オリンピック・パラリンピックの次は万博だ。2025年に大阪、夢洲(ゆめしま)で「2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)」が開催される。

 政府はその主要公共交通機関に大阪メトロ中央線を位置付けた。現在の終点、コスモスクウェアから1駅延伸して夢洲に駅を作る。海底トンネルを通ることになるけれども、すでにトンネル部の躯体(くたい)は作られている。このほか、中央線全体の輸送力強化も実施するという。

 政府は8月27日、大阪・関西万博のインフラ整備計画の概要を決定した。なぜ政府が出しているかというと、万国博覧会はオリンピック・パラリンピックと同様に、国際社会で認められた公式イベントだからだ。

 パリに本部を置く博覧会国際事務局(以下、BIE:Bureau International des Expositions)が国際博覧会条約に基づいて開催都市を認定する。開催年は不定だったけれども、05年以降、登録博覧会、認定博覧会、大国際園芸博覧会区分の3つに整理された。

●国際条約と万博と鉄道の進化

 登録博覧会は5年ごとに開催され、テーマは時代に沿った総合的な内容とする。認定博覧会は登録博覧会の間に開催されて専門的なテーマを定めた内容とする。大国際園芸博覧会は、オランダ・ハーグにある国際園芸博覧会が認定した国際博覧会のうち、博覧会国際事務局が認定した博覧会だ。国際園芸博覧会は年に1度開催されており、このうち登録博覧会、認定博覧会と間隔が開いた時期に開催される園芸博覧会が認定される。

 日本は1928年(昭和3年)に国際博覧会条約に調印し、博覧会国際事務局の初期メンバーとなった。しかし開催までに歴史上いろいろな出来事があり、日本の開催は戦後復興を待ってからとなった。開催された万博は、70年の「日本万国博覧会(大阪万博)」、74年の「沖縄国際海洋博覧会(海洋博)」、85年の「国際科学技術博覧会(つくば万博)」、90年の「国際花と緑の博覧会(花博)」、05年の「2005日本国際博覧会(愛・地球博)」である。

 25年の「大阪・関西万博」は20年ぶりの日本開催、35年ぶりの大阪開催となり、70年の「大阪万博」と重複しないように「大阪・関西万博」となったという。ちなみに27年には横浜で「国際園芸博覧会」が開催される。国際博覧会認定にむけて働きかけているけれども、ミネソタがBIEに対して専門博覧会の開催を希望している。

 万博は技術の祭典でもあり、新しい交通機関や技術も紹介される。振り返れば「愛・地球博」ではトヨタが自動運転バス(IMTS)を発表し、専用道路区間を鉄道として国の許可を得て運行した。

 つくば万博では磁気浮上式鉄道HSSTが公開された。HSSTは横浜博覧会で営業運転したのち、「愛・地球博」に合わせて開業した「リニモ(愛知高速交通)」に使われている。「海洋博」では新交通システムのCVS(Computer-controlled Vehicle System)とKRT(Kobe personal Rapid Transit)が短期間とはいえ国内で初めて営業運転を行った。

 70年の大阪万博では、会場への交通機関として北大阪急行電鉄が開業し、開業入口まで臨時支線を開設、地下鉄御堂筋線に乗り入れた。阪急は千里線に臨時駅として万国博西口駅を開設した。国鉄は東海道新幹線「ひかり」の全列車を16両編成にした。64年の東京オリンピック開業に間に合わせた東海道新幹線を世界にお披露目する2度目のチャンスでもあった。動くパピリオンともいわれたという。

 大阪万博会場内では跨座式(こざしき)モノレール、ロープウェイなどが運行されていた。珍しい乗り物だったといえるけれども新しいというほどではない。技術的には「動く歩道」や電気自動車が注目されたようだ。

 さらにさかのぼると、日本の電車の歴史も博覧会からはじまる。BIE設立のずっと前、1890年(明治23年)に上野公園で開催された第三回内国勧業博覧会だ。東京電燈会社が上野公園で展示運転した。日本初の電車路線も博覧会絡み。明治28年の第四回内国勧業博覧会の観客輸送に向けて、京都電気鉄道が営業運転を開始した。

 万博では、会場内で新技術がデモンストレーションされ、交通アクセス路線も最新のシステムが導入される傾向にある。さて、25年大阪万博はどうなるか。

●大阪メトロ中央線延伸は「南ルート」、「北ルート」とは?

 内閣官房の国際博覧会推進本部が公開したインフラ整備計画(案)によると、来場者向けの交通機関は「鉄道南ルート」「水上交通ネットワーク」「周辺道路の立体交差化と橋の拡幅」が盛り込まれた。電車、船、バスである、マイカーに関しては、夢洲への乗り入れは禁止。万博会場から半径15キロメートル地点に駐車場を確保し、バスに乗り換えてもらう。

 「鉄道南ルート」は大阪メトロ中央線を咲洲(さきしま)のコスモスクエアから延伸し、夢洲に駅を建設する。この駅に隣接して東エントランス広場が設置され、万博会場のメインゲートとなる。

 「鉄道南ルート」というからには「鉄道北ルート」もありそうだけど、具体化していない。構想としては3つのルートがあって、1つ目は大阪メトロ中央線をさらに北へ延伸して舞洲(まいしま)、さらにはユニバーサルスタジオ・ジャパンの北側、新桜島駅に至る。2つ目はJR桜島線を延伸し、舞洲経由で夢洲に至る路線。3つ目は京阪電鉄中之島線を延伸し、西九条を経由して、大阪メトロ中央線が目指す新桜島駅に至る。

 JR桜島線の延伸について、JR西日本は、万博開催後の夢洲でIR誘致が決まれば検討する考えだ。京阪電鉄中之島線延伸についても、京阪電鉄は自社だけの整備では負担が大きく、自治体や国の支援を求めたい。中之島線はそもそも、中之島高速鉄道が保有し、京阪電鉄が運行する上下分離の枠組みだ。中之島高速鉄道は京阪ホールディングスと大阪市などが出資する第三セクターで、延伸に関しては大阪市の意向も影響する。

 中之島線は地下鉄なにわ筋線の建設に呼応して、中之島駅で接続するために作られた路線である。なにわ筋線が開通すれば、京阪電鉄沿線から関西国際空港、大阪駅(北梅田駅)、新大阪駅へアクセスしやすくなるからだ。

 夢洲に向かって南北から鉄道路線が結集する構想の発端は、大阪2008オリンピック・パラリンピックの誘致だ。ユニバーサルスタジオ・ジャパンとオリンピック・パラリンピックがあれば公共交通機関の需要はある。しかし01年に2008夏季オリンピック・パラリンピックは北京で開催すると決まったため、夢洲への鉄道計画はほぼ白紙になった。

 ただし、大阪メトロ中央線の延伸については、大阪市交通局時代に道路用と鉄道用の海底トンネルを一緒に作っていた。25年万博開催に間に合う理由は、このトンネルを使うからだ。

●近畿日本鉄道が「走るパビリオン」を作るかも

 夢洲の鉄道北ルートは、IRの建設決定あるいは夢洲、舞洲の発展まで様子見である。したがって万博に関しては、大阪メトロ中央線が唯一の鉄道アクセスとなる。ところがここに伏兵が現れそうだ。近畿日本鉄道である。近鉄路線網の京都、奈良、伊勢、名古屋から夢洲へ近鉄特急を走らせる構想がある。ただし大阪市湾岸部に近鉄路線はないし、近鉄路線の延伸計画もない。どうするかというと大阪メトロ中央線に乗り入れる。

 もともと大阪メトロ中央線と近鉄けいはんな線は相互直通運転を実施している。生駒駅で近鉄奈良線と並んでいる。だからすぐにでも直通運転できそうだったが、できなかった。理由は、電化方式が異なるからだ。近鉄奈良線など近鉄路線の多くは架線集電式だ。しかしけいはんな線は第三軌条である。電車に電気を届ける仕組みが違う。

 架線集電式は、電車の屋根上のパンタグラフと架線を接触させて電気を取り込む。第三軌条方式は走行用線路の隣に電気を流すレール(第三軌条)を敷設して、車輪のそばに集電靴という装置を取り付け、第三軌条に接触させて電気を取り込む。大阪メトロ中央線はトンネル断面を小さくして建設コストを節約するため、第三軌条方式を採用した。その路線に直通するために、近鉄は中央線に合わせた路線を作った。

 しかし、近鉄は新たな技術でけいはんな線と奈良線の直通運転を実現しようとしている。簡単にいえば、パンタグラフと集電靴の両方を搭載し、電車のサイズの小さい方に合わせた大きさの電車を作る。そして生駒駅の線路をつなぐ。既存の技術で対応できる。

 ところがこれが簡単ではない。集電靴は車輪の外側に張り出しているため、架線集電区間では線路脇の構造物に接触してしまう。そこで近鉄が考えた方法は、集電靴を使わない時は引っ込めてしまおう、という折りたたみ機構だ。この仕組みについて、近鉄は20年1月29日に特許を出願していたことが、21年8月10日に特許情報が公開されて明らかになった。

 パンタグラフと集電靴の両方を装備した車両は過去にもあった。信越本線の碓氷峠、横川〜軽井沢間で使用された電気機関車と、イギリスとフランスなどをドーバー海峡トンネル経由で結ぶ特急「ユーロスター」だ。どちらも現在は使われていない。

 けいはんな線と奈良線が直通できれば、奈良線経由で京都、伊勢、橿原(吉野方面連絡)、名古屋までも直通できる。25年までに実用化できれば、この珍しい機構も新技術のひとつ。人目に付くところにはないし、折りたたみの場面も線路に近づかないと見られない。しかし、日本の鉄道技術の高さを広めるチャンスだ。新幹線ほど派手ではないけれど、「走るパビリオン」として認めてあげたい。

●万博をきっかけに鉄道整備が進む

 「2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)に関連するインフラ整備計画(案)」は、広範囲に交通網整備にも触れられている。その中には万博開催に間に合わない案件もある。それは万博をきっかけに大阪の来訪者が増える、IRの誘致が決定するなど、大阪の可能性を引き出すための伸び代づくりといえそうだ。

 会場へのアクセスルート向上として「北大阪急行の延伸」が示されている。北大阪急行は大阪メトロ御堂筋線の江坂と千里中央を結ぶ南北線を運行しており、御堂筋線と相互直通直通運転をしている。前述の通り、70年の大阪万博に向けて開業した。万国博会場口駅へ直通する支線があって、万博期間中の収入で建設費を償還した。

 この路線が再び注目されている。箕面市の働きかけで、箕面萱野駅まで2.5キロメートルを延伸する。工事も進んでおり、23年度開業予定だ。万博に間に合う。北大阪と万博会場のアクセス改善、並行する新御堂筋のマイカー減少を狙う。このほか、大阪メトロ、JR西日本、民鉄の主要駅をバリアフリー化、ホームドアなどの整備、大阪駅前地下道東広場を防災・減災対策空間として整備する。

 万博には間に合わない計画も「広域的な交通インフラの整備」として示された。

 大阪モノレールの門真市〜瓜生堂間延伸は29年度開業予定だ。もともと大阪市周辺部の環状線として建設され、大阪都心から放射状に延びる路線を結び、周辺都市間を移動しやすく、都心を通らずに伊丹空港へアクセスできる路線だった。

 31年度開業予定の「なにわ筋線」は、大阪(北梅田)と新今宮を結び、JR西日本と南海電鉄が乗り入れる。JR西日本はJR難波から関西本線、阪和線方面と直通できる。南海電鉄は大阪発着で関空へ向けて特急を運行できる。大阪〜関西国際空港間は、現在の所要時間60分から40分に短縮される予定だ。

●万博の注目は「空飛ぶクルマ」

 新技術の祭典「大阪・関西万博」の会場内交通はどうなるか。こちらは3種類のモビリティが計画されている。

・外周トラム:会場の外周道路を巡回し、東西のエントランスと屋外イベント広場などを結ぶ乗り物。車両の定員は数十人。

・小型モビリティ:会場内の街路を主に走る。高齢者や障がい者等の移動制約者の移動をサポート。車両の定員は最大数人。

・空飛ぶクルマ:先進的なモビリティを体験するために導入する。離着陸ポートは会場西エリアの1カ所のみだから、この計画のままだと遊覧飛行体験になりそうだ。会場東側や夢洲北端の船着き場と連絡すると面白そうだ。

 これ以外の乗り物は、参加企業などのパビリオンが提供するかもしれない。先進モビリティについては自動運転バス、パーソナルモビリティの話題が多く、大阪・関西万博の出展も道路交通が多くなりそうだ。

 鉄道、あるいは鉄道らしきモノがどのようなカタチで提案されるか興味深い。阿佐海岸鉄道で導入されたDMVのデモンストレーションや、近鉄がもうひとつ取り組むフリーゲージトレイン、米国からハイパーループが持ち込まれ、試乗ができたらいいなと思うけれど、どうだろう。

(杉山淳一)