事業分割案が臨時株主総会で否決され先行き透明感が増した東芝ですが、今度は「株式非公開化を含めた再編の提案を募集する」という驚きの発表をしました。これは明らかにアクティビスト(物言う株主)たちを意識し、6月の定例株主総会に向けて「透明性の高い開かれた経営」をイメージして対策を講じたものと思われますが、自社の基本戦略を公募するのはいかなる了見なのでしょうか。株主総会対策でアクティビストへの歩み寄りの印象付けを狙う目くらましのように思え、「また出たか、東芝のその場しのぎ策」と筆者は感じました。

 というのもここ数年の東芝迷走は、問題発生時にその都度小手先で策を弄(ろう)し続けてきた社風に依るところが大きい、と思うからです。東芝の失態は2015年の不正会計発覚に端を発していますが、この不正会計自体からさかのぼること7年、トップ主導の小手先で数字をごまかす「チャレンジ」の名の下、多岐部門にわたり総額2200億円を超える巨額の粉飾が行われていたのです。決算悪化による投資家からの批判や責任追及という目の前の難局を逃れる、「その場しのぎ」のコンプライアンス違反に代々トップが手を染めてきたわけです。

 不正発覚後にもさらなる問題が、不正会計の調査体制にありました。中立な立場での調査目的で組成されたはずの第三者委員会が、財務アドバイザリー契約を結んでいたデロイトトーマツの関係者をメンバーに入れ、名ばかりの中立であったという点が大いに禍根を残すことになります。調査範囲を国内事業に絞り込むことで、既に苦境に陥っていた米原発子会社ウエスチングハウス(WH)社を調査対象から外し、ここでも膿を出し切ったフリでさらなる目先優先のその場しのぎで逃げ切りを図ろうとしたことが分かっています。

 同社のその場しのぎはさらに続きます。歴代社長の解任など、取りあえずの粉飾決算の後始末を済ませると、WH社の業績悪化を隠蔽(いんぺい)すべく原発工事会社のストーン・アンド・ウェブスター社を0円で買収し、ひそかに業務立て直しを図るも失敗。逆にこの買収がコストアップ要因となり、WH社は16年に約1兆円もの負債を抱えて米連邦破産法の適用を受けることになるわけです。不正会計で反省したはずの組織は結果、隠蔽体質のまま1兆円に迫る巨額赤字と5500億円の債務超過を計上し経営危機に陥ることになりました。

 この時点で全てをさらけ出し実質破綻してでもその場しのぎ体質を改めたならば、今に至る迷走は避けられたのではないかと思います。しかしそれができない根深い悪しき企業風土から決定的な愚策をとってしまったのが、翌17年決算を目前に2年連連続の債務超過回避を狙った6000億円の第三者割当増資でした。2期連続債務超過による上場廃止を避けたい、目先優先のその場しのぎ体質がここでまたもや頭をもたげたのです。しかし日本勢からは不正会計とその後発覚した巨額赤字に対する不信感が強く、この時点での増資は不可能な状況にありました。

 結果論ではありますが、東芝は生まれ変わるための最大の分岐点を、ここで見失ったといえるでしょう。

 この時点で同社が市場の意見に従って上場廃止を選び、事業売却をはじめとした破綻処理的対応を含めた事業再構築により一からの出直しを図っていたなら、その後の東芝は今ほどひどい迷路に迷い込まなかったのではないかと思うのです。しかし、実際に東芝が選んだ策は、またも目先優先のその場しのぎでした。米ゴールドマンサックスに頼った投資ファンドからの資金調達という、禁断の果実を口にしてしまうことになるわけなのです。

 増資に応じた約60の投資ファンドには、複数のアクティビストが含まれていました。アクティビストたちの目的はただ一つ、投資でより大きなキャピタルゲインを得ることです。彼らの思惑通りに株価が上がってくれるなら、どこかのタイミングで売り抜いて去ってくれるわけですが、それがかなわないなら経営に対して株価を上げるべくさまざまな要求を突き付けてくるのが彼らの常とう手段です。

 しかし東証二部陥落で辛うじて上場廃止を免れた東芝の選択は、おざなりな長期戦略を掲げつつも銀行出身の車谷暢昭氏を迎え財務内容改善に重きを置いて東証一部復帰をめざすという、ここでも目先優先の策だったのです。

 結果、銀行家指揮の下では日本を代表する電機メーカーにふさわしい成長戦略など描けるはずもなく、株価は思うように伸びずアクティビストとの関係は悪化の一途をたどります。車谷東芝はトップ交代を求める姿勢を強める彼らとの対話を避け、自らの保身から株主総会での彼らの提案をしりぞける目的で経済産業省を動かし一部の株主の議決権行使に圧力をかけるという言語道断の愚行に出て、その関係は決定的な悪化に至りました。さらに車谷氏は自身の古巣である関係先ファンドを動かし、買収によるアクティビスト排除を企てたことで火に油を注ぐ形となって、トップの実質解任という最悪の事態を招いたのです。

 この窮地でまた東芝は「暫定」という名のさらなるその場しのぎで綱川智氏を再登板させ、今度は表向きアクティビストの意見を柔軟に聞き入れる姿勢に転じます。これによりアクティビストが推薦した4人を含む5人の社外取締役で構成された戦略委員会が組成され、委員会が提示した事業三分割案を経営が採択するという流れに。事業三分割の是非はともかく、半年に満たない議論では多角的な検討がされたとはとうてい思えず、素人目にも生煮え議論の域を出ていないと感じさせられたのは事実です。

 アクティビスト推薦の社外取締役を中心とした委員会の言いなりで事を進めるならば、アクティビストも文句をいうまいとでも考えたのでしょうか。しかし彼らは東芝が考えるほど甘くはなく、事業分割案に対しては企業価値毀損(きそん)を懸念する声や、「株式非公開化が検討されずに出された結論であり無意味だ」などの批判が相次ぎました。会社側は分割案を三分割から二分割に変更しつつ事業売却による株主還元を積み増す、ご機嫌うかがい的な「忖度(そんたく)」修正案を提示したものの批判をかわすことはできず、事業分割案は臨時株主総会でしりぞけられる憂き目に至りました。その場しのぎに明け暮れた東芝のこの1年は、無駄に時間を浪費しただけといえるでしょう。

 この間のトップ人事に関してもその場しのぎ感はぬぐえません。まず「暫定」でスタートした綱川体制下で事業分割案が検討され、その案の是非を株主に諮る直前にトップ交代がありました。後任は島田太郎氏。新明和工業、シーメンスを経て、銀行家車谷氏に引っ張られてきた外様トップです。悪しき社風を一蹴するのに外様の起用は有効ではありますが、問題は交代のタイミングと経営課題にふさわしい人選であるか否かです。

 一部の株主からも指摘が出ているように、社運を賭けた改革案の信任を諮るタイミングでその案を検討した陣営が退任するというのは無責任ではないか、というのはごもっともです。しかも後任の島田氏は、肝心の事業分割案検討議論にほとんど関わっていない人物。会社サイドは、「リーダーの交代を求める株主の声に応えたもの」と説明していますが、これではアクティビストからの攻めを逃れるための株主総会対策のその場しのぎといわれても仕方のないトップ交代と映ってしまうわけなのです。

 そして「その場しのぎ経営」のダメを押したともいえるのが、事業分割案がしりぞけられた直後に出された冒頭の「再編案求む!」です。もはや東芝経営陣はアクティビストたちに完全に白旗を上げ、自力での企業改革を放棄し「外資の意」に委ねたともとれるこの動きに、長年わが国の発展を支えてきた名門企業にあるまじき判断として大きな落胆を感じざるを得ないところです。

 根深い悪しき企業風土を払拭(ふっしょく)できずに、「目先優先」「その場しのぎ」「忖度」「暫定」を繰り返してきたこの東芝の体たらくには目を覆いたくなるばかりです。この先東芝は一体どうなってしまうのか。今回の再編案募集のきっかけになったともとれる、米ファンドが複数のファンドと組んで東芝の買収を本格的に検討している、という報道が気になります。アクティビストたちに翻弄されつつ「買収→上場廃止→解体→売却→消滅」という末路をたどる姿が現実味を帯びてきた、と私には思えてしまうのですが……。

(大関暁夫)