宇宙を気軽に楽しむコミュニティとして7月に誕生した「そらビ」は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の関係者をはじめとする宇宙の専門家を講師として招きながら活動を展開している。

 活動の柱となるのは「宇宙飛行士部」「宇宙報道部」「宇宙カルチャー部」の3つの部活動。前回記事(JAXAがまもなく13年ぶりの宇宙飛行士募集 宇宙コミュニティー「そらビ」の“宇宙飛行士部”とは?)では、未来の宇宙飛行士を輩出するための講座を実施している「宇宙飛行士部」の活動についてお伝えした。

 今回は、宇宙に関する記事などを発信する「宇宙報道部」が「そらビ」誕生イベントで実施した、はやぶさ2のプロジェクトマネージャ津田雄一氏へのインタビューの様子を取材。津田氏がリーダーとして成功に導いた小惑星リュウグウ探査のプロジェクトについて、その裏側を語った。

●リュウグウ探査には600人のメンバー

 誠品生活日本橋(東京・中央区)で開催された津田雄一氏へのインタビューは、「そらビ」代表で宇宙キャスターの榎本麗美氏が実施。オンラインでも同時中継されて、多くの宇宙ファンが視聴した。

 津田氏はJAXA宇宙科学研究所の教授で、小惑星探査機はやぶさ2のプロジェクトマネージャを務める。プロジェクトには600人のメンバーがいて、JAXAや民間の多様な国籍の人々で構成。津田氏は史上最年少リーダーとして、はやぶさ2が打ち上げられた2014年から小惑星リュウグウの探査をはじめとするプロジェクトを率いている。

 はやぶさ2は19年に2度、リュウグウの着陸に成功する。リュウグウから地下物質とガスのサンプルを採取して、地球へ帰還。20年12月にサンプルを入れたカプセルがオーストラリアに向けて投下され、カプセルは無事回収された。津田氏はプロジェクトが成功したあとの心境を次のように語った。

 「誰も行ったことがない、どのようになっているのか分かっていない天体に行くので、本当にチャレンジでした。いろいろな準備をして、挫折もありましたが、乗り越えて成功できたので、まずはほっとしています。想定以上の地下物質が採れたことで、研究者の皆さんに喜んでいただいているのもうれしいですね」

●「はやぶさ2」が達成した9つの世界初

 はやぶさ2は6年間にわたるリュウグウの探査によって、9つの世界初を達成している。その内容を、津田氏が自ら解説した。

 1点目は、小型探査ロボットが小惑星の上で移動探査を行ったこと。2点目は、3機のロボットが同時に小惑星で活動したこと。はやぶさ2が持って行ったロボットは4機で、そのうち3機が同時に運用された。

 3点目から6点目まではリュウグウへの着陸に関するもの。はやぶさ2の天体着陸精度を60センチまで上げたことが3点目で、4点目は小惑星に大きい弾丸を撃ち込んで穴を開けて、人工クレーターを作った上で観測したこと。そしてその穴の地下物質を採取したことが5点目だ。さらに同一天体の2地点に着陸したことが、6点目になる。

 7点目は小惑星の周りに3つの人工衛星を飛ばしたこと。8点目は、地球以外の天体からガスを採取して持って帰ったこと。そして最後の9点目は、採取した固体物質を持ち帰ったことだ。はやぶさ2でこれだけの世界初が実現できた意義を、津田氏は次のように語った。

 「月より遠くの天体に行って帰って来る技術を実現できたのは、今のところJAXAのはやぶさと、はやぶさ2だけです。世界中で日本だけが成し得たことです。僕は技術者なのでこの点は強調したいですね。今後は米国も中国も実施する予定がありますが、世界で初めて実現できたことは誇りだと思います」

●リュウグウの物質から炭素や水の痕跡を発見

 はやぶさ2が持ち帰ったのは、リュウグウから採取した5.4グラムの固体物質とガス。固体物質はいわば星のかけらだ。JAXAで現在分析を進めていて、今後は国内のさまざまな研究チームで具体的な成分を分析するという。津田氏は、すでに炭素や水の痕跡が見つかっていることを明らかにした。

 「去年12月に帰還してから、半年かけて一粒一粒慎重に分類しました。その分析で、どうやらリュウグウに炭素や水がありそうだという痕跡が見つかっています。科学的な発見は、必ず科学者の専門的なレビューを受けてから認められますので、まだ発表できる段階ではありませんが、本当に価値のあるサンプルだと思います」

 当面分析を進めるのは、持ち帰ったサンプルの4割だけで、残りの6割は将来のために保管している。その理由は、未来の研究者に委ねるためだという。

 「われわれがこの時代に持っている技術だけでこのリュウグウのサンプルを解析するのは、もったいなさ過ぎるんですよね。10年後、20年後にはもっと分析技術は向上します。きょう会場に来ていただいている小学生や、もっと小さなお子さんが大人になる頃の分析技術であれば、今よりももっとすごいことが分かると思います。6割を保管しているのは、未来に託すためです」

●困難な状況を乗り越えたチームの力

 もちろん、9つの世界初を成し遂げるまでには、いくつもの困難があった。リュウグウは直径1キロくらいの小惑星で、そろばんの玉のような形をしている。いざ近づいてみると、着陸できそうな場所は見つからなかった。

 「びっくりしたのは、岩だらけで平地が一つもないことです。これは最大の想定外でした。しかも、はやぶさ2の動作もおかしくなりました。18年6月に到着して、10月に着陸する予定でしたが、最初の着陸は4カ月遅らせました」

 出発前には何度も着陸の訓練をしてきたが、全く通用しない状況を前に、チーム全員で対策を考えた。そこで600人のチームの約半分を占める科学者たちは、リュウグウの地形のでこぼこを1センチ単位で把握して、着陸する場所を見つけ出した。

 技術者たちも着陸精度の向上に取り組んだ。はやぶさ2の当初の性能は、狙った場所から50メートルの範囲内に着陸する精度だった。それを1メートル以内に精度を上げようと取り組み、その結果、世界初となる60センチの精度が達成できたのだ。

 津田氏はこのチームを率いるにあたって、メンバーに厳しいことを言わなかったという。ミッションを達成できるチームにするためには、厳しいことをいうよりも事前の準備が重要だった。それも、難しい訓練を重ねて、たくさんの失敗をさせるようにした。失敗を防ぐための分析をしていくことで、自然とお互いが助け合うようになり、チームの結束も高まったという。

 「プロジェクトが成功したのはチームワークがあったからです。誰も行ったことがない場所での探査ミッションなので、誰も答えを知りません。チームワークが事前にできていたから、解決できたと思います。こんなにたくさんの人たちと関わることができて、喜びを共有できたのは、本当に何事にも代えがたい経験でした」

●はやぶさ2は今後2つの小惑星を探査

 はやぶさ2はリュウグウのプロジェクトを終えて、現在は再び長い宇宙の旅に出ている。まだ誰も見たことがない、名前もついていない2つの小惑星を目指して飛行中だ。

 5年後には1つの小惑星を通り過ぎながら探査し、さらに10年後には地球に近い場所にある、直径40メートルほどの小惑星を探査する。はやぶさ2の現在地や最新情報は、JAXAの「はやぶさ2プロジェクト」のWebサイトで確認できる。

 津田氏は、はやぶさ2について自著を出版しているほか、積極的に講演活動などもしている。その理由を「宇宙に関わる仕事の広さを知ってもらいたいから」と話す。トークセッションの最後に会場とオンラインの参加者に向けて、次のようなメッセージを送った。

 「はやぶさ2のようなミッションを発信することは重要だと思っています。宇宙で働くと言えば、イメージしやすいのは宇宙飛行士ですよね。でも、宇宙飛行士だけで宇宙に行っているわけではありません。宇宙で働いている人はたくさんいます。

 宇宙はすごく広がりをもっていて、ワクワクしながら新しい世界を切り開くことができる現場が、世界にいろいろな形であります。その中の一つがはやぶさ2で取り組んでいる宇宙科学です。はやぶさ2を入口にして、宇宙の広い世界を感じてもらえたらうれしいですね」

(ジャーナリスト田中圭太郎)