払い、自社商品がそのような環境下で製造されることがないように努力する」旨をコメントしている。

 厚生労働省が20年10月に発表した「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」によると、技能実習生が在籍している全国9455事業所に対して労基署が監督指導を行ったうち、実に7割以上において労働基準関係法令違反が発覚していることが明らかになっている。この「外国人技能実習事業者の7割が違反」という数値は15年からほぼ横ばいで、改善の兆しは見られない。

 主な違反事項は、「労働時間(21.5%)」「使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(20.9%)」「割増賃金の支払(16.3%)」の順に多く、重大・悪質な違反によって送検まで至ったケースも34件存在している。

 最低賃金を下回る報酬、長時間労働、賃金未払い、不十分な安全対策、7割が労基法違反――「技能実習生」とは名ばかりで、受け入れ事業者にとっては「数年後には必ず帰国してくれる、安くて便利な外国人労働者」程度の位置付けになってしまっているように見受けられる。報道される際も、日本人と比べて明らかに劣悪な環境下での労働を強いられているかのような報道が多く、同様の印象をお持ちの方もおられることだろう。

 しかし、そういった実態は変わりつつあるようだ。

 技能実習生の登録支援機関で、産学連携支援を手掛ける一般社団法人 JIC協同組合支援協会の丸山理事長はこのように語る。

 「確かに、過去のわれわれの同業者の中には、ご指摘通りの悪質な団体も多く見受けられました。しかし近年では、低俗な監理団体や劣悪な環境を作っている実習実施者を取り締まり、また適正な処分をするなど罰則も付けて厳しく対処されるようになり、以前のような悪質な技能実習自体が減ってきていると思います」

 そう、実はわれわれの知らないところで、技能実習制度自体が大きく変わってきているのである。

 従前は制度自体を直接規律する法律がなく、制度趣旨を理解しない事業者が、人手不足を補う安価な労働力の確保策として制度を悪用し、結果として技能実習生が低賃金で酷使されるなど、労働関係法令の違反や人権侵害を生じていた事実があった。これについては、関係者の多くが認めるところである。

 そこで改善策として、「外国人技能実習機構」が設立されたのは先述の通りだ。具体的には、新たに設けられた監理団体や実習実施者の許認可を担い、技能実習計画の認定、実習実施者・監理団体への調査や実地検査などの監査業務、技能実習生への保護や支援業務を行っている。

 さらに技能実習法では、法令違反がなく、技能評価試験の合格や指導・相談体制等において優れた監理団体や実習実施者に対しては、技能実習生の受入枠の拡大を認め、より高度な技能実習が行えるようにし、所定の技能評価試験に合格した技能実習生の最長実習期間を現行の3年から5年に伸長するなどの拡充策も盛り込んでいるのだ。

 「一部の劣悪な事業者において、実習生が安価な労働力として扱われ、被害者となっていることは事実だとは思います。ですがほんの一部でのことで、また労働基準法を無視した雇用や不法行為などは、今の機構活動体制の中では、仮にあったとしても、継続して行うことは考えられません」(丸山氏)

 衝撃的な報道に至るような、悪質な事業者は一部ということだ。その前提で先ほどの「外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導状況」を見返してみると、グラフに注記された、とある1文に気付かされる。

 そこにはこのように書かれている。

・ <注>違反は実習実施者に認められたものであり、日本人労働者に関する違反も含まれる。

 確かに、「外国人技能実習事業者の7割が労働基準関係法令に違反」という事実はあるが、これはあくまで「日本人も含まれた、事業者全体の違反」であり、決して「7割の全てが技能実習生に関する違反」というわけではないのだ。

 ではこの技能実習事業者における「7割」という違反率が、日本全体の違反率と比して高いか否かという話になるのだが、厚生労働省の「労働基準監督年報」を基に算出する限り、18年(平成30年)から過去4年分については「ほぼ同程度」であることが見てとれる(日本全体の違反率:66.8%〜69.1%に対し、技能実習事業者の違反率:70.4%〜71.4%)。

 また技能実習法においては、実習実施者を監理する監理団体は、3カ月に1回行う法定監理業務の中で、労働関係法令違反を把握した場合、労働基準監督機関に報告しなければならないという決まりができた。そして、重大な違反が発覚すると摘発を受け、監理団体の許認可取り消しに至ることになっている。それに伴って労働法規に対する学習と理解が深まり、監理団体の意識も変化し、技能実習生の保護、労働環境の改善につながりつつあるといわれている。

 ということは、技能実習生を受け入れている事業者の方がかえって法令順守に対する監視の目が厳しくなり、全体平均よりもむしろ違反率が低いという状況にもなり得る。これは、技能実習制度の在り方にまつわる問題に真剣に向き合い、行政と監理団体が改善へと動き始めた成果であるといえるだろう。丸山理事長はこう述べた。

 「まだ、完全にクリーンとまではいえませんが、一部メディアで報道されていたような事案は格段に少なくなっていると思います。また、そうありたいですね」

 近年では監理団体の数も増え、監理団体間の競争も進んでいるという。大手人材会社も協同組合を設立したり、買収したりすることで実質的に技能実習の業界に参入する動きも出てきている。そうなれば、「選ばれる団体」と「淘汰される団体」に分かれることとなり、業界全体の質向上にもつながっていくことが期待できるだろう。

(新田龍)