2016年に「みんなのビットコイン」として創業した仮想通貨(暗号資産)取引所の「楽天ウォレット」。18年に楽天グループ入りし、19年8月に現物取引を、20年3月に証拠金取引のサービスを開始した。

 現在、楽天ペイメントの傘下にあり、楽天キャッシュへの仮想通貨チャージなど、楽天グループとしてのシナジーを追求している。楽天グループの一員として、仮想通貨の現状をどう見ているのか。山田達也社長に聞いた。

ビットコインが最高値を更新し、米国ではついにビットコインETFが承認された。いまの仮想通貨の現状をどう見ているか。

山田氏 カナダから始まって、先日米国でもビットコインETFが承認された。先物を中心としたETFなので、公共性の高いものになる。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のインデックスも現物をベースにしているので、先物から現物価格に連動したETFが出てくる期待感はある。米国でETFが承認されたことで、アセットクラスの1つとして一歩前進できた。

 米国が承認したことで、今後欧州でも出てくるだろう。一方で日本では、暗号資産を投資信託に組み込むとなると、金融庁の指針を変えていかないと進まないだろう。

 ただし、ビットコインにしても、暗号資産の時価総額は、米国株式との比較でいうと5番目、6番目くらい。まだまだ一つの株式程度の時価総額でしかない。コインの数量は変わっていないので、時価総額が増加するには価格が上がらないといけない。

 時価総額が上がれば、アセットクラスの1つと見られるようになり、投機対象から資産の媒介の対象として認知されてくる。

 現在は、暗号資産イコール投機対象ということで、まだまだ決済での利用は進んでいない。しかし、海外ではペイパルやマスターカードのように決済利用が進みつつある。

●ステーブルコイン取り扱いに期待

国内で仮想通貨が決済に利用できるようになるためには、何がポイントなのか?

山田氏 ステーブルコインが挙げられる。法定通貨に連動しているので、その価値が担保されている前提だが、ドルペッグ(ドルに連動した)のステーブルコインが証拠金として使われるケースも増えている。

 ビットコインやイーサリアムでは価格変動が激しいので、決済で使うのが難しい。さらに決済時にも雑所得対象となるので、使うとなると税計算が煩(わずら)わしい。日本でも、ステーブルコインを暗号資産交換業者が扱えるようになって、さまざまな決済に使えるようになることが最初のステップになる。

 海外でもCBDC(中央銀行デジタル通貨)のようなものが発行されると、デジタル通貨の利便性が高まってくる。ただし先進主要国では研究段階なので、まずはステーブルコインがその役割を担うだろう。

ステーブルコインは、現状の日本の法律だと暗号資産に分類されない。法的な整理をどう見るか。

山田氏 暗号資産は資金決済法の中での取り扱いだが、ステーブルコインは資金移動業の範疇(はんちゅう)になる。この点について法整備は進むと理解している。昨今も金融庁のほうで、委員会が開かれて議論されている。

 楽天グループには、オンライン電子マネーの楽天キャッシュがある。楽天ウォレットとしてもこれらにつながるサービスを展開しているので、そこは進めていく。

●身近なアセットクラスになれば国も動く

仮想通貨の決済利用においては、税制も課題だ。株式のような分離課税になっておらず、高率な累進課税だという点が問題として指摘される。

山田氏 税制の壁はある。為替の証拠金取引(FX)でも、そういう経緯があり、解決には10年くらいかかった。そのときは、個人の資産形成において、FXマーケットが成熟してきているという判断で、改革が行われたという背景がある。より身近なアセットクラスとして認知が進んで、多くの投資家の声が出てくれば、税制改革の後押しになるのではないか。

 暗号資産取引には現物と証拠金取引がある。証拠金取引は、ほかの差金決済と同じ仕組の取り引きだ。そういったものについては、ほかの金融取引と同じ税制になってくれないかと思っている。意見書は各団体、日本暗号資産ビジネス協会、FIAジャパン、新経済連盟などから政府への提言として出されている。

DeFi、NFT、STOなど、仮想通貨に関連したサービスが世界で広がりつつある。

山田氏 DeFiは、既存の金融機関の基盤に対して、非中央集権の形で独自のプログラムで動くものだ。リスクが個人では分からないものなので、なかなか個人がDeFiを利用するのは厳しい。しっかりとリスクについて表記され投資家が成熟することで広がっていくのではないか。

 NFTは、楽天グループでも今後進めていくというアナウンスはしている。楽天ウォレットとしては、NFTを拡大する際に、セカンダリー市場や顧客に紹介していくことも考えられる。

 STOについては、既存の証券会社が進めている。楽天においても、取り組む際は金融グループでリードしていくのではないか。

こうした先端領域では、日本は海外に比べ遅れているという指摘もある。

山田氏 日本ではしっかりしたルールが世界に先駆けて作られて、どこよりも安心して受けられるサービスが提供されている。規制イコール悪いというよりも、規制をしっかり守ることで、安心したサービスの提供、サービスを受けられることにつながる。

 海外の、ルールがないところで取り引きを行うのは、投資家保護の観点でも十分ではなかったり、FATF(金融活動作業部会)が求めるAML(アンチマネーロンダリング)対応が整っていなかったりといった問題がある。先進的な金融をサービスする上で、世界的にもAMLについては目を光らせている。健全に育っていくために必要なルールかと思う。

●「楽天ウォレット」という社名に込めた思い

「楽天ビットコイン」ではなく「楽天ウォレット」という社名だ。ウォレットという社名に込められた思いは?

山田氏 ウォレットは、暗号資産でいう預かる口座という意味合いがある。資産をしっかり安心して預けられる口座でありたいという思いだ。ステーブルコインはじめ、デジタル資産の管理を安心して任せられるようなウォレット、支払いや決済でも使ってもらえるウォレットを目指す。

 預かった法定通貨については、信託保全を業界に先駆けて実装した。これはグループの楽天信託が協力したもので、FXの仕組みを応用して、楽天信託で法定通貨を保全する。

 暗号資産のカストディ(保管管理業務)については、信託で保全されるのが安全だと考えているが、なかなか暗号資産のカストディを進められない。国内では信託銀行がカストディになるというのはハードルが高い。信託会社は可能性があるが、信託会社がそこまで意識が及んでいない。

 安心して暗号資産を預けられるカストディは必要だと思っている。日本がそこで遅れると、海外カストディを使うことになってしまう。機関投資家が暗号資産を取り引きするとなると、海外を使わざるを得ないのが現状だ。

暗号資産取引所として、どんな点を強みとし、どのようなビジネスを展開しようとしているのか。

山田氏 楽天グループの一員として、楽天経済圏での暗号資産の可能性を広げていく。いろいろなサービスとの連携、楽天ポイントから暗号資産に替えられる、暗号資産から楽天キャッシュにチャージできるなどに取り組んでいる。

 税制の問題もあるが、ご理解いただけるお客さまが使ってくれている。徐々には浸透してきている。7月から、アプリの中で運用状況が一目で分かるサービスを実装して好評いただいている。税計算も、1年間でどのくらいの確定利益があったのかを一目で分かるような画面も用意している。

 決済に近いところやステーブルコインを通じたビジネスができればいいとは思うが、まずは楽天会員にどんな暗号資産サービスを提供できるかを考えていく。

 また、投資家向けのサービスもしっかり提供していきたい。証券取引やFX取引を行っているユーザーのニーズには応えていく。安心して取り引きできる環境を整える、そして楽天経済圏への連携を強めていく。

山田社長にとって、仮想通貨とは何か?

山田氏  この仕事を始めるときに思い描いていたのは、新しい金融サービスの可能性を広げるものだということ。まずはアセットクラスとしての立ち位置だ。資産形成に役立ってもらえる対象として、証拠金取引、デリバティブが大きく成長していくだろう。

 そしてデジタル通貨ということもあって、国境をまたぐような支払いの決済に使われることに期待感を持っている。海外送金用途としては、現物が対象になる。国内に多く住んでいる外国人の方、海外に行ったときに日本人が決済できる。その環境を作っていく。