楽天モバイルが新しい料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を5月13日に発表した。従来の1Gバイトまで0円を廃止し、有料化される。新プランには7月1日から自動で移行することが明らかになった。

 これを好機と、KDDIとソフトバンクは楽天モバイルのライトユーザーの刈り取りを開始。キャンペーンなどで乗り換えを促進している。しかし、ではなぜ楽天モバイルは「0円廃止」に追い込まれたのだろうか。

 これまで0円で使ってきたユーザーは、10月まではキャッシュバック、ポイントバックがあるとはいえ、11月からは最低でも1078円を支払わなくてはならない。ユーザーにはすでにメールでお知らせが届いているが、こうした話題やメールに気づかないユーザーがいるかもしれず、実際に引き落としが始まる9月以降、また炎上が起こるかもしれない。

 この楽天モバイルの発表後、他社のオンライン専用プランやサブブランドで、新規・MNPの契約数が急激に増えた。まず18日に、KDDIのオンライン専用ブランド「povo2.0」の申し込みが、以前と比べて2.5倍になったという報道があった。20日には、KDDIと沖縄セルラーがpovo2.0の対応端末に「Rakuten BIG s」と「Rakuten Hand 5G」を追加している。これは、楽天モバイル専用端末のユーザーが、楽天を解約して移行してくるのを念頭においたものだ。

 またソフトバンクは20日から、こちらもオンライン専用ブランド「LINEMO」で「ミニプラン基本料半年間実質無料キャンペーン」を開始した。このキャンペーン開始を通知するメールには、楽天モバイルがRakuten UN-LIMIT VIIを発表した5月13日以降、LINEMOの新規契約が急増し、先月の同じ週末と比較すると「MNP全体で2倍以上、特に「ミニプラン」でのMNPが2.6倍以上に増えた」との記載があった。

 ちなみにソフトバンクによると、MNPでY!mobileに移行してくる人も1.5倍になったという。

●楽天を狩場とするKDDIとソフトバンク

 楽天モバイルの0円停止で、早速ユーザーは他社の低料金プランに移行し始め、KDDI、ソフトバンクはその獲得に動いている。

 とはいえ、0円を魅力に感じて楽天モバイルを使っていたユーザーが他社に移行したからといって、急に大量のデータを使うようになるわけではないだろう。事業者にとって上顧客にならない可能性の方が高い。

 それでも、2ブランドは楽天モバイルとは異なる。povo2.0もLINEMOも、ずっと無料で使えるわけではない。povo2.0は基本料こそ0円だが、180日間以上有料トッピングの購入がない場合、利用停止、契約解除となることがある。買い物やサービスの利用でギガがもらえる「#ギガ活」もせずに0円0Gバイトのときは、送受信最大128kbpsとなり、いざというときのための回線として維持しておくにはいいが、快適には使えない。

 LINEMOの今回のキャンペーンは、MNPで契約するとPayPayポイント990円相当が最大6カ月間、毎月プレゼントされるというものだ。ミニプランは6カ月間実質無料になるが、それ以降は990円の月額料金が課金される。「UN-LIMIT VI」のように、ずっと0円ではない。

 さらに、2ブランドには高額なローミングコストがあるわけでもない。楽天の三木谷浩史氏は、決算説明会の度にKDDIのローミング費用が高いと発言していた。楽天モバイルの契約者数が増加するのに伴って、ローミング費用も増加しており、契約者を増やしたいのに思い切って獲得に注力できないという状態だった。

 このローミングコストを減らすため、楽天モバイルは自社エリア拡大を急いだが、そのために設備投資も増えている。当初、総務省に提出した開設計画では、6000億円で2026年3月までに基地局を約2万7000局建設し、人口カバー率96%を達成するというものだった。それが、22年4月末時点で4万4000局を建設し、22年4月時点で人口カバー率97%超を達成、年末には99%に近づくとしている。計画が4年前倒しされた格好だが、設備投資額も30〜40%ほど増えると予想していて、7800億から8400億円に膨らむ計算になる。

 楽天は当初の事業計画を大きく変えたが、他キャリアにそうした動きはない。計画通り、今後、5Gエリアが広がり、5Gならではの魅力的なサービスが登場してくれば、小容量ユーザーもデータ使用量が増えていく可能性もある。ユーザーが定着してくれれば、非通信サービスの利用も期待できる。自社経済圏を循環する顧客を増やすために、ユーザー獲得に動くのは当然のことといえる。

●大手キャリアの大幅値下げという想定外

 楽天もモバイルのユーザーを増やして楽天経済圏に取り込む戦略は、新規参入だったがゆえに、さまざまな想定外が起き、計画通りに進まなかった節がある。

 当初、MNOの楽天モバイルは19年10月のサービス開始を予定していたが、基地局の整備が追いつかず、5000人のユーザーに限定した「無料サポータープログラム」という、実証実験の延長のような形で始まった。当初は、基地局建設がそこまで難しいと予想していなかったのではないか。

 また、4G用に割り当てられた周波数が1.7GHz帯の1波だけではエリア構築が難しいのではないかと指摘されたとき、当時の山田善久社長は「(1.7GHz帯は)結構つながる」と回答し、大きな問題はないという考えを示していた。それが、エリア拡大に苦慮することになってからは、プラチナバンドを要求している。

 菅義偉前総理大臣と武田良太前総務大臣の、大手MNOメインブランドでの値下げ要請も大きな想定外だっただろう。各社が楽天モバイルと同じ価格レベルのオンライン専用ブランドを提供し始め、エリアは狭くとも圧倒的に低料金という楽天モバイルの魅力が低下してしまうことになった。そこで、0円で提供する予定はなかったのに、無理をして0円からのプラン、UN-LIMIT VIを導入したように今では思える。

 エリア構築のコストがかさみ、赤字も想定以上に大きくなっているはずだ。楽天モバイルは23年に単月黒字化を目指しているが、それを達成するためには、0円プランを続けていく余裕がなくなったと見られる。

 なお、0円を廃止するにあたって、「電気通信事業法に抵触するおそれがあった」という楽天側のコメントがあるが、これは0円有りのプランと無しのプランを「並行して」提供することが問題だと楽天自身が判断したからで、0円から始まるプラン自体が問題なのではない(実際、KDDIはpovo2.0で0円からのプランを続ける)。「0円でずっと使われても困る」という三木谷氏の発言こそ、まさしく正直な本音であると思われる。

(房野麻子)