クルマの電動化が急加速している。これまでEVの実用性の低さにまったく興味を示していなかったドライバーも、昨今の電動化が盛んな自動車メーカーの動きに、次なる愛車候補としてEVやプラグインハイブリッド(PHV)を考え出している人が増えている。

 そんなユーザーにとって気になるのは、やはりバッテリーの耐久性だ。新車時の航続距離はカタログスペックの7〜8割だとしても、3年後、5年後、10年後にそれはどこまで維持されているのか。それによって下取り価格がどう変わるか、中古のEVを購入してもいいのかというように疑問も広がっていく。そこで今回はEVのバッテリーについて考えてみたい。

●バッテリーは品質と使い方次第

 EVの走行用バッテリーは、PCやスマートフォンのバッテリーと基本的には同じものだ。現在は最もエネルギー密度の高いリチウムイオンバッテリーを搭載し、急速充電にも対応させることで短時間充電と、十分な航続距離を実現している。しかし、新車時はいいが、2、3年でバッテリーが劣化して航続距離が極端に短くなってしまうのでは、と疑っている人も少なくないようだ。

 日産「リーフ」の初代モデル販売時、タクシー会社が補助金と急速充電を利用して導入したものの、2年足らずで新車時の半分も走れないほどバッテリーが劣化したことが話題になった。これがEVのバッテリーに対する信頼性について、ネガティブなイメージを広めてしまったと思われる。

 トヨタ「プリウス」も初代はニッケル水素バッテリーのマネジメントが不十分で、すぐに蓄電容量が減少しほとんど亀状態(バッテリーの蓄電量が少なくなると亀のマークが点灯し、充電を優先するため加速性能が低下した)になったが、二代目以降はバッテリーの寿命はかなり長くなり、三代目では驚くほど長寿命になった。

 ただでさえ採算の合わなかった初代プリウスでは、能力の低下してしまったバッテリーを無償交換するという高い勉強代まで払って、トヨタはバッテリーマネジメントのノウハウを学んだ。つまり、これらはバッテリーの品質や性能ではなく、バッテリーのマネジメントが稚拙だったことが大きな原因だ。

 もちろんバッテリーの品質自体も寿命や安全性には大きく影響する。日本製のEVやハイブリッド車が日本メーカーのバッテリーを採用しているのは、性能面だけでなく品質の高さを重視しているからだ。

●バッテリーの寿命を決める温度管理

 ニッケル水素、リチウムイオンといった、充電して繰り返し使える蓄電池には、サイクル充電回数という寿命の目安がある。これは電池の特性の一つとも言えるもので、少ないもので500回、多いものでは3000回を超える高耐久を誇るバッテリーも存在する。

 サイクル充電というのは、完全に放電して満充電することを1サイクルとするもの。サイクル寿命は、リチウムイオンバッテリーの場合、500サイクル時のバッテリーの蓄電容量がISOやJISなどの工業規格で定められているが、前述の通り、500回を超えても十分な容量を維持しているものも多く、実際にはサイクル充電回数を超えても使えるバッテリーは珍しくない。

 それに、表示されているバッテリーの蓄電量と実際の能力はまったく同じではない。特にリチウムイオンバッテリーは過充電、過放電が寿命を縮め、突然死を招くことから、上限と下限に余裕を持たせている。つまりバッテリーの蓄電残量が表示されていても、それはマージンを差し引いたもので、バッテリー自体の容量を示しているものではないのである。

 サイクル寿命はバッテリーの特性によっても異なるが、実際の車両では温度管理などのマネジメントによるところが非常に大きい。

 バッテリーの冷却方式には自然空冷と強制空冷、そして水冷があるが、最も優れているのは水冷方式だ。水冷方式は文字通りバッテリーのモジュールに冷却水のパイプを通すもので、水漏れというリスクとコスト高、重量増というデメリットはあるが、バッテリーにとっては最も優しい環境を作ることができる。

 件の初代リーフのバッテリーは自然空冷方式で急速充電を繰り返したため、温度上昇により負極に金属リチウムが析出されていくことで蓄電容量が減少してしまったと考えられる。

 また三菱「iMiEV」は、充電特性やサイクル充電特性に優れた東芝のSCiB(チタン酸リチウムバッテリー)を採用していたにもかかわらず、それほど高い耐久性を獲得できなかったのは、やはりマネジメント面に問題があったのだろう。

 日本でバッテリーを水冷しているメーカーはホンダだけで、「クラリティPHEV」や「ホンダe」は水冷だ。水冷のメリットは冷却だけではないところにあり、氷点下となる状態ではバッテリーを暖めてバッテリーの活性を上げることもできる。

 日産も「アリア」では水冷方式を採用したようだから、急速充電や真夏の高速走行でのバッテリーの温度管理が可能になり、バッテリーの寿命も延びるのではないだろうか。

 テスラが優れているのは、このバッテリーのマネジメントが巧みなところだ。他社がラミネート型や角型のバッテリーセルを採用しているのに対し、単3電池を大きくしたような円筒型のリチウムイオンバッテリーを用いているのも特徴だ。元々ノートPCなどに使われている円筒型セルをEVに大量に仕様したのがテスラのルーツだが、それを踏襲しているのには理由がある。

 ラミネート型でも角型でも円筒型でも、どれもリチウムイオンバッテリーとしての性能は同一(正極や負極の素材が同じならば)だが、ラミネート型は最もケースが薄く容量を稼げる上に熱伝導もいい。角型はケースの素材にもよるが、ラミネート型ほどではないにしろ、スペース効率に優れている。

 一方、円筒型は各セルをまとめようとしても接触するのが円周上の1点だけの線接触になるため、隙間ができてしまうのでスペース効率としては悪い。しかしテスラはこれを逆手にとって、セルの間に水路を通して各セルを密着しないようにした。セル毎の温度差が小さくなり、劣化のバラつきを抑えることを狙ったのだ。

 パナソニック製のセルを使っていることもあり、テスラのバッテリーに対する耐久性の評価は高い。同社は最近、パナソニック製だけでなく、中国CATL製のLPO(リン酸鉄リチウム)バッテリーを採用し始めたが、形状としては同じ円筒型を用いていると思われる。

 もっとも先日、テスラの高性能モデル「モデルSプレイド」が米国で炎上事故を起こしたらしい。まだ原因が特定できていないにせよ、通常の使用で発火するようでは、自動運転システム以外にもテスラ車にはまだ安全性の優先度が低い面があるといえそうだ。

 三菱のプラグインハイブリッド車とマツダの「MX-30」のEVモデルは、冷媒によって冷却するというユニークな方法を採用している。これは各バッテリーモジュールに這(は)わせたアルミ合金製のヒートシンクを、エアコンのクーラーガスの気化熱によって冷やすもので、充電中にも作動させることにより効果的に冷却できる。バッテリーモジュールのケースを介しての冷却なので、各セルの冷却ムラなどが気になるが、空冷と比べれば格段に冷却性能に優れ、水冷のリスクやデメリットもない合理的なシステムといえるだろう。

 マツダがバッテリーの保証を8年16万キロメートルと、従来のEVと比べれば驚異的な長期保証を実現しているのも、品質に対する自信の現れだ。残価設定ローンでの3年後の残価を55%とガソリン車と同等としているのも、ユーザーに安心して購入してもらうための方策なのである。

【訂正:11:10 初出時、テスラのバッテリー保証について情報に誤りがありました。テスラジャパンのバッテリー保証は8年または16万〜24万キロメートル(モデルにより異なる)で、70%のバッテリー容量を保証というものです。該当部分は削除しております。お詫びして訂正致します。】

●バッテリーの容量が減っているEVはどうなるのか

 では、バッテリーの蓄電容量が減ってしまったEVには価値がない、ということになるのだろうか。中古車価格で30万円台から探せる初代リーフだが、チョイ乗り専用車兼非常用電源としての使い道しかないのかといえば、そうとは限らない。

 バッテリー交換が必須なEVにおいても、現在はバッテリーユニットの再生(リビルト)も一部では進んでいる。これは単なる中古バッテリーユニットではなく、中古バッテリーの各セルを診断し、使えなくなっているセルやモジュールを交換して再生したものだ。新品ほどの耐久性はないが、その分お値打ち(30万円〜工賃別)で、もうしばらく乗り続けたいというユーザーにはうってつけのソリューションだろう。

 リーフが登場した時から、バッテリーのリユースについては考えられていた。しかし5、6年前まではリーフの廃車による回収が進まず、リユース目的に設立された企業、フォーアールエナジーは家庭用蓄電池としての供給も新品バッテリーで対応するしかなかった。最近になってやっと、ディーラーでも再生バッテリーを扱える体制が整ってきた。

 最終的にはリチウムイオンバッテリーはリサイクルされてまた原料に戻ることもあって、すべてのリーフの使用済みバッテリーがフォーアールエナジーに集まってくるわけではないため、ニーズに応え切れていない印象もある。そのあたりのエコシステムが整えば、さらに効率良く再生バッテリーを提供できて、EVの長寿命化を果たすこともできるハズだ。

●下取り価格が安くなるのはバッテリーの価値減少

 最後にEVの下取り価格が低い問題について。そもそもEVの販売価格にはバッテリーの価格が含まれており、そのバッテリーの能力が低下している=バッテリーの価値減少、という判断なのだから、止むを得ないところはある。ガソリン車と同じ残存価値をEVに求めるのがそもそも間違いで、ガソリン代に比べて安い電費の分でバッテリー価値の恩恵を受けているのだが、その観点が抜け落ちている人が多いのはこれもまだ普及過渡期のモビリティであるあかしだろう。

 初代日産リーフやe-NV200、三菱iMiEVなどの中古車が激安になっているのは、クルマの価値ではなく、バッテリーに価値がないという判断だ。バッテリーが充電時間ばかり掛かって巡航距離を稼げないのは時間の浪費でしかないから、商品として価値ナシと判断されても致し方あるまい。

 現行モデルのリーフも3年落ちでほぼ半値という状態、つまり下取り価格は半値以下ということになる。少しでも下取り価格を維持したいのであれば、急速充電を連続して行うなど、リスクが高い行為(例え車両側で温度上昇を検知して充電制御が働いても、それで性能低下を抑えられるとは限らない)は避けるべきだろう。

 自宅に交流単相200ボルトの普通充電設備を設置できる環境にある人であれば、現在のEVでも十分に愛車としての役割を果たせるだろう。マンションなどで充電設備の設置が進まないのはEVの普及を阻害している大きな要因だが、せめて急速充電器がニーズを満たすまで設置を増やすことを国や自治体が率先して行う必要があるはずだ。

 また現在でも急速充電器の空き待ちが発生しており、充電時間を終えても充電器を明け渡さないユーザーもいるという急速充電器使用のマナーも問題化している。後に予約が入っている場合、累進的に駐車料金を上昇させるなどペナルティ的な制度を導入するといった、アプリと充電器をさらに連携させた仕組み作りが必要ではないだろうか。

(高根英幸)