2020年、新型コロナウイルスはビジネスの世界にさまざまな変化をもたらした。特に変わったのは人々の「働き方」ではないだろうか。新型コロナ感染拡大防止策として政府が出した出社制限要請を皮切りに、リモートワークの浸透、サテライトオフィス出社、ワーケーションなどビジネスパーソンの働き方は180度変わった。

 「働く場所」だったオフィスを縮小する企業が増加し、ビルにも空室が出始め、地方に本社を移転する企業も出てきた。オフィス関連市場に吹き付ける逆風は勢いを増すばかり。

 事務機・オフィス家具のオカムラも苦境に立たされていた。だが、蓋を開けてみると21年3月期通期の連結決算は、営業利益、純利益ともに過去最高。その裏には、コロナ禍で変化するオフィス需要をつかみ、育成したことや、中村社長自身が旗振り役となった内部改革があった。

●「本当に赤字かもしれない」と思った

――20年はコロナ禍でオフィス縮小の動きが活発になり、オフィス家具の需要はかなり落ち込んだかと思います。当時の状況を中村社長はどのように捉えていたのでしょうか?

 本当に赤字を覚悟していました。バブルが崩壊した90年代やリーマンショック後も赤字を回避してきたのに、ここにきて赤字かと肩を落としました。

 オフィスはガラガラで、出社率は2〜3割程度。オフィス縮小に伴い、オフィス家具の需要は減っていくだろうと思いました。

――そもそもオフィス家具の需要はどういうときに発生するものなのでしょうか?

 大きく2つあります。1つ目は「オフィスの新設」。本社が移転するなど大きく改装するときにオフィス家具をそろえる動きです。こちらはコロナ禍でも予定通り進んだため、業績にそこまで大きな影響を与えませんでした。

 業界においてより重要なのは2つ目の「買い替え需要」です。オフィス家具の買い替えは基本的に毎年同じ企業に発注し、切り替えはめったにありません。安定的な売り上げが期待できる需要がコロナ禍で完全に消えました。

――そんな中での過去最高益達成。この裏にはどういう動きがあったのでしょうか?

 要因は大きく3つあったと考えています。まず1つ目が「新しいオフィス需要を見いだし、ニーズにあった商品を展開したこと」です。

 政府の出社制限要請に伴い、ガラガラなオフィスが目立つようになりました。そこで経営者はオフィス縮小の動きに出ます。例えば、今まで4フロアだったオフィスを3フロアにする。1フロア当たりの収容人数が増えた分、オフィスのレイアウトを変更し、改装する需要が生まれました。これは新型コロナが発生しなければ、生まれなかった動きです。

 従来のオフィスの位置付けは、優秀な人材を確保するためのツールでした。企業はオフィスを増床し、働きやすい環境を整えるための改装投資を繰り返していました。

 コロナ禍で起こったオフィス縮小により、「オフィスは何をする場所なのか?」という根本的な問いが経営者の中で生まれました。21年の企業の設備投資動向を見ると「無人化」と「デジタル化」への投資比率が大きいことが分かっています。これらの動きが進むことで確実に働き方は変わり、オフィスに求められる役割も変わっていきます。伝票処理などの作業はデジタル化され、新しい事業を起こすための議論をする場としてオフィスが機能するようになる、そういった変革の入り口にわれわれは立っていると実感しました。

 そこで、オカムラは従来のオフィス家具販売から「ライトサイジング」という新しいオフィス提案にシフトします。

――「ライトサイジング」とはどういう提案なのでしょうか?

 ライトサイジングは「オフィス機能と面積の適正化を図ることで働きやすさを向上させる」オフィス戦略です。

 従来のオフィスは主に個人のデスクと会議室で構成されており、オフィスに占める個人:共創空間の比率は7:3程度でした。今後は、5:5まで変化すると考えています。固定デスクは排除され、オープンスペースで社員が仕事をする。机や椅子は可動式になり、気軽に集まれるカフェラウンジではフラッと集まった社員が新しい事業構想を語り合う。オフィスは社員の創造力を育み、引き出す場に変わっていきます。

 オカムラが考える最新のオフィス事例として、東京・渋谷スクランブルスクエアに「CO-EN(交縁)ラボ」があります。20年6月に開設し、会議室の代わりに棚で仕切られた半個室を設けているほか、駅などに設置されている電話ボックスのような個室スペース「テレキューブbyオカムラ」(以下、テレキューブ)を用意しました。

――20年6月開設は、コロナ禍のスピードとしてはかなり早いですよね。実際にライトサイジング提案ではどのような商品が売れたのでしょうか?

 CO-ENラボに置いてあるテレキューブや、机と椅子を仕切りで囲った「ドレープ」の売り上げが伸長しました。オフィス家具買い替えの需要はなくなりましたが、利益率の高い新商品が好調でした。

 ライトサイジングは20年夏頃から提案を始めています。秋ごろに日本企業全体でオフィス改装の動きが盛り上がり、需要の伸びを実感しました。

 「経済や社会に大きな変動が起こったときは必ず不連続で新しい需要が生まれる」。私はそう考えています。社会の価値観が変わるため、既存商品の売り上げは落ちます。一方で、時代に合った新しいコンセプトを持つ商品は売れ始めます。

 「世の中がどちらに向いているのか」を注視するだけでなく、自分たちが「需要」という新しい芽を育て市場をけん引していく。そのための提案や新商品開発が何よりも重要です。

●GIGAスクール構想の製造販売を担うことに

――新しい需要を取りこぼさず、自分たちの手でその需要を大きくし、市場を引っ張っていくことで盤石な経営を築き上げることができたんですね。最高益達成を支えた取り組みの2つ目は何だったのでしょうか?

 政府が19年12月に打ち出した「GIGAスクール構想」の需要を取り込めたことです。GIGAスクール構想とは、教育現場のICT化促進のために全ての小・中学生にタブレットやパソコン(PC)などの学習用IT端末を配備し、校内ネットワーク環境を整備する取り組みのことです。当時、23年度末までに端末を整えるスケジュールだったのですが、コロナ禍で一斉休校になり、前倒しで取り組まれることになりました。

 オカムラでは、学習用IT端末の充電と保管ができる「タブレット・PC充電保管庫」を20年6月に販売しました。これまでに教育施設向けの什器(じゅうき)開発・販売実績もあります。政府が発表した仕様を把握し、営業が学校や教育委員会にヒアリングし、ニーズを把握。商品を量産化、期限までに納入しました。

――競合も多かったかと思いますが、その需要をなぜ取り込むことができたのですか?

 一番重要なことはスピード感だと考えています。今回は営業の動きを軸に部署間の連携を強め、一丸となって推進したことで成功を勝ち取ることができました。

 役員や部長クラスの中間管理職が先頭に立ち、スピーディーに対応したことが大きかったと考えています。

●旗振り役は社長「サプライチェーンの大幅な見直し」に着手

――サプライチェーンの見直しも最高益達成の要因だと思いますが、それは中村社長自身が旗振り役となって取り組まれたのですね。具体的にどんな点を改善したのでしょうか?

 「在庫回転率向上プロジェクト」を始動させました。まず、テレキューブやドレープなどの売れ筋商品の受注生産体制を強化し、回転率を高めました。並行して、既存商品の生産を抑制、在庫数を落とすことで、最低限の在庫で回転させ売り上げを立てます。また、工場からの直接納品を増やすことによって配送効率の向上を狙いました。

 現場は「モノは腐らない」と言いますが、私は「腐る」と考えています。物理的に腐るという意味ではなく、在庫として持っていると価値が落ちていくという意味です。在庫は負債であり、商品として売れて初めて現金として入ってくるのです。

 実際に、サプライチェーンの改革により16億円の物流コスト削減を実現しました。

――サプライチェーンの見直しは仕入れ、生産、物流などさまざまな部門を巻き込むためかなり大掛かりなものだったかと思います。なぜコロナ禍のタイミングで取り組んだのでしょうか?

 先ほど社会に大きな変動が起こったときこそ新しい需要が生まれると言いました。私は同時にこういうときは、企業の体質を変える契機にもなり得ると考えています。

 通常は10人で回している仕事を7人でやるように言っても「できるわけがない」という思いが先行します。一方、売り上げが落ち込んでいる状況下であれば、効率を上げてコストを下げるためにも「今まで10人でやっていた仕事を7人、いや5人でやるにはどうすればいいか」という思考が生まれるわけです。

 サプライチェーンの見直しによって今期の決算は救われました。しかし、この取り組みが一過性のものであってはいけません。今後2年かけて作り方、運び方、売り方の構造全てを変えていこうと思っています。時代に合わせた社内システムを採用しない限り、ズレがどこかで生じます。常に最新の状態にアップデートすることが次の発展を連れてくると信じています。

●学びは「世の中の変化をキャッチすること」

――昨年を振り返って、中村社長の中でどんな気付きがありましたか?

 「常に世の中がどう変わっているのか」という点を観察し続けることの重要性はあらためて実感しました。特にリーダーやマネジメント層に求められることです。

 現代の仕事は複雑で1部門で完結することは少ないです。ある部署のメリットは他部署のデメリットになり得る。今後は、プロジェクトベースで仕事を回す時代がきます。複数部署の精鋭メンバーを集めたプロジェクトチームを作り、全社的な課題を与え、ソリューションを導き出し、実行に移していく。

 リーダーたちは、変動する社会の価値観に合わせて自分たちの考え方や価値観を変え、柔軟な思考と手法で対応する必要があります。課題を正しく認識し、ソリューションを考案し、需要を取り込む。プロジェクトを推進する旗振り役に求められる責務は重いです。

 それでも取り組む理由は「ビジネスはロマン」だから。仕事は白いキャンバスに絵を描くようなもので、3年後、5年後に自分の部門がマーケットでどのポジションを獲得していたいか、理想の姿を描けないと実現しません。

 任された仕事をするだけでは何も変わりません。仕方がないことですが、人間は楽な方に流されていきます。自社の課題を自分ごと化し、前向きに取り組む人材を育てていくこともリーダーたちに求められる仕事だと感じます。

【訂正:2021年7月26日午後12時 初出で「19年11月に開設し」と記載しておりましたが、「20年6月に開設し」に訂正いたします】