中国のアルコール市場で、果実酒など低アルコールドリンクの市場が急拡大している。

 新興ブランドが都市部の高収入女性のニーズを掘り起こし、伝統酒造メーカーも相次ぎ参入している。低アルコール飲料は元々日本の得意分野とあって、これまで重視してこなかった「中国の女性」に特化したマーケティングに力を入れる日本企業も出てきた。

●都市部女性が牽引する果実酒市場

 EC中国首位のアリババグループが発表した「2020果実酒イノベーション動向レポート」は、2020年1〜11月、梅酒や果実酒などの低アルコール飲料が中国のアルコール市場の成長をもたらしたと指摘した。

 主力消費者は「18歳から34歳の女性、特に大都市に住むホワイトカラーと1995年以降に生まれたZ世代」だという。

 別のEC大手「網易厳選」も今年3月、同社サイトで女性の20年のアルコール飲料購入額が2000万元(約3億4000万円)以上増加したと公表した。

 低アルコール飲料の勢いは21年に入ってさらに加速。アリババのECサイト「Tmall(天猫)」の「618セール」で、果実酒の流通総額(GMV)は前年比で100%、梅酒は同200%増えた。

 セール期間の低アルコール部門売り上げランキングトップ3は「RIO(鋭澳)」「Miss Berry」「梅見」、7位にはサントリーの「ほろよい」が入った。

 RIOは、10年代後半に低アルコールを中国で広めた立役者だ。若者受けするドラマのさまざまな場面に、商品を登場させたことで消費者に浸透した。

 2位のMiss BerryはRIOから独立した女性が立ち上げ、19年12月に最初の商品を出したばかりのスタートアップだが、「20〜30代の独身キャリアウーマン」を狙い撃ちしたマーケティングで、業界を席巻している。

 中国版インスタグラム「Red(小紅書)」の同社アカウントは、「仕事で追い込まれて余裕がない私に、女友達が差し入れしてくれた」などの文言とともに、緑豊かな自然を背景にした商品写真が投稿されている。

 日本のビールや缶コーヒーCMのタレントがそのまま女性になり、焼酎ブランド「いいちこ」のポスターの世界観が加わったようなイメージ、と説明すれば伝わるだろうか……。

 スタートアップが瞬く間に天下を取れるような新たな市場の出現に、高級酒の代名詞「貴州茅台」や老舗白酒メーカーの「江小白」も同分野に参入した。Tmallランキング3位の梅見は、江小白が立ち上げた梅酒ブランドだ。

●日本の職人がつくったお酒が人気

 少子化で国内マーケットの縮小に直面する日本酒や焼酎メーカーは、以前から巨大市場である中国を重要視してきた。昨今の果実酒ブームは、日本メーカーにとっては大きなチャンスで、Tmallの担当者も「日本の職人がつくるお酒は中国消費者に大変人気がある。地域特産の果物を使ったお酒は、競争が激しい中国市場でも優位に立てるポイント」と見ている。

 この波に乗るべく、東京の「リカー・イノベーション」が運営する酒通販サイトの「KURAND(クランド)」は7月、Tmallに旗艦店をオープンする。

 同社事業企画部統括の東寛人氏は、「アリババでのテスト販売や中国のSNSでの情報発信で、現地の消費者の好みを探ってきた。梅酒のほか、ゆず、夕張メロンのような日本ならではの果実酒の人気が高く、Z世代の女性をメインターゲットに訴求していきたい」と話す。

 クランドは今年1月以降、中国の複数のSNSを通じてコミュニティー形成にも取り組んでいる。女性ユーザーが多いRedではお酒に合うおつまみのレシピやお酒を使ったデザートの画像を投稿し、ヤフー知恵袋のようなQ&Aサイトの「知乎」では、お酒にまつわる知識を紹介。

 知乎で制作したコンテンツを、中国版ツイッターの「ウェイボ(微博)」に引用して投稿するなど、ソーシャルメディアのユーザー特性に応じて、発信内容も変えている。

●中国マーケットに合わせた商品投入

 全日空(ANA)が出資し、越境ECを手掛ける「ACD」(東京)も20年3月に、Tmallに「全日空海外旗艦店」を出店。数年の越境ECの経験を踏まえ、「競合しにくく独自性が出せる」日本のお酒に品揃えを特化した。

 20年11月の「独身の日(ダブルイレブン)」セールでは、兵庫県西宮市の酒造会社・日本盛のボトル缶「生原酒」シリーズがヒット、1日5000本売れた日もあったという。

 ACDの古居弘道社長は、「コロナ禍を背景に家飲みが広がる中で、生原酒の洗練されたデザインや飲み切りやすい点が支持された。ヒットのパターンが見えてきたので、果実酒も含め中国マーケットに合わせた商品をもっと展開したい」と意気込む。

 ACDは今年7月、中国EC2位の「JD.com(京東商城)」にも全日空海外旗艦店の出店を予定しており、中国最大のメッセージアプリ「WeChat」で酒、レジャー施設、行事など日本文化を紹介する動画コンテンツを毎日配信している。

 「ライブコマースの浸透で、ECと動画サイトの垣根がなくなりつつある。WeChatを運営するテンセントのEC参入を視野に、足場をつくっておきたい」(古居社長)

 Miss Berryの創業者・唐慧敏氏は、「中国で低アルコール飲料の市場は150億元で、ビール(6000億元)の3%に過ぎない。しかし日本の低アルコール市場はビール市場の30%もあり、今後十数年で最も成長が期待できるマーケットだ」と長期的な成長に自信を示す。

 お茶ドリンクの「奈雪の茶」、フィギュアの「POPMART」など、Z世代の女性が人気に火をつけ、最近上場を果たした中国企業はいずれも日本のカルチャーや商品にインスピレーションを得ている。

 市場の伸びしろが大きい低アルコール、果実酒マーケットでは、本家・日本の面目を見せたいところだ。

(浦上早苗)