東京2020オリパラが完全終結していた9月7日、首都高速を走ってしばらくぶりに渋滞に遭遇した。いつもの出口がいつも以上に混んでいるだけでなく、全体的に車速が低下し、様々な箇所で渋滞が発生していた。

 渋滞、それも有料道路での渋滞が大嫌い(お金を払って渋滞に遭い、時間を無駄にする行為なので)な筆者にとって、オリンピックを機に割増料金が課されていたこの2カ月間は、振り返れば「1000円アップはむしろ割安だったかも」と思わせるような環境だった。

 しかし、だまされてはいけない。ロードプライシング制の正式導入に向けた実験的な施策なのだ、今回は。効果を認めてしまうと首都高速は「しめしめ」と思って正式導入に向けて動くに違いない。

 渋滞を解消することは、高速道路にとっては非常に重要なことだ。なぜなら高速道路(定義としての高速道路ではなく、ここでは名称としての高速道路を指している)は、移動の時間を短縮するために利用しているドライバーや乗員がほとんどであるはずだからだ。

●移動の時間短縮には価値がある

 そもそも高速道路とは、その名の通り高速で移動できる道路だ。つまり渋滞してしまうと、その価値をほとんど失ってしまうことになる。実際には渋滞部分が全行程の一部分であれば、渋滞で一時時間をロスしたとしても、トータルで時間短縮になれば高速道路としての役割は保たれるため、渋滞区間を我慢しているドライバーが多い、という状況のようだ。

 しかし実際には時間短縮になったのか怪しい状況も生まれる。お盆など帰省の時期には、何十キロもの渋滞が発生することが珍しくない。家族で荷物を伴っての長距離移動となると、列車や航空機などを使うのは大変という人が、クルマを使って渋滞に遭うことを覚悟で故郷へと向かう。

 首都高速や高速道路が将来的に導入を検討しているロードプライシング制は、交通量が多い時には料金を上昇させ、高速道路への流入を減少させるものだ。これによって渋滞の悪化を防ぐことで利用者の利益を確保する、というのが名目上の理由だ。これはロードプライシング(そもそも有料道路の時点でロードプライシングなのだ)というより、ダイナミックプライシングだろう。

 しかし今回のオリパラ開催時における首都高速のロードプライシング制導入は、オリパラ関係車両の移動を確実にするための渋滞回避策であって、一般市民に首都高速の利用を制限してもらうためのものだった。「首都高速を使ってくれるな」というメッセージの1000円アップであり、入り口閉鎖などの制限だったのだ。

 前述の通り筆者は、オリパラ開催期間中に往復8回程度、首都高速を最大額となる区間で利用したが、これぞ高速道路と思わせるほどの快適な移動を実現してくれた。

 しかし一般道はその分、渋滞していたかというと、そのような印象はない。緊急事態宣言中であり、オリパラの各競技は無観客で開催されたことから、人の移動が最小限に抑えられたことも影響したのだろう。価格を引き上げたことから首都高速を敬遠したドライバーが一般道に流出しても目立った渋滞は起こっていなかったようだ。(追記:ナビタイムが調査結果を明らかにしているが、規制開始こそ一般道での渋滞が目立ったものの、開催期間中の通過時間の増加は軽微であった。また期間中、何度かGoogleマップで都内の交通状況を確認したが、連日での目立った混雑は確認できなかった)。

●大幅値上げを目論む首都高速の料金改定案

 首都高速は2005年までは道路公団であり、わずか10年ほど前までは料金も固定で東京区間700円(乗用車の場合、以下同)、神奈川区間600円というリーズナブルなものだった。

 対距離制を導入してからというもの、一時は最大900円に値下がりしたが、現在は1320円(最高額としては固定料金時代とほぼ同等)にまで上昇、22年4月以降は最大で1950円へと、一気に1.5倍近くへと値上げされることが検討されているらしい。

 これは首都高速を利用しているドライバーにとってかなりショッキングな情報ではないだろうか。企業にとっては交通費の負担増となるし、個人の出費としては往復で1200円以上の負担増になる。

 首都高速を通過して周囲の高速道路へと向かう場合、首都高速を使わなければ大幅に時間が掛かることも珍しくない。時間短縮に首都高速の価値を見出すことは簡単だが、その代価が急激に値上げされようとしていることには、危機感を覚える。恐らく首都高速を利用するドライバーも同じ心境ではないだろうか。

 この10年の間に都内で新たに開設された路線は、中央環状の山手トンネルくらいのものだ。大橋JCTには多額の建設費用が投じられたとは聞くが、通行量はこの10年ほぼ横ばい状態であり、大型車の割合は増えている。つまり通行料金の収入は増え続けているのだ。

 利用台数が減少して収益が悪化しての値上げならまだ理解できるが、コロナ禍にあっても首都高速の収益はほとんど悪化していない。さらに民営化されても、料金収入で営利を追求しないという方針は変わっていないため、値上げは収益性の改善が目的ではないはずだ。

●都市高速と高速道路は本質的に異なる道路

 22年以降、首都高速が値上げする理由はこうだ。現在の料金は激変緩和措置のため上限を設けており、現在は35.7キロメートル走行時に料金の上限に達するが、新料金案では55キロメートル走行時を上限とすることを提案している。これが1950円の根拠だ。

 しかし筆者はそもそも、現在の首都高速の料金体系自体に疑問を感じている。というのもターミナルチャージを除いた距離毎の利用料金は1キロあたり29.52円というもので、これは首都高速に接続している高速道路の大都市近郊区間と同じものだ。

 つまり東名高速や東北自動車道、中央高速などと、首都高速は同じ料金を取られているのである。上限がなければ東名高速と料金が同じということに気付いているドライバーはどれくらいいるのだろうか。

 首都高速、と名は付いていても、それが高速道路ではないことを知っているドライバーは少なくないだろう。都心部を巡る内環状線の制限速度が時速60キロであることは、それを簡潔に示している。

 都市高速は都市内での移動を目的とした自動車専用道路であり、厳密には高速道路ではない。高速道路とは都市間を結ぶ、道路幅やカーブの曲率が大きな、設計速度の高い高規格幹線道路のことだ。

【訂正:9/13 13:20 *初出時、自動車道を自動車専用道路と記述しておりましたが、全国の自動車道も高速道路であり、さまざまな条件から最高速度が定められています。お詫びして、訂正させていただきます。お詫びし訂正いたします。】

 もちろん首都高速に周辺の高速道路が接続している以上、東京をまたがって移動する車両が少なくないため、首都高速には都市間移動の役割も大きい。だから渋滞が発生するのであり、その緩和のために圏央道や首都高・中央環状線などの都心部を迂回(うかい)するルートを整備してきたのが、この20年あまりの首都高速周辺の高速道路環境なのである。

●首都高速はこれからどうあるべきか

 首都高速を含む自動車専用道路は、料金プール制と呼ばれる、予め掛かった建設費用を、利用料金で償還していき、借金を払い終えたら料金無料で利用できるようになる仕組みだといわれ続けてきた。しかし高速道路は拡張を続け、そのメンテナンス費用も膨大であるため、現時点で65年まで現在の借金40兆円を支払い続けることになっているらしい。

 以前、筆者は首都高速の設計に携わる方に話を聞いたことがあるが、社内の人間でさえ「いつかは無料になるのかなぁ」という返答ぶりで、およそ現実問題として捉えられていない印象を受けた。

 たとえ建設費用をすべて償還できたとしても、道路はメンテナンスが必要であるから、その分の費用を料金として徴収し続けることになるのは明白だ。ならば、どうせ無料にならないのであれば、償還期限をもっと長くするなど、利用料金を引き下げる努力すべきではないだろうか。都市高速と高速道路が同一料金というのは、どう考えても割高だ。

 そして1回の利用料金が2000円近くになるという値上げ案は、都市高速を身近で便利な道路という感覚から遠ざけることになる。消費者は、値上げ後の首都高速は35キロ以上50キロ未満の利用は避け、渋滞している一般道の区間で首都高速を利用するなど、利用を工夫せざるを得なくなる。

 また首都高速は、自動運転にはまったく向いていない自動車専用道路であるから、メンテナンスだけでなく大規模な改修も必要だろう。ホンダ・レジェンドのレベル3自動運転は首都高速にも対応できるようだが、イザという時には運転の主権をドライバーに明け渡すレベル3では逃げ道がある。

 筆者は、高速道路の自動運転は当面レベル2で十分だと思っているが、一般道よりも障害が少なく、高速道路よりも高い運転レベルが要求される首都高速でレベル4の自動運転を目指すことが、乗用車における自動運転実用化への道筋ではないだろうか。

 その意味でも路車間通信をいち早く導入すべきだろう。そうすれば出口渋滞などに車両の衝突被害軽減ブレーキを連動させて、出口付近での衝突事故を未然に防ぐことが可能になる。

 地下トンネル化で日本橋に空を取り戻すというような景観も、日本の首都を駆け巡る高速道路にとっては重要かもしれないが、右車線にICが存在し、一般道へのランプウェイも短いという構造上の問題点も解決する必要がある。

 今の構造のまま、渋滞箇所だけを改善し続けるだけでは、都市高速の未来としての魅力に欠ける。クルマだけを進化させて、道路交通を高度化させるのは不可能なのだから、一般道を高度化させる前に、首都高速を高度化させるべきであろう。

(高根英幸)