いきなり下世話な話で恐縮ですが、プロ野球界で奇抜な言動を通して注目を集めているのが、北海道日本ハムファイターズの監督である“BIGBOSS”こと新庄剛志氏です。彼の前任は、10年にわたり同チームの監督を務めた栗山英樹氏です。栗山氏は教職免許を持つ理論派の教育者的たたずまいの指導者で、大谷翔平選手を育てたこともあり、チームは教育的でおとなしいムードが漂っていました。

 新庄氏が後任の座につくと、チームのムードは一変。自らBIGBOSSと名乗り明るく行動的で元気な姿は確実にチームに浸透し、試合中も明るいムードにあふれているように感じられます。しかし同時に気になったのは、彼が時に放つショッキングな言葉の数々です。

 「優勝なんて目指しません」「開幕3連戦は遊びます」「今年1年はチームそのものがトライアウト」――。本人の真意はともかく、チームは明るくなったもののこれらの言葉は、選手たちの勝利に対する執念を削いでしまっているように思います。実際、チームは開幕から絶不調。リーダーの発言がチームの士気に、少なからず影響を与えたのではと感じさせられます。

 ついでに監督の話題をもう一つ。阪神タイガースの矢野燿大監督です。2021年シーズンは終盤まで優勝争いを演じ、優勝した東京ヤクルトスワローズとは勝率でわずか5厘差の2位という好成績を残しました。ところが今季は、開幕からいきなり10連敗する最悪のスタートに。シーズン前に監督が「今年限りで退任」との発言をしたのですが、球界OBなどの評論家筋からはそれが選手のモチベーションやチームのムードに影響したとの声が聞こえています。

 企業においては毎年3〜4月にかけて年度替わりとなるこの時期は、トップの交代人事が数多く発表されるタイミングです。トップの交代記事というものは、よほどの大企業か注目企業でない限り、ベタ記事レベルで新トップの経歴を中心に報道されるのが常です。これはトップ交代を告げる企業のニュースリリースのレベルによるものですが、トップ人事はプロ野球だけでなく企業にとってもこの先を予見するための戦略転換に匹敵する重要な出来事であり、不透明感が漂う今の時代、このような儀礼的な扱いで良いわけはないと思うところです。

 プロ野球チーム同様に組織におけるトップの交代やエポックメイキングな言動はムードを一変させるものであり、その一挙手一投足は組織に所属するメンバー一人ひとりの行動や考え方に大きな影響を及ぼすものです。筆者も組織のことなど何も知らない新人銀行員のころに、支店長が交代するとこんなにも店の雰囲気が変わるものなのかと驚いたものです。

 規模によってムード転換の浸透速度に違いはあるものの、トップが交代すれば組織は新しいトップの色に染まり、その言動によって組織は良くも悪くもなります。特に激動の時代である今は組織の大小を問わずトップ交代が組織運営に与える影響は大きく、従ってその交代は基本戦略変更と同様の重要さを持っていると思っています。

 筆者がトップ交代に求められるものと考えている一つが、情報開示です。上場企業でトップが交代する際に、なぜこの時期の交代なのか、その交代がどのような戦略にどのように資するものなのか、また具体的に新たなトップの何を評価してどのような議論を経て後任に選出されたのか、といったことを詳細に開示する義務付けが必要であるように思うのです。

 現実に、著名企業において株主から見て不可解と思われるようなトップ交代は意外に多いものです。具体例を挙げるなら、一つは東芝における事例です。アクティビスト(いわゆる“モノ言う株主”)からの強い経営改革要求の中で、会社側の事業分割方針について株主の賛否を問う重大局面を前に、なぜかその分割議論に関与していない後任を据えるトップ人事でした。実に不可解であり、アクティビストからも強い反発を買うことになりました。

 後任の島田太郎社長は、現在の混乱の根源をつくって実質引責辞任した車谷暢昭元社長が招いた社歴の短い外様役員です。独シーメンス社など外資系企業勤務の経歴が長く、本人の口から「東芝でデジタルが分かる最初の社長」との自己紹介的な言葉はあったものの、東芝が置かれた状況を考えるなら、選出した指名委員会から交代タイミングについての説明や人選理由、氏のキャリアにおけるどの部分をもって何を期待したのかについて、具体的かつ詳細な説明があってしかるべきかと思います。

●みずほでも不可解なトップ交代劇

 みずほフィナンシャルグループでも不可解なトップ人事がありました。大きなトラブルを経て新システムに移行したにもかかわらず相次ぐシステム障害が発生し、トップ交代に追い込まれた同社。トラブルが起きた原因の究明を目的とした金融庁の特別検査でその組織風土の問題に言及されるという異例の事態にありながら、組織風土の根源ともいえる旧3行のバランス意識にメスを入れたとはおよそ思えないトップ交代人事には首をかしげたくなります。

 グループのトップに位置する同社の社長に、前任の坂井辰史氏と同じ、旧日本興業銀行出身の木原正裕氏が就任。木原新社長はシステム問題とも直結するグループ最重要部門であるはずのリテール業務経験がないという、この上なく不可思議な人選に思えました。かつ、会長に旧第一勧業銀行出身の今井誠司氏、銀行頭取に旧富士銀行の加藤勝彦氏を配するという、旧3行バランスから抜け出せないトップ人事に収まったのです。

 これが社外取締役で構成される指名委員会が選出した人選だというので、二度驚きました。調べてみると、指名委員会委員長の甲斐中辰夫氏、取締役会議長で指名委員の小林いずみ氏は、ともに今回引責辞任する坂井社長を2018年に選出した際の指名委員でもあります。前回の人選後にその体制下で社会問題化した大トラブルを起こして監督官庁から組織風土の改善を求められていながら、再びリテール業務に疎遠な旧興銀出身者をグループトップに選んでしまうことに問題を感じなかったのだとすれば、彼らこそ指名委員に不適ではないのかとすら思えるところです。

 固有の委員の資質に関する問題点は置くとしても、そもそも社外取締役で構成される指名委員会に、先にも申し上げたように戦略同様企業の浮沈のカギを握るといっても過言ではないトップの人選を一任していいのか、という疑問は強く感じるところです。

 確かに委員会設置会社における社外取締役を中心とした指名委員会による役員人事の決定は、旧来トップ全権での後継や役員指名が当たり前となっていた日本企業のガバナンス強化には、それなりの役割を果たしてきたとはいえるでしょう。

 しかし経営が抱えている、表向きからは見えにくい経営課題や候補者の詳細な人物像などに関して、社外取締役の理解には限界があるのも事実です。一般の役員人事ならまだしも、トップ人事を社外取締役だけで決めることは企業マネジメント上で大きなリスクを抱えることになるのではないかと、東芝やみずほの件から懸念を大きくするところです。

 社長を中心として社内の人間が原案を提示し、社外取締役が戦略方針や喫緊の経営課題に照らしその正当性を吟味する――というのが戦略とガバナンスのバランス上の限界であり、社外取締役に一任することはガバナンスを強化しつつも経営を危うくするリスクをはらんでいるのではないでしょうか。その上で、そのトップ人事決定に至った議論を開示するのが、ステークホルダーや投資家に対する今様の在り方なのではないかと思うのです。

 高度成長期のような右肩上がりな経済を背景にした、誰が経営のかじ取りをしても大きな失敗にはつながらなかった時代とは異なり、さまざまな問題が複雑に絡み合った現代は、経営者の人選そのものが戦略であるとの理解をもって、企業もマスメディアもトップ人事を事細かに開示、報道する姿勢に努めて欲しいと思っています。昨年来東証の求めによって上場企業が取締役のスキル開示に動き出している今、新トップ就任に際してのご祝儀的な人物紹介記事などもういらないと、声を大にして申し上げたいところです。

(大関暁夫)