新型コロナウイルス感染症は、わが国の雇用環境にも大きな影響を及ぼした。

 厚生労働省が発表した最新の集計結果によると、新型コロナに起因する解雇や雇い止めは13万2000人を超え、雇用調整の可能性がある事業所も全国で13万7238カ所となっている。ただこの数字はあくまで国が把握している人数にすぎず、実際の失業者数はさらに多いとみられる。

 大企業も例外ではない。2021年に早期・希望退職募集を開示した上場企業は84社と、2年連続で80社を超えた。このような事態は、リーマン・ショック後の09〜10年以来11年ぶり。新型コロナ感染拡大の影響を強く受けた鉄道、観光関連、アパレルのほか、製造業などを中心に、リストラ実施企業数は高い水準で推移している。

 このような雇用環境激変期において、リストラや雇い止めほどは報道される機会がないものの、着実に進展しているブラックな手口が存在する。それが「フリーランス」という、一見華やかな働き方の裏に潜む、業務委託の仕組みを悪用した「脱法的労働契約」だ。

●職種を問わず、年々増えるフリーランス

 わが国に存在する働き方には主に、正社員として勤務先に直接雇われ、雇用期間に期限のない「正規雇用」と、派遣社員や契約社員、アルバイトのように一定の雇用期間が決まっている「非正規雇用」、そして会社や団体などに所属せず、個人で仕事を請け負う「フリーランス」という3種類がある。

 このうち、フリーランスがほかの2つと決定的に違うのが「会社組織に雇われていない」ということだ。芸能人や音楽家、作家など、専門的な技術や能力が必要とされる職種が想起されやすいが、昨今この働き方はYouTuberやWebデザイナーのほか、フリーランス業務のマッチングサービスが拡充したことにより、ITエンジニアやUberEATS配達員など、さまざまな職種にも広がりを見せている。

 「フリーランス実態調査結果」(内閣官房日本経済再生総合事務局)によると、日本のフリーランス人口は約462万人。さらに、フリーランス業務のマッチングサービスを手掛けるランサーズが発表した「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」によれば、21年10月時点でフリーランス人口は約1577万人となっている。

 後者の数字には、正社員でありながら副業としてフリーランス業務を行っている人も参入しているが、いずれにせよフリーランスとして働く人は年々増加している状況だ。

●働き手にも企業にもメリットは多い、フリーランス

 フリーランスは特定の企業から雇われるのではなく、独立した事業主として、個別企業と「業務委託契約」を結んで仕事をすることが一般的だ。業務委託契約では、「特定の業務を遂行する」か、「成果物を納品する」ことへの対価として報酬を得る。

 働き手にとってのメリットとしては、次の事項が挙げられる。

・自分で仕事を選べ、自身の都合に合わせたスケジュールを組めるなど、会社組織の枠組にとらわれない、自由と裁量が多い働き方が実現できる

・労働時間の制限がないため、働けば働くほど収入も増え、働きが報われる

・スキルアップにかける費用などを経費計上でき、節税メリットと手取り収入の増加につながる

 また依頼する企業側にとっても、以下のようなメリットがある。

・高い専門性を持った人にピンポイントで業務を任せられ、自社人材で賄おうとした場合にかかる採用費用や人件費、教育コスト、社会保険料などを抑制できる

・これまで専門業務に従事していた自社社員の手が空き、本業に特化できることで、社内人材リソースを有効活用できる

・労働関連の法律の適用を受けないので、採算やスケジュールを優先して仕事を依頼でき、発注側からの契約解除が(正社員の解雇に比べれば)やりやすい

 従って、この契約形態をうまく活用すれば、依頼主の会社もフリーランスにとっても、双方にとってメリットのある働き方となり得る。

●メリットとデメリットは表裏一体

 しかし、メリットとデメリットは表裏一体。企業側にとってのメリットである「労働関連の法律の適用を受けない」とは、フリーランスにとっては「法律に守ってもらえない」ということでもある。

 具体的には、下記の通りだ。

・雇用契約(正社員)であれば労働基準法などで守られる、労働時間、賃金額(最低賃金額や割増賃金額)、各種手当(残業代、深夜手当や休日出勤手当)、賃金支払いの原則(全額払いや、毎月1回以上一定期日払いなど)、休日休暇といった各種保護が存在しない

・厚生年金や雇用保険、福利厚生など、会社からの保障が一切なくなり、必要であれば自ら手続して支払いする必要がある。交通費や諸経費も自己負担となる

・労働問題や労災事故が発生したとしても「委託先の問題」として発注主が責任逃れするリスクがある

・取引先都合により、急に仕事が打ち切られたり、報酬金額を下げられたりするリスクが常に存在する

 このように、「会社対従業員」といういわば主従関係から脱せられ、自由を得られる代わりに、「会社対取引先」という関係性に変わることで、より個人の責任範囲が大きくなる、すなわち全てが「自己責任」となってしまうのだ。

●メリットをつまみ食い 悪意のある企業の手口

 働く側がメリット・デメリット双方を理解し、企業側が適正に運用していれば、世の中全体としてもメリットの大きい業務委託形式。それでも、弁護士など専門家から懸念の声が挙がるのは「適正に運用しない企業」があるからに他ならない。

 悪意ある企業は、「法律の規制と社会保障負担を免れる」という企業側だけにメリットのある部分だけをつまみ食いし、一方で正当な報酬を支払わず、いわば「自社の下請」として使いつぶそうとする。まさに制度の悪用なのだが、残念なことに、働く側も法律を詳しく知らないため、悪意ある企業の言うなりになってしまうという不幸なケースも散見される。

 仮に、会社側と働く側がお互いに契約内容に合意して業務委託契約を結んだとしても、その働き方や仕事の進め方が社員と変わらず、実態として「働く側が企業側に従属して使われている」と判断されれば、その契約は「労働者性がある」として違法となり、会社側は罰則の対象となるのだ。では、どんな条件だとダメなのか。

・仕事自体の自由がない(仕事を断れない、競合企業からの仕事受託を禁止されるなど)

・働く時間や場所の自由がない(勤務時間や出社場所の指示・拘束がなされるなど)

・仕事の進め方の自由がない(仕事の手順や進め方を管理されるなど)

 このように、業務委託契約でありながら、実質的に社員と変わらない勤務を要求されるのはいわゆる「偽装請負」であり、違法だ。契約条件については事前に十分な確認と注意が必要である。

●「脱法的労働契約」の事例

 「偽装請負」として真っ先に想起される働き方としては、IT業界における「SES」が挙げられるだろう。SES(システムエンジニアリングサービス)とは、客先のオフィスにシステムエンジニアを派遣してソフトウェアやシステムの開発、保守、運用業務を受託する契約のことだ。

 派遣されるエンジニアは派遣元企業の正社員であり、本来であれば契約上、指揮命令権は雇用主(派遣元)のSES企業にある。しかし実態として、エンジニアたちは顧客企業(派遣先)からの指示で動くことがほとんどであり、これは違法な偽装請負にあたるのだ。

 本来自社が持つべき指揮命令権を客先に奪われてしまえば、自社の義務である労務管理などまともにできるはずがない。であるにもかかわらず、客先とエンジニアの間に入ってマージンだけを得る。まったく存在価値のない、ブラックな業種だと言い切ってよいだろう。

●「QB HOUSE」の事例

 10分間という短時間、かつ税込1200円という低価格でヘアカットサービスを提供する「QB HOUSE」においても先般、理美容師の契約形態に問題がある旨が報道された。同社では一部店舗(全店舗の約3割)において、本社が理美容師を雇用するのではなく、本社と業務委託契約を結ぶ個人事業主(QB HOUSE内で「エリアマネージャー」と呼ばれる)が理美容師を雇用する、いわば「社員が社員を雇う」という異様な形態を取っていることが明らかになったのだ。

 直接の契約関係にない本社は、理美容師に対する雇用責任を免れる一方で、理美容師の中には、「本社と契約した」と誤認する人もいたという。またエリアマネージャーと雇用契約を締結している店舗の中には、社会保険未加入、残業代不払い、有給取得不可などの深刻な労務問題が生じている店舗も一部あると報道された。

●「ボディワーク」の事例

 全国でリラクゼーションサロンを展開している「ボディワーク」でも同様の問題が取り沙汰されている。同社のセラピストは業務委託契約で採用され、採用ページを見ると「リラクゼーションセラピスト」「リラクゼーションスペースでのお仕事」と曖昧な記載しかない。

 一見する限りでは、セラピストとしての技術提供と接客によって出来高制の報酬を得られるように受け取れ、法的にも問題ないように映るのだが、内部関係者の告発によると、実質的には会社の指揮命令下で労働者としての業務遂行を求められ、違法性が疑われるという。具体的はこのようなものだ。

・「業務委託契約なので雇用関係は存在しない」という建前だが、セラピストは店舗のシフトに合わせて勤務する必要がある他、開店・閉店に伴う事務作業、清掃や電話応対、報告書作成など、施術以外の業務にも対応する必要があることから、実質的な労働者性が疑われる

・業務委託費用は施術時間に準じているため、施術以外の店舗運営業務に従事している分にはセラピストに収入が発生しない仕組みとなっている。また、業務委託でありながら休日取得やシフト変更に了承が必要であったり、身だしなみにも子細なルールが存在したりなど、労働者並の拘束が存在している

・「無料」と銘打っている研修についても、テキストや検定料、実際に店舗で客として施術を受けるといった実費負担が多く、研修後一定期間内に退職した場合は、1受講科目あたり数万円の研修費用を支払わなければならない

 業務委託であるにもかかわらず、細かい指示をおこなって社員のように都合よく使い、一方で雇用関係にあれば一般的に会社が負担する研修費用などは実費請求する。まさに、業務委託の都合の良い部分だけをとって、リスクは働く側に押し付ける、悪意あるやり口といえるだろう。

 本件を巡っては、違法性が疑われる契約条件について本部に確認をおこなったセラピストが契約解除になったことで、外部のユニオンと係争があったことが報道されている。

●フリーランスとして働くうえでの留意点

 もちろん、だからといってフリーランスは不安定でリスクがあるからダメ、というわけではない。会社という枠組みに縛られることなく、自身の生活やメンタルを自律的にコントロールでき、自分の腕次第でどんどん稼ぎたい人にとってはまさに向いている働き方であるから、適性のある人にとってはチャレンジする価値は十分あるだろう。

 業務委託契約そのものが問題なのではなく、契約形態を悪用する企業があることが問題なのだ。では、私たちがこのような悪意ある企業や手口を見抜き、避けるためにはどんな点に注意すればよいのだろうか。

 一つは、そもそも、フリーランスの大前提は「個人事業主として、リスクをとる働き方」であることだ。そしてそのリスクとは、業務委託契約のため「会社と会社員を守る法律には一切守ってもらえない」こと。従って、自分の身は自分で守るしかないということになる。

 業務委託契約は成果物に対して報酬が支払われるため、たとえ報酬に見合わないほどに労働時間を費やしてしまっても、受け取れる報酬は成果物に対するものだけだ。当然、時間管理も体調管理も自己責任となるし、「業務委託のほうが報酬が上がるよ」などと約束されても、保険料などの持ち出しも増えるし、いつその約束が反故(ほご)になるか分からないという不安定感と隣り合わせだ。それでもチャンスだと考えられるなら、一歩踏み出せばよいだろう。

 もう一つは、発注元の指示命令に従わされ、実質的に従業員と変わらない「労働者性」のある委託業務に注意すること。

 先述のトラブル事例のように、フリーランス案件の中には、業務委託契約なのに発注元の指揮監督下に置かれ、雇用労働者と何ら変わらない労働条件で働かされるものが混じっている可能性がある。委託業務に次のような条件があれば要注意だ。

(1)仕事自体の自由がない

・発注元からの仕事依頼に対して、受ける/受けないの決定権がない

・仕事依頼を断ると欠勤扱いとなり、報酬減額などのペナルティがある

・他の発注者から仕事を受けることを制約される

(2)仕事の進め方の自由がない

・仕事のやり方について細かい指示命令を受ける

・受託した仕事の進捗状況や納品予定スケジュールについて、定例会議で都度確認される

(3)働く時間や場所の自由がない

・勤務場所や出社時間を指定される

・「周囲の社員に合わせてスーツ着用」など服装の指示がある

・仕事の成果とは関係なく、作業時間に合わせて報酬が設定される

 これらは「使用従属性」と呼ばれ、発注元が受託者に対してこのような労務管理をしている場合、「事実上の労働契約である」と判断される要素となる。

 仮に使用従属性が認められた場合、発注元は業務委託契約ではなく、労働契約に基づいた対応をしなければならない。その際、契約は労働基準法の適用を受けることになるため、発注元企業に対して残業代や未払い賃金を請求することが可能となるのだ。

●もし会社から「業務委託に切り替えないか?」と言われたら

 今正社員として勤務しているあなたが、仮に会社から「フリーランスになってウチの仕事を受けてくれないか」「業務委託契約に切り替えないか」などと言われたら、どう対処したらいいのだろう。留意点は2つある。

 1つ目は、業務委託契約への転換を強要するのは違法だということ。

 大前提として、業務委託契約を新たに結ぶ場合、働き手への保護・保障の度合いが大きく異なり、仕事の進め方などの面でも違いが存在するため、会社側はそれらについて細かく説明するとともに、働く側との合意が必要だ。

 しかし、会社側にあなたを使いつぶそうという悪意がある場合、説明を十分にしなかったり、「業務委託契約を結ばなかったらクビだ」などと強要してきたりする可能性がある。しかしそれは違法なので、あなたは「会社側からの業務委託契約の申出は断ることができる」と知っておいていただきたい。

 2つ目は、働く側に不利にならない条件を要求するということだ。

 業務委託のリスクも把握したうえでチャレンジする場合、リスクや不安点はできる限り全て払拭でき、不利益のない契約内容となるようじっくり話し合うことをお勧めする。具体的には「正社員勤務時代の収入を基に、保険料支出なども踏まえた手取り収入水準を維持できる報酬設定にする」とか、「委託契約期間を長期に設定し、その期間中は一定量の発注を継続することを条件とする」といった形で、双方にとってメリットのある形を考えていければよいだろう。

 発注側がフリーランスに依頼するメリットとして、「専門性の高いスキルを持った人物を、即戦力として活用できる」という点を挙げたが、それはあくまで「高い専門性に対して、相応の報酬で遇する」こととセットであることが大前提だ。責任だけを免れ、それに見合った報酬も支払わず、メリットだけをかすめ取るような脱法的な契約形態は、一刻も早く改められるべきである。

●著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員にまつわるトラブル解決サポート、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。

著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。最新刊「クラウゼヴィッツの『戦争論』に学ぶビジネスの戦略」(青春出版社)