コロナ禍をきっかけに日常的に“助成金”という言葉を聞くことが多くなりました。この助成金の中で最も知られているのが、「雇用調整助成金」だと思います。

 簡単に解説すると、例えば工場で原材料が輸入できなくなり製造ラインを停止する場合、会社は労働者に与える仕事がなくなるので自宅待機を命じることになるでしょう。その場合でも会社は一定の給与(休業手当)を支払う義務が法的にあります。すぐに原材料が入ってくれば良いですが、先行きが不透明なときは、ずっと休業手当を負担し続けるわけにもいかないので解雇しようという判断になります。

 解雇された労働者を他社が雇用するのであれば良いのですが、災害時のような環境下では受け皿が不足するので、そのまま失業者となってしまいます。

 解雇を思いとどまらせるために「会社が支払った休業手当を助成金で応援してあげましょう」というのが雇用調整助成金です。これにより労働者は雇用を守られ、会社も育成した労働者を流出させずにすみます。

●202年4月にリニューアル もともとの形からどう変わった?

 雇用調整助成金は、労働者に失業回避というメリットをもたらすとともに、会社にも一定のスキルを持った労働者を繁忙期に備えて確保できるという大きなメリットがあるため、極めて厳格に運用されていました。

 ただ、コロナ禍という特殊な環境下において、失業回避への取り組みの重要性が増しました。そのため「緊急対応期間」を定め、提出書類の簡素化、申請ルールの緩和、助成額の増額などの措置を講じ、会社にとって使い勝手の良いものに作り変えられました。

 現時点で「緊急対応期間」については、2022年6月30日までの延長が確定しているものの、さらに期間が伸びる見込みです。

●4月以降の雇用調整助成金、3つの変更点とは

 厚生労働省の発表によると、雇用調整助成金はコロナ蔓延後で494万6318件の申請があり、約5兆2000億円もの支給決定がなされています(22年5月6日時点)。

 財源の枯渇が問題視される一方、ワクチン接種などで事業活動も元の状態に戻りつつあることから、日額上限額の見直しが実施され、さらに多くの不正受給が発覚している状況を踏まえて、22年4月以降は運用の厳格化にも取り組むことになりました。

 既に発表されている22年4月以降の休業にかかる申請から適用される変更点は以下の3つです。

1. 業況特例における業況の確認を毎回(判定基礎期間ごと※1ヶ月単位)実施

2. 最新の賃金総額(21年度の確定保険料)から平均賃金額を計算

3. 休業対象労働者を確認できる書類および休業手当の支払いが確認できる書類の提出

 それでは一つずつ確認していきましょう。

●1. 業況特例における業況の確認を毎回(判定基礎期間ごと※1ヶ月単位)実施

 22年3月以降の1日当たりの助成額の上限は、9000円と定められています。ただし、まだ事業活動が本来の形に程遠い会社もあるため、売り上げなどがコロナ前と比較して30%以上減少している会社は、業況特例として上限が1万5000円に引き上げられています。

 今まで業況特例は、一度だけ確認されるとそれ以降の申請は全て業況特例として申請可能でした。しかし、例えば2年前に行われた確認がずっと有効というのは実態にそぐわないため、今後は申請のたびに確認しましょうというのがこの項目の目的です。

 この毎回確認は、22年4月1日以降に初日がある判定基礎期間の申請からですから、給与の締め日に応じてスタート時期は以下のようになります。

・給与の締め日が月末の会社⇒4月1日〜30日の判定基礎期間の申請分から

・給与の締め日が20日の会社⇒4月21日〜5月20日の判定基礎期間の申請分から

 また業況特例は前年、前々年、3年前のいずれかと比較して30%以上売上などが減少しているかで確認します。例えば、22年4月中に初日がある判定基礎期間の申請は以下の通り、2〜4月の数字を使います。

 翌月以降は、3〜5月、4〜6月と1カ月ずつ後ろ倒しにしていきますので、19年2月から月ごとの売上を一覧表にまとめておくと確認が楽になるでしょう。

●2. 最新の賃金総額(21年度の確定保険料)から平均賃金額を計算

 雇用調整助成金の1日当たりの助成額は、助成金を使い始めたときの前年度(または前々年度)の年間の賃金総額から1日当たりの平均金額を算出して、その金額に助成率をかけて決めます(小規模事業主は、実際に支払った休業手当などの額により助成額の算定を行うことが可能です)。

 例えば、20年4月に雇用調整助成金を利用し始めた会社は、19年度の賃金総額を基に平均賃金を算出しており、一度算出した平均賃金は変更しないルールのため、22年においても19年度の賃金総額を根拠とした平均賃金を使い続けています。

 これでは、実態との乖離(かいり)が生じてしまいますので、改めて最新の賃金総額から平均賃金を計算し直しましょうというのがこの項目の目的です。

 賃金総額は“労働保険確定保険料申告書”の数字を使うのですが、下記の流れになります。

・21年度の労働保険確定保険料申告書を22年6月1日〜7月11日の間に申告

・申告書の受理日以降の申請からこの申告に用いた最新の賃金総額を適用

 仮に労働保険料の申告書を6月20日に提出した場合、以下の通りです。

・6月19日までの助成金申請は、古い平均賃金を適用

・6月20日以降の助成金申請は、新しい平均賃金を適用

 平均賃金は助成額に直接影響しますので、新旧どちらの平均賃金が高いかをあらかじめ確認して、申請のタイミングを調整すると良いでしょう。

 また、所得税徴収高計算書で平均賃金を算定している会社では、21年4月以降で最も平均賃金が高くなる月のものを使用しましょう。

●3. 休業対象労働者を確認できる書類および休業手当の支払いが確認できる書類の提出

 雇用調整助成金は、支給の迅速化のため緊急対応期間を設けて添付書類などを軽減しましたが、副作用として不正受給が増え20年9月〜21年12月末までで支給取消となった件数は261件、金額にして約32.3億円(緊急雇用安定助成金含む)と発表されています。

 主な不正の例として以下のようなものがあります。

・雇用関係のない者を雇用関係があるとした

・休業の実態がないのに休業したとした

・休業手当を支払った事実がないのに支払ったこととした

 これらの不正を予防することが、この項目の目的で以下のAおよびBの書類の写しの添付が毎回、必要になります。

A:源泉所得税の直近の納付を確認できる書類

 給与所得・退職所得などの所得税徴収高計算書の領収日印があるものや、納付を確認できる領収日印があるものなどが必要です。

B:給与振込を確認できる書類

 給与振込依頼書や給与支払いを確認できる通帳などが該当します。手渡し現金払いの労働者がいる場合は会社名・金額・氏名(労働者の直筆)・住所・電話番号・受領日を明記した領収証が必要です。

 迅速支給の観点から雇用保険の適用が1年以上の事業主については添付不要となっていますが、審査段階で提出を求められる場合があります。特に給与を現金で手渡ししている場合、Bの要件を満たすような受領証にしておきましょう。

 適用は、業況特例における業況の毎回確認と同様に、22年4月1日以降に初日がある判定基礎期間の申請から適用されます。

 今の緊急対応期間はいつか終わりますし、ちょっとしたルール変更の都度、申請書の書式が変わりますので、常に厚生労働省のホームページで最新の情報を確認するようにしましょう。