美顔器やボディ用美容機器のカテゴリーのメーカー別マーケットシェアで2年連続1位(2018・19年、富士経済「美容家電&健康家電マーケティングトレンドデータ2020」)を獲得するなど、美容家電ジャンルにおいて、確かな存在感を示しているのがヤーマンだ。21年4月期の売上高は366億円にも達する。

 主力商品は美顔器やIPLという光を利用して脱毛を行う光美容器、フェイススチーマーなど。日本市場はもちろんのこと、中国市場でもブランドを確立し、海外市場での足場を固めている。

 さらに近年は、俳優の武田真治氏をCMに起用し、男性も使えることをアピールしたウェアラブルEMS美顔器「メディリフト」や、美顔器機能を搭載した「リフトドライヤー」など、新しいカテゴリーの製品も積極的に展開している。美容家電領域で挑戦を続けるヤーマンの戦略について、取締役でブランド戦略本部長の戸田正太氏に話を聞いた。

●元々は業務用の計測機器メーカー

 ヤーマンの創業は1978年に遡る。創業者である故山崎行輝氏(崎は「大」が「立」の異体字)が業務用の計測機器などを海外から調達し、メーカーや各種研究機関に販売するヤーマンリミテットとして創業したのが始まりだ。

 「創業時は、半導体の検査装置やオシロスコープなどの計測機器を取り扱う会社でした。大きな話でいうと計測器の技術を発展させて瀬戸大橋のたわみを非接触で計測する機械を開発しました。

 半導体検査装置を輸入販売したり、自社製造したりしながら進めて行くなかで、米国の取引先から業務用脱毛器の紹介を受けたのが、美容機器を取り扱うことになったきっかけです」(戸田氏)

 80年代は大手エステティックサロンが次々と店舗を拡大していった時代。輸入した脱毛器は規模を拡大するサロンで採用された。美容機器の可能性を感じたヤーマンでは社内に美容関連の技術開発人員を配置し、組織化。輸入だけではなく、機器の自社開発を開始する。

 当初、エステティックサロン向けの機器を開発、製造販売していたヤーマンだが、90年代後半には個人向けの美容家電を手掛け始める。初期の商品は「デピレーザー1」という脱毛器だ。

 「当時はホームケアのできる脱毛器がなく、家電量販店でも美容家電はドライヤーくらいしか置かれていなかった時代なので、通信販売が主な販路でした。しかし驚くくらいの売り上げがありまして、一般のお客さまにも認められることが分かりましたね」(戸田氏)

●プラチナゲルマローラーのヒットをきっかけに販路を拡大

 その後、美顔器などさまざまな美容家電を展開していくが、なかなか認知が広がらず苦戦は続いたという。その状況を打破するきっかけとなったのが、家電ではないが、化粧品以上のケアができる商品として開発した「プラチナゲルマローラー」だった。

 「当時はまだ、美容機器は高価な製品が多く、情報も少なく、よく分からないもの、という状況でした。そこで、電気を使わなくても気軽にコロコロするだけケアできるような製品を探していたのです。そして『プラチナゲルマローラー』のヒットをきっかけに直販事業を立ち上げました」(戸田氏)

 さらに、家電量販店との関係も変わっていく。それまでは代理店を通して商品を納めていたが、直接取引ができるようになった。直販と家電量販店との直取引は製品開発に大きな影響を与えていたという。

 直販により、ユーザーが何を求めているのか、製品をどう受け止めているかを、直接、生の声として聞けるようになった。それらの声をヒントに、次の商品を開発できるようになったのだ。

 10年代に入ると、美容家電を取り巻く環境に変化が訪れる。11年のアナログ放送の停波に向けたデジタルテレビへの買い替え需要が一段落し、それまで家電量販店や大手メーカーにとっての主力商品だったテレビの販売が急停止するのだ。その代わりに、販売店が注力したのが、白物家電と美容家電だった。

 「10年代に入ると、パナソニックさんの『Panasonic Beauty』が本格化するなど、大手メーカーが美容家電に積極的に取り組み始めました。さらに家電量販店でも、それまで5階や6階にひっそりと置かれていた美容家電が、1、2階に展示されることが増えていきました」(戸田氏)

 美容家電が注目を集める流れの一役を、ヤーマンが担ったのは間違いない。その後も「抜かない、剃らない、痛くない」をキャッチフレーズにしたCMで大ヒットした脱毛器「NO! NO! HAIR」シリーズや、現在もヒットを続けているラジオ波を使ったRF美顔器などを生み出している。

●中国市場では、高級美容家電のNo.1ブランド

 近年のヒット商品といえるのが、ラジオ波を使ったRF美顔器だ。ラジオ波で肌を温めながらケアできる製品で、プラスとマイナスの電極で電気を発生させることから、肌のトラブルに対する高い配慮と安全性も求められる。ヤーマンは、この美顔器カテゴリーに置いて中国でもトップシェアを誇っているのだ。

 「ラジオ波を使ったRF美顔器は、15年頃から中国で大ブームになりました。中国ではRFを使ったケアは美容クリニックやエステサロンでしか受けられないものでしたが、それを小型化しながら、安心、安全を含めて家庭用に落とし込んだところを評価されているようです。また、総合家電メーカーと異なり、美容機器専門メーカーである点も信頼度の高さにつながっています」(戸田氏)

 日本では美容家電というと40、50代の購入が多いが、中国では美容に対する意識が高いため、20代から使う傾向があるという。こうした中国市場のニーズを捉え、多機能を求める日本向けモデルとは別に、中国向けモデルも用意。今ではグローバルでシリーズ累計300万台を突破している。

 中国市場は近年、低価格の美容家電ブランドが数多く登場し、二分化が進んでいたそうだ。しかし、コロナ禍だからこそ「いい製品を選ぼう、自分のために本物を買おう」というムーブメントが生まれた結果、高級ブランドとして評価されているヤーマンの売り上げは伸び続けている。

 「中国は口コミ文化なので、悪い噂が立つと一気に評価が下がってしまうため、慎重に進めています。信頼性の高いエビデンスに基づく効果をしっかりと打ち出し、高価格帯でのナンバーワンをキープしたいところですね。一番大事にしているのは、商品をスピーディーに出していくこと。中国のお客さまは常に新しいものを求めますので、お客さまのニーズに寄り添った商品開発をしていくことが肝心だと思っています」(戸田氏)

●年間20アイテムを生み出す企画・開発力と販売力

 数々のヒット商品を生み出すヤーマン。そのベースにあるのが、業務用の計測機器販売という出自による開発力の高さだ。そしてさらに、スピードを重視しながらアイデアを形にしていく柔軟さがある。

 「弊社は組織がフラットで、誰が何を言ってもいいという空気があります。開発部に所属していなくても製品企画はできますし、実際『営業に所属しながら企画担当もしている』というケースは少なくありません。そして『いいんじゃないか?』となったらとりあえず試作してみる。確かに量産試作前にストップした製品も多いのですが、それはまた数年後に、別の企画で活用できることもあります」(戸田氏)

 この試作の積み重ねは知見の蓄積となり、次の製品の開発スピードがアップするメリットもある。また、筐体設計、電気設計とリレー形式で開発を進めるのではなく、各グループから1人ずつが参加するユニット型で開発している点もスピードに貢献している。これらの積み重ねが年間20アイテムを生み出す開発力につながっているのだ。

 こうしてスピード開発した製品について、ヤーマンでは販売戦略も練られている。ヤーマンの強みの1つが、直販、通販、家電量販店によるマルチ販路だ。ヤーマンの販売系部門は、通販部門、店販部門、直販部門、海外事業部の4つがあるが、その中でも特に力を入れているのが直販部門だ。

 「直販では、自分たちが売りたい製品を販売できます。例えば、卸先の販売では競合の兼ね合いで採用されないことや、バイヤーが仕入れないと判断することもあります。しかし当社は『今までにない新しいものを生み出す』が企業コンセプト。取引先が採用しないから売れない、ではなく自分たちが良いと思ったものを売るためにも直販を強化しています」

 家電量販店や百貨店など実店舗を持つ卸先で販売するメリットの一つとして、お客さんが実際に手にとって試すことができる点がある。しかし新しいジャンルの製品は、試用用の棚に陳列されないことも多い。そこで直販での販売実績を用意することで量販店でも置いてもらいやすくなるというわけだ。

 ヤーマンの売上高は21年4月期で366億円。現在はそのほとんどが個人向けの美容家電だという。コロナ禍においても、リモート会議によるニーズや、マスク生活による顔のたるみなどを気にする流れから、売り上げは下がることなく順調に伸びているという。

●これからのキーワードは「習慣化」

 今後、ヤーマンが目指すのは「『美顔器』といわれたときにヤーマンの社名がすっと出る」、そんなブランドづくりだ。日本国内でも、グローバルでもすでにトップブランドではあるが、まだ課題があるという。それは、お客さまから届く「せっかく買ったけど続かない」という声だ。

 そこで鍵となるのが「習慣化」のアプローチだ。ヤーマンではこの秋、初となる美顔器機能を搭載したヘアドライヤーを開発した。毎日使うドライヤーに美顔器機能があれば、髪を乾かした流れで肌のケアができる。つまり習慣化できるというわけだ。

 「ケアをどうしたら習慣化できるか、テクノロジーだけでなくソフト面含めて、お客さまにどのようにアプローチしたらいいのか、会社として考えて行きたいと思っています」(戸田氏)

 さらには、フェイスケアのためのトレーニングジムも開設した。青山に作った「フェイス・リフト・ジム」はヤーマンの美容機器を使った顔専門のジム。ここで製品ユーザー向けにレッスンを行うことで、正しい使い方を伝えるとともに、一人一人に合った使い方を深堀りできる、としている。コロナ禍での開設となったため休業時期もあったそうだが、オープン直後は満席が続いた上、1年以上継続しているユーザーも多く、満足度は非常に高いそうだ。

 さらに今後は美容家電で培ってきたノウハウを生かし、メンズ製品やフィットネス領域でも積極的にアイテムを増やしていきたいと戸田氏は語る。ヤーマンのビジネスはまだまだ加速を続けそうだ。

(コヤマタカヒロ)