菅義偉総理の総裁選不出馬観測や、新型コロナウィルスのワクチン摂取の進捗に伴う新規感染者数の減少によって株式市場は再びリスクオンの様相を呈し始めた。14日には日経平均株価がバブル崩壊後の最高値を1円更新して一時3万795円まで上昇するなど、早くも新政権の発足期待に向けた“ご祝儀ムード”が漂った。

 しかし、株価が好調になるとなぜか悪いニュースも飛び込んでくるものである。翌15日には、中国の大手不動産デベロッパー会社である中国恒大(エバーグランデ)の子会社が、1億4500万ドルに及ぶ金融商品の保証義務を履行できなかったとして、中国の投資家の間で不安が広がっていることが、複数のメディアを通じて報じられた。

 このニュースに日経平均株価も反応し、一時3万347.3円まで値を切り下げた。とりわけ、アリババグループの株式を多く保有するソフトバンクグループが一時5.8%も下落したことからも、いわゆる“チャイナリスク”が意識された様子がうかがえる。

 一部では「リーマンショックを上回る脅威」ともいわれている中国恒大集団だが、私たちにとってはあまり馴染(なじ)みのない会社だろう。同社は2021年7月の時点で20年の高値である20.4ドルから10ドルまで株価が暴落し、そこから8月に半額の5ドル、そして9月には2.81ドルと月を追うごとに株価がおよそ半分になっている状況であった。

 中国外の人々にとっては「寝耳に水」の事態かもしれないが、中国恒大が上場する香港市場では中国恒大の不穏な動きを以前から織り込んでいたようだ。香港市場の株価指数であるハンセン指数は3月から下落基調であり、足元では2万4951香港ドルと、年初来高値の3万1000香港ドルから20%も株価が下落している。

●中国恒大とは何者か

 中国恒大集団は中国広東省深センに本社のある不動産デベロッパー企業だ。1996年の設立からわずか25年あまりで、一時は日本円にしておよそ5兆円の時価総額を誇った。日本の不動産デベロッパーで5兆円の時価総額といえば、ちょうど三菱地所と三井不動産を合体させたくらいの規模感である。

 同社は借入金などで経営にレバレッジを効かせ、急速な土地の取得やM&Aを推進した。2000年〜10年代にかけて、中国の都市部における不動産価格の高騰をうまく捉え、16年には不動産販売額で中国内トップとなり、当時の総資産は日本円にして22.94兆円にまで達した。中国恒大の許家印会長の個人資産もこの時5兆円近くまで膨れ上がり、中国内でも指折りの富豪として名をとどろかせた。

 そんな中国恒大の風向きが変わり出したのが18年だ。不動産市況の成長率鈍化と、中国恒大集団の規模が拡大することによる成長率鈍化という課題に差し掛かった同社は、事業の多角化を一層推進した。中国恒大はミネラルウォーターやサッカースクール、老人ホームにも手を出していたが、18年には電気自動車(EV)事業にも進出。21年には米フォードを時価総額で上回り、一時は9兆円の時価総額にまで達したものの、8月にその時価総額のほとんどが吹き飛んだことで話題になったことは記憶に新しいだろう。

 そんな中国恒大の負債額は、20年12月時点で33.14兆円、負債比率は1327.9%と、倍率だけで見れば“FX並み”のレバレッジとなっている。

 同社がここまで負債を拡大できた背景には、自社の株式や不動産を担保にした借入を行えたことがある。仮に不動産価格が上昇しそうだという観測が流れ投機によって本質的な価値を超えて値上がりすると、バランスシート上の資産額も増加する。さらに、不動産価格の高まりによって収益力も増大することから、会社の業績、ひいては時価総額も増加する。そのようなプラスの連鎖反応が同社の積極借入姿勢を後押しした。

 ここに来て同社の債務がデフォルト(不履行)しそうであるという観測が流れているのは、上記の連鎖反応が逆方向に回り始めたからだ。中国では、ここ数カ月不動産市況のバブル抑制に動いており、当局が“参考価格”を提示することで中古マンションの実質的な価格統制を行うなど、不動産をめぐる投機規制の動きが著しい。

 現在では資金繰り悪化を解消するため、同社の保有資産や物件を換金する動きがあるものの、ただでさえ目減りしている評価額に相当規模の売却が入ることで値崩れの懸念もある。解消までの道のりは前途多難だ。仮に破たんするようなことがあれば、さまざまな金融商品が連鎖して危機を引き起こした金融不安の再来が連想されてくる。

●ゴールドへの逃避は危険?

 仮に金融不安が引き起こされた場合、資金の退避先が話題となるだろう。その筆頭に挙がるのが、世界的に普遍の価値を有するゴールドだ。しかし、世界的な金融緩和によるリスクマネーの供給によって、ゴールドのような資産クラスにも投機マネーが流入している現状もある。現に、20年8月に触れたプラチナと金の価格逆転現象は未だ継続しており、ゴールドはその本質的な価値を超えて買われているともいえる。

 一方でプラチナのような希少金属は、工業需要もその価格を維持する要素だ。そのため、景気後退による貴金属需要の後退とリスクマネーの退避によって価格が目減りする可能性もある。

 リーマンショックにおけるゴールド価格は08年3月までの上昇相場から一転、08年10月まで1トロイオンス=1000ドルから682ドルまで下落した。その後は切り返しているものの、金融ショック時にはゴールドなども含むさまざまな資産クラスが売られる傾向にある。

 現状では、リーマンショック時と比較して、個別の金融機関の支払い不能が各所に波及するシステミックリスクに対応するさまざまな規制が敷かれている。そのため、全く同じ金融危機が起こる可能性はそれほど高くないものの、今後は「中国恒大」にまつわるニュースには注意を払っておきたいところだ。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)