ヤマト運輸が顧客サービスを改善しようと、宅配に関する膨大なデータを駆使したデータ・ドリブン経営に舵を切っている。

 ヤマト運輸の宅配についての基本データをみてみると、2020年度(20年4月から21年3月まで)の取扱個数は約20億9000万個、シェアは43.8%で首位。2位の佐川急便(28.2%)、3位の日本郵便(22.8%)を大きく引き離している。

 約5000万人の個人会員と、生産者、店舗など約130万社の法人会員が同社の宅配サービスを主に使う。21年3月期の決算は、コロナ禍による巣籠り需要を契機としたEC市場の拡大による宅配の増加もあって売上高約1兆6900億円、経常利益約940億円の増収増益を確保。22年3月期も増収増益を予想している。中期経営計画の最終年度である23年度(24年3月期)は売上高2兆円、経常利益1200億円を見込んでいる。

 ヤマトは、宅配の荷物がコロナ禍に関係なく堅調に伸びると予測し、今後の拡大に備えDXを重視した方針を前面に打ち出そうとしている。その仕掛人であるデジタルデータ戦略担当の中林紀彦・ヤマト運輸執行役員を直撃した。

(中西享、アイティメディア今野大一)

●データ基盤ができていなかった

――中林さんは、ヤマトには2年前にDX改革の中心メンバーとしてスカウトされ入社したそうですが、入ってみての感想はどうでしたか。

 宅配で膨大な荷物を取り扱っている会社にしては、データ基盤ができていないと率直に思いました。そこで私は、20年1月に発表したヤマトグループの経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」のなかで、デジタルデータ戦略の考案に携わりました。このプランは宅配便のDX、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化に向けた3つの事業構造改革と、グループ経営体制の刷新、データ・ドリブン経営への転換、サステナビリティの取り組みの3つの基盤構造改革からなっています。

 まずはデータを分析した結果を活用するデータ・ドリブン経営に転換することが目下の目標でした。

――具体的にはどういう点をデジタル化したのですか。

 短期的には、あらかじめ荷物の量を3カ月前に予測し、それに合わせて人や車の配置ができるようにしました。AIによる機械学習を使えば3カ月先の予測ができるので、1カ月前に決めなければならない人員配置も最適化できます。また、1個の荷物を運ぶのにどれだけの人員や車などのリソースが必要なのかを可視化することによって利益率の改善にもつながります。

 これまでは荷物のデータを2〜3時間ごとにバッチ処理をしていたので、今現在の荷物がどこにあるかを把握できていませんでした。これはシステムの問題もあってできなかったのですが、現状これを改善しようとしています。

●再配達問題をどう解決する?

――宅配業界では、以前から再配達問題が大きな課題になっています。再配達の時間的ロスを減らすため、「置き配」を含む利用者の受け取り方の多様なニーズにも応えているようですが、具体的にはどのように便利になるのですか。

 受け取るお客さまの利便性向上には注力してきました。まず、利用者の生活導線に沿って受け取れるように、コンビニやオープン型宅配便ロッカーを拡充するなど受け取れる拠点の数を増やしています。さらに受け取りの時間も、直前の変更に対応できるようにするなど改善しています。

 昨年6月からは、EC事業者向け新配送商品「EAZY(イージー)」の提供を始め、ファッション関係などを中心にB2C向けの商品を配達しています。EC利用者、EC事業者、配送事業者の全てをリアルタイムなデジタル情報でつなぐことで、購入、配送、受け取りの利便性、効率性を徹底して向上させ、ECの持続的な成長を実現する「ECエコシステム」の確立に向けた配送商品です。

 また、英国のドドル社と業務提携し、送られた商品をスーパーやドラッグストアで受け取れる、生活導線上に沿った受け取り拠点を拡大するサービスを昨年11月からスタートさせました。導入店舗は「Click & Collectシステム」の専用端末を設置するだけで、早くかつ簡単にサービス提供を開始できます。

 このように受け取り方法を利用者側で選べるようにすることで、受け取るまでのストレスを減らせると思います。こうした対策を講じることで、結果として再配達の時間的ロスをできるだけ減らすことが可能になります。

――宅配効率を上げるために、配達ルートなどはどうやって決めているのですか。

 配達当日の朝に行う荷物の積み込み具合をみて、AIが最適の配達ルートを出してくれるので、ドライバーはこれに従って配達ができます。将来的には渋滞などで配達時間が遅れそうになると、電話やメールで利用者に知らせることなども考えられます。ラストワンマイルの部分の最適化は改善の余地があると思っています。

――ヤマトとしてはデータ的に見て、コロナ禍が終わっても宅配需要は堅調に伸びると予想していますか。

 EC比率が上がってきているので、元に戻ることはないと考えています。家にいても何でも届くことを多くの人が体験しているので宅配需要は増えます。20年4〜6月はコロナ禍で巣籠り需要が増大し、企業も個人もECの利用が拡大しました。今後、新しい生活様式になっても、宅配は今後も伸びていくとみています。こうしたことに対応するため、サプライチェーンの川上から川下まで効率化しようとしています。

――20年3月にヤフーと業務提携をしましたが宅配分野で具体的にはどういう連携をするのでしょうか。

 ヤフーのサイトに出店しているお店の商品の配達を請け負うだけでなく、荷物の発送作業から倉庫の利用も含めてヤマトが行うことにしています。

●デジタル化とDXの課題とは

――これまでいくつかの会社でデジタル改革を担当していますね。日本企業に共通する課題としてはどんなことが挙げられますか。

 デジタル改革にいくつも関わってきました。「データがたくさんあるので何かできるのではないか」といった方法論から入ることが多いのですが、これではうまくいきません。きちんとした事業戦略のなかに戦略としてデジタル化を落とし込んでいかないと、うまくいかないからです。

 経営陣から「人と組織を作って何かやれ」といわれても、担当者は具体的に何をやればよいのか分からなくて戸惑うことが少なくないですね。

――DX改革を加速させるためには、企業のトップの理解が不可欠だといわれていますが、どう思いますか。

 少しずつですが日本企業の経営陣も変わってきている印象があります。特にDXが叫ばれるようになってからは理解のある経営陣が増えてきています。当社社長の長尾もこの点は十分理解していて、データ・ドリブン経営をしないと立ち行かないという危機感を持っています。

 スカウトされた時は「データ戦略の実行が欠けていたので、やってくれないか」と言われました。会社を変えていくフェーズの時にDX改革は必要だと思っていたので、ヤマトでデジタル改革を担当することになりました。経営メンバーにデジタルを使いこなせる人材がいないと、企業は前に進まない時代になってきています。

――DX改革を進めようとすると専門的な人材が必要になりますが、どのように獲得していますか。

 現在データサイエンティストは数十名いますが、ヤマトにはいなかった人材なので全て外部から中途採用しました。デジタル人材として、昨年度は2桁後半の人数を中途採用しましたが、今年も同じくらい採用する計画です。この方式は私が昨年新たに策定したデジタル人材の「エキスパート制度」に沿ったもので、待遇は従来の年功序列とは異なるジョブ型に基づき、マーケットを加味した形で採用しています。

 職種はデータサイエンティスト、アーキテクトなど9職種を定義し、客観的な評価に基づいてジュニア、ミドル、シニアにランク付けしています。ミドルクラスの年収は650万〜1100万くらいです(2021年10月時点)。こうしたエンジニアの中途採用の面接をしていると、大きなデータを使って社会貢献できることに魅力を感じる応募者が多く、宅配という身近な仕事である点も応募が増えている理由だと思います。人材獲得には初年度から特に力を入れています。

●欲しいと思ったものがすぐ目の前にある状態

――現在約5万7000台の車を保有していますが、EV(電気自動車)は何台使用していますか。このほか脱炭素の取り組みはどの程度進んでいますか。

 23年までの環境対策の到達目標を設定しています。具体的な取り組みの1つであるEV車は、小型と中型合わせて現在約600台を導入しています。今後もハイブリッド自動車や電機自動車などの低炭素車両へのシフトを進めるとともに、長距離トラックを含む新規EVやFCV(燃料電池自動車)に関する外部との実証実験にも取り組みます。

 EV車だけでなく、サステナブル中期計画における各重要課題に対する具体的な行動を事業活動の中で遂行することで、2050年CO2 実質排出ゼロなど、社会と事業の持続可能な発展に取り組んでいきます。

――海外の宅配業者で参考になる会社はありますか。

 ドイツの物流会社UPS、米国の流通大手ウォルマートなどはベンチマークになると思います。ウォルマートは自前のデジタル開発だけでなくベンチャー企業を買収することによってデジタル技術を積極的に開発し、活用しています。ヤマトはM&Aはしていないものの、イノベーションファンドを立ち上げ、自動搬送ロボットや越境ファッションECサイトを運営している会社などに出資をしています。

――ドローンの実用化についてはどう見ていますか。

 ヤマトは米国のヘリコプター製造のベル社と、最大0.5トンの荷物を運べる大型のドローンの共同開発を目指し、米国で試験飛行をしました。

――近未来の宅配の新しい姿はどうなるのでしょうか。

 宅配ロボット、ドローン、自動運転車などが登場してくるかもしれないですね。受け取る側にとって望ましいのは、欲しいと思ったものがすぐ目の前にある状態ではないでしょうか。つまり欲しいと思う前にすでに予測データに基づいて、消費者に届けられているということで、これは将来的に実現する気がしています。