米国のIT大手、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏が6日、CEOを退任し取締役会長となった。後継には、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を率いるアンディ・ジャシー氏が就任している。これにより米国5大IT企業「GAFAM」で、創業者自らがCEOとして指揮を取るのはフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏のみになった。

 企業の顔ともいえる創業者がCEOや会長の座を降りた時、市場にはどのような影響があるのだろうか。国内外の事例を確認していきたい。

●創業者の退任で大幅安となったgumi

 モバイルゲームやベンチャー投資などを手がけるgumiは、創業者である國光宏尚氏が6月11日に退任を発表し、市場では失望ムードが漂った。実際に退任するのは7月28日だが、株価は発表の翌営業日である14日に14.7%下落した。

 gumiは18年4月期から今期まで一貫して売上高を減少させてきており、新規事業であるクラウドファンディングサービスも不調な中の退任劇が、投資家の不安を増幅させた可能性がある。國光氏はgumi上場前の13年に、「時価総額8兆円は見えた!」というツイートをした件で話題となったが、直近の時価総額は237億円と、“道半ば”での退任劇となった。

 創業者と取締役陣の「お家騒動」で話題となったクックパッドも、16年3月に創業者である佐野陽光氏が海外事業の執行役から解任されると、前日比で7%以上も急落した。当時は急落後でも2000円前後の株価を維持していたが、それ以降はずるずると株価を下げ、今では245円と底値を這っている状況である。

 海外の事例では、EVを手がける米ニコラ社の創業者退任が大きな株価下落をもたらした。同社を創業したトレバー・ミルトン氏は20年の9月20日に自ら辞任を申し出たが、これにより株価は30%急落した。発表前は34ドル近辺で推移していたニコラ社の株価は19ドルまで一気に値を下げ、今ではそれをさらに下回る15ドル程度で推移している。

 EV事業は「これから」というタイミングであり、事業として成熟する前の段階での退任は例えるならば「離陸した飛行機から機長だけがパラシュートで脱出したようなもの」で、取り残された乗客、つまりここでいえば投資家はパニックになって当然だろう。

 会社としての成長が道半ばであったり、内部のゴタゴタなどによって創業者が一線を退かざるを得なかったりするケースでは、概ね市場はネガティブな反応を示すようだ。

●業績のテコ入れのために“出戻り”するケースも

 実際に、パワーのある創業者が一線を引くと業績の成長が鈍るケースがある。そのような状況に置かれた場合、一度は会長職などに退いた創業者が再びCEOとして陣頭指揮を執るケースもあり、これはポジティブに受け止められる場合が多い。

 衣服事業を展開するアダストリアでは、創業者の福田三千男氏が会長職に退いて以降、収益力が低下していた。同社はこれまで10年2月期の営業利益169億円がピークであったが、復帰直前の18年2月期の営業利益は、前年比64.2%減の54億円まで低下していた。

 当時、市場は福田氏の出戻りを歓迎し、発表だけで8%株価は上昇した。そして実際はそれ以上に業績が急回復。19年、20年2月期の売上高はいずれも大幅な2桁成長となり、コロナ前の20年2月期には、ピークに近い128億円まで営業利益を回復させた。21年2月期の業績はコロナ禍の影響で売上高を大幅に低下させているが、引き続き代表権を福田氏が持つことによって、22年2月期の回復に向けて陣頭指揮を執っているのだ。

 実は、ユニクロやGUを展開するファーストリテイリング創業者の柳井正氏も出戻り創業者の1人である。02年に社長職を退いたが、05年に復帰した。また65歳になる14年でCEOの座を降りる旨を当時公言していたものの、13年10月の決算発表会で一転、続投宣言した。

 当時のユニクロはすでに1兆円の売上を誇る企業であったが、柳井氏としては満足のいく成果を出せていなかったことが続投宣言で語られている。当時の目標は20年までに5兆円の売上高を実現するというもので、いわゆる創業者独特のカリスマ性やパワーがあってこその目標であった(16年に3兆円に下方修正)。足元の売上高は2兆円程度と、増収は続けているが、今の長期目標3兆円までには、1.5倍の増収が必要になってくる。

●“退任”を成功させるカギは影響力を持ち続けられるかにある?

 ではAmazonのベゾス氏退任によって、市場はどのような反応を示したか。退任発表の翌営業日である6日におけるAmazonの株価は前営業日比で4.7%上昇した。大塚家具など、CEOの退任が好感されて株価が上昇するケースがあるが、今回は意味合いが違う。ベゾス氏の退任発表でも株価が上がった背景は、退任後も会長として一定の影響力を持ち続けることが好感された点が大きい。

 そうすると、創業者が陣頭指揮を執っているか否かは企業価値を左右する要因であると考えられる。そのため、市場への情報開示やコミュニケーションが欠落した状態で突然“退任”のような重要事項を発表する場合には、冒頭で取り上げた通り、不安材料となりやすい。

 そのため、創業者が会長職となっても、代表権を維持したり、筆頭株主として影響力を保持したりといったソフトランディングが、円満な退任を成功させるカギであると筆者は考える。

 ZOZO創業者であった前澤友作氏の事例は、退任における短期および中期の市場の動きを把握する上で有効な事例だ。ZOZOといえば、2年前の9月に当時のヤフージャパンが買収する方針を発表し、それと同時に前澤氏は代表取締役社長を退任した。TOBによる公開買付に前澤氏が応じることで市場へのインパクトを極限減らして引退できたことと、TOBは市場価格より通常高く買われる点で、短期的にはZOZOの株価を大きく押し上げ、投資家にも好感された。

 しかし、前澤氏が全株を処分することは今後の影響力をもたらさないことを意味していた。TOB終了後の株価は坂を転がるように下落したのだ。TOB時の市場価格が2500円近辺だったが、そこから半年足らずで株価は半額の1250円まで落ちこんだ。今ではコロナ禍中におけるEC需要の高まりやヤフージャパンを傘下に収めるZHDとのシナジーが再評価され、ZOZOのピークであった18年の高値をのぞむ展開まで回復している。

 同社は決算説明会資料の各ページで役職員の写真を貼り付けるユニークな資料を出しているが、「前澤社長」イメージの脱却を図ることによって、退任前後でZOZOに対する投資家の認識をうまく切り離すことに成功したのかもしれない。

 創業者が永久に率いていくことは現実的に不可能な問題だ。そのため、少なくとも創業者がいなくなっても同じように成長を遂げられる組織や後継者を一定の影響力を保持した上で育成していくことや、退任の際には市場とのコミュニケーションを綿密に取っていくことが「創業者の退任」という不可避のイベントを成功させる要素であると考えられる。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)