思想家/人権ハクティビストの落合渉悟氏は、このたび書籍『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』を5月21日に上梓する。Web3技術による新たな世界構築の可能性を探る一冊。本の対談と付録で協力した星暁雄が本書を紹介する。

 民主主義のためのデジタルツール「Alga」が登場した。フリーで提供し、スマートフォンから誰でも使うことができる。Algaは、マイクロパブリック――町内会、PTA、マンション管理組合のような小さな公共団体の自治をより効率的にし、より公正な民主主義を適用するツールだ。難民キャンプのような緊急に作られたコミュニティの自治も想定している。

●ブロックチェーンをフル活用する民主主義ツール

 Algaを使うことで、議題を提案し、ファシリテーターや専門家を交えた熟議を経て公正なオンライン投票を実施し、不正のない予算執行に結びつけることができる。

 Algaは、ブロックチェーン技術をフル活用することで不正をゼロにし、最も公正な民主主義を実現するためのツールとして作られた。Algaを導入したマイクロパブリックでは、Algaの仕組みにより横領はできず、腐敗も起きず、自治のコストは下がる。より効率的でより公正な民主主義を実現するために、ブロックチェーンの能力をフル活用しているのである。

 Algaの背後にある考え方は「熟議民主主義」だ。民主主義をより公正にするための政治学の研究から生まれた概念である。エリートによる専制でも、プロパガンダに左右されるポピュリズムでもなく、少数の市民代表による熟議を経て投票で決めるやり方だ。議案ごとに公正な抽選で選ばれた市民代表が、ファシリテーターのもと、立場の異なる複数の専門家の知識を得ながら熟議を行い、投票により結果を決める。このような「討論型世論調査」は、すでに複数の国で試験的に導入されて実績を挙げている。Algaは、この熟議民主主義をデジタルの力でより効率的に実現する。

 Algaが実現する熟議民主主義では、社会のエリート層の考えでも、資本を持つ人の考えでもなく、ランダムに選ばれた市民の代表が物事を決める。といっても、ポピュリズムにひっぱられる人気投票にならない仕組みを用意してある。複数の意見を持つ専門家の意見をインプットとする熟議のプロセスが必ず入る。普通の市民たちが真剣に考え、結論を出し、その結果を積み重ねていくこと――それがAlgaが目指す姿だ。

 Algaが使われていくことで、やがて熟議民主主義に基づく小さな“公共圏"がたくさん登場し、網の目のように相互につながっていく。単細胞動物が集まって群体を作るように、こうした公共圏の集まりはやがて“メタ国家"を形成していくだろう――。このような“メタ国家"で、人々は熟議と民主的な決定、つまり政治参加に親しんでいく。そのことは、現実の国家をより良くしていく作用をもたらすだろう。

●技術で人権を守る

 そして、Algaにとって民主主義と並ぶ重要なテーマが「人権」だ。民主主義は人権の不可欠なパーツであり、そして人権は民主主義による自治/政治のゴールといえる。私たちの公共圏は、究極的には私たち全員の人権を守り、人権状況を改善するために存在しているからだ。

 著者はブロックチェーンエンジニアであり大阪大学大学院の研究員でもあるが、この本での肩書きは「思想家/人権ハクティビスト」だ。ハクティビストとは、ハッカー+アクティビスト(活動家)、つまりデジタルの力で社会に影響力を行使しようとする人々を指す言葉だ。著者はこの肩書きにより、技術を駆使しながら、合法的に社会を改善して人権を守り、人権状況を改善する目的で活動していることを示そうとしている。

 この本の構成について少し触れておきたい。実は、本書は普通の思想書やビジネス書とはかなり肌触りが異なっている。本書の前半は、Algaを作った著者の肉声で、Algaへの、新しい民主主義への思いを語っている。ここは、いわば読者自身が著者と一体となって思考過程を体験するパート、ゲームでいうなら「主観」による冒険の場面だ。

 そして本書後半では有識者との対談を通して、そして付録では用語集や著者によるTEDx講演の採録を通して、Algaの背景に関する知識が記されている。ここはゲームでいうなら世界の謎を解くヒントを「客観」的に見ていくパートだ。

 巻末には、詩人・谷川俊太郎による「わかりやすい世界人権宣言」を収録している。人権が非常に重要なアイデアであることを、実際に読んでもらうことで確かめてほしい。

 小さな、しかし真の民主主義で運営されるマイクロパブリック、すなわち小さな公共圏が網の目のようにつながり、世界を覆い、社会を改善していく――そのようなビジョンを持つ人々が少しずつ増えている。自分たちの身近な領域から、真の民主主義を実現していこう。