新型コロナウイルスの感染対策として挙げられる「非接触」――。「人と人との出会い」を提供するマッチングサービスのビジネスモデルを根底から覆す概念だ。そんな厳しい状況にありながらあえてオンラインによるコミュニケーションに力を入れることで収益を伸ばしている企業がある。米国発祥の「Tinder」だ。

●コロナ禍2年目の2021年も増益

 ソーシャル系マッチングアプリは乱立している。その最大手Tinderは米Match Groupが運営するブランドの1つで、2012年に米国大学のキャンパスで誕生した。190カ国、40言語以上に対応し、ダウンロード数は4億5000万回、マッチ成立件数は650億以上、1週間のデート件数は150万件で、18〜25歳のZ世代が利用者の50%を占めている。

 Tinder自体は長らく日本でもサービスを提供していた。19年に日本での事業拡大のため、日本法人を設立し、同年夏からこの法人配下でTinder Japanの運営を開始している。

 事業モデルとしては、有料メンバーによる会費収入が全体売り上げの95%を占めていて、広告収入は5%のみ。景気の動向に左右されやすい広告収入には頼らず、安定した収益源を持つビジネスモデルだ。有料メンバーは、一定時間内にLIKEの上限数が増えたり、一定時間、自身のプロフィールを他のメンバーに優先表示させたりすることができ、マッチングする確率が上がるようにした。メンバーは「プラス」「ゴールド」「プラチナム」の3種類に分け、受けられるサービスを変えている。

 Tinderを含む親会社Match Group全体の21年6月期(第2四半期)の決算を見てみると、売り上げは前年比27%増の7億776万米ドル(808億円)で、増収を実現した。20年6月期も19年と比べて12%増を記録していて、新型コロナの感染拡大は2年目を迎えているものの、しっかりと結果を残している。地域別でみると日本を含む「アジアパシフィック・その他の地域」では、前年比31%増の1億2339万米ドル(141億円)と、世界全体の伸びを上回った。

 また、1人当たりの売り上げを見てみると、前年の14.01米ドル(1600円)から10%増加して15.46米ドル(1770円)となった。“客単価”が上がったことからも分かるように、コロナ禍で直接会ったり、新しい出会いそのものがなくなったたりしたため、大勢の消費者がマッチングアプリを通して何とか新しい出会いを求めたことの証左といえる。

 また、感染拡大下では、(相手に好きな気持ちを伝えて、相手に通知も入る)Super Likeや、(地域のトッププロフィールとして30分間表示する機能)ブーストを単発で購入できるアラカルトの売り上げも上がった。感染拡大が深刻化した20年3月から月ごとの売り上げを見ると、一部に落ち込みはあるものの全体的には右肩上がりが続く。

 感染の大きかった21年1月には大きく売り上げを伸ばし2月はそのリバウンドで下がったものの、それ以降はまた右肩上がりとなっている。つまり、コロナ禍2年目のほうが1年目よりも、ユーザーが使うようになっていて、売り上げ向上に寄与した格好だ。

●実際のZ世代の声は?

 Tinderは9月から前年に引き続きモデル・女優の水原希子氏をブランドアンバサダーとして起用し、オンラインCMを配信している。また渋谷・表参道・原宿で特別グラフィックの屋外広告を展開し、メインユーザーである18歳から25歳の「Generation Z(Z世代)」に対し、さらなる訴求を図った。

 ではZ世代は実際にどうやってTinderを活用しているのか。水原希子氏を招いてスペシャルトークイベントが開かれた。冒頭ではTinderの日本、韓国、台湾を統括するチョウ・キョ・カントリーマネジャーがあいさつをし、「私は4月に入社しましたが、コロナ禍でZ世代と対面で話す機会はなかなかないので楽しみにしている」と期待を述べた。

 水原氏は「新しいCMは国内だけでなく海外でも好評で私自身もびっくりしている。友人からもメッセージをもらった。今日はZ世代と話せるということで、ドキドキしつつも楽しみです」と話した。

 参加したZ世代は韓国人留学生のキムさん、大学2年の高田さん、大学3年の石原さん、大学3年の外山さんの4人と、オンラインで10人の現役大学生も参加した。

 外山さんは「友人がマッチングアプリを利用していて、先日も2時間ほど利用して盛り上がりました。ただ、出会える数が多い分、やり始めたらキリがないと感じています。そして、『もっといい人がいるのではないか』と最終的な着地点を見つけられなくなって、一つひとつの縁を大切にできなくなる危惧がある」と胸の内を明かした。

 チョウ・カントリーマネジャーは「どういった形であっても出会いはご縁なので、まずは出会ってみる。今しかない大学生活の中で一人ひとりをリスペクトしていけばいいのではないかと思います」とアドバイスした。

 石原さんは「マッチングアプリは、新しい出会い方として浸透している実感があります。友人がパートナーと出会うきっかけがマッチングアプリだったと聞いても、抵抗は感じません。ただ、私もマッチしたあとに実際に会うとなると怖いというか、はばかられる面があります」と不安を吐露する。

●AIが24時間監視 考えさせる機能を実装

 大学生の不安についてチョウ・カントリーマネジャーは、メンバーが安全に使えるよう同アプリの機能を改善していると強調した。

 「TinderではTrust and Safetyというチームがありまして、ユーザーの皆さんが安全に、そして安心して使うための取り組みをしています。AI技術が大切で、人を不快にさせるメッセージを送るときや自分が受信するときに、AIが24時間監視しているので、それを検知して、『本当にこのまま送っても大丈夫?』『不適切な可能性のある表現を検知しました』とメッセージを送ります。一度立ち止まって考える機会を与える機能を設けています」

 水原氏は、危険かどうかの見極めについて「まず、たくさんの情報がある人を選びます。プロフィールからインスタなどに飛べるような設定もあり、何をアップしているのかなどをチェックしています。でも、これは大事なことです。そういうところから見極めるようにしています。もし不安なら、実際に会うときには、友人を連れていったり、人が多いところで会ったりするようにします」と彼女なりのリスクヘッジの仕方を話した。

 一方、コンテンツ制作を日本に学びにきたキムさんは、SNSで良い出会いがあったという。

 「プロフィールに日本に留学準備中と書いたら、同い年の女の子と出会いました。直接会ったことはないですが、いろいろなことを共有する仲になりました。そして昨年、出会って3年目になりますが、初めて会うことができました」

●水原希子「SNSはリアルさが大事」

 約1年前、「190カ国で3億4000万ダウンロード Tinderが仕掛けるウィズコロナ時代のマッチングビジネス」で、水原氏にインタビューした。この1年間、SNSの使い方に変化はあったのかを彼女に聞いた。

 「インスタの投稿に力を入れています。昔は日記のような感じで使っていたのでビジネスツールとして使うことには抵抗があったのですが、コロナ禍によって仕事でもプライベートでも友人たちに会えないからこそ、大事なツールになっています。

 インスタでは、フォロワーの多い有名人による投稿の傾向を徹底的に分析していますね。写真家が撮ったカッチリした写真はかっこいい反面、Z世代の子たちからはリアルではなく、遠い感じがするから『いいね!』が付きづらいんです。一方、(自分の写真を自分で撮影する)セルフィーはリアルさを感じやすいからか、『いいね!』が付きやすいんです。つまり、Z世代は『共感』を求めているんですね。みんなが好きそうな写真と、私が好きな写真をうまく発信できたらいいなと思っています」

 インスタで再シェア(リポスト)されたストーリーも活用しているという。また水原自身が出演したTinderのCMに関して、「ジェンダーに関係なく出会いがある」と投稿したときは世界中のLGBTQのユーザーから大きな反応があった。

 「『すべての出会いが、私をつくる』というのがテーマですが、女性が女性とマッチして友達を作れる、出会いたい人と出会えるツールであるということを評価してくれるコメントが多く、たくさんの人の心に響いていると感じました。今後はYouTubeにも力を入れて、日本の色んなカルチャーを知ってもらえるように字幕付きで世界中に発信できたらいいなと思っています」

●「安全性」がカギ

 新型コロナウイルスの感染拡大がここまで続くと考えた日本人がどれほどいたか。なかなか人に会うことが難しい環境下だからこそ、人はコミュニケーションに対する飢えを感じ、マッチングサービスは貴重な出会いの場を提供しているのかもしれない。Tinderの足元の業績がそれを証明している。

 同社の今後のスケールアップのカギは、出会い系アプリから「総合的なマッチングアプリへの脱皮」だ。その脱皮を図るには、学生がイベントで話したように「安全性」の問題の解決が欠かせない。Tinderはその課題を認識しており、いろいろな機能を開発し続けている。

 逆に言えば、今後も継続して対応する必要があるということだ。その対応を怠れば、最大手であるTinderであっても、小さなほころびが広がることによって厳しい局面を迎えかねない。

(ジャーナリスト武田信晃)