小売り業において立地は最も重要な要素で、立地商売ともいわれます。日本だけでなく、世界の中でも最高かつ憧れの立地の代表格は、東京・銀座でしょう。「いつかは銀座」と夢見る企業も多いです。

 その銀座に、最近は“銀座らしくない”企業が新規出店するようになっています。銀座に何が起きているのか。そして、銀座にこだわる理由は何なのか。小売り・サービス業のコンサルティングを30年間続けてきたムガマエ株式会社代表の岩崎剛幸が分析していきます。

●“銀座らしくない”店舗が続々オープン

 ワークマンは4月末に「#ワークマン女子」の旗艦店を銀座にオープンしました。ラグジュアリーブランドが多数入る「GINZA SIX」の向かい側、商業施設「イグジットメルサ」5階がその出店立地です。売り場面積は約92坪。カジュアルウェアやテント用品などのアウトドア系テイストの強い業態である#ワークマン女子の出店ということを差し引いても、「あのワークマンが銀座に?」と私は驚きました。

 #ワークマン女子と「WORKMAN Plus」の女性向け業態は、同社の中でも非常に業績が良いです。2023年3月期には品ぞろえと生産量を拡大し、女性専用商品の売上高を前期比160%の140億円に持っていく予定です。勢いのあるワークマンだけに、銀座店は年商5億〜6億円目標と設定。1店舗当たり平均1億2000万円の売り上げという同社の中で、銀座店が一番店になるのは間違いないでしょう。

 実際に平日の昼間にどの程度の利用客がいるのか視察に行きましたが、想像以上の数に驚きました。レジにも行列ができていて、客層は20〜70代ぐらいまでとかなり幅広い印象でした。デベロッパーとしてみたら、ビルの5階という上層階にワークマンが入ったことで回遊性が高まり、シャワー効果(上からシャワーを降らすように顧客が降りてくるような仕掛け)の役割もきちんと果たしていました。

 これほど集客してくれるなら、家賃をある程度低く設定しても、十分に元はとれるでしょう。

 銀座店の家賃比率は売り上げ比で4%程度ということですから、およそ年間2000万〜2400万円でしょう。月坪換算で2万1000円なので、銀座の坪当たり平均賃料よりは低い賃料で出店していると推測されます。それでもこれだけの集客ですので、お互いにWin-Winの関係となっているといえます。

 近隣にはユニクロとジーユーの旗艦店もあります。周辺はカジュアルSPA(製造小売り)店舗がひしめいているため、カジュアル商品の買い回りがしやすいエリアが銀座に誕生したことになります。

 しかし、驚くのはこれだけでありませんでした。100円ショップのダイソーやセリア、300円ショップの3coins(スリーコインズ)も銀座に相次いで出店しています。

 先鞭をつけたのは100円ショップの「ワッツ」。今から1年以上前となる21年3月、商業施設「メルサ銀座2丁目店」にオープンしました(同施設は22年8月に閉館予定)。

 大創産業は4月中旬、商業施設「マロニエゲート銀座2」に、ダイソーのグローバル旗艦店、300円ショップ業態「スタンダードプロダクツ バイ ダイソー」、大人の女性向けかわいい雑貨専門店「スリーピー」を同時出店しました。同施設には、ユニクロ旗艦店「UNIQLO TOKYO」が核テナントとして入っています。また、ダイソーが出店したフロアは、ニトリの店舗があった場所です。

 同社がワンフロアで3業態を展開するのは初めてです。しかも、銀座エリアにダイソーが出店するのも今回が初です。ダイソー316坪、スタンダードプロダクツ130坪、スリーピー51坪。トータルで約500坪という規模です。ここを拠点にダイソーの新たなブランドイメージをつくりたいという狙いがあります。

 ダイソーフロアには、昼間から本当に多くの利用客が詰めかけています。

 4月下旬には、パルグループの展開する「3COINS+plus(スリーコインズ プラス)」が西銀座デパートに出店しました。同ブランドはスリーコインズよりも売り場面積が大きく、食料品や軽家具なども品ぞろえする業態で、急速に拡大しているところです。銀座店は売り場面積が140坪と関東最大級の店舗です。以前にグループ入りした雑貨ショップ「ASOKO」の商品も品ぞろえしていました。同店にも平日の昼間からたくさんの女性客が入っていました。西銀座デパートの2階で一番奥という立地ながら、完全に集客の要になっています。

 #ワークマン女子と同じイグジットメルサの5階には、セリアが100坪の売り場面積で出店しています。セリアはあくまでも100円の品ぞろえにこだわっています。利用客は#ワークマン女子とセリアを行ったり来たりして買い物をしていました。

 「100円ショップで銀座の家賃を払えるのか?」と疑問に思う人もいるでしょう。

 しかし、100円ショップの稼ぐ力を知れば、それは杞憂(きゆう)だと分かります。

 例えば、セリアの月間売り上げは平均で1000万円(21年度実績)ほどです。銀座であれば、2倍の2000万円ほどだと考えられます。同社の粗利率は43%ですから、月間粗利で860万円です。仮に、#ワークマン女子と同程度の坪家賃とすると、100坪で217万円。人件費とその他経費で400万円として、月間の販管費が617万円。月間の営業利益は243万円です。年間2900万円以上の営業利益をあげられることになります。実は、100円ショップも銀座の中でもきちんと立地を選べば、ワークマン同様、十分に利益がでる計算になるのです。

●銀座エリアの賃料相場は戻り始めている

 銀座エリアは日本の店舗物件賃料相場の中で、最も家賃の高いエリアの一つです。アジアでは2位、世界でもトップ10に入る高さです。銀座エリアの1階家賃は坪6万円というのが相場ですが、22年第1四半期の最新家賃は坪8万円を超えています(出所:日経不動産マーケット情報)。コロナの影響で一時期は6万円程度まで落ち込んでいましたが、またここにきて上昇しています。一部のラグジュアリーブランドなどが入居する物件(銀座の好立地で1棟丸ごと物件)の家賃は、坪25万〜40万円とコロナ禍前の高水準に戻り始めています。

 実はこのような高額な賃料を払ってでも出店したいという企業は、ラグジュアリーブランド以外にも存在します。それは高級時計やブランド品の買い取り販売の店です。

 その一つが「GINZA RASIN」です。「超ロレックス専門店」というキャッチフレーズで、銀座中央通り沿いに22年2月に出店しました。常時1000本以上のロレックスを在庫し、大人気のシリーズ「デイトナ」も100本以上品ぞろえしています。周辺にはスウォッチグループジャパンの本社「ニコラス・G・ハイエックセンター」、ヴァシュロン・コンスタンタンやグランドセイコー、モンブランなども店を構える立地です。

 まさに世界中の高級時計ブランドブティックがひしめくこの場所に、時計の中古品店が出店したのです。そして同店には、日本中のロレックスマニアが集まり、店頭価格で500万円前後するロレックスが飛ぶように売れています。週末には数十本売れることも珍しくないようです。20本売れたら1億円の売り上げですから、ラグジュアリーブランドにも負けない売り上げを誇る業態です。富裕層の資産運用の一つとして使われている側面はありますが、それでも銀座の中央通りに中古の店が出店するというのは、これまでの常識では考えられないこと。それほど今、勢いのある業態がユーズドやリサイクルといった中古販売業態です。

 買い取り販売の大手、KOMEHYOも22年中に銀座に2店舗を出店する計画です。銀座であれば、同社が買い取りたい質の高いブランド品や貴金属類を持っている富裕層を取り込みやすいからです。その意味では都心型百貨店があり、ブランドブティックが立ち並び、いいお客さんが集まってくる銀座は最高の立地といえます。22年7月に「KOMEHYO 銀座 PLUS」を、同年11月には「KOMEHYO 銀座店」を出店し、銀座での知名度をさらに高める狙いです。

●「銀座のカジュアル化」が始まったのは2000年から

 銀座は05年ごろまでは百貨店と老舗専門店の街でした。しかし、百貨店の売り上げが減少するのとあわせるかのように、08年ごろからSPA型のファッションブランドやセレクトショップが続々と出店し始めました。銀座には今や世界中のSPAブランドがほぼそろっています。これらのSPAブランドによって、銀座には20代前半の女性客が非常に増えました。

 主要店舗の銀座への出店状況をまとめてみると、世の中に大きな変化が起こる時、それまで銀座には存在しなかった新たな企業や新業態が進出していることが分かります。もちろん、不景気でテナントが退店して、好条件で出店できた場合もあるでしょう。しかし、世の中の価値観の変化は下克上が起きやすいタイミングでもあるのです。08年におけるH&M銀座店の出店は、米国発の金融危機の時でした。ルミネ有楽町は東日本大震災の年。東急プラザ銀座はトランプ大統領が誕生したタイミングでした。そして、新型コロナウイルスとロシアによるウクライナ侵攻が重なる22年に、ワークマンと100円ショップが銀座に進出しました。銀座は世の中の変化にあわせて対応していく街なのです。こうした流れは、銀座の立地特性からいうと必然です。2つの視点から整理します。

銀座は340万人以上の超広域商圏

 銀座を支える主要な商圏エリアは中央区、千代田区、港区、文京区、新宿区、渋谷区です。鉄道では地下鉄銀座線、丸の内線、日比谷線、都営地下鉄浅草線が利用できます。さらに、JRの有楽町駅や新橋駅なども近く、全ての駅の乗降客数をあわせると200万人を超えます。週末は足立区、台東区、大田区、品川区、世田谷区、神奈川、埼玉、千葉エリアからも集客できます。つまり、新宿、渋谷などと並んで340万人以上の商圏人口(日本最大規模)があるエリアです。地方からの来街者、海外からの観光客も本来ならば圧倒的に多く、まさに商圏は世界レベルのエリアです。だからこそ企業はこぞって銀座を目指したくなるのです。

女性客が集まりやすく、街のイメージがいいエリア

 銀座の顧客層は大きく2つから成り立っています。08年以降増加しているのは20代後半〜30代前半の女性客と、50〜70代の女性グループ。銀座のある百貨店における男女売り上げ比率は、女性7割、男性3割。圧倒的に女性が集まりやすいエリアというのが特徴です。また、01年と多少古いデータではありますが、東京都内の繁華街における消費者意識調査の結果を紹介します。同調査において、銀座はほとんどの項目で評価が高かったのです。特に、「流行性」「買い回りの楽しさ」「安全性」「街の賑わい」では抜群に支持されていました。これは、今も変わらない傾向でしょう。こうした特別なイメージこそが、小売り・サービス事業者が銀座を目指す理由になっています。

 銀座に出店するとブランドイメージを上げられるという考えをもつ企業が多いのは、このような良い客質の商圏だからといえます。結果的にそこに存在する企業のブランドイメージも向上するのです。

 そもそも銀座は、ラグジュアリーブランドの集積地として世界にその名を轟かせてきました。世界中のラグジュアリーブランドのトップが、「世界中で一番出店したい場所」といっていたのを私は何度も聞きました。「銀座で売れれば世界で売れる」という世界のショーケースです。一時期は日本のデフレに嫌気がさして、中国や香港に移っていたラグジュアリーブランドも、15年からは改めて日本をアジアの拠点にし始めています。

 また、昔からの老舗テーラー、呉服屋、和菓子屋といった店舗もいまだに健在であり、東銀座の歌舞伎座が新しくなってからは、再び50代以上のミセス層、シニア層が街に戻り始めています。

●変化し続ける銀座

 このように銀座は常に時代の空気を読み取ることができる、変幻自在な街です。同時に伝統を大切にして、本物を提供できる街。まさに銀座らしさとは、伝統と革新を併せ持つことなのです。ですから100円ショップやワークマンが銀座に出店することは、実は銀座の歴史上、必然の流れともいえるのです。

 思えば三越銀座店1階にマクドナルド日本1号店がオープンした時も、「ハンバーガーを立ち食いする」という若者文化は批判されていました。しかし、銀座店の効果は大きく、マクドナルドは世界的なファストフード企業になっていきました。実は銀座という街は、新しい文化、創造的な取り組みに寛容な街でもあります。

 銀座には「銀座憲章」というものがあるそうです。銀座通連合会が1984年に定めたものです。

 こうしたまちづくりの考え方と歴史の中に息づいているものが「銀座フィルター」です。銀座フィルターとは、文書や決まり事ではなく、銀座らしさを表す不文律、紳士協定です。

 TOKYO GINZA OFFICIALの公式サイトには「言葉や数値でルールを定めなくても、銀座らしくないものは、この目に見えないフィルターにかかって自然と消えて行く。銀座らしいものだけが生き残ってきた」と記されています。

 こうしたことを繰り返して、銀座という街は生き残り、世界に知られる繁華街になったのです。

 伝統を維持するだけでなく、常に革新を取り入れる。

 それが銀座らしさであり、銀座の強さです。ワークマン、100円ショップの次にどんな革新的な業態が進出してくるか。街とはこうしたことの繰り返しで魅力が作られていくのです。

(岩崎剛幸)