「報連相をしっかりやれと上司からいわれるんですけれど、どうやってやればいいのか分からないんです」――これは、筆者がある会社の組織課題についてヒアリングをしていたときに、メンバーから聞いた言葉です。詳しく聞いてみると、そのメンバーは、さらにこんな話をしてくれました。

 「上司はいつも忙しそうだし、難しくて重要な仕事もしていると思うので、どういうタイミングで報連相をすればいいのか迷ってしまって……。報連相のために打ち合わせの時間を設定しても、上司から急な打ち合わせが入ったといわれてリスケになることも多くて。確かに僕の報連相なんて大したものではないですし、そのために上司の時間を割くのってどうなのかなと思うこともあります」

 一方で、上司側からはこんな話がありました。

 「報連相ができない部下が増えて困っています。部下からの報連相がなくてトラブルになるケースが増えてきて、『報連相をやれ』と厳しく部下にいっているのですが、なかなかいうことを聞いてくれない。報連相をしない部下は仕事もできないので、評価も下げています」

 筆者は、この会社の上司向けに「マネジメント研修」を行いました。参加者に「報連相は、誰からするものですか」と聞いたところ、全員が「部下からするもの」と答えていました。さらに、前述した部下のエピソードを紹介し、「部下が報連相ができずに悩んでいるのをどう解決しますか」と聞いたところ、誰一人として明確に解決策を打ち出せなかったのです。

 せっかく有用な報連相も、こうした上司と部下の認識の違いによって、うまく機能していない企業が多いのではないでしょうか。

●報連相は、あくまで「手法」

 あらためて「報連相」とはどういうものなのでしょうか。

【報告】:仕事の結果や経過を上司に伝えること

【連絡】:仕事の関係者へ状況を伝えること

【相談】:仕事で困ったことや迷ったことに対し周囲に意見を求めること

 非常にシンプルで、仕事の基本動作が詰まっている素晴らしい手法ですね。ただ、この「シンプルさ」が、逆に報連相を難しくしてしまっているのではないでしょうか。報連相は、あくまで仕事を進める上での「手法」です。それなのに言葉自体が一人歩きしてしまい、本来の目的が理解できていなかったり、誤解されたりしているように思います。

 報連相という言葉の起源は、山種証券(現SMBC日興証券)の社長だった山崎富治さんの著書『ほうれんそうが会社を強くする』だといわれています。この本では、報連相は「風通しの良い会社をつくる手段」として考えられていました。

しかし、冒頭の事例はどうでしょう。うまく機能していないどころか、報連相がきっかけで上司と部下のコミュニケーション不和が生まれており、「報連相ができない部下は仕事ができない」という上司すらいます。これでは、強い会社をつくるどころか、今まで以上に上司と部下の関係性が悪くなってしまうかもしれません。

 「報連相は簡単だ」「報連相は社会人の基本だ」――。多くの上司や先輩はそう言います。新入社員研修のカリキュラムでも「報連相は大事」と教えている企業は多いと思います。しかし、「報連相」という使い勝手のいいシンプルな言葉だけ伝えて、その目的や、やり方を教えないまま使っていることは多いのではないでしょうか。

 先ほども書きましたが、報連相は、上司や同僚などの関係者との仕事の進め方の手法です。つまり「部下からのみするべきもの」ではなく、仕事の上での「コミュニケーションの手法」なのです。しかしながら、冒頭のように「報連相は部下からするもの」と誤解している上司はとても多いのです。こうした「報連相の誤解」が、世の中では多く見られるのです。

では、ここからは、こうした誤解が生んでしまった、報連相の失敗例を見ていきましょう。

●報連相の失敗例(1):責任感が阻害したケース

 筆者の部下である、A君のケースです。A君は、学生時代から2年近くアルバイトをしていて、そのまま入社した新入社員です。アルバイト時代から社員と同じような仕事ぶりをしていて評価が高く、周囲から「期待の新入社員」と目を掛けられてきた優秀な社員です。

 そんなA君が入社して3カ月ほど、どうも元気がありません。そして、ある日A君の周囲への報連相が遅くなり、クライアントに迷惑を掛けてしまうという出来事がありました。幸いにも大きなトラブルにならず何とか収まったのですが、その後、筆者はA君と振り返りを行いました。

 するとA君は、思い悩んだ様子で「報連相の仕方が分からないんです」と話します。彼は言葉を選びながらこう続けました。「社員になって仕事をするようになり、自分がまだ知識も経験もないことを痛感しています。それでも、難しいことであっても自分で解決しなければ、と思ってやってみたら報連相が遅くなってしまいました」と打ち明けてくれました。筆者と他の社歴の長い部下とのやりとりを聞いていて「自分も責任感をもって仕事をしなければ」と無理をして自分で仕事を解決しようと考えてしまったとも話してくれました。

 A君はまだ新入社員です。知識も経験も少ないA君に対して、まだ一つ一つの仕事を確認しながら進めなければならないのに、それを怠っていたこと、そして間違った報連相の仕方を(結果的に)インプットしてしまったこと。これは明らかに上司である筆者のマネジメントの問題だと、大いに反省しました。

●報連相の失敗例(2):上司を慮り相談ができなくなったケース

 同じく、筆者の会社でのケースです。別の部署のB君が、ある打ち合わせが終わった後に、こんなことを話し始めました。

 「社内SNSで上司とやりとりをしていたのですが、気になることがあって『▲▲はやらなくて大丈夫ですか』と聞いたのですが、その返答が『ああ、それはいいよ』と簡単な一言で……。聞いてはいけないことを聞いてしまったんじゃないかと思って、上司の考えていることが分からなくなり、その後も相談や質問をしにくくなってしまったんです」

 そのやりとりを見せてもらいましたが、筆者からすると、何の気なしに書かれた上司のコメントに見えました。しかし、そのコメントの背景を上司が伝えないことにより、B君は上司の気持ちを過度に慮(おもんぱか)ってしまったようです。しかも、社内SNSは言葉が残ります。B君はそれを見ていろいろと思いを巡らしてしまったようです。

 筆者は早速各部署の上司に対して「上司にとっては当たり前のことでも、部下は断片的な情報しか持っていない。誤解が生じることがあるので、当たり前のことでもしっかり背景を伝えましょう」と伝えました。社内SNSでは反応も見えづらいので、確認しつつ丁寧に進めるべきだということもあわせて伝えました。

●「報連相は自分にとって得」と語る部下

 ここまでは実際に筆者の社内で起こった報連相の失敗事例を見てきました。一方で、社内には「報連相が上手」と評されるメンバーもいます。その一人であるC君に、コツを聞いてみました。すると、C君は「報連相は、僕にとって得になることなんです」といいます。

 報連相がもたらすメリットについて、C君は3つに分けて次のように話してくれました

部下側のメリット(1):自分のリスクヘッジになる

 任された仕事でも、自分は責任を取れる立場にないし、判断を間違えることもあると思っている。その場合、周囲にも迷惑を掛けてしまうし、怒られたらへこんでしまう。早めに上司へ報連相することで、自分自身のリスクヘッジにもつながると思う。

部下側のメリット(2):仕事が手戻りしない

 進めている仕事を早めに報連相することで、上司が考えていることが理解でき、方向性が間違っていたら軌道修正が早くできる。進めてしまってから上司に確認して方向性が間違っていたときの手戻りは無駄なので、早めに報連相するようにしている。

部下側のメリット(3):根回しが効率的にできる

 仕事を進める上で大変なのは、関係者への根回し。小出しに報連相すれば、途中経過も伝えられるので、効率的になる。周囲にも自分がやっている仕事を伝えられるので、アピールもできる。

 C君は笑いながら「仕事量が多くて大変だからこそ、いかに上手に手を抜いて生産性を上げるかが大事だと思います。上司に面倒くさいな、という顔をされることもありますが、そもそも上司が報連相をやれといっているのだから、相談が不足しているよりも、多すぎるくらいでちょうどいいと思います」ともいっていました。

 ではそんなC君は、実際にどんな形で報連相しているのでしょうか。簡単に見てみましょう。

C君:「すみません、▲▲の件なんですが、5分だけ時間ありますか?」

上司:「ごめん、今手が離せないので後でもいい?」

C君:「分かりました。じゃあ12時からのランチの前に5分だけいいですか?」

上司:「分かった分かった。ランチの前ね」

 C君は、このようなやりとりを上司とひっきりなしに行っています。上司は「しょうがないなあ」と苦笑いしながら打ち合わせをしています。C君は、上司の巻き込み方がとてもうまく、こうしたやりとりを見て周囲のメンバーも同じように報連相をやり始め、職場のコミュニケーションにもプラスに働いています。このような部下の存在は、上司にとってとてもありがたい存在です。

●報連相で重要なのは「上司」

 さて、ここまで部下視点で見てきた報連相ですが、うまく行うための重要なポイントは、実は「上司の姿勢」「上司の言動」にあります。上司のスタンスにより、部下の報連相のレベルは大きく左右されます。では、上司はどんな姿勢や言動を心掛ければいいのでしょうか。筆者は5つのポイントがあると考えています。

上司側のポイント(1):「聴く」姿勢を持つ

 「報連相は部下からするもの」という意識を持っている上司の方の多くは、「聴く姿勢」になっていません。上司にとってはどんなに小さなことでも、部下にとっては重大な問題なのです。しっかりと時間をとって部下に対峙してあげないと、部下はさらに報連相がしにくくなってしまいます。

上司側のポイント(2):「怒らない」「否定しない」

 多くの報連相は、部下が「自分のできていないこと」を伝えねばならないもので、それなりの覚悟をもって行われます。それなのに、上司が怒ったり、否定したりすれば、部下はさらに報連相を躊躇(ちゅうちょ)するようになるでしょう。「怒る」「否定する」は、部下の行動変容には一切結び付かないのです。

上司側のポイント(3):「忙しい」と部下に感じさせない

 「上司が忙しそうだ」と感じると、ほとんどの部下は報連相をすることを躊躇します。部下は常に上司の手が空くタイミングを見計らっており、忙しそうだと重要度を勝手に下げてしまったりします。部下から「忙しそうですね」と声を掛けられたときは要注意。報連相をしにくい状況をつくり上げてしまっている可能性があります。

上司側のポイント(4):部下に「報告してよかった」と感じさせる

 報連相をしてこない部下は、「必要性を感じていない」ことが多いです。報告をしても「分かった。まあ頑張って」といわれるだけでは、意味がないと感じています。部下が困っていることや求めていることに注目し、それに応じた適切なアドバイスや、必要であれば上司が手を掛けてあげて、「報告をしてよかった」と感じさせることが次の報連相につながります。

上司側のポイント(5):最後に必ず「エール」を送る

 どんな部下にとっても、上司との会話はストレスです。どんな報連相であっても、最後には必ず「エールを送る」ことを忘れずに行いましょう。最後に上司の笑顔を見るだけで、部下は頑張れるものです。

 ここまで5つのポイントを紹介しましたが、ベースになるのは、何よりも「部下との信頼関係」です。報連相は、あくまで上司と部下のコミュニケーションの手段ですから、部下の報連相を活発にするためには、まずは信頼関係を構築しておかなければなりません。安心して報連相できる環境を整えるために、日頃報連相ができない部下がいるのであれば、まずは自身のマネジメントスタイルをしっかり見直してみましょう。

●人事も報連相にコミットしよう

 報連相は、現場での上司と部下のやりとりではありますが、真の目的は「風通しの良い会社をつくる手段」です。現場任せにするのではなく、人事としてやるべきことは多いはずです。では、人事は何をやるべきなのでしょうか。

人事側のポイント(1):報連相の「やり方」を教える機会をつくる

 多くの会社の新入社員研修で「報連相は大事」「報連相は社会人の基本」と伝えていても、その「やり方」まで教えている企業は非常に少ないです。いくら大切だといっても、やり方を教えてあげなければ、できるようにはなりません。現場が困っているのであれば、人事が主導して報連相の「やり方」を教える機会を積極的につくるべきです。

人事側のポイント(2):部下だけでなく、上司にも教える

 何度もお伝えしていますが、報連相は上司と部下のコミュニケーション手段です。しかし「報連相は部下からするもの」と誤解をする上司は多いですし、そうした上司の言動がきっかけで部下が報連相をしなくなるケースはとても多いのです。

社内でしっかり報連相を浸透させるなら、受け手の上司の行動やスタンスが重要です。部下だけでなく、上司に対しても教える機会を積極的につくるべきです。

人事側のポイント(3):社内の環境づくり(社内文化の醸成)に注力する

 報連相は、社内文化そのものをつくります。現場の上司や社員はそれぞれの報連相はできても、社内文化の醸成は、まさに人事の仕事になります。経営トップを巻き込み、社内に浸透させていく環境づくりに積極的に取り組むべきです。

 コロナ禍では、社員同士のコミュニケーションが希薄になっています。今はまだ感染の収束も見えず、誰しもが不安を抱えて仕事をしているはずです。増えてきたオンラインでのコミュニケーションは、情報が少なくなり報連相も無機質になりがちだと思います。シンプルで素晴らしい手法の報連相も、使い方を間違えてしまうとコミュニケーション不和の要因にもなります。報連相を積極的に推進している企業の方は、今一度足元のやり方を見直してみたらどうでしょうか。

(高橋 実)