大規模ビルの建設がめじろおしとなった都心の再開発ラッシュなど、この数年は仕事には恵まれてきたゼネコン業界。

 ただ、コロナ禍の影響により、肝心の利益率が低くなり、「豊作貧乏」の傾向も見えてきた。そうした状況を打開しようとしているのが清水建設の井上和幸社長だ。ポストコロナを見据えながらDXを武器に、利益率をより重視した経営に舵を切ろうとしている。

 井上社長に今後の事業戦略を聞いた。(中西享、アイティメディア今野大一)

●人間とロボットのコラボ

――ロシアによるウクライナ侵攻の影響は出ていますか。

 従前から半導体が不足したり、物流コストが上昇するなか、ロシアのウクライナ侵攻による混乱が拍車を掛け、全体的に建設資材の価格が上がってきています。工事利益への影響が懸念されるので、物価を注視する必要があります。

――デジタルゼネコンを標榜(ひょうぼう)しています。これはどういうイメージを描いているのでしょうか。

 デジタルゼネコンには3つの大きな要素があります。1つ目は「現場のモノづくりや管理をデジタル化していく」という考え方。2つ目は「モノづくりの現場を支える周辺業務をデジタル化していく」こと。3つ目は「デジタルな空間、サービスを提供していく」ということです。この3つの要素を総合的に推し進めていこうと考えています。

――建設現場にロボットを積極的に導入しようとしています。その狙いは何ですか。

 発想としては、人間がやっている仕事を全てロボットに置き換えるのではなく、人間とロボットとのコラボレーションの中で、苦渋な作業や繰り返しの単純作業などをロボットに代替させようということです。

 作業の安全性向上や効率化、省人化にもつながり、ヒューマンエラーも減ります。これが現場にロボット導入を進めている理由です。

 建設業は、今も多くの職人が現場で働いている労働集約型の産業です。これからは職人と一緒にロボットも活躍するようになると思います。(建築物や土木構造物のライフサイクルで、そのデータを構築管理するための工程)BIMとのデータ連動のもと、デジタルな管理をベースに最先端のロボットが活躍できるようになってほしいです。

 他産業の工場内の組み立てラインにいるロボットは、同じ場所で同じ作業をしていればいいのですが、建設ロボットは現場で自分の位置を認識して周辺の環境を見ながら移動し、作業しなければなりません。

 ただし、複雑な作業をする建設ロボットの開発には多額の投資が伴います。ですから、単純な作業を代替するロボットを開発し、職人が複雑な作業を担う。こうしたコラボをイメージしています。

――現場にロボットを導入することで、いま使っているマンパワーを、どの程度、削減できますか。

 例えば、鉄骨柱の溶接ロボットは必要な作業員の数を半分に減らせます。資材の搬送ロボットに至っては80%の省人化が可能です。こうしたロボットをもっと増やして、省人化に関するデータを収集していきたいと思います。

●作業員の処遇を改善 キャリアアップシステム導入へ

――この数年は建設業の労働者数の減少が目立ちます。どんな対策を考えていますか。

 建設業の労働者、現場で働く技能労働者を含めてトータルで減ってきています。4、5年前に日本建設業連合会(日建連)が試算したところ、その時点で約350万人いた技能労働者が、10年後には220万〜230万人に減るという予想結果が出ました。この数字には衝撃を受けました。

 建設業に入ってくる若い人は非常に少ないので、若者が注目してくれるような魅力のある産業にしていかなければなりません。国土交通省も危機感を抱いていて、現場の処遇改善にむけて、日建連の諸活動を支援してくれています。

 例えば、週休2日を前提にした工期設定もそうですし、設計労務単価と呼ばれる作業員さんの日給の額も10年連続で引き上げてくれています。また、作業員の処遇改善につながる建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入も推進しています。

――CCUSとはどんなものですか?

 IDカードで作業員の現場での就業履歴を蓄積するだけでけでなく、IDに蓄積された技能と経験による能力評価をし、能力に応じた賃金設定にも生かせます。また、就業情報を建設業退職金共済制度とリンクさせれば退職金ポイントの積立にも役立ちます。

 建設現場はこれまでは3K(きつい、汚い、危険)職場でした。これを変えようと、新4K(給与が高い、休暇がとれる、希望が持てる、かっこいい)を目指しています。ただし、入職者を増やすことだけでは技能労働者不足に対応できないため、ロボットなど技術開発を進めることによって、省人化も目指しているのです。

――初任給の5000円増額を決めましたが、その理由は何ですか。

 建設業界に優秀な人材を確保するためです。併せて、賃上げも実施しています。従業員の処遇改善を通じて、未来を切り開く「成長と分配の好循環」の実現に寄与することが、社会的使命だと考えています。

――「子どもたちに誇れる仕事を。」をキャッチコピーにしています。この意味は何でしょうか。

 例えば、「お父さんが造ったビルを見に行こう」と子どもにいえる仕事をしようということです。自分の仕事のプロセスやアウトプットの一つ一つに自信がなければ、子どもにはそうは言えません。

 将来、子どもたちが大人になった時にでも、社会インフラとして十分に機能する立派な施設を造っているんだよ、との思いが伝わるようなコピーを目指しました。

●富士通からDX人材をスカウト

――経産省と東京証券取引所が選んだ「2021年DX銘柄」に選ばれた理由は何でしょうか。

 地道な取り組みが評価された結果ではないかと思います。「デジタルゼネコン」という考え方を打ち出したのが20年の秋でした。それまでもIT化を推進してきましたが、ニューノーマルな働き方に対応するためにも、DXが必要になってきたわけです。

 そこで先に話したデジタルゼネコンの3つのコンセプトをベースに、いろいろなデジタル化技術を社内に展開してきました。

――DXを推進するため外部から人材を起用しましたね。

 リーダーは情報統括担当の副社長で、生え抜きのデジタル戦略推進室長が中心になってDXを推進してきました。ただ、DXの大きな将来像を描いてもらうために、外部の力も利用しようと、富士通さんから部長クラスの人材をスカウトしてきました。

 人材の多様化はDXの一つのキーワードです。建設業の器に捉われない成果を出したいので、これからはどんどん社外から人材を登用していきたいと思います。ただし、社外から来た人に頼るだけでなく、社内でしっかり議論して当社の方向性を出す必要があり、内部と外部の考え方を融合することが重要です。

 いまは良い方向に向かっていると思います。

――ゼネコン業界は全体的に利益率が低いようですが、どこに原因があると思いますか。

 建設業界の「請負」というビジネスモデルは本来、ローリスク、ローリターンなのですが、昨今では大きなリスクを背負うようになっています。私が知っている限り、仕事が潤沢にあり利益率が高かったのは、1990年ころのバブル景気の時と、4〜5年前のオリンピックに向けた好景気の2回だけです。いつの時代でも利益率の向上は重要な経営課題になっています。

 単に利益率を期待できないからといって厳しい仕事から逃げてしまうと、仕事が全く取れなくなってしまいます。だからこそ、常日頃から生産性の向上に取り組み、利益を確保していくことが重要なのです。

●物価上昇への対応策 発注者にも負担

――利益率を高めるために、どんな対策が必要だと思いますか。

 社内的には、少しでも良い仕事を取るために、顧客のニーズに応えられるように提案力を磨けといっています。営業の人脈やネットワークを広げて顧客との結び付きを強めることはもちろんですが、顧客の期待を超える価値の提案を目指さなければなりません。

 そして、建設業は装置を持たない人材産業なので、地道に人材を育てることも大切です。

 先ほども触れましたが、ロシアのウクライナ侵攻を契機に異常なほど物価が上がってきています。契約してから工事が始まるまでの間にも資材価格が上がるので、利益率を低下させる大きな要因にもなりかねません。

 日建連では、物価上昇分を発注者にも負担してもらえるようにならないか、契約約款について議論しています。物価上昇は一種の不可抗力です。われわれも物価上昇幅に照らして請負金額を増額する「スライド条項」を、民間の発注者にも認めていただけるように努めなければなりません。

 もちろん、物価上昇分を転嫁するばかりではなく、例えば仮にある資材が5億円値上がりした時は、3億円は施主側に負担いただき、残りの2億円分は施工の工夫により吸収するとか知恵も出さなければならないと思います。これも提案力であり、一つの解決手法です。

 急激に利益率を改善するのは各社ともに難しいと思いますが、大きな変化に対応するためには、量(売上高)ではなくて率(利益率)に軸足を移す必要があります。