米国の規制で存亡の危機に直面した中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)が、戦いに勝つための武器として、世界から「天才少年」を招聘すると表明したのは2019年6月。

 以降、同社は破格の待遇で中国のトップ大学から20代の新鋭をかき集めてきた。

 エンジニア争奪戦の激化を背景に、日本でも新卒エンジニアに1000万円を超える年収を用意する企業が登場しているが、ファーウェイで天才少年として採用された人材は最低でも約1500万円、最高ランクだと4000万円の年棒で迎えられる。

 先月、同社は世界に向け「学歴不問、5倍の年収」で天才少年の公募を始めた。今年1月にはロシア人2人を採用しており、日本からも優秀な若手研究者が引っ張られるかもしれない。

●面接7回、新卒でも最低年俸1800万円

 ファーウェイは4月下旬、SNSの公式アカウントで「天才少年」の公募資料を公開した。

 募集するのは数学、コンピューター、物理、マテリアル、チップ、スマートマニュファクチャリング、化学分野の理系人材で、国籍は問わない。

 学歴も不問だが、「価値の高い研究成果・論文・特許」「トップレベルの研究室・選抜チーム出身」「国際トップレベルの大会で入賞」などの実績がある者は採用プロセスで加点される。

 天才少年枠で採用された人材は「世界レベルの挑みがいのあるテーマ」「素晴らしい指導者」「グローバルな視野とプラットフォーム、リソース」、そして「5倍の年収」が提供されるという。

 数日後に開かれたアナリスト向けのイベントで、ファーウェイの胡厚崑(ケン・フー)輪番会長は、「5倍は何の5倍かと話題になっていますが、ご想像にお任せします」と言葉を濁したが、天才少年の報酬は社内文書などである程度明らかになっている。

 これまでの採用者の年棒は、以下のように3ランクに分かれている。

・Aランク:182万〜201万元(約3600〜3900万円)

・Bランク:140.5万〜156.5万元(約2800〜3100万円)

・Cランク:89.6万元〜100.8万元(約1800〜約2000万円)

 円安が急激に進んでいるため円換算の金額は直近3年で2〜3割膨らんでいるが、ともあれ、最低でも1800万円、最高ランクの人材は4000万円近い年棒が約束される。ただ内定を得るには技術部門から創業者の任CEOまで7回の面接を突破しなければならない。

●「天才少年」、実際は院卒の20代

 「天才少年」は19年6月、任CEO自ら発案したプロジェクトだ。その際、世界と戦うための武器であり、組織を活性化するための「ドジョウ」でもあると説明された。

 後日、第1陣の内定者の氏名と年俸が記された社内文書が流出すると、各人材の輝かしい経歴と高年俸が注目された。一部の大学は、学生が天才少年として採用されると「成果」として発表するようになり、その都度広く報道されてきた。

 プロジェクト名は「少年」であるものの、これまで判明した約20人の天才少年のほとんどが修士、博士過程を修了した20代半ばから後半の研究者であり、他社からの転職組もいる。

 実名が判明している人材の出身大学は、華中科技大学が5人、北京大学、武漢大学、西安交通大学が各2人、清華大学、中国科技大学、四川大学、中国科学院大学、中国科学院自動化研究所、香港科技大学、復旦大学が各1人となっている。

 また、ファーウェイが採用した天才少年は約20人と見られてきたが、同社は今年3月末の決算発表会で「20、21年に約2万6000人の新卒を採用し、天才少年も300人入社した」と初めて具体的な人数を明らかにした。

 ライバル企業や外資系企業からひっそりと移籍してくる「天才少年」が、かなりの数に上るのかもしれない。

●天才プログラマー、発明インフルエンサー……

 実名が報道された「天才少年」は、中国版Wikipediaの「百度百科」に略歴や写真も掲載され、ほとんど公人扱いになっている。

 今年入社した林田氏は復旦大学の博士課程でITを研究、19年に海外の著名学術誌に論文を発表しており、ファーウェイは林氏の所属研究室と共同プロジェクトを立ち上げるなど在学中から支援してきた。いわば有望研究者の青田買いで、林氏はファーウェイ入社後は5G分野の研究開発に従事するという。

 20年に入社した彭志輝氏は電子科技大学で18年に修士号を取得後、スマホメーカー大手OPPOの研究所でアルゴリズムを研究していた。同氏は動画配信プラットフォーム「bilibili(ビリビリ)」で約190万人のフォロワーを持つインフルエンサー「稚暉君」でもあり、無人で走行する自動運転「自転車」など、AIを使った数々の発明を披露しているほか、ファーウェイのイベントでも、インフルエンサー社員として登壇している。

 今年1月にはロシア人2人が、天才少年枠でファーウェイに入社した。プログラミングのオリンピックと呼ばれる「国際大学対抗プログラミングコンテスト(ICPC)」の20年大会優勝メンバーであるヴァレリア・リャブチコワ氏(22)と、その後輩(恋人ともいわれている)のイリヤ・フリュストフ氏(20)だ。

 リャブチコワ氏は学生時代からファーウェイと交流があり、ICPC2020で優勝(21年10月)した2カ月後に入社し、現在はロシアの研究所でアルゴリズムや機械学習の研究を行っているという。

 ファーウェイはこれまで、関係の深いトップ大学や学会、協賛する大会などを通じて、「天才少年」に目を付け、招聘してきたと思われる。今回、「学歴不問」で世界に向けて人材を公募したのは、同社がリーチしきれていない「天才」「異才」を広く探し求める狙いがあるのだろう。

 ファーウェイはこれまでも、海外のトップレベルの研究者を招聘するために、その国に研究施設を設立しチームごと招き入れるなど、人材獲得に異常なほどの熱意を注いできた。年内に日本も含めた先進国からの「天才少年採用」が生まれるかもしれない。

●筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。