先日、元バイトAKBの梅澤愛優香さんが経営するラーメン店「麺匠 八雲」で食材の産地偽装があったと報じられた。店側は表記と違う食材を使用していたことを認め謝罪、公式サイトには返金の対応を取ることが掲載された。

 今回の騒動は、2つのラーメン店を経営する店主の梅澤さんが、Twitterで「告発」をしたことが発端だ。

 「ラーメン評論家からのセクハラや誹謗(ひぼう)中傷があまりに酷いので出入り禁止にする」と書き込んだことが各種メディアで取り上げられ大きな話題となったが、その直後に週刊文春で産地偽装が報じられると当初の告発騒動がブーメランのように跳ね返った。

 週刊文春のインタビューでは産地偽装を認め、「当初は表記通りの食材を使っていたが複数店舗の経営で忙しくなり管理ができなくなっていた。すでに消費者庁には報告している。故意ではなく表記ミスである」と答えている。

 今回のトラブルは梅澤さんが元アイドルで直前に告発騒動もあったことから、経営者の個人的な炎上のように捉えられているが、それらの要素を取り除けばコンプライアンスやガバナンスの問題にいきつく。

 飲食店の産地偽装は過去に何度も繰り返されてきたが、ミスや勘違いで済まされる軽い問題ではない。その一方で一件当たりの「被害」は少額であることから解決が難しい問題でもある。

 消費者トラブルを専門とする司法書士の立場から、産地偽装の問題を考えてみたい。

●客は泣き寝入り?

 前述の通り、産地偽装について店主の梅澤さんはミスであると説明している。とはいえ食材のこだわりをウリにしていたにもかかわらず、例えば国産天然海老は、スーパーで仕入れたインドネシア産の海老を使っていたという(他にも複数の産地偽装を認めている)。

 これでは説明と異なる安価な食材で利益を増やそうとしていたのでは? 意図的な偽装ではないのか? と疑われてもおかしくない状況だ。

 海老を利用したメニューは公式サイトを確認すると、1000円の海老ワンタンメンと1200円の八雲特製ラーメンの2つ。ラーメンの価格として決して安くはない。顧客の期待を裏切る行為であることは間違いない。

 公式サイトやSNSでは、産地偽装の状態だった2019年8月〜21年10月の2年2か月分と長期間にわたる飲食代金を返金すると公表している。これはお店が潰れかねないほどの負担になると思われるが、その一方で返金をすればそれでいいのか? 産地偽装はそんなに軽いのか? と疑問を感じた人もいるかもしれない。

 偽装表示を行った店舗はどのような法的請求を受けるのか。

 例えば松坂牛のステーキと表示しているメニューが、実は輸入肉だったことが判明したとしよう。明らかに商品の表記にウソがあった場合、客は店を相手取って損害賠償の請求ができるはずだが、損害賠償のハードルはかなり高い。

 健康被害が発生するようなケースであれば、治療費や慰謝料も発生して高額になる可能性はある。そういった被害がなければ元々の代金自体が少額で、店側がすんなり賠償に応じない場合は裁判をするにしても、必要なコストと得られるメリットがあまりにアンバランスで割に合わない。

 筆者は消費者トラブルを業務で扱うが、被害額が少ない場合は報酬も考慮するとほとんどお金が残らないかむしろ損をしてしまう。一定額以上でなければ専門家が関与しにくいのが現状だ。

 今回のケースは返金に応じると明言されているが、そうでない場合はある程度の金額や被害の大きさがなければ泣き寝入りになりかねない。

 冒頭に書いた通り、一杯数百円から1000円程度のラーメンで産地偽装のトラブルが起きれば、少額であることが原因で店側のやったもの勝ちになってしまう可能性がある。ただ、そうならないための制度が景品表示法だ。

●法規制はどうなっている?

 景品表示法は商品などの表示でウソを規制する法律だが、優良誤認といって実際の商品よりも著しく良いものであるかのような表示は許されない、という規制がある。

 この法律を所管しているのは消費者庁だが、消費者庁は疑いのある表示について根拠を示すよう事業者に要求可能だ。根拠が示されない場合、不当な表示として違反したことを消費者に周知徹底することや、再発防止策を講ずる措置命令が事業者に出される。

 今回の事例であれば、こだわりの食材だから高い料金を払った、そうでなければこの金額は払わなかった、という顧客もいるだろう。顧客の不利益で事業者が利益を得るようなビジネスは当然のことながら許されないため、表示に関するルールが法律で決められている。

 この措置命令がなされた場合、併せて出されるのが「課徴金命令」だ。

 行政処分だけでは確信犯的に違反する事業者の抑止力とならないため、行政処分とはまた別に課されるペナルティの制度だ。対象となった不当な表示から得た売り上げの3パーセントが徴収される仕組みとなっている。

 過去の違反例では加熱式のたばこアイコスが行った「期間限定で安く買える」とした広告に対し、実際には期間を過ぎてもキャンペーンを行っていたことから虚偽に当たるとして、フィリップモリスジャパンに5億円を超える課徴金を課したことがあった。事業者にとっては大きなペナルティだ。

 この制度は16年にスタートした新しい制度で、高級ホテルの飲食店で「車エビ」と表記しながら実際はブラックタイガーだった例を含め、当時多くの有名ホテルなどで発生した原材料の不当表示がきっかけで創設された。

●課徴金を減額する方法とは?

 時として高額になる課徴金だが、減額される仕組みも用意されている。客に返金対応をした場合、返金額が課徴金から減額される。この返金の制度を企業が利用する場合、事前に返金の計画を消費者庁に提出し承認される必要がある。

 客側が損害賠償請求をするのはハードルが高い問題があると述べたが、この問題の解決策として、事業者が自主的に返金を促す仕組みとなっている。

 ほかにも課徴金が減額されるケースとして、消費者庁から指摘を受ける前に自主的に違反があったことを申告した場合がある。

 今回のラーメン店のケースでは、店舗のホームページにはすでに消費者庁に届け出ているとあり、返金に応じることも記載されている。景品表示法適用の調査がどの程度進んでいたか不明だが、今後何らかの処分が下される可能性もあり、その際に自主的な申告が処分に影響することも考えられる。

 このように、表示を偽装した場合「見つかったら返金すればいい」では済まされない。事業者にとって課徴金を課される大きなリスクとなる。

●消費者団体からの訴訟リスク

 産地偽装など消費者を欺くようなトラブルを企業が起こした場合、消費者団体から訴訟を受けるリスクもある。

 景品表示法では法に違反する広告などについては、各地の消費者団体も消費者庁に代わり差し止めの請求や訴訟ができると規定されている。

 過去にはクロレラ療法をめぐる広告について、サン・クロレラ社に対して使用差し止めの訴訟などが提起された。「病気と闘う免疫力を整える」「自律神経失調症改善作用」などの記載は優良誤認にあたるとして、広告の差し止めが認められた。

 消費者団体から問題を指摘され、是正の請求や訴訟が提起されるような事態となれば、多数のメディアで問題を起こした企業として報じられて社会的信頼を損ねる。このようなリスクも事業者にとっては当然避けるべきだ。

●産地偽装は重大なコンプライアンス違反である

 表示をめぐる問題はひとたび顕在化すると大きなペナルティが課せられ、信頼失墜から業績に大きなダメージとなって跳ね返る。

 景品表示法では、事業者に対して社内で法の考え方の周知や啓発活動を行うこと、法令順守の徹底などを求めている。不当表示になるかどうかは仮に事業者が知らなかったとしても行政処分の対象となる。例えば仕入れ先が産地を間違っていたとしても、その食材を使用した事業者が処分の対象となりえる。

 事業者としては今回のニュースを対岸の火事と考えず、違反行為はないか、取引先との契約関係を改めて確認するべきだろう。

(及川修平 司法書士)

企画協力:シェアーズカフェ・オンライン