楽天モバイルは5月13日に、データ通信量1Gバイトまで無料としていた「Rakuten UN-LIMIT VI」を、最低でも1078円(税抜980円)からの「Rakuten UN-LIMIT VII」へと移行させることを発表。新規顧客獲得を狙ったゼロ円戦略は1年余りで幕を閉じることとなった。

 新プランへの移行は通信エリアや品質改善を背景に、楽天グループが提供する他サービスとのシナジーや、楽天市場で利用できるポイントへの還元率を高めた新サービスへと移行させていくことが目的だったと推察できる。

 ライバルがahamo、povo、LINEMOと、魅力的な価格のサブブランドを開始している中、同社としては事業のベースとなる顧客獲得を行う時期から、主回線としても選んでもらえるブランドへの転換を行う上で、かなり前向きな戦略として練り込んできたと思われる。

 実際に日常的に利用する回線として比較した場合、楽天モバイルは現在も“最もお得である”との訴求も忘れてはいないが、一方でこれまで“ゼロ円での回線維持”をしてきたユーザーからは不満の声が挙がっている。

 しかしゼロ円回線の撤回は、ゼロ円維持が可能な「Rakuten UN-LIMIT VI」の契約を持っているユーザーだけでなく、楽天モバイル自身にとっても事業戦略の変更を迫られる想定外の事態だ。

●段階的な「収益体質改善」のハズが……

 ゼロ円維持が可能になったのは昨年4月からのこと。筆者も当時、iPad用のデータ通信回線用に「Rakuten UN-LIMIT VI」を契約した。

 日常的には使わない通信モデム用の契約や、あるいは子供向けに通信量・アプリを管理しながら使わせている場合、他の主回線契約で通信量上限に達した時のバックアップ用など“維持費がゼロ”ということを理由に、このタイミングで楽天モバイルと契約、あるいは一部の契約を切り替えたという例は多いだろう。

 回線維持にコストがかかるのは当然で、そのために最低利用料金が設定されることに抵抗はないが、それでも「使わない場合、無料になるなら」と気軽に契約した回線は、eSIM対応端末が進んできたこともあって決して少なくないだろう。

 維持費無料が前提で契約した消費者が、維持費の有料化で離れてしまうのはある意味、当たり前のことで、発表後にSNSなどで怒りの声が上がっていることに違和感はない。

 楽天モバイル会長の三木谷浩史氏も、既存利用者は維持費無料のまま継続利用をさせたいと考えていたようだが「電気通信事業法による制約」(三木谷氏)で、「Rakuten UN-LIMIT VI」ユーザーも自動的に1078円からの「Rakuten UN-LIMIT VII」へと移行されることになってしまった。

 新たに電波帯域が割り当てられた新規参入事業者である同社は、他社ネットワークのMVNO事業から自社ネットワークへの移行を、自社ネットワークの整備状況に応じて段階的に進めてきた。

 「Rakuten UN-LIMIT VI」も、そうした段階的な整備の中の一つにあった戦略で、維持費ゼロ円で使い始めてもらい、通信エリアや速度がどの程度改善してきているかを実感してもらうことが目的だった。

 つまり、「いずれは主回線として使ってもらえる」──そんな自信を持って維持費無料プランの提供を開始したと考えられる。

●新規顧客獲得の「予算見直し」が必須に

 契約回線維持コストはゼロではない。まして1Gバイトまで無料だったのだから、そこまでのコストは新規顧客獲得費用として、楽天モバイル内部では捉えていたのではないだろうか。

 携帯電話利用者の総数が増えない中で、主回線として新しい通信事業者が顧客を獲得するのは難しいからだ。

 維持費ゼロ円でまずは顧客になってもらい、あとは楽天グループのサービス連携やポイントアップ、通信回線品質の改善で“実際にお金を払ってくれる顧客へ”と移行してもらうはずだった。ここで顧客が離れてしまえば、ここまで1年あまり続けてきた維持費ゼロ円を提供するために計上していた予算も無駄に終わってしまう。

 楽天モバイルも、新しいプランである「Rakuten UN-LIMIT VII」への移行に際して、始めの2カ月は1Gバイト未満無料、さらに2カ月はポイント還元を強化するなど、よりお得なプランになるよう発表までに調整していたあとが伺える。このように、ポイントなどで“よりお得”にするための原資を増やさねばならないのも、維持費ゼロ円をやめねばならないため。

 つまり、維持費ゼロ円の回線を全廃せねばならないことは、楽天モバイルにとっても大きな痛手、想定外のことだ。

 楽天モバイルは顧客引き止めのために行う、月額相当額のポイント還元も、2カ月が最大。継続的にポイント還元することで、「見かけ上、ゼロ円維持することはできないのか?」という声もあるようだ。

 しかし楽天ポイントはIFRS基準で処理されるため、基本料に相当する金額を売上金から控除しなければならない。すると現在、維持費無料で契約されている回線に、980円を掛けた金額が、毎月、売上から控除されることになる。この処理を長期に渡って継続することは困難だ。

 楽天モバイルとしては、今回のプラン提示が限界だったのではないだろうか。

●“第一選択肢”になるきっかけ 携帯電話事業者としての転換期か

 もっとも、維持費無料でもいいから試してほしいと編み出された「Rakuten UN-LIMIT VI」から1年以上、楽天グループのサービスなどと連携してお得を演出しつつ、主回線として選んでもらえる自信を反映しての「Rakuten UN-LIMIT VII」なのかもしれない。だとしたら、維持費ゼロ円の契約がなくなることは、同社にとって長期的にプラスに働く可能性もある。

 いずれにしても、新規顧客を獲得するため、どう予算を配分して戦略的に利用者を増やしていくか──という流れの中で、今回の件は想定外の事態ではあるのだろう。

 しかし、維持費ゼロ円を廃止するタイミングの現在は、同社にとっても転換期だ。

 楽天モバイルには、“維持費ゼロ円ではなくなる”ことを十分にユーザーに告知し、正しい選択が行えるような情報発信を求めたい。しかし、一方でこれを“携帯電話事業者として第1選択肢になる”きっかけとして、回線の充実が進むのであれば、同社にとって長期的に、良い機会となるかもしれない。

●著者紹介:本田雅一

ジャーナリスト、コラムニスト。

スマホ、PC、EVなどテック製品、情報セキュリテイと密接に絡む社会問題やネット社会のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジー、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析・執筆。

50歳にして体脂肪率40%オーバーから15%まで落としたまま維持を続ける健康ダイエット成功者でもある。ワタナベエンターテインメント所属。