大阪・中之島にある京阪電鉄中之島線「なにわ橋駅」のコンコースに「アートエリアB1」という、産・学・NPOによる協創コミュニティーがあると前回の記事で紹介した。

 ここで開催される「鉄道芸術祭」の詳細が発表された。会期は2021年11月20日から22年2月27日まで。テーマは「経済」で、タイトルは「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」だ。

 「GDP」は「国内総生産」という意味と、アーティストユニット「contact Gonzo」と建築家ユニット「dot architects」の「集まり(Party)」という意味を掛けた。「展覧会と映画制作の構造を活用した独自の視点から経済のあり方を探究」し、「現状を創造的に乗り越えるための指標を導き出す」という。

 プログラムからは「気候変動や大企業の利己的な活動、疫病によって疲弊した地球で、芸術とはなにかを宇宙規模で問いかける作品」と読み取れた。筆者には、さっぱりわからなかったが、そこに鉄道がどう絡むのか。

 運輸というからには輸送システムが扱われるだろう。おもしろそうだから見に行きたい。きっとなにか感じ取れるものがあるだろう。それが芸術との向き合い方だと思う。

 鉄道芸術祭のプレイベントとして、筆者もトークイベント「リアルとフィクションから語る駅・鉄道の新たな魅力」に参加した。今回はその時に話した内容を紹介する。テーマは「リアルとフィクションから語る駅・鉄道の新たな魅力」だ。鉄道芸術祭に参加するアーティスト向けに、駅の面白さを紹介した。

●11年以上も売れ続けるPCゲーム「A列車で行こう9」

 リアルとフィクションを結びつけるゲームには「シミュレーションゲーム」という分野がある。フライトシミュレーター、自動車レース、サッカーなどスポーツもある。現実世界を模した世界で、現実世界のツライ部分をそぎ落とし、おもしろい部分を誇張して作られる。

 「鉄道」で「経済」で「シミュレーションゲーム」といえば、鉄道会社経営シミュレーションゲーム「A列車で行こう」シリーズだ。線路を敷き、駅を作り、列車を走らせると駅周辺の土地の価値が上がり、建物が増えていく。町づくりゲームでもある。

 「A列車で行こう」シリーズにはパソコン版とコンシューマーゲーム機版があり、パソコン版の第9作「A列車で行こう9」は、10年に発売された。以降、バージョンアップを続けながら、21年現在も現役だ。

 最新バージョンの「A列車で行こう9 Version5.0 ファイナル コンプリートパックDX」が10月1日(ダウンロード版は9月17日)に発売された。バージョンアップを続けながら11年も売れ続けるとは驚きだ。

 制作販売元のアートディンクによると、実数は非公開ながら、巣ごもり消費もあって一定数の販売実績があり、今回の新作販売に結びついたという。

 このゲームが鉄道を知る手がかりになるという話を16年にも、「ゲーム「A列車で行こう」で知る鉄道の仕組み」として書いた。

 この時は経営効率を高めるために列車の運行頻度を高める仕組みを紹介した。今回は駅に焦点を当てる。ゲームの中で「駅」は2つの役割を持つ。「乗客と街の活力を変換する装置」と「列車を制御する装置」だ。

 「乗客と街の活力を変換する装置」を説明するために、ゲームを起動してみよう。あらかじめ大都市が存在するマップを選び、大都市の駅Aから線路を延ばし、未開発の土地に駅Bを作る。そして2駅間に列車を走らせる。B駅周辺は目的地がないから、初めは列車の乗客が少ない。

 しかし、貨物列車で建設資材を運んでしばらく放置すると畑が発生する。物好きな人が列車に乗ってやってきて、そのうちの何人かが農業を始めた。さらに列車を運行し続けると畑が広がる。店ができる。戸建て住宅ができる。アパート、マンションが建つ。オフィスピル、デパート、娯楽施設も増える。

 そして、それぞれの建物から乗客が発生し、列車に乗る。当初は駅A発駅B行き列車しか乗客が乗らず、一方通行だった。しかし、だんだん逆向きの乗客も増えてくる。鉄道の売り上げは2倍になってさらに増えていく。

 ゲームの中で「駅」は、「旅客列車の客を降ろして、町のエネルギーに変換する」役割と、「町で発生した発展エネルギーを乗客に変換して旅客列車に乗せる」役割を担っている。

 乗客は列車で別の町へ行き、そこで降りて町のエネルギーになる。この循環を維持すれば、街は発展し、乗客も増えて、鉄道会社の経営が安定する。これはリアルな世界にも通じる。

 列車の運行が減るとどうなるか。不便な土地に人は住まない。建物が消えていく。過疎化だ。これもリアルな世界では起きている。

●乗客や列車が減った駅を活用する

 現実の世界を見ると、乗降客が多い駅はヒトだけではなくカネも集まる。駅周辺やエキナカに店舗ができる。「A列車で行こう9」では、駅周辺に商店ができるし、駅舎を駅ビルに建て替えればテナント収入が発生する。

 列車が増えて乗客も増える、さらに列車を増やす、乗客を増やす……という好循環が生まれる。しかし、乗客や列車の運行が減ると悪循環だ。乗客が減ったから列車を減らしたのか、列車を減らしたから乗客が減ったのか。ニワトリとタマゴのような話になる。

 ゲームであれば、無理矢理にでも駅周辺にマンションやオフィスビルなどの子会社を建てて乗客数を維持できる。しかし現実は甘くない。

 列車が来ない駅、乗客が少ない駅はコストを削減して維持する。コスト削減の手っ取り早い方法は無人化だ。駅職員を置かない。しかし建物はある。リアルな世界では、無人駅の駅舎を活用する事例は多い。

 釧網線の北浜駅のように喫茶店やそば店になった無人駅が増えているし、函館線の比羅夫駅は駅舎を改造してペンションになっている。泊まれる駅として鉄道ファンには有名な事例だ。

 泊まれるといえば、上越線の土合駅はグランピング施設になった。これはJR東日本がはじめた「JR東日本スタートアッププログラム」のひとつだ。ベンチャー企業などからアイデアを募り、駅や鉄道などJR東日本の施設や情報資産を活用して事業化する。

 類似の取り組みは青梅線の白丸駅でも行われている。こちらは「沿線まるごとホテル」と名づけられ、無人駅をホテルのフロントやロビーの機能として使い、駅周辺の空き家をホテルの客室とし、地域の人々がホテルのキャストとなる。

 変わったところでは、しなの鉄道の追分駅は雑誌「暮しの手帖別冊・あたらさん」の編集部になった。木次線の出雲大東駅は住民団体の「つむぎ」が指定管理者となり、きっぷの販売、特産品の販売、イベント運営、文化教室などに活用されている。

 自治体の分室などに使われる事例も多く、飯田線温田駅の駅舎は農協に貸与されているし、山陰本線の荘原駅は駅舎を建て替えた上でシルバー人材センターになった。

 無人駅の再利用の理由の筆頭は「防犯」だ。無人の建物は地域の死角になってしまいがちで、「そこに誰かがいる」「使われている」こと自体が重要だ。次に駅舎の保守管理のため。使われていない建物は傷みやすい。

 鉄道事業者からみると、運行障害時の退避拠点として保持したい。そこで、低価格でも借り手がついているとありがたい。つまり、おトクな賃貸物件として、ビジネスや文化交流、福祉目的で使ってほしい。自治体としては災害時の退避、情報拠点にもできる。

●廃駅は「コミュニティーの拠点」に

 これらの無人駅の共通点は「必ずしも鉄道利用者を想定していない」ことだ。もちろん、駅周辺のにぎわいを維持して「マイレール意識」を高め、路線存続に寄与したいという意味もある。

 そして、鉄道利用者がいないまま維持される駅が生まれる。廃駅の保存活用だ。鉄道遺産を展示する記念館、バスターミナル、観光起点などに使われる。

 出雲大社の近くに、JRの大社駅の駅舎が残っている。かつては出雲市駅と大社線を結ぶ大社線の終点で、大勢の参拝客が訪れた。東京や大阪から直通列車もあった。

 しかし大社線は赤字ローカル線として廃止対象となり、JR西日本の発足から3年後、1990年に廃止された。国鉄の赤字路線をJRに引き継がせない、という強い力が働いていた。

 大社駅舎は出雲大社をイメージした社殿づくりの荘厳な構えで知られており、駅舎は維持された。04年には国の重要文化財に指定された。

 大社駅は現在も観光名所となっている。立派な木造駅舎の横に、改札係が立つラッチがズラリと並び、団体客、参拝客の多さを物語る。

 私が訪れたときは観光客が少なかったけれど、地域の人々が野菜を持ち寄って市が立っていた。市といってもにぎやかなものではなく、ご近所さんが集まって憩っている風情だった。

 大社駅には閉塞器などかつて鉄道で使われた備品が展示されているけれど、そこに荷物や野菜が並べられている。展示物を見たいという気持ちに加え、「ああ、こうして使われているんだなあ」と感慨深かった。

 無人駅、廃駅の活用を見ると、鉄道の交通機能だけではない価値が見えてくる。地域には人々がまとまる「中心」が必要だ。かつては神社や寺が担う役目だったけれど、駅も町の中心になり得る。列車が来ない駅だとしても、そこに人々が集う限り、駅は役に立っている。

 旅先で未開発の無人駅や廃駅を見ると、なんだかもったいないと思う。知恵と手間を掛けて、そこに新たな町の中心らができたらいい。新しいアイデアを試す場所として、鉄道事業者や自治体、町の有志の取り組みに期待したい。

(杉山淳一)