人気ラーメン店「ラーメン二郎」をリスペクトし、その味や形態を模した「二郎インスパイア系」「がっつり系」「G系」と称するジャンルが、コロナ禍で勢いを増している。

 東京・駒場にある「千里眼」(2009年オープン)や東京・立川の「立川マシマシ」(14年オープン)のようなレベルの高い二郎インスパイア系のラーメン店が独自のアレンジを施して続々と出店。

 「東池袋大勝軒」をルーツとするつけ麺「中華そば とみ田」が「雷」、横浜家系で「壱六家」から独立した「町田商店」が「ラーメン豚山」を展開するなど、系統が異なる有名店が二郎インスパイア系の別ブランドを出店するケースも多い。

 ラーメン二郎直系の店には、「ジロリアン」と呼ばれる熱狂的な常連客の間で共有する暗黙のルールが存在し、初心者にはハードルが高い店もある。長い行列を並ぶ人に配慮して、早食いをしなければならないルールを持つ店もあるという。ゆっくり味わって食べていると、店員が食事を打ち切る言葉をかけてきて、退店を促されるそうだ。

 これは極端な例としても、二郎インスパイア系は直系に存在する面倒なルールが少なく、自由さが好まれている面がある。

 近年はお店の監修で二郎インスパイア系のラーメンを、各コンビニがチルドのレンジ麺として発売している。また、即席麺のメーカーがカップ麺に仕立てて販売している。

 二郎インスパイア系の勢いは止まらず、ステーキ、丼、パスタなど他ジャンルにも見られるようになった。うずたかく盛られたシャキシャキのモヤシやクタクタなキャベツなどの野菜、厚切りの肉、パンチのある刻みニンニク、背脂、しょうゆ油ダレといった、二郎風の特徴をほぼ備えた味・盛り付けのメニューが広がっている。既に二郎系はラーメンの領域を超えて、クロスオーバーな料理の分野を形成しつつあるのだ。

 今なぜ、二郎インスパイア系の商品やメニューが求められているのだろうか。

●ラーメン二郎風のステーキ

 東京・新橋にある「ステーキ五郎」は、ラーメン二郎をほうふつとさせる野菜タワーのビジュアルで、二郎インスパイア系ステーキという分野を開拓した、新感覚のステーキ店だ。

 コロナ禍の前から、10人中3人が圧倒的にハマる味というとがったコンセプトで、居酒屋やバルのランチ対策として開発を進めていたという。オープンしてからは人気ユーチューバーの「わっきー(石脇誠)」氏らの動画で取り上げられたのをきっかけに、SNSで情報が拡散され集客につながった。

 メニューはステーキのみで、「シングル(150g)」(980円)、「ダブル(300g)」(1660円)、「1ポンド(450g)」(2200円)。ご飯とお茶はセルフサービスで、お代わり自由となっている。1000円以内でボリューム感あるステーキが食べられる店が珍しく、コストパフォーマンスも魅力となっている。

 店内に入ると、ラーメン店でよく置いてある券売機があり、食券を買って着席する。食券ではトッピングの野菜、牛スジ、ニンニク、バター(脂)の分量が、無からマシマシまで、段階的に選べるようになっている。このあたりも、二郎インスパイアのラーメン店らしさを感じさせる。

 全マシにすると、野菜マシマシ、牛スジあり、ニンニクマシ、バター2個となり、ご飯をお代わりすれば結構な分量になる。食券にペンでテーブル番号を書き、希望のトッピングに丸を付ければ、店員がやって来くる。非接触性が高い方式で注文ができるシステムだ。

 追加の有料トッピングで、「唐揚げ」(150円)、「カレー」(100円)、「生卵」(50円)もある。

 柔らかい肉質でしつこさがない、米国産のミスジを使用。野菜をマシマシにすると、野菜から出る汁に浸ったステーキになるが、ソースの味がしっかりしていて、気にならずに食べ進められるのが特徴だ。締めは鉄板にご飯を投入し、生卵を入れておじや風にする人もいるそうだ。

 ステーキ五郎は、昨年の緊急事態による休業明けの5月25日に出店。経営は大手外食のダイヤモンドダイニングで、同社の「ワインホールグラマー ネクスト」という肉バルを間借りして、ランチ営業を行っている。同店は、入場料500円を払えばビールが160円となるなど、ほぼ原価で飲めるのが支持される繁盛店だったが、コロナ禍による休業、時短、酒類提供禁止により苦戦を余儀なくされている。

 肉バルの苦境を打開するべくステーキ五郎を投入したが、原価率が50%に迫る内容と二郎系のインパクトが受けて、30〜40代のビジネスマンを中心に支持されている。1日に60〜80人の来客があり、2回転ほどして軌道に乗っている。平日はニンニクをトッピングしない人が多い。店舗は、都内の赤坂・浜松町・池袋と、広島市に広がり、5店となった。いずれも、ダイヤモンドダイニング系列店のランチタイムを間借りしている。なお、緊急事態中はお酒が提供できないため、開店から午後8時まで通してステーキ五郎となっている。

 同社によれば、今後はデリバリー専門のゴーストレストランとして拡張する方針だ。

●ラーメン二郎風の丼

ラーメン二郎風の丼もある。弁当店「ダイナマイトキッチン」(東京都足立区)で販売する「ダイ二郎」なる丼で、パッと見た感じが「ラーメン二郎」のラーメンにそっくりなのだ。

 ダイナマイトキッチンはボリュームを売りにした弁当店で、「デカ唐揚げ弁当」など、デカ盛りシリーズが人気だ。

 「ダイ二郎」(850円)のボリュームはデカ盛りを凌ぎ、肉だけでも300グラムを超える量が入っており、無料のトッピングを全部入れたら1キロを軽くオーバーする。

 ご飯の上に、煮豚、ゆで卵、野菜、背脂が乗っており、無料トッピングでニンニク、唐揚げを追加できるようにしている。さらに、野菜と脂は無料増しができる。全部増しだと蓋が閉まらず、なかなかご飯にまでたどり着けない。

 全体に掛かっている甘めのしょうゆダレが、ご飯、具材との相性も良く、見た目の“ごつさ”に反してよくまとまった丼に仕上げている。

●ラーメン二郎風のパスタ

 また、ラーメン二郎風のパスタを提供するのは、東京・錦糸町の「麺や 鳥我」だ。この店は、ミートソース、ナポリタンなどのパスタを600〜800円程度で提供しており、手軽な下町ロメスパ(「路面スパゲティ」の略。ファストフード店のように気軽に食事ができる店を指す)といった風情だ。

 異彩を放つ「スープパスタジロー」(800円)は、丼鉢に2人前くらいある大量の麺(やや細めのパスタ麺)が入っている。麺の上には、スープに浸った塩とこしょうで味付けされた豚肉と鶏肉を使った口どけの良い肉のブロック3枚、山盛りのモヤシとキャベツ、たっぷりの刻みニンニクが乗っている。背脂は少な目で、意外にあっさりとしており女性でも食べやすいとのことだ。ただし「大食いなら」と注釈が付く。スープはしょうゆ味、トマト味、クリーム味、トマトクリーム味から選べるようにしている。店主のラーメン二郎愛がひしひしと伝わる一杯となっている。

●コンビニのチルドコーナーに二郎インスパイア系

 ラーメン二郎インスパイア系で注目されるもう1つのトピックスは、コンビニのチルドのコーナーにおいて電子レンジで温めて食べる「レンジ麺」が販売されるようになったことだ。大手3社、いずれも人気店とコラボした提案を行っている。

 これらは「ジェネリック二郎」とも言われ、初期は「麺がうどんっぽい」などといったユーザーからの不満も出ていた。しかし、現状は二郎的な「ワシワシ感」が出てきており、レベルアップが著しく、お店の味にかなり近づくほどに改善されている。

 最新の動きとしては、セブン-イレブンが「中華蕎麦とみ田監修 三代目豚ラーメン」(594円)、ローソンは「東京・新小岩の名店 麺屋一燈監修 濃厚豚醤油ラーメン」(598円)、ファミリーマートは「東京 千里眼監修 濃厚マシマシラーメン(ニンニク醤油)」(598円)をそれぞれ販売している。

 夏になって冷やしメニューに順次切り替わっており、セブンは「とみ田監修 冷し豚中華 芝麻醤仕立て」(550円)、ローソンは「麺屋一燈監修 ガリマヨ(ガーリック&マヨネーズ) 入り! 冷し胡麻だれ野菜マシ太麺」と「冷し豚醤油ラーメン」(いずれも598円)、ファミマが「千里眼監修 マシマシにんにく冷し中華」(598円)をそれぞれ販売している。

 主要3社が譲らない、コンビニ商戦の最前線に位置する商品となっている。

●最初に仕掛けたのはセブン

 最初に仕掛けたのはセブンで、19年1月に、「中華蕎麦とみ田監修 豚ラーメン(豚骨醤油)」を発売。瞬く間にSNSで話題となった。日本全国の家庭で手軽に、二郎インスパイア系のラーメンが楽しめるようになった、画期的な商品と言える。

 20年2月には、「中華蕎麦とみ田監修 ワシワシ食べる豚ラーメン」にバージョンアップ。ニンニクの量を約3.5倍としただけでなく、モヤシやチャーシューも増量した。麺は小麦粉の配合や製麺方法を見直し、かみ応えのある極太の縮れ麺に改良された。当該商品は20年のセブンのレンジ麺で、売り上げ1位となるヒットになった。

 そして、21年2月に前出「三代目豚ラーメン」へとさらに進化した。麺は強力粉を増量。背脂も増量して、固形感を残す製法を採用。トロトロとした食感をより楽しめるようにした。

 千葉県松戸市に本店を持つ「とみ田」は、常に長蛇の行列ができる繁盛店だが、二郎インスパイア系のブランド「雷」を20年8月に東京駅構内のエキナカ商業施設「グランスタ」内に出店して話題になっている。上京した人が必ず使う駅の立地で、レンジ麺との相乗効果が出る上手な仕掛けになっている。

 ローソンが提携する「麺屋一燈」は、とみ田と同じく、東池袋大勝軒出身の「麺屋こうじ」から独立していて、同門の店だ。麺屋一燈の店主・坂本幸彦氏は、同店Webサイトでとみ田店主の富田治氏を、「日本一の男、僕の師匠」とまで言い切っているが、レンジ麺ではコンビニの看板を背負って、“ガチ”で対決している。

 麺屋一燈も、「ラーメン燈郎」という二郎インスパイア系の店を有する。牛ステーキがトッピングできたり、カレーラーメンが味わえたりするなど、大胆なアレンジが魅力とされている。

 ジェネリック二郎の「麺屋一燈監修 濃厚豚醤油ラーメン」は、20年11月の発売。ローソンはそれまで自社開発の二郎系レンジ麺を出していたが、ここで初めて名店とコラボした商品を出した。

 内容的にはコンビニの二郎系レンジ麺では初の煮卵トッピングと、とろけるようなチャーシューが目に付く。低加水で全粒粉が入った太い縮れ麺やもやしのボリューム、ニンニクのがっつり感は二郎らしさがあるが、スープの量が全般に少なくあっさり目となっている。

 ファミマは、二郎インスパイア系でも突出した人気を誇る「千里眼」とのコラボで、20年10月からレンジ麺「濃厚マシマシラーメン(ニンニク醤油)」を発売している。ファミマもローソンと同じくオリジナルで二郎系にチャレンジしていたが、セブンに対抗できず、コラボ店のアドバイスでクオリティーを向上させた。

 1000キロカロリー以上もあり、“高カロリー度”ではコンビニの弁当でも最大クラス。大量のニンニクと野菜、味の染みたチャーシュー、ごわついた麺、背脂の入った濃厚な豚骨しょうゆスープは、二郎インスパイア系の特徴が良く出ている。麺の太さやしょうゆ味の濃さは、3社で一番か。アクセントとして、お店でおなじみの揚玉に唐辛子を塗した「辛揚(からあ)げ」が入る。

●二郎系を仕掛ける狙いは?

 このような二郎系のブームを、ローソン・広報では「コロナ禍によって人々が外食に行けなくなり、コンビニでも飲食店とのコラボ商品が求められるようになった。がっつり系は食べ応えがあって、満腹感が高い」と見ている。特に、夜間の売り上げが好調。お店で食べると1000円くらいかかるが、レンジ麺の価格が600円以内と安価なことも、売れる理由だ。

 全国に約200店を展開する「らあめん花月嵐」では、毎月期間限定ラーメンを発売している。この企画が始まった初期の06年から、二郎インスパイア系「モンスターシリーズ」を1〜2年に1回程度のペースで販売している。

 「まだラーメン二郎が東京ローカルの人気店だった頃から取り組んでいて、二郎の存在を全国へ広めるのに貢献できたのではないかと自負している」(運営会社グロービート・ジャパンの広報担当者)

 関東に10店舗ある「野郎ラーメン」では、17年に月額8600円で1日1杯のラーメンが無料になるサブスクリプションサービスを打ち出して話題になった。同チェーンは二郎インスパイア系では早くからカップ麺に取り組み、17年から監修した商品をサンヨー食品から販売。第6弾までシリーズを重ねている。

 二郎インスパイア系は、2000年代の花月嵐の普及活動、千里眼などのレベルの高い店の出現、2010年代の立川マシマシのような地方展開するチェーンの伸長、カップ麺の成功によってブームの下地が醸成された。そして、19年にセブンがとみ田と組んだレンジ麺で全国的にジェネリック二郎ブームの火が付き、ファミマとローソンも追従。コロナ禍による在宅時間の増大に伴って、家で二郎風ラーメンを自作する“家二郎”の実践者の出現にまで深化した。

 二郎系の大衆化により、一見とっぴに映る二郎系ステーキが売れたのも必然と言えよう。

(長浜淳之介)