●著者:大矢剛大(ブレーンバディ代表取締役)

大学卒業後、新卒で入社した株式会社マイナビを経て、株式会社リクルートキャリア(現:株式会社リクルート)に転職。リクルートキャリアでは、最優秀新人賞、MVP、アワードなど複数受賞。また、自組織から表彰者も多数輩出させた。その後、HRスタートアップに事業責任者として創業から携わり、事業立ち上げや営業組織の構築を行う。2020年に独立し、複数企業の営業コンサルティングを行う。

2021年4月に本格的にセールス・イネーブルメント事業を行うべく株式会社ブレーンバディを設立。代表取締役に就任。

●SFA・CRMの「入力が面倒くさい」「活用しきれない」を防ぐためのチェックリスト

 近年、営業活動を支援する「SFA」や、顧客管理に役立つ「CRM」を導入する企業が増えてきています。

 9月に当社(ブレーンバディ)が行った調査結果によると、42.7%のセールスパーソンがSFA/CRMツールを活用。そのうち半数以上が、この3年以内に導入を開始していました。恐らく今後も急速に増加していき、営業活動において“なくてはならない存在”になってくると考えられます。

 急速に導入が進む一方、現場のセールスパーソンからのマイナスな声も聞くことがあります。先述した調査結果によると、セールスパーソンの半数近くが「入力が面倒くさい」「活用し切れていない」と答えていました。

 また、経営者や管理職の方々からも「導入したけれど、使いこなせない」と相談されるケースが増えてきています。

 高い導入費用を支払って活用開始したものの、使いこなせていなければ意味がありません。なぜ、多くの企業ではSFAやCRMの導入がうまくいかないのでしょうか?

 失敗はいくつかのパターンに分類できます。今回は、その失敗パターンを見ながら、どうすればうまく運用ができて、現場に喜ばれるかを考えていきたいと思います。

失敗事例(1)目的が不明確

 まず意外と多いのが、取りあえずツールを導入してしまうケースです。

 「周りの会社がみんな使っているから」「なんとなく現状を打破したいから」「上司に言われたから」など、理由はさまざまですが、現場からの理解がない状態で導入が進んでしまうことがあります。

 目的が不明確なまま導入してしまうと、逆に業務量を増やしてしまい、結果的に売り上げが落ちてしまった──なんてことも少なくありません。社員のモチベーションダウンにつながってしまうこともありえます。

 SFA・CRMは、使いこなせれば便利なツールであることは間違いありません。社外の方から話を聞いて、すぐに導入したくなることもあると思います。しかし、まずは一度立ち止まって、「現在の課題をどのような機能によって解決するのか」という目的を明確にしてから導入しましょう。

失敗事例(2)管理者と責任範囲が不明確

 目的を定めて導入しても、その後に運用がうまくいかなくなることがあります。その要因として一番多いのが、管理者や責任範囲が不明確なケースです。

 中小規模の企業だと、経営者主導で導入まで進めても、その後に管理者までしっかりと接続されていなかったり、ツールの管理者は兼務体制になったりということが少なくありません。すると、責任範囲があいまいになってしまい、せっかく導入したのにもかかわらず運用が円滑に行われない状況になってしまいます。

 また、大企業の場合でも、もともとの管理者が異動・退職したことによって同じような問題が起こるケースも見てきました。“ツール周りの何でも屋さん”といった立ち位置ではなく、「いつまでに、どの数字を改善するのか」という粒度の責任範囲とセットで、管理者をアサインすることが重要です。

失敗事例(3)現場とのコミュニケーション不足

 冒頭の調査でも見えた通り、多くのセールスパーソンが「ツールの入力が面倒くさい」と考えています。また、経営者や管理者からも、現場がしっかりと入力してくれない。という悩みを聞くことがあります。

 しっかりと導入の目的を明確化して、管理者と責任範囲を適切に設計したとしても、現場の状況を理解していないまま動いてしまうと、このような問題が発生してしまうと考えられます。営業現場のメンバーにも、導入の目的を理解してもらう必要があります。

 また、導入初期に現場から喜ばれる状況だったとしても、営業現場は日々変わるものです。そのため初期だけではなく、継続的に現場の声をキャッチアップし続けることが大切です。

●成功させるには? 9つのStep

 こうした失敗事例を踏まえて、SFA・CRMの導入を成功させるためのステップを考えていきます。

Step(1)現状を把握する

 まずは、SFA・CRMの導入検討を勧める前に現状をリアルに把握します。中長期・短期の営業戦略に対して、現在地はどうなっているのか。その要因はどこにあるのか。また一番重要なのは、現場のセールスパーソンの業務フローがどうなっているのかを把握することです。そうすることで、「現在はExcelやスプレッドシートで顧客を管理しており、アップセル見込みのある顧客を探すフローが煩雑になってしまっている」などの具体的な問題が見えてきます。

Step(2)課題を設定する

 現状を把握していくと、複数の問題が見えてくるでしょう。

 そこで、全ての問題をSFA・CRMで一気に解決することを目指すのではなく、一番重要で、真っ先に取り組むべき課題を設定します。こうすることで、やるべきことが明確になっていき、もしかするとツールの導入などせずとも営業組織の問題を解決できるアイデアが出てくるかもしれません。

Step(3)導入目的を明確にする

 ここまで来ると、自ずと導入目的が見えてきます。

 データの可視化が目的だとしたら、「いつにおける、どの数字を、何のために可視化するのか」。業務効率化が目的だとしたら、「現場セールスパーソンの業務フローの中で起こっている、どのプロセスを、何を目的に、どのような機能で簡単にするのか」。このような粒度で目的を明確にできれば、ツールを導入して利用する機能や、ダッシュボードの表示内容を考える際も取捨選択が容易になります。

Step(4)必要な機能を洗い出す

 導入目的を上のような粒度で明確にしたら、自ずとSFA・CRMに期待する機能がクリアになってきます。

 ここで注意したいのが、あれもこれも、というように考え出すとキリがなく、実際には使わない機能も出てきてしまうということです。“Nice to have” で考えるのではなく、“Must have”で考え、まずは必要な機能の活用にしぼって計画を立てるようにしましょう。

Step(5)適したツールを選定する

 実際に、SFA・CRMを検討された方はご存じだと思いますが、思っている以上にツールは多く存在しています。当たり前ですが、各ツールに強み弱みがあり、価格帯もさまざまです。

 Step1〜4のプロセスを飛ばしてツールの検討から入ってしまうと非常に混乱してしまいますが、導入目的と必要な機能まで明確になっていれば、比較的簡単にどのツールが適しているかの判断ができます。

Step(6)責任者と責任範囲を決める

 利用するツールが決まったら、社内で適任の方に責任者をお任せします。

 システム=バックオフィス業務と考えて、営業経験がない方を責任者としてアサインすることがよくあるのですが、SFA・CRMツールに関しては、“現場のリアルをどれだけ知っているか”が効果的に活用するためのポイントになってきますので、営業経験者が適任です。中でもできれば、成果を上げている方にお任せするといいでしょう。

 このフェーズで私が必ずおすすめしているのは、「SFA・CRMの責任者」と「ツール構築担当」を分けることです。

 どんなツールだとしても機能を修正したり、見せ方を変えたりする作業は簡単ではありません。別々の数字に関連性を持たせようとする作業は、プログラミングに近いコードを書くこともあり、初心者だとかなり工数がかかってしまいます。そうなると、作業だけで一杯一杯になってしまい、本来の目的に沿った運用ができているかのチェックや、可視化されたデータの分析ができなくなってしまいます。そのため、計画を立てる人と、実際にツールを構築する人を分ける必要があるのです。

 また、責任者のアサインとセットで責任範囲を明確にしておくことも、必須といって過言ではないでしょう。

Step(7)ベンダーと密接にコミュニケーションを取る

 ここまでで、SFA・CRMの導入と運用の難易度が低くないことは理解いただけたと思います。

 その時に、助けになってくれる存在が各ツールのベンダーです。ベンダー側もツールをうまく使ってもらい、売り上げが伸びることを望んでいますので、基本的には親身になって対応してくれます。ここでしっかりと導入目的や課題などを共有しておくことで、他社の事例や自社に合った使い方を提案してもらえるので、コミュニケーションをサボらずに中長期的な関係性をつくりましょう。

Step(8)運用ルールを決める

 ツールが決まったら、具体的な社内での運用ルールを決めます。ここでは、現場のマネジメント層を巻き込んで実現可能な運用ルールを設計することが重要です。

 現場に伝える際はフワッと伝えるのではなく、しっかりとした場で明確な目的を伝えて、導入することで現場の動きがどう変わるのか、どんなメリットがあるのか、その上でなぜこのような運用ルールを設定したのかを伝えるようにしましょう。

 また、こちらは実践できる企業が限られてしまいますが、可能な企業は一気に全社に導入するのではなく、まずは小さな組織から始めることをおすすめしています。どれだけ準備しても、実際に運用してみると想定外のことが発生するが場合があります。なので、そういった可能性をつぶし切った上で全社に展開していくプロセスを踏めると、結果的に一番スピード感のある導入につながるでしょう。

Step(9)改善し続ける

 どんなことにもいえることですが、SFA・CRMも例に漏れず、最初だけではなく導入後に改善し続けることがとても重要です。状況が刻一刻と変わるのは、経営も現場も同じです。SFA・CRMは経営と現場のハブのような存在ですので、どちらの状況が変わっても、改善が必要になってきます。ここの改善がないと、最初は良くても結果的に使われなくなってしまったり、現場にとって工数を生むだけのものになってしまいます。

 このような形でまとめてきましたが、一番重要なことは、その企業の課題解決にツールの導入が合致していること。そして現場では、「使わないと仕事ができない」「使い倒すのが一番成果が出るし楽」という状態にし続けることです。

 導入ステップは以上となります。

 ツール導入に成功している企業の共通点は、「導入だけで会社がうまくいく」という考え方ではなく、最初に経営や営業の課題をどう解決するかを考えて、「結果的にこのツールの導入が一番の解決策だった」という考え方を持っていることです。

 次から次へとSalesTechのサービスが出てきていますが、表面的な魅力に飛びつくのではなく、しっかりと社内のリアルを見た上で、営業組織の課題設定をし、解決策まで考えることが、一番SFA・CRMを有効活用できる方法なのではないでしょうか。