高年齢者雇用安定法が改正されて、企業は4月から70歳までの社員の就業機会を確保するよう努力しなければならなくなった。「70歳の働く場」の前編【定年後に「新天地」で挑戦する高齢者 中小企業の支援で新たな生きがい見つける】では企業の「お荷物」にならない高齢者の働き方をお届けした。

 後編では、シニア人材を信用金庫や信用組合など地域の金融機関の取引先企業に紹介してきた一般社団法人新現役交流会サポート(SKS、保田邦雄代表理事)の活動を中心にレポートする。

 SKSが創設した「新現役交流会」は、関東圏を中心に参加した中小企業が4000社を超えた。そのうち約5割超の企業が新現役とマッチングしているという。

 2003年に小泉純一郎内閣が、大企業などを退職し「(それまで培った)経験を生かしたい、働きたい」という人材を「新現役」と名付け国に登録制度を発足したものの、実際に人材を中小企業と結びつけることが難しかった。SKSはこれを地域金融機関と連携することによって、取引先の中小企業と人材を引き合わせる「新現役交流会」として仕組化。シニアのキャリアを生かせる多様な職場を仲介する枠組みをつくった。

●地域金融機関が注目

 SKSが09年に東京の亀有信用金庫から始めた「交流会」を通したマッチングの活動は、12年には25の信金に拡大。その後は関東圏以外にも広がった。保田代表理事は話す。

 「『新現役交流会』は、就職や就職説明会ではありません。新現役と中小企業の双方が相手を選び、最初は国が実施している無料企業支援から入ります。その後、双方が納得すれば当事者間で『民―民契約』を結びます。それもほとんどが業務委託契約で、なかには就職に発展する新現役がいます。マッチングした企業のうち約40%が『民―民契約』をしていることは、すごいことだと思います。これが新現役と中小企業にとって、相互に都合のよいシステムになっていると考えています」

 その上で「資格や肩書ではなく、大企業を退職し経験やスキルを持った人材は、『無尽蔵の埋蔵資源』といえるのではないでしょうか。中でも得意な技術、ノウハウを持っている人が埋もれているのは、日本経済にとってもったいない。この先も全国の地域金融機関と連携を強め仕組みを発展させたい」と強調する。

 写真にあるのは17年9月に東京都内の6信用組合が取引先の中小企業約60社を集めて開催した「合同交流会」だ。大企業OBであることが多い「新現役」は、各ブースで中小企業のトップと、信用組合の支店長の前で自己PRを含めたマッチング面談をする。お互いが本音で話し合い納得して合意すれば、「新現役」に業務のサポートをしてもらうことになる。コロナ禍で面談をするのは困難なところもあるが、交流会サポートはこの面談を「成約」するための最重要イベントと位置付けている。

 最近ではこの「交流会」活動に地方銀行も着目。地銀大手の静岡銀行、北海道の北洋銀行などが交流会を通した活動に注力中だ。中小・中堅企業に融資する比率の高い金融機関にとっては、中小企業が優秀な人材を獲得して経営が上向けば新規融資の増加にもつながる。「一石二鳥」の効果が得られるというわけだ。

●「アシモ」開発者がハサミメーカーを支援

 理美容師向けのハサミを手作り製造しているヒカリ(東京都板橋区)の高橋一芳社長が12年に地元の滝野川信用金庫の誘いで交流会に参加した。そこで出会ったのが、本田技研工業で2足歩行のロボット「アシモ」の開発に携わった生粋のエンジニア、西川正雄さん(当時76歳)だった。30人の職人が働くヒカリでは、繊細なプロ向けのハサミが作れるようになる技術の習得に、経験と勘に頼っていたため約10年も掛かっていた。だが西川さんが開発した道具を使うと、わずか1週間でできるようになったという。

 高橋社長は「西川さんのおかげで、職人養成のための時間とコストを節約することができた。交流会で思ってもいなかった貴重な人材にめぐり会えた」と感激しきりだ。80歳を超えた西川さんは数年前までは週に1回ほど技術面のサポートをするため顧問として出社。ハサミを製造する機械の開発に携わるなど、同社にとってなくてはならない存在だった。一方の西川さんは「この現場にはホンダにいた時のような活気があった。精密加工の技術を若い人に継承していきたい」と話している。

 このほかにも日本マクドナルドで働いていたマネージャーが、千葉県浦安市のお好み焼き店に労働環境の整え方や店舗運営の方法を指導したり、イタリアの航空会社アリタリアに勤務していた人が、イタリアの高級車の自動車部品輸入会社に、イタリアでのネットワークを活用して部品調達で支援したりするなど、「新現役」が中堅・中小企業をサポートした事例は数えきれない。

●現役エンジニアが兼業/副業で手助け

 最近のケースでは、大手企業の現役のサラリーマンも定年後をにらんで新しい職探しと準備のため、交流会に参加していた。AGC(旧旭硝子)に勤務する課長職エンジニアのFさん(57歳)だ。

 「先輩の姿を見ていて、自分が成長する姿が見えない。50代半ばになって、60歳以降にどうするか考え始めていました。会社を離れて、何かできないか、何か挑戦できないかと思っていたら、20年3月に『新現役交流会』があることを知り、早速登録しました。東京の亀有信用金庫を通じて、九州のモノづくりの中小企業の支援をすることになったのです。会社が副業を認めたので、許可を取って今の業務に差し支えない範囲で副業をしています。社内で知的財産関係の仕事をしたことがあったので、この知識を生かして中小企業の特許出願の手伝いをしたら、社長から大変喜ばれました。

 しかし、こうした仕事が定期的にあるわけではありません。家族は私が定年前に退職することに反対しています。現在は60歳から65歳までは選択的定年制になっています。経済的にはこれを選ぶ方が良いかもしれません。しかし自分の気持ちに逆らってまで働きたくない気持ちも強い。お金を優先するか、自分の気持ちを選ぶかですが、後悔したくはありません。死ぬときに、あの時に挑戦してよかったな、楽しかったなと思いたい」

●官の「人材バンク」も増加

 官の人材バンクでも、「新天地」で働きたい希望が増えてきている。厚生労働省の関係団体である産業雇用安定センターが実施する「キャリア人材バンク」では、19年度に人材登録していた退職者1921人が新たな仕事に就いた。20年度(21年3月末)には2118人が新たに就職でき、毎年増加している。求職を希望している登録者の数も20年度末は前年度より840人多い4636人が登録している。

 この人材バンクは60歳以上の在職者および60歳以上70歳以下の離職者(離職後1年以内の者)で再就職を希望する人が登録できる。一時的なサポートではなく、1年以上の雇用期間が見込まれることなどが求人の条件で、登録者のスキルを生かして中小企業のサポートの仕事をするケースが多いという。

 この数年、多くの企業が社員の副業、兼業を認めるようになった。企業側も社外で通用するキャリアを身につけてもらうことで、定年になった社員の雇用義務の軽減にもつながる。大企業といえども、終身雇用維持では生き残れなくなった今の時代。70歳まで勤務していた企業にぶら下がるのではなく、定年後を見据えて現役の時にスキルを磨き、退職してからは「新天地」に挑戦する選択肢もある。

 人材不足で困っている中小企業のためにボランティア的に働くことも、人生の第3コーナーの有意義な過ごし方になるのでは。団塊の世代の筆者も、頑張っている中高年を見ると応援したくなる。

(経済ジャーナリスト 中西享)