海外投資家にとって、日本企業はESGの面においてグローバル企業に後れを取っているとしばしば認識されていますが、この認識はいくつかの分野においてはすでに過去のものになっています。

 海外の投資家と話していると、日本企業の気候変動への取り組みが過小評価されていることに気づかされます。日本企業は気候変動への取り組みが遅れているというのが彼らの見解です。日本企業の開示姿勢が欧米諸国に比べて消極的であることも一因だと考えられます。

 例えば、時価総額10億米ドル以上の企業のうち、温暖化ガス排出量について、日本企業は半分以上の企業が開示していませんが、欧州企業の場合その割合は3割未満です。日本のような暗黙の了解が前提の文化において、企業はその取り組みについてこれまで細かく公表することは必要とされてませんでした。ただ、気候変動という地球規模の共通課題に直面する中で、近年は日本企業の姿勢も変わってきており、対話の現場でも開示のあり方について積極的に質問を受けるようになりました。

 日本企業は、実は世界の中ではむしろ優等生であるというのが当社の認識です。例えば、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のサポーターの数やカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)のA評価の企業数は日本が世界で一番多い水準にあります。また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、企業が保有する特許の分析をもとに、日本企業の気候変動に対する適応力は諸外国に比べて高いと報告しています。こうした日本企業本来の気候変動への積極的な取り組みは、開示の広がりとともに今後広く一般に知られていくと見込まれます。

●ダイバーシティ(多様性)は改善途上

 一方、文字通り日本企業が出遅れている領域は、ダイバーシティです。よくいわれるところですが、例えば、2018年の日本企業の管理職に占める女性の割合は15%となっており、米国の41%や英国の36%と比べて大きく見劣りします。また、企業におけるさまざまなオポチュニティの不平等の集約ともいえる男女間の賃金格差(gender pay gap)についても、OECD加盟国37カ国中直近では下から3番目となっています。ここまで差が大きいと、個別企業の課題というより、社会全体の課題として捉える必要があると考えられます。

 もちろん、政府も指をくわえてみているわけではなく、積極的に政策を打ち出しています。女性活躍はアベノミクスの成長戦略の中でも中核と位置付けられ、安倍政権のもと女性の就業率はこの10年で11%上昇し、7割超という就業率は欧米と比べてもそん色ない水準にまで改善しました。20年の改正女性活躍推進法の下では、実に1万7000社以上の企業が女性活躍行動計画を公表しており、改善に向けて取り組んでいます。経団連も、女性役員の比率を30年までに30%以上にするという目標を掲げています。こうした官民挙げての取り組みは、今後もさらに加速することが期待されます。

 ダイバーシティを語る上では、中途人材の活用も大きなテーマです。日本では、終身雇用の慣習の下、従業員は一度就職した会社を自ら辞めることは稀でした。終身雇用は従業員の企業への帰属意識を高めるなど利点もありますが、一方で雇用が固定化しているために、企業は人材の獲得競争をする必要がなく、結果として消極的な人材投資、ひいては労働生産性の低迷を呼び起こしていました。19年の日本の労働生産性はOECD加盟37カ国中21位となりましたが、少なくとも1970年以降一貫して20位付近で低迷を続けており、日本経済を語る上での代表的な課題です。

 しかし、新型コロナウイルス感染症が発端となった働き方の変化が、日本の労働生産性の改善という歴史的な転換点をもたらす可能性があると期待されます。ジョブ型雇用の拡大、働く場所や時間の制約からの解放は転職を容易にし、今後労働市場は活性化していくと見込まれます。企業は優秀な人材を確保・獲得するために人材投資に力を入れることが期待されます。

 新型コロナウイルス感染症や気候変動などますます先行きに対する不透明感が高まる中で、企業が経営判断を下すためには強い推進力が求められます。選択肢を見極める力、時として撤退する決断力を持つための、単一文化から外れた視点、多様性が今後は日本企業にとって新たな武器となるでしょう。

●ガバナンス(企業統治)改革は進行中

 2015年に最初に制定されたコーポレートガバナンスコードがコンプライ・オア・エクスプレインによる原則主義をとったことは大きな成功です。上場規則や法令で縛ればその瞬間に可か不可が発生するだけであり、そこに企業と投資家の対話の余地はありません。コードによる原則主義を採用したことで、企業による考え方と株主の投資家の考え方が交錯することとなり、その結果、互いがそれぞれの立場で建設的に対話をする機会の増大につながりました。

 筆者は米国での株式投資経験を経て11年に日本に帰国しましたが、米国での取材現場は、企業を売り込もうするIRと企業価値を見極めようとする投資家との戦いという緊張感に包まれていました。帰国後10年の間に日本でも同様の緊張感が投資家と企業の対話の中に生まれてきたことは、今まさに現場で実感しているところであります。東証の市場構造改革やTOPIXの見直しなど、注目のガバナンス改革が進行中であり、日本企業を取り巻く様々な環境の変化からは目が離せません。

(フィデリティ投信 井川 智洋)