ソニーグループが2022年3月期(21年4月〜22年3月)通期の営業利益の見通しを上方修正した。意外だったのは、カメラ事業の回復がグループの成長全体にプラスとなっていると言及されたことだった。

 現在のソニーグループは前社長だった平井一夫氏時代に進められた事業統合や整理などが功を奏し、稼げる企業に脱皮した。平井体制の後半をともに築いてきた現在の吉田憲一郎社長は、稼げるソニーを洗練させ、新しく稼げる領域の開拓を目指している。

 とはいえ足元を見ると、ソニーが稼ぐことができているジャンルは、先人たちが残した遺産に頼っていると言わざるを得ない。ゲーム、カメラ(イメージセンサー)、フィンテック。これらのジャンルは今後も利益を生み続けるだろうが、しかし大きな発展性が望めるかといえば、そうではないだろう。

 と、未来の話はともかく前年比2.6%増の9800億円へと通期営業利益の見通しを上方修正した理由の一つは、デジタルカメラの販売が復調したことだった。テレビなどの売り上げ増は予想の範囲内だったが、旅行やイベントが抑制される中でのデジタルカメラの復調は予想外だったということだろうか。

 十時裕樹・副社長兼最高財務責任者は、決算会見で「ワクチン接種が各国で進んだことで(稼げる製品である)フルサイズセンサー搭載のミラーレス一眼市場が回復した」と話した。

 営業利益が1兆円に達しようかというソニーグループの利益を押し上げたのだから、これは業界全体も押し上げているに違いない。そう考えて「デジタルカメラ、戻ったらしいね」という話題が筆者の周りでも出始めたのだが、ここは読み違えてはいけない。

 ご存じの通り、デジタルカメラ市場は日本メーカーが主役となっている数少ない電機製品だが、あくまでも復調であり、回復しているわけではないからだ。

 いやいや、キヤノン、ニコンも立て続けに業績回復しているではないかと、この春から直近までの業績報告、通期営業利益の予測を見て楽観的になっているかもしれないが、“元通りの形”に業界が戻っているわけではない。

 コロナ禍の中での経費削減効果、昨年の売り上げが落ち込んだ中で新製品投入とワクチン接種の進行による人の流れの増加、そもそも売り上げが半分に落ち込んだ昨年の経験を基に事業体制を整えていたことなど、複数の要因が重なっての業績回復と考えるべきだろう。

 CIPA(カメラ映像機器工業会)が毎月発表している統計(現在は21年6月まで)を見ると、今年に入っての回復傾向は顕著だ。欧米でのワクチン接種が進んだことから人の動きが戻り、旅行やイベントに参加する人たちが新しいカメラを買ったことで復調したというのが大きな流れと見ることができる。

 地域的に見ると、中国、欧州、米国を中心に売り上げが伸びており、おおむねコロナ禍の経済活動と連動していることが感じられる。ただし、19〜20年にかけては、前年同月比で半分以下の月もあり、20年5月に至ってはわずか27.4%の出荷数量しかなかったことは留意せねばならない。

 昨年も9月以降にはある程度、回復傾向を見せ、今年もその傾向を引き継いでいることは明らかではあるものの、元の規模には戻っているわけではない。例えば6月の出荷数量でいえば、昨年に比べて32.3%伸びているが、昨年は19年に比べ59.2%も落としていた。

 コロナで需要が蒸発した市場環境を前提としている業績予測の中で、予想以上に回復傾向が強いことを投資家向けに伝えるための「上振れ予測」であり、積極的に投資して市場を拡大した結果生まれた上振れではない。

 従って、カメラメーカーの業績回復が相次いでいるからといって、デジタルカメラ市場の復活と新たなる成長への道が見えてきたと考えるのは早計だろう。しかし悲観的な状況なのかといえば、実はそうでもない。

 カメラ市場の成熟は今に始まったことではない。コロナ禍を抜けてデジタルカメラ市場が復活した、なんてことがないことは、カメラを開発し、販売する現場は承知のことだ。

 ある老舗カメラメーカーのOBは「カメラメーカーは過去に、何度も“事業の喪失”ともいえる経験をしてきている」と、事業環境の変化に追従する柔軟性がカメラメーカーには備わっていると話す。言い換えれば、そうした事業環境の急変に対応してこなければ、現在、カメラメーカーとしては生き残ってこなかったということだろう。

 言い換えれば、どんな市場変化が起きたとしても適応できる自信があるということだ。デジタルになってカメラ本体(ボディー)は製品寿命が短くなったが、レンズなどシステムを構成する他の要素の製品寿命は以前のまま。

 このシステムカメラのエコシステムを維持できる限りは、デジタルカメラの市場は底堅い。またコロナ禍での今回の売り上げ激減から立ち直るプロセスでは、一眼レフからミラーレス一眼への構造変化を大きく加速させるだろう。もともと進んでいたプラットフォームの移行は、ここで決定的になると予想する。

 元の売り上げ規模に戻るのか、あるいはそれを超えてくるのかは予想しにくいが、同レベルに回復したとき、システムカメラの市場における主役は様変わりする可能性がある。

 すでにミラーレス・フルサイズのジャンルではソニーが主役だが、業界全体の顔としてソニーがスチルカメラメーカーの名実ともにトップメーカーになると予想する。個人的には、ソニーがトップになるのであれば、伝統的なカメラメーカーと同等の握りやすさや使いやすさを普及モデルでも徹底して欲しいところだ。

 と、余分なことを書いたが、そんな批判の声があったとしても、カメラ市場が回復する中でソニーの存在感は増していき、ソニーグループを支える柱の一つとしてさらにその地位を盤石にしていくだろう。

●著者紹介:本田雅一

ジャーナリスト、コラムニスト。

スマホ、PC、EVなどテック製品、情報セキュリテイと密接に絡む社会問題やネット社会のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジー、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析・執筆。

50歳にして体脂肪率40%オーバーから15%まで落としたまま維持を続ける健康ダイエット成功者でもある。ワタナベエンターテインメント所属。