起業のアイデアはあるけれど、仲間がおらず、環境も整っていないので実現できない──。そうした人が事業アイデアを狼煙(のろし)のように上げ、支援者を集め、地方自治体や企業とつながる。そんな取り組み「NOROSIスタートアップ」が発足した。

 このほどベンチャー企業のアドリブワークスが立ち上げた。神戸市や渋谷区をはじめ全国7つの自治体、東急、オカムラ、三井住友銀行など16法人、関西大学HACK-Academyといった官民の団体が参画する。

 2021年8月から先行して参加している神戸市は「これまで出てきたことのないようなアイデアと出会える豊作の年となった」(同市 新産業部新産業課 西川嘉紀氏)という。具体的にはどんな取り組みなのか。

●対象者は150万人 起業家層の下に存在する“予備軍”

 一般的なアクセラレーションプログラムとの違いは何だろうか。NOROSI主催・全体統括責任者の山岡健人氏(アドリブワークスCEO)は次の3つを挙げる。

・1. 挑戦者の裾野を広げること

・2. 一貫支援

・3. 初期の資金調達

 NOROSIでは一部の起業家層ではなく、その下に存在する起業のアイデアを持つ“予備軍”を支援する。対象者は150万人ほど、初期市場規模は年間1500億円を見込む。

 起業家と呼ばれる層であれば、金融機関や投資家からのファンドを受けやすいが、起業未経験者ではそれは難しい。事業アイデアがあるものの、踏み出せないような人たちを支えるのが、NOROSIだ。アイデアに対して共感を集めるところから、初期の資金調達、自治体や起業との連携、法人化までを一貫して支援する。目的は、上場するような優れた1社の創出ではなく“1万人の自己実現”だ。

●アイデアを評価してもらえるコミュニティー「triven」

 NOROSIの要は「triven」(トリブン)と呼ばれる仕組みだ。これは、アイデアに時価を付けるというもの。特徴は以下の3つだ。

・1. 共感をもとにした「アイデアの時価設定」

・2. 独自トークンによる「マイクロ資金調達」

・3. アイデアが生まれた場所へ「情報集約」

 チャレンジャーは、NOROSI内の専用コミュニティーサービス「triven」にアイデアを提出する。それに共感した人たちはスキルを提供するサポーター、独自トークンを寄付するファンダーとなってプロジェクトに参加できる。

 独自トークンの単位は「トリブン」。50トリブンは550円(以下税込)、105トリブンは1100円、1100トリブンは1万1000円となっている。

 まず、チャレンジャーが100トリブンを消費してアイデアを提出する。共感したサポーターは自分のスキルを提供するとともに、手持ちの1〜100トリブンを出資する。出資トリブンが25であれば、チャレンジャーとサポーターの出資トリブン合計は125となり、出資割合は8:2。プロジェクトが成功したときの報酬も、この割合に基づいて受け取れる。

 ファンダーがチャレンジャーにオファーするトリブンは純粋な寄付となる。そのため報酬を受け取ることはできない。

 このように、どれだけのトリブンが集まったかによって、アイデアの時価が決まり、トリブンでのマイクロ資金調達が行われる。また、別のピッチコンテストで入賞すると5万円の賞金も得ることができ、アイデア実現の資金になる。

 地方自治体だけでなく、全国各地のコワーキングスペースとも連携しており、格安で利用できる仕組みも備える。その場所で生まれたプロジェクトが別の地域で実現したとしても、進捗情報などを集約・表示するのは、そのプロジェクトが生まれたコワーキングスペースのページだ。

 そのほか同ページには、所属するメンバーやメンター、チェックイン中のユーザーなども表示。チェックインしていれば、プロジェクト発足人に会いに行くこともできる。

 trivenは、アイデアの創出、仲間集め、資金集め、プロジェクト立ち上げや進捗状況のPRなど、チャレンジャーが必要としているものを集めたコミュニティーだという。

 全国の加盟コワーキングスペースを月15〜60時間使えたり、優秀な人材にダイレクトスカウトメールを遅れたり、プロモーションを行ったりできるサブスクリプションサービス「triven Pass」も合わせて用意する。

●共感する仲間と初期資金を集められるピッチ

 NOROSIへ参加するには、公式ページから行う。まずプロフィール、スキル、プロジェクト(アイデア)を登録する。事務局側は、そのアイデアが他サービスと異なる点の確認、抜け漏れのチェックといったブラッシュアップ案の提供など“壁打ち”を行う。こうして事務局からの承認を受け、初めて掲載の許可が下りNOROSIに参加できる。

 エントリー後、チャレンジャーは仲間集めや資金集めに欠かせないピッチに参加する権利を獲得する。ピッチは(1)予約不要で当日飛び込み可能で、人前で話す練習にもなる「だれでもHIDANEピッチ」、(2)支援者を正式に募る「FUI5ピッチ」(フイゴピッチ)(3)加盟自治体や起業からの協賛により、一定の基準を満たしたチャレンジャーのみが参加できる「NOROSIピッチ(同時開催リバースピッチ)」の3種類がある。

 また、コンテストで入賞すれば、FUI5ピッチでは賞金として5万円、NOROSIピッチではスポンサーからの賞金のほか、各種支援も受けられる。5万円は、トリブンの購入金をプールしておいたアドリブワークスから支払われる。この金額は「生活資金から拠出するのは厳しいが、アイデアを形にして試すところまで進められる金額」(山岡氏)ということで設定されたものだ。

 NOROSIピッチで自治体や企業からの支援・連携を獲得したあとはビジネスを加速させ法人化を目指す。そこで、NOROSIの役割は終了し、チャレンジャーは次のステージへと進むことになる。

●クラファンとは何が違うのか

 現在募集しているアイデアのジャンル(コミュニティーテーマ)は10種類。各自治体や各企業は、その中から一つのテーマを選んでフォローする。フォローしているテーマに沿ったアイデアがあれば、それを出したチャレンジャーを応援できるようになるからだ。逆に、チャレンジャー側が好みの自治体または起業のフォローしているテーマでアイデアを出すことで生まれる出会いも想定した設計となっている。

 起業について相談を受けた地方自治体が、受け皿としてtrivenを使うこともできる。起業アイデアをtriven内でブラッシュアップし、triven側から地方自治体にフィードバック。優れたスタートアップを、ピッチコンテストで選出して各自治体や起業に戻し、事業化する。

 加盟自治体や企業は、出てきたアイデアに対して自分たちでケアする必要がなく、事業化するまでに成長したプロジェクトを引き取れる仕組みとなっている。

 自治体や企業から生まれたアイデアをtrivenで成長させ、アイデアの成長度合いをフィードバックする。これがスタートアップ“ハブ”と呼ぶゆえんだ。

 2021年8月〜12月末まで、神戸市と渋谷区は実証実験として参加。神戸市新産業部新産業課の西川嘉紀氏は「これまでもスタートアップを支援してきたが、出てきたことのないようなアイデアと出会える豊作の年となった」と振り返る。

 渋谷区グローバル拠点都市推進室の中屋力氏は「新しいアイデアを出してもらえ、刺激を受けられた。全国の自治体が参加することで、渋谷区からは生まれてこないアイデアに出会えることを楽しみにしている」と話す。

 山岡氏は「共感するサポーターが増えると、チャレンジしたいと考える人がそこから生まれ、プロジェクトが増える。するとトリブンが動き、ピッチの賞金となるプール資金が増える。それにより、成功事例が生まれ、さらにサポーターが増えるという成長循環を期待している」と説明する。

 「オープンイノベーションという言葉だけが独り歩きしているが、地域や企業などの組織に閉ざされているのが現状だ。ハブとしてのNOROSIに参画してもらえれば、他地方、他企業で出てきたアイデアやチャレンジャーと出会う機会が生まれる。チャレンジャーにとっては、共感者を得やすい仕組みなので、ライトに起業を目指せる。創業しやすい環境を、世界を作っていきたい」(山岡氏)