昨今インフレが話題だ。米国ではインフレ率が急上昇し、国内でも原油高や資源高の影響によって、ガソリンや日常食品などで値上げが続いている。コロナ禍からの経済回復がまだ完全ではない中インフレが襲うと、不況下で物価上昇が起きる「スタグフレーション」の声さえ聞かれる。

 しかし、「今の物価上昇は理由が明確だ。今が物価上昇度合いが最も高く、年明けから下がっていくだろう」と話すのは、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストだ。

●インフレ率は急上昇だが?

 米国の個人消費支出(PCE)物価指数は足下で急上昇し、10-12月期には対前年で7.6%の上昇となる見込みだ。しかしこの理由について、「コロナの影響で人が労働市場に戻ってきていないことが原因。人が戻ってくれば物価は下がってくる可能性が高い」と市川氏は見る。

 グローバルにおいても、物価高はコロナ禍による一時的な可能性が高い。「コロナの影響で生産が見通しにくい。東南アジア工場などの混乱も、ワクチンの普及や治療薬の普及によってサプライチェーンの混乱は解消される」(市川氏)

 さらに日本においては、確かに物価は上昇傾向にあるものの、インフレを懸念するほどの伸びではない。日銀は2%の物価目標を長らく掲げているが、「おそらく到達できない」(市川氏)という程度だ。

 こうした背景から、対前年比でのGDP成長率の低下と歩調を合わせて、インフレも落ち着きを取り戻し、2022年10-12月期には米PCE物価指数で2.5%程度まで沈静化すると市川氏は見る。

 この状況は「悲惨指数」をみても、さほど心配するほどのものではないことが分かる。悲惨指数とは、インフレ率と失業率を足し合わせたもので、国民の経済的な悲惨さを示すものだ。悲惨指数が高く、かつ経済が後退しているとスタグフレーションの状況になるが、直近の悲惨指数は10%程度だ。

 過去10%を超えたのは、湾岸戦争、リーマンショック、欧州債務危機、そしてコロナショックだが、そのいずれでもスタグフレーションには至っていない。過去スタグフレーションが起こったのは、1979年の第2次オイルショックの際だ。このときは悲惨指数は20%を超えるまで上昇した。

●5年は続く量的緩和の効果

 インフレ懸念も一時的だとするなら、今後のマーケットはどう動くのか。市川氏は、「この先5年間は、そうそう流動性相場は終わらないだろう」と予想する。流動性相場とは、大幅な金融緩和によって市場にマネーがあふれ、経済活動に必要な水準を超えている状態の市場環境のことだ。余剰資金が株式などに流入しやすく、株高になりやすい。

 流動性相場では、低成長、低インフレ、低金利がセットとなる。株式にとっては心地よい状態で、マネーは少しでも高いリターンを求めて金利の高いところに動く。いわゆるイールドハンティングだ。リーマンショック後、07年から20年までの13年間の主要アセットクラスのパフォーマンスを見ると、実は最も良好だったのはハイイールド債券だった。そこに先進国株式が続く。

 なぜこの環境が続くかといえば、「量的緩和をいったん行ってしまうと、そう簡単に回収できない」(市川氏)からだ。

 コロナ禍への対策として、各国中央銀行は国債などを購入して市中に資金を提供する量的緩和を大規模に実施した。これにより、例えば米FRB(米連邦準備制度理事会)の総資産残高は、コロナ前の4兆ドルから8兆ドルを超え、ほぼ倍増した。

 先日FOMC(連邦公開市場委員会)は11月からのテーパリング開始を発表した。テーパリングとは資産買い入れ額を徐々に減らしていくことだ。とはいえ、ペースは落ちるものの資産を買っている状況は変わらず、FRBの総資産は積み上がったままだ。

 市場の関心はテーパリングから利上げに移っているが、22年後半と予想される利上げが行われても、引き締め効果は薄いかもしれない。米国では、中央銀行が利上げを行う場合、銀行が短期の資金を融通し合う市場において、資金を吸収する調節を行うことで、金利を高めに誘導する手法が採られる。

 しかし量的緩和によって市場に巨額の資金が供給された結果、余剰資金を抱えた銀行は、必要以上の準備預金をFRBに預けるようになった。その結果、15年から18年にかけて行われた前回の利上げの際には、資金吸収手法が使えず、金利に上限と下限を設定し、それを引き上げることで実施した。今回の利上げも、市場に資金がダブついている状況から、同様の方法になると見られる。

 この手法の問題は、アップした分の金利を銀行はFRBからもらえることになることだ。そのため「量的緩和後の利上げはあまり引き締めにならず、金融市場が混乱する恐れは小さい」と市川氏は見る。

 つまり、利上げ後も、前回と同様に株高、債券イールドカーブのフラット化、ドル全面高となる公算が高いということだ。そして、中央銀行に積み上がった資産は、株価が下落しても緩衝材の役割を果たす。

 インフレ、テーパリング、そして利上げと、一見市場にネガティブに見えるワードが飛び交う昨今だが、それぞれを見ていくと、株高はしばらく継続しそうだ。