“ウィドウ・メーカー”(注)と呼ばれるトレードはいくつかありますが、日本国債のショート(空売り)ほど多くの人が知っていて、確実に痛みを伴うものはないでしょう。多くの投資家が日本国債の明らかなミスプライスに誘惑されましたが、日本国債の利回りは下がり続けています。

注:ウィドウ・メーカー 男性の命を奪い寡婦(widow)をつくるほど危険なもの、という意味で、さまざまな分野で使われる。

 日銀は“超”金融緩和策を続けています。最近では、金利の上昇を抑えるために10年物国債を指定した利回り(今回は0.25%)で一定期間、無制限に購入する「連続指値オペ」と呼ばれる措置を実施し、円相場は大きく下落しました。一方で、米連邦準備制度理事会、英イングランド銀行、欧州中央銀行など、ほとんどの先進国・地域の中央銀行が2022年に入り、タカ派に転じています。こうした中、一部の投資家は“超ハト派"の日銀もそれに続くのではないかと考えているようです。しかし、本当でしょうか?

 高進するインフレは、中央銀行が緩和的な金融政策を転換するきっかけとなっています。米国では、消費者物価指数(CPI)のコア指数の上昇率が前年同月比で6%を上回っています。一方、日本はまだ2%を下回っています。より重要なことは、他の国と比べて将来的なインフレ期待が低いということです。今年のインフレ率の推移を見れば、円安が日銀の金融政策の方向転換を促すものでないことは明らかでしょう。

 しかし、通貨安はエネルギーや食品を中心に、輸入品の価格上昇につながっています。可処分所得の減少に対する国民の不満は、7月10日に投開票を控える参院選での争点となりそうです。そして、その後にこれまでの金融政策が見直される可能性もあります。

 金融政策の変更という観点で最も信頼性がある論点は、将来的に、日銀がより柔軟に対応できるようになることでしょう。しかし、他の中央銀行とは対照的に日銀は金融引き締めを望んでいないため、そうした印象を与えないように対応するはずです。

 日銀は今後数カ月のうちに、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の目標水準を調整するかもしれません。しかし、この金融政策の枠組みを完全に放棄することはないと見ています。

 日本は1990年代以降、慢性的に低いインフレと経済成長に悩まされてきました。今は、持続可能なインフレを喚起しようとしています。そのため日銀は今後も低金利政策を維持すると見込まれ、多少の政策変更があったとしても、日本国債は債券市場の中でも最も高いパフォーマンスが期待できるアセットクラスの1つであり続けるでしょう。

 「連続指値オペ」をきっかけに下落した円相場が上昇に転じるとすれば、それは他国にならって日銀がタカ派に転じるというよりも、米国のインフレ率の低下など外部要因の影響が大きいと考えています。いまのところ、日本国債のショートは引き続き“ウィドウ・メーカー”であり続けるでしょう。