目指すのは「推しに恥じない身体作り」──オタク女子をターゲットにしたパーソナルジム「Clara(クララ)」が7月1日、池袋にオープンした。2020年8月に設立されたベンチャーの事業ながら、5月のプレオープン以来、申し込み多数の好調な滑り出しだという。

【編集履歴:2021年7月12日10時35分】作田耀子代表のお名前を誤って記載していました。お詫びし、訂正いたします。

 運営するのは、オタク女子向けのWebサービスの企画、開発、コンサルティングを行うクララボ。なぜオタク向けのジムを開業するに至ったのか、本人もコスプレ歴17年目を迎える“生粋のオタク”であるという作田耀子代表(以下、活動名のSAKU代表とする)に話を聞いた。

●「コスプレのために痩せたい」ジムで言えなかった苦い経験

 「自分がアラサーになり、20代中盤から体重が増えても自分だけではなかなか痩せられなくなりました。17年ほどコスプレをしているのですが、昔作った衣装が着れなくなり、20年5月からパーソナルジムに通い出しました」

 そのパーソナルジムでの経験が、今回オタク女子向けのジムを作るきっかけになったという。

 「担当のトレーナーに、なぜ痩せたいのか、なぜ腹筋を付けたいのかという目的をなかなか言い出せなかったんです。コスプレ衣装を着たいから痩せたい、腹筋を割って男装の見栄えを良くしたいという理由は、どう思われてしまうのかが怖かった。

 しかし、パーソナルジムは目的をトレーナーと共有することが重要です。伝えられないことに葛藤がありました」と話す。

 パーソナルジム自体は正しいトレーニングの仕方や食習慣、なぜ自分が太ったのかを振り返った上で痩せられたので、とても良い経験になったと感じている。しかし、オタクであることを表に出せない苦い経験も色濃く残った。

●趣味に全力なオタクこそ筋力・体力が必要

 また、コスプレ仲間や友人と話をする上で、このような経験や葛藤をしているのは自分だけではないこと、身体を鍛えたいと思っているが行動に移せていないオタクが多いことも分かってきた。

 オタク活動は、ライブや舞台でいろいろな場所に遠征に行き、ライブでは3時間ペンライトを振り続ける。家でアニメや漫画を読んでいると、こもりがちになり全身が凝り固まってしまう。コスプレ衣装を作成したり同人誌を描いたりと、長時間細かい作業をすることもある。オタク仲間から「お尻が痛い」「身体が痛くて集中できない」と悩む声を聞いた。

 また、オタク文化を作る漫画家の友人も、厳しい仕事のスケジュールで不健康な生活を送り身体を壊しがちだった。有名な漫画家が、若くして亡くなるというニュースを見ることも少なくない。

 SAKU代表は、オタクにこそ筋力や体力が必要で、オタクが健康になれる場所を作るべきだと感じた。そしてその場所は、オタクがオタクであることを隠す必要がなく、堂々と話すことができ、オタクであるが故の悩みを共感し目標を共有する、そんな場所である必要があると思った。

 そこで、トレーナー自身もオタクであり、オタクの気持ちが分かる、オタク向けのパーソナルジムClaraの設立に動き出した。

「自分も周囲も、健康で長生きなオタクに」使命感にかられて開業

 「私は一生オタクでいることを楽しみたい。そのためには、自分の健康だけでなく周囲のオタクも健康で長生きできる環境を作りたい。そういう使命感にかられました」と、SAKU代表から強い思いが聞かれた。代表の元には、よくぞ自分のために作ってくれた、という声が多く届いた。

 ジムを女性限定にした理由は、オタク女性ならではの悩みが、「推しに恥じない体を目指す」というジムのコンセプトと合致するからだという。

 健康で“推し活”に集中できる身体になりたい、コスプレをきれいに着こなすためのダイエットをしたい。でも、好きなアニメやキャラクターの期間限定のコラボカフェにも行きたい。このような思いを持つオタク女子は少なくない。

 また、「推し」という対象を作るのは、女性の割合が多いとSAKU代表は分析。「推しに恥じない体を目指す」というコンセプトは女性に強く響き、共感する声がたくさん聞かれた。

●夢は「世界中のオタクを救う」 全国展開や男性向け事業も構想

 ジムを開業した池袋は、女性向けのオタク文化が根強い。男性向けのオタク要素の強い秋葉原と違い、乙女ロードやアニメイト本店など、女性のオタクが集まる名所が数多く存在する。池袋は、オタク女子向けのサービス展開がしやすい場所であると考えた。ただ今後は、全てのオタクを救うため、男性のオタクに向けた事業展開も考えていきたいという。

 SAKU代表には、世界中のオタクを救って行きたいという強い思いがある。SAKU代表やジムのSNSには、全国からの「通いたいのに遠いから通えない」というメッセージが届く。その思いに答えたいと、関西をはじめとした全国への展開も構想している。

 パーソナルジムClaraは、5月19日にプレオープンした。それ以降、毎日申し込みや問い合わせが多く来ているという。

 Clara所属のトレーナーTame.氏は、「今まで複数のパーソナルジムで働いてきた経験がありますが、こんなに反響があったのは初めてです。通常のジムのオープン時の倍程度は申し込みがあります」と話す。7月1日にグランドオープンしたばかりだが、すでに池袋に2号店の準備を進めている。

 オタク向けパーソナルジムというユニークな事業の商機は、仲間づくりと人材育成だとSAKU代表は考える。

 「オタク趣味を持つ学生が将来トレーナーになりたいという声や、オタク的な趣味を持ちながら年齢を重ね、トレーナーになりたいが、年齢的に転職して教育を受けるのが難しいという声も届きます。そうした雇用も生み出したいし、店舗拡大にもつながっていきます」(SAKU代表)

 また、一般的なジムに勤めるトレーナーにも、オタクであることを隠して働いている人もいると推測している。今回トレーナーを集める中でも、代表がSNSでオタク趣味を持っているトレーナーを検索してコンタクトを取るなどしたそうだ。このような人達を救う場としてもコミュニティーの拡大が、事業として新たなビジネス展開を生むことができると意気込む。

 またパーソナルジムとして、オタクコンテンツのクリエイターである漫画家や声優の身体のコンディション管理への事業拡大も検討している。オタク文化を作るクリエイターとコラボするなど、お互いにビジネス的にも還元できるようにしていきたいという構想もある。いずれはアニメ、漫画とコラボした独自の健康グッズや健康食品などの事業展開も考慮に入れているという。

 矢野経済研究所の調査では、2030年のオタク人口比率は30%を超え、40%に近づくものと試算されていて、まさに3人に1人はオタクである世の中となるといわれている。オタク文化は立派な1つのビジネスの場となっていくだろう。オタクというコミュニティーを拡大し、ビジネスに強く結び付けて成長していくクララボの、今後の動きに注目したい。