2022年1月1日施行が予定されている「改正電子帳簿保存法」(以下、改正電帳法)。ここからは基本編、スキャナ保存編に続き、持木健太氏(TOMAコンサルタンツグループ 取締役)協力のもと「電子取引編」と題して、国税庁の公式サイト「一問一答」をかみ砕いて解説する。

●取材協力 持木健太氏

TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役

TOMA税理士法人 ITコンサル部部長

中小企業診断士

立教大学理学部物理学科卒業。DX推進の総責任者として、テレワーク環境構築・ペーパーレス化・電子帳簿保存法対応・ビジネスモデルの再構築などで活躍中。企業の労働生産性向上や付加価値向上を目指して、中小企業から上場企業まで幅広く対応している。

●問1 「電子取引」とは?

メール添付やWeb経由で受領した請求書や注文書を電子保存しなければならない制度のこと

 現在、請求書や注文書、見積書といった取引関係書類(国税関係書類)を、メール添付やWeb経由で送る、受け取ることはよくある。このような方法で国税関係書類を、「紙」に出力せずデータのまま授受することを「電子取引」と呼ぶ。クラウドサーバにアップされているものも、DVDなどのメディアに記録されているものも、データであれば全て電子取引の対象だ。

 これは、22年1月1日より施行される改正電帳法では電子保存が義務化されており、今後データで受け取った国税関係書類は「紙」に出力して保存できないので注意が必要(<基本編>問2も参照)。ただし、該当するのは「法人税法・所得税法の保存義務者」となり、消費税法については引き続き「紙」保存可とされている。詳細は問8を参照。

●問2 メール添付だった場合は、受信メールも保存しないといけないの?

メール文章内に取引情報がないなら、添付ファイルのみでいい

 電子取引の対象となるのは「データで授受する取引情報」。取引情報とは、“授受する注文書、領収書などに通常記載される事項”のことを指す。そのため、「請求書をお送りします」といった一文とともに、添付ファイルで請求書を受け取った場合、受信メールの保存は不要。添付ファイルのみ保存すればいい。しかし、添付ファイルのほか、メール文章内に値引き理由などが記載されている場合はメールそのものも保存対象となる。

 あくまで取引情報にかかわるデータを保存することが義務付けられているわけだが、メールを受信するたび、いちいちそれらを判断するのは面倒だ。持木氏は、「電子メールの保存については、内部統制の観点からも定期的なバックアップをおすすめします」と話す。

●問3 受信メールの保存が必要な場合、メーラー上で内容を確認できれば問題ないかな?

問題ある。それでは要件を満たせていない

 原則、受信メールの文章内に取引情報が記載されていなければ、電子取引の保存対象にはならない(詳細は問2参照)。しかし、「受信メールの文章内に取引情報が記載されている」場合は、メールそのものを保存する必要がある。

 その際、「メーラー上でいつでも取引情報を表示できる=保存した」と考えるかもしれないが、それはNG。なぜなら、電子取引における保存には「検索機能を確保すること」といった要件が定められているためだ。詳細は問4を参照。

●問4 受領した請求書PDFをただ保存すればいいんでしょ?

「保存だけ」ではダメ。要件を満たす必要がある

 「電子取引と聞くと、『受領したPDFファイルをサーバなどに格納するだけでいい』と考える方もいますが、それでは要件を満たしていることになりません」と持木氏が指摘するように、データで受け取ったものをデータのまま保存する――だけでは、保存要件を満たした電子保存にならない。

 結論だけ言うと、保存要件についてはスキャナ保存と同様。検索機能を確保すること、訂正・削除の防止措置をとること、そして速やかに出力できることが指定されている。検索機能については「スキャナ保存編」問15、関連書類の備付けは問14、“速やかに出力”については問4を参照してほしい。

●問5 クレカやQRコード決済などキャッシュレス決済の利用明細はどうなるの? ダウンロードできないこともあるんだけど……

Webやアプリ上で取得する明細も電子取引に該当する。スクショして保存するべし

 クレジットカードや、スマホを使った電子マネー、QRコード決済など、いわゆるキャッシュレス決済時の領収書は、各事業者から発行される利用明細がその代わりとなる。これらの利用明細は、書面ではなくWebサイトや各アプリ画面上での確認のみとなることが多いが、これもまた電子取引の範囲に含まれる(主な書類範囲は<基本編>問4参照)。

 この場合、利用明細をダウンロードできなくても画面をスクリーンショットすることで画像データ化し、電子取引の要件に従い保存すればそれでいい。

●問6 タイムスタンプは要らないの?

実は……必須ではない!

 スキャナ保存編では、タイムスタンプ付与や訂正・削除履歴が確保された状態にしてシステムに記録することを“入力”と表現したが(<スキャナ保存編>問3参照)、電子取引では“改ざん防止措置”という言葉で要件が決められている。

 「タイムスタンプ付与や訂正・削除履歴の確保について、電子取引では『4つある“改ざん防止措置”のうち、どれか一つを実施できればよい』とされています。具体的な4つの措置内容は以下を参照していただければと思いますが、最も手軽なのは(4)です。(4)に対応するパッケージソフト、システムは豊富に用意されています。それらを導入し、『請求書をPDFでもらったら支払い依頼のワークフローシステムに乗せる』のが、一番シンプルな対応策です」(持木氏)

●問7 改ざん防止措置は、全データで統一されていないとダメなの?

混在していても問題ない

 問1で説明したように、電子取引で授受するデータの種類はさまざま。問6では4つの「改ざん防止措置」について説明したが、実は「授受したデータに応じて、複数の改ざん防止措置が混在しても問題ない」とされている。

 加えて、データの格納・保存場所も「異なってもよし」となっているが、データを規則性を持って保存し、検索・表示する際にモタつくことなく速やかに対応できる環境づくりは必須だ。

●問8 電子取引は、所得税法、法人税法、消費税法で違いがあるって聞いたけど本当? 何がどう違うの?

本当。消費税にかかわる取引情報は「紙」保存してもいいことになっている

 所得税法、法人税法、消費税法――と、電子取引に該当する取引情報には種類があるが、消費税法に関しては、22年1月1日以降であっても「紙」での保存が認められている。その理由について、国税庁の公式サイトでは「税額計算に影響を及ぼすことなどを勘案して」とされている。

 「23年10月からは仕入税額控除に関する新しい制度『インボイス制度』が導入されます。消費税法にかかわる取引情報に関しては、『紙』保存であってもインボイス制度における仕入税額控除の適用は受けられます」(持木氏)

●問9 インボイス制度って何?

「仕入税額控除」にかかわる新しい制度

 23年10月から施行が予定されている「インボイス制度」とは、正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、登録手続きをした課税事業者が「適格請求書」(インボイス)を交付できるという新しい制度のこと。適格請求書は、今後、仕入税額控除の適用を受けるために必須となるもので、売り手(発行&控え保存)、買い手(受領保存)双方で保存が求められる。

 例えば、A社(買い手)、B社(売り手)、C(下請け、売り手)がいたとする。A社とB社は課税事業者、Cは免税事業者だ。A社がB社に商品BB(税込1100円)を発注し、B社がCに税込330円で外注した場合、B社の利益は700円(納税額70円)、Cの利益は330円になる。B社はA社から税込1100円を受け取っているが、商品BBを作るためにCへ330円支払っている。そのため、1100円ー330円=税込770円となり、納税額は受け取った100円ではなく70円になる。このように、売り上げの消費税から、費用にかかった消費税を控除することを「仕入税額控除」と呼ぶ。

 一方、Cは免税事業者なので納税の義務がない。そのため、30円の益税が生まれて330円を利益として受け取ることができ、結果的に国が税収できる額は70円となる。税収できない30円――インボイス制度はここに大きくかかわってくる制度だ。

 インボイス制度が導入されると、適格請求書を受領した取引に限り、仕入税額控除が適用されることになる。そして、適格請求書は事前に申請、登録した課税事業者しか発行できない。上の例でいうと、請求書の流れはA社←B社←Cになるが、B社が仕入税額控除により納税額を70円にするためには、「B社←C」の部分で、Cに適格請求書を発行してもらう必要がある。しかし、インボイス制度上Cは適格請求書を発行できない。どうなるか?

 インボイス制度では、「免税事業者と取引をする際は、買い手の課税事業者が代わりに納税しなさい」ということになっている。つまり、B社がCに代わって+30円、合計100円納税しなければならない。免税事業者は、インボイス制度の影響で仕事の受注量に影響が出る可能性が懸念されている。

●問10 インボイス制度と電帳法はどう関係するの?

「紙」のままインボイス制度に対応するのは大変! 電帳法への対応で業務効率化が推奨されている

 問9で説明したように、インボイス制度が導入されると、今まで通り仕入税額控除を受けるためには取引先から「適格請求書」(インボイス)を発行してもらわなければならない。逆に、自社が発行側にまわることもあるだろう。そして免税事業者は適格請求書を発行できないので、課税事業者から受領する適格請求書と、免税事業者から受領する請求書は区分けして管理する必要がある。そこで推奨されているのが、電帳法への対応なのである。

 メール添付やWeb経由で届いた請求書は、どのみち改正電帳法の「電子取引」が義務となるが、「紙」で届いた場合であっても、スキャナ保存でデータ化した方が保存も管理もスムーズとなり、データも活用できる。ちなみに、以下は適格請求書の見本。書面に、適格請求書発行事業者の名称と登録番号の記載が求められる。

●問11 保存場所にクラウドを選んだ場合、将来的に利用できなくなった、利用を中止したらどうなるの?

そういった事態を想定し、事前に対応策の検討を

 「問6では、電子取引における“措置”について、『(4)訂正削除の記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムを利用する』が最も手軽だと説明しましたが、ここで注意したいのはクラウドシステムを使う場合です。そもそも、国税関係書類の保存期間である7年または10年も保存できるのか、さらにサービス提供自体がなくなることも100%ないとは言えません」

 多くの企業では、業務ごとに複数のクラウドシステムを併用していることも少なくない。個別に確認をし、必要に応じて事前に対応策を検討しておく必要があるだろう。

●問12 バックアップはしないでもいいの?

しなくてもいい。でも、したほうがいい

 これは電子取引だけではなくスキャナ保存でも同様だが、バックアップについては電帳法の要件には含まれていない。しかし、問11でも触れたように不測の事態に備えたリスクヘッジは各企業側で行う必要がある。

 「紙」と違って、データの場合は一度に大量の情報が消えてしまうことも十分、考えられる。国税関係書類が丸ごと消滅しては一大事だし、電子取引に関しては22年1月1日以降は義務化されるので、保存できていなければ罰則対象となる。以上のことから、バックアップは「しないでもいいが、したほうがいい」といえる。

●問13 義務化ならやるしかないけど、フリーランスだから正直システム導入はしんどい……

判定期間の売上高が1000万円以下ならシステム導入を回避する方法がある

 問3では、「電子取引では、電子データを保存するだけではダメ。検索機能の確保など要件を満たさないといけない」と説明した。検索機能については「スキャナ保存編」問15で解説しているが、これは、例外はあるものの基本的にはシステムありきの要件となる。スキャナ保存と違って、電子取引は全企業、事業者が対応しなければならない「義務」になるので、フリーランスの場合はシステム導入を負担に感じることもあるだろう。

 しかし、「判定期間における売上高が1000万円以下である場合、税務調査時に電子データのダウンロード要求に応じれば、検索要件は全て不要になります」と持木氏は話す。判定期間とは、以下の通りだ。

<個人事業主>

電子取引が行われた日の属する年の、前々年の1月1日から12月31日までの期間

<法人>

電子取引が行われた日の属する事業年度の、前々事業年度

 「この条件を満たしたフリーランスの方は、授受した請求書や注文書データをファイルサーバに規則正しく保存して、税務署に要求されたときデータを渡すことができる状態であれば、特別システムを導入する必要はありません」(持木氏)

 問4で言及した“措置”についても、おすすめは「(4)訂正削除の記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムを利⽤する」だと説明したが、ほかの選択肢を選べばシステム導入は回避できる。ここは事務処理にかかる業務負担、フローを考え検討する必要があるだろう。

●問14 システムを導入せず、電子取引に対応するには?

保存方法、検索方法を工夫すれば、特別なシステムを導入せずに済む

 電子取引(電帳法)に対応したシステムを持っておらず、突如「義務化」となった電子取引にどう対応していいか分からない――といった場合であっても、「一定ルールを順守することで、要件を満たしたことになります」(持木氏)。具体的には何をすればいいのか? まず「保存方法」のポイントは以下3つだという。

(1)取引情報データのファイル名に、規則性をつける

例えば「22年1月30日付けで、210万円(税込)の請求書が、アイティメディア株式会社から郵送で届いた」とする。この場合、ファイル名は「20220130_アイティメディア株_2100000」とする。

(2)「取引先」や「各月」など名前を決めたフォルダに格納する

アイティメディア株式会社と取引があるなら、「アイティメディア株」といったフォルダを作成。または22年1月受領データなら「202201」といったフォルダを作成し、(1)のファイルを格納するというようなイメージになる。

(3)ファイルやフォルダ名の記載、格納における規程(マニュアル)を作成し備付ける

(1)(2)の説明――つまりどのようなルールでファイル名やフォルダ名をつけて、格納・保存をしているのかといったマニュアルを自社で作成しておく。その上で、税務調査の際、税務職員からダウンロードを求められたらデータを提出する準備をしておけばいい。

 次に「検索方法」。これはシンプルに、エクセルなどの表計算ソフトを使って一覧表を作成しておく。具体的には、「取引情報データにかかわる取引年月日、取引金額、取引先の情報をエクセルに入力して一覧表を作成します。エクセルは検索範囲の指定、および2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索(アンド検索)ができるため、検索要件を満たすことができます」(持木氏)。