終わりの見えない新型コロナウイルスの影響で、宿泊業界はもがき苦しんでいる。

 帝国データバンクによると、2021年10月までに全国114件のホテル・旅館がコロナ関連で倒産した。窮地に立たされているのは中小事業者だけではない。帝国ホテルは21年3月期の連結決算で143億円の赤字、「ホテル椿山荘東京」などを展開する藤田観光は20年12月期で224億円の赤字を計上した。

 9月に緊急事態宣言が解除となり、新規感染者が激減している今、政府は「Go To トラベルキャンペーン」の再開を検討するなど、宿泊業界の景気回復に躍起になっている。

 この1年半で業界全体が大きく沈んだ中、何とかダメージを軽減して踏みとどまり、再起を図ろうとする会社もある。その一社が、セラヴィリゾート泉郷だ。

 セラヴィリゾート泉郷は、山梨、静岡、長野といった中部エリアで宿泊事業や不動産事業を手掛ける。リゾートホテル「ホテルアンビエント」や、「わんわんパラダイス」「Wan’s Resort」という愛犬と一緒に泊まれるホテルブランドなどを各地で展開する。

 近年は愛犬ホテルを中心に業績を伸ばし、19年5月期は約100億円の売り上げに。コロナ禍で20年は約79億円、21年はさらに落ち込むも、すでに底を打った。ホテル全体の収益は、19年12月と比べて今年12月は予約段階ですでに36%増となるなど、2〜3年のうちにはコロナ前の水準を超える見通しだという。

 回復力の早さの秘密は、同社の業態にある。宿泊施設の大半はコテージなのだ。一般的なホテルなどと異なり、宿泊客同士が接触する場面がほとんどない。密を避けられるということで、コロナ禍でも影響はあまりなかった。実際に、10月初旬に山梨・八ヶ岳の施設を訪れたところ、多くのコテージが埋まっており、宿泊受付場所には長蛇の列ができていた。

 「クルマでそのままコテージに乗りつければ、他の顧客と出会う心配はほとんどありません。家族だけで安心して過ごせる点が人気で、先々まで予約が入っています」(執行役員兼運営事業本部長の田中大策氏)

●先鞭をつけた貸別荘というビジネスモデル

 同社の強みはもう一つある。それは、「貸別荘システム」というビジネスモデルを持つことだ。

 コロナ禍で別荘をはじめとするリゾート物件の需要が高まっている。不動産会社のリストインターナショナルリアルティによると、別荘・リゾート物件の問い合わせ件数は、20年1月に全体の16%にすぎなかったのが、21年1月には45%と約2.8倍も増加した。

 そうしたニーズの高まりを受けて、貸別荘関連のサービスも相次いで登場する。例えば、NOT A HOTEL(東京都渋谷区)というベンチャーは、別荘用などに購入した物件を、オーナーが使わないときには、他者にホテルとして貸し出すサービスを開始し、現在までに累計で約18億円の資金調達を実現している。

 このような貸別荘サービスは一般的に「バケーションレンタル」と呼ばれており、全世界の市場規模は約11兆円とされている。日本でも今後、8000億円以上の規模になるという試算もある。

 いまや巨大市場となりつつある貸別荘ビジネスに関して、実は、セラヴィリゾート泉郷は45年以上も前から事業を展開している。この分野に先鞭をつけた同社は、さらなる施策を打つことによって、アフターコロナの世界で一気に勝ち馬に乗ろうとしている。

●文字通り、八ヶ岳を切り拓く

 セラヴィリゾート泉郷は、社名にも表れているように、セラヴィリゾートと泉郷という2つの会社が合併してできている。後者の泉郷が、貸別荘システムのビジネスモデルを作り上げた走りともいえる会社だ。

 1970年に八ヶ岳中央観光として創業し、八ヶ岳南麓を開拓して別荘地分譲や観光事業などを手掛けた。創業者は久保川弘雄氏。生命保険会社を脱サラし、鍬(くわ)を持って、自らの手で山を切り拓(ひら)いたというエピソードが、社内の伝説として語り継がれている。当時はただの森林でしかなかった八ヶ岳南麓を全国有数のリゾート地にした立役者の一人である。

 会社設立時からすでに貸別荘システムの構想はあり、1975年には第1号のオーナーも誕生している。この時に開拓されたエリアが、後述する「ネオオリエンタルリゾート八ヶ岳高原」である。

 現在、セラヴィリゾート泉郷の本社は東京にあるが、会社の中核機能を備えるのは、創業の地であり、2000以上のコテージを管理する八ヶ岳エリアである。

 別荘地というと、コテージがまばらに点在しているイメージを持つ人も多いだろうが、同社が八ヶ岳で管理、運営する一地域であるネオオリエンタルリゾート八ヶ岳高原は、面積約40万坪、東京ドーム23個分の広大な敷地に1200以上のコテージが立ち並び、売店やレストラン、コインランドリー、温泉などもある「一つの街」を形成している。域内のコテージのうち約200軒は貸別荘として、一般客が宿泊できる施設となっている。

 長い歴史によって積み重ねられた下地があるため、コロナ禍でも同社のビジネスは大コケしないのである。

●新たな貸別荘サービスで収益拡大図る

 この地に今年誕生した貸別荘システムが「星降る森のレジデンス第II期」である。2018年にローンチした第I期が好評で、一気に完売したことから、すぐさま新たに8棟を着工した。

 セラヴィリゾート泉郷の貸別荘システムの仕組みはこうだ。まず、同社が物件を建てて販売する。それを購入したオーナーから同社が借り上げ、一般の人たちに宿泊施設として貸し出す。オーナーは一定の賃料を得られるほか、当然、自らも宿泊が可能だ。また、物件の修繕や清掃などのメンテナンス作業もセラヴィリゾート泉郷に委ねることができる。例えば、本体価格3300万円の新築物件の場合、年額165万円ほどの賃料収入を見込めるという。

 同社はこのシステムを「ReVOS(Rental Villa Ownership System)」と名づけている。この呼称がついたのは近年ではあるが、ビジネスモデルの根幹は創業時からほぼ変わっていないという。

 第I期はログハウスタイプの物件だったが、第II期は室内が高級ホテル仕様になっており、従来の別荘のイメージとかなり異なるのがウリに。連日のように宿泊者が訪れ、感嘆の声を上げているそうだ。

 「第II期の物件も問い合わせは少なくありません。そう時間もかからずに売れるのでは」と、同社の不動産事業本部長である大鳥克己氏は力を込める。

●他社も追随

 セラヴィリゾート泉郷が磨き上げてきたこのビジネスモデルは、現在では他社でも見ることができる。例えば、戸建てのコテージでは藤和那須リゾートが運営する「那須ハイランド」(栃木県那須町)や、エンゼル那須白河の「エンゼルフォレスト那須白河」(福島県天栄村)など、区分所有では東急リゾートの沖縄の物件などが類似のシステムだという。

 ただし、新築コテージをリースバック前提で販売する事業に関しては、数十年前から手掛けているのは、セラヴィリゾート泉郷くらいしかないそうだ。

 「別荘地を開発、管理する会社が、貸別荘・宿泊事業をある程度の規模で展開していたのは当社だけでした。その後、北海道・ニセコで事業を行う泉郷(いずみきょう)さんや、エンゼル那須白河さんなどが参入してきた状況です」(セラヴィリゾート泉郷担当者)

 このことからも先見の明があったと言えるだろう。それが今、コロナ禍での耐久力につながっているのは興味深い。

 しかし、そんな同社も何度か経営危機に直面している。

 2003年に飲食事業などを展開するセラヴィリゾートが泉郷を買収し、04年にセラヴィリゾート泉郷が設立した。しかしながら、親会社のセラヴィホールディングスによる「名古屋港イタリア村」や「セラヴィ観光汽船」といった事業が相次いで破産し、グループ会社のセラヴィリゾートとセラヴィリゾート泉郷は08年、東京地裁に会社更生法適用を申請した。負債総額は360億円に上った。

 会社更生法に基づき、09年にこの2社が合併し、現在のセラヴィリゾート泉郷に。そして、13年11月に会社更生手続きが終結した。

 そこから再スタートを切った同社は、観光におけるインバウンド需要の高まりもあって、収益を徐々に伸ばしていき、売上高約100億円の大台に。すると20年、今度は同社のビジネスモデルなどに目をつけた投資ファンドの日本企業成長投資の傘下に入ることとなった。

 コロナ禍、そして投資ファンドによる大胆なテコ入れ——。ここで成果を出せるかどうかが、会社としての存続にかかわるといっても過言ではないだろう。裸一貫で八ヶ岳を開拓した創業者の思いを絶やしてはならない。

(フリーランス記者、伏見学)