●本記事について

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワークが普及する中で、通勤時間などが減り“スキマ時間”が増えたことを受け、リモートで副業を行う副業人材が増えている。彼らはどんな副業をしているのか、企業はどのように副業人材を活用しているのかを解説する。著者は、人材シェアリングサービスの“中の人”であるJOINSの猪尾愛隆代表取締役。

 コロナ禍・リモートワーク浸透に伴い、主に首都圏在住の副業希望人材が急増している。筆者が代表を勤めるJOINSでは、コロナ禍前の2020年3月と比べて、サービス登録者数は約6倍(21年9月時点)に及んでいる。10月1日に開かれた経団連の夏季フォーラムでは、今後の産業構造転換を見据えた働き方・人材育成として副業・兼業の促進を図ることが提言されるなど、この動きは一過性のブームではなく不可逆な流れになることが予想される。

 こうした副業人材の活用方法には2つの大きな潮流があることが分かってきた。一つは外注的な活用、もう一つが社員的な活用だ。後者は新しい動きといえる。その可能性について本稿では紹介したい。

●「やりたいこと」と「できること」重視で仕事を選ぶ

 まず、主に地域の中小企業などで副業を行う、首都圏在住の、大手企業・IT企業に勤める副業人材の働き方から紹介する。

 月の稼働時間は約30時間、原則フルリモートワークで大手企業側で裁量労働が広がったため、平日日中も稼働し、平均報酬金額は約11万円/月、6カ月以上契約継続率は5割を超えている。契約形態は、納品物と金額を決めて納品の代わりに対価を受け取る請負契約ではなく、時間単価を定め稼働時間に応じて請求を行う準委任契約が主流となっている。案件の6割以上がデジタル活用による売上増・費用減の業務改善だ。

 こうした副業人材の仕事選びの特徴を、Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(やらなければいけないこと)の枠組みで整理してみると、専業的な仕事選び(新卒時を除く)と比較して、WillとCanが重なるところを重視する傾向が強いことが分かってきた。

 実例を紹介しよう。

●クリエイティブ・ディレクター Aさん

・報酬:8万円/月

・副業案件:イタリア家具の仕入れ販売を行う中小企業のECサイトの立ち上げ

 企業のブランディングなどを手掛けているAさん(30代)は、正社員の仕事で培ったスキルを生かせること(Can)はもちろん、留学経験のあるイタリアに関わる内容だったからこそ魅力を感じ、「楽しいと思える仕事がしたい(Will)」と、この副業に携わることを決めたという。

 世の中にどのような価値を提供したいのかをヒアリングするなど、依頼者の思いに寄り添いながら業務に取り組んだというAさん。時には自身が訪れたイタリアに思いをはせたり、ECサイトから家具を購入した人たちの笑顔を想像したりしながら、前向きな気持ちで業務を実行できたという。

●データサイエンティスト Bさん

・報酬:10万円/月

・副業案件:地方自治体のビッグデータを活用した移住促進施策の企画・実行

 本業で培ったスキルを生かして(Can)、世の中の役に立ちたいと副業を始めたBさん(30代)。副業では好きなことを仕事にしたいと、移住という自分の興味のある分野の副業(Will)に携わることを決めたという。

 本業でも副業でも、アウトプットのクオリティーを変えるつもりはなかったが、好きだからこそ、自然とモチベーションが高くなり、アウトプットの質は高いものになったと感じているそうだ。

 一方、経営者側も企業のWillに共感し、能動的にやりたい意志のある人と一緒に仕事がしたいと考える人は多い。JOINSのサービスで、副業人材を活用した兵庫県神戸市の給食・飲食業の社長は、「法人への外注だと、その担当者はどうしても仕事として受け身になりがち。私たちの思いに共感してくれる副業人材に出会えたことで、成果につながりました」と話す。

 こうした実態は企業側が指示した業務を決められた期間・金額内に実行する外注的な活用の仕方とは一線を画す動きだ。これこそが「社員的な活用」の可能性を示唆すると考えている。

 2020年9月に経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書〜人材版伊藤レポート〜」では、労働人口減少を迎えている日本において、企業が今後実行すべき人材戦略の重要なテーマの一つとして従業員エンゲージメントの向上をあげている。

 従業員エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようと意識を持っていること」。言い換えると、組織の目指すゴールに対する自発的貢献意欲のことだ。そして、これまで経営者がこの自発的貢献意欲を求める対象は主に正規雇用(社員)であった。

 2040年は労働生産人口が20年から2割減となることを見据えると、正規雇用者数は約3500万人に対して、副業人口は約450万人とまだ1割超にしか満たない。そのため今後も正規雇用者が組織の多数を占めることは変わらないが、正規雇用者の1〜2割程度は積極的にこうした副業人材を社員の一員として活用していくことは十分考えられる。

 企業の人材戦略・従業員エンゲージメントの高い組織作りの選択肢の一つになるのではないだろうか。特に地方の中小企業では、距離の壁・年収格差の壁を超えて採用できるこうした副業人材の活用方法は、大きな可能性を秘めていると考えている。

●著者紹介:猪尾愛隆

JOINS株式会社 代表取締役。​​1977年東京生まれ。慶應義塾大学大学院、(株)博報堂を経て、スタートアップにて約12年間、クラウドファンディング事業の役員・事業責任者に従事。2017年に地方中小企業が副業人材を直接採用できるJOINS(株)創業。自社でも約50人超のメンバー全員がフルリモート・兼業で業務を行い、代表自らも長野県の中小企業の宿泊施設の集客業務担当を3年以上継続中。