新型コロナウイルスの流行、原材料費の高騰と世界経済への逆風が続く中、ラグジュアリーブランドが絶好調だ。

 ルイ・ヴィトンやセリーヌ、フェンディ、ティファニーなど名だたるブランドを傘下に持つLVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMHグループ)と、高級バッグのバーキンで知られるエルメスの決算では、中国マーケットの存在感の大きさが鮮明となった。

 高級バッグはロレックスや金のような投資商品の色も帯び、富裕層は頻繁な値上げも「価値が上がる」と歓迎しているようだ。

●エルメス、売り上げの半分超がアジア市場

 エルメスは2022年3月、世界最大のiPhone工場が立地する内陸都市の河南省鄭州市に店舗をオープンした。

 現地メディアの報道によると、オープン日には4時間並ぶ人もおり、店舗の在庫は1日で売り切れた。バーキンを手に入れるために他商品と抱き合わせのセットを購入し、2596万元(約5億円)を払った女性もいたという。

 LVMHグループが4月12日に発表した22年1-3月の決算で、売上高は前年同期比29%増の180億ユーロ(約2兆4000億円)だった。

 地域別に見ると、実は日本マーケットが30%増と、欧州に次いで高い成長率だった。日本を除いたアジアは同8%増にとどまったが、新型コロナの感染が拡大し、中国の吉林や上海など大消費地で行動制限が敷かれたことを考えると健闘したといえる。また、すでにLVMHにとってはアジアが世界最大のマーケットになっており、その大部分が中国だ。

 エルメスが14日発表した22年1-3月の売上高は同33%増の27億6500万ユーロだった(約380億円)。うち日本を除いたアジアの売り上げは14億4700万ユーロと、半分を占めた。

●中国富裕層の資産はGDPの1.6倍

 中国のラグジュアリー消費は10年代から急成長が続くが、コロナ後はさらに加速している。

 コンサルティングのベイン・アンド・カンパニーによると、21年の中国本土のラグジュアリー商品の販売額は前年比36%増の4710億元(約9兆1400億円)。コロナ前の19年(2340億元)から倍増した。25年には米国を抜いて世界最大のマーケットになると予想されている。

 なぜこれほど市場が拡大しているのか。まず、コロナ禍で旅行に行けない高所得者がブランド品を購入していることが挙げられる。中国人の爆買いが世界で注目された15年ごろから、消費者は欧州や日本で高級ブランドを買い求めるようになった。

 中国政府は内需拡大を妨げる消費行動として眉をひそめていたが、コロナによって図らずしも国内での購入に切り替わり、先述したように内陸都市にエルメスが出店するまでになった。

 もう1つの要因は、富裕層の金余りとされる。中国民間シンクタンクの胡潤研究院が今月まとめた富裕層レポートによると、21年の中国の富裕層の資産総額は前年比9.6%増の160兆元(約3100兆円)で、20年の中国国内総生産(GDP)の1.6倍に達した。資産1000万元(約1億9400万円)の富裕層は前年比2%増の206万世帯。1億元(約19億円)の超富裕層は同2.5%増の13万3000世帯で、コロナ禍にもかかわらず増えている。

 中国政府は格差拡大を是正するため、IT企業を叩いて資産の移転を推進するが、感染拡大で行動制限が発動されると、多くの労働者の賃金が減る一方で、富裕層の資産は株高や金融緩和でむしろ増えることになった。

 お金の使い道がない富裕層が、数百万円のバーキンをはじめ、高額消費に走っているわけだが、とりわけ限定品や希少性の高いものは、自身のステータスにつながるという考えも強い。

 中国でヒットしたドラマ「30女の思うこと 〜上海女子物語〜」の主人公は高級ブランドショップの店員で、作中では30代女性がマダムたちのマウンティングに勝つために、シャネルからエルメスにバッグを替えるシーンもある。

●学生やサラリーマンは相手にされない?

 旺盛な需要を背に、ラグジュアリーブランドは値上げも頻繁に行っている。ルイ・ヴィトンが22年2月、皮製品、ファッション小物、香水などを10〜20%値上げすると発表すると、中国人女性はひるむどころか、値上げ前に店舗に駆け込んだ。エルメス、セリーヌも今年1月に値上げし、シャネルも21年11月、今年1月と小刻みに定価を改定した。

 急ピッチで価格が上がると、SNSでは「投資ファンドを買うよりバッグを買った方がいい」との投稿が拡散した。

 定価が上がり続ければ、買ったバッグの資産価値は下がらず、限定版ならむしろプレミアムがつく。量産できないエルメスのバッグは、富裕層にとってロレックスのような投資商品にもなり、値上げすら望むところかもしれない。

 上海のロックダウンが長引き、中国経済の減速は確実視されるが、LVMHのグループのジャン ジャック・ギオニ最高財務責任者は決算発表時のアナリスト説明会で「(最初のコロナショックが起きた)20年の経験から、今回のコロナ禍も中国市場の長期的な需要には影響しないと考えている。一時的に販売が落ちても、落ち着けば顧客はまた買いに来る」と自信を見せた。

 ただ、説明会の出席者によると、20年以降購買点数が増えたのは個人年収1000万元(約1億9000万円)、世帯年収3000万元(約5億7000万円)の超富裕層だけだという。値上げは、学生やサラリーマンのような普通の消費者をふるい落とし、超富裕層だけを相手にするための戦略とも揶揄(やゆ)されている。

【訂正:4/28 13:10 記事初出時に、中国元を日本円に換算した額が一部で誤っておりました。お詫びして訂正いたします。】

(浦上早苗)