2021年12月に新生銀行を傘下に入れたSBIホールディングス(以下SBI)の北尾吉孝社長が5月の決算発表の席上、新生買収の大きな目的でもある“限界地銀”再生策としての「地方創生トライアングル戦略」を公表しました。

●控えめな宣言に終始の北尾氏 背景に地銀経営への危機感

 「戦略」公表とはいえ精緻な具体策を提示したわけではなく、新生銀行の買収確定時にも同じような話が出ていた「SBIグループのプラットフォーム、新生銀行の機能、これまで築いた地銀ネットワークを結びつける」というものです。

 “限界地銀”支援においては、これまで「第4のメガバンク」を目指し、派手な打ち上げ花火を上げてきた北尾社長ですが、今回は派手な看板にはカバーをかけ「SBI・新生銀行・地銀の3者の協力体制の下で、地銀を通じた地域活性化を目指す」という控えめな宣言に終始しました。

 今回の「戦略」公表では、傘下に収めた新生銀行の仕組み金融などのノウハウを生かしつつ、提携地銀経由で地方の成長分野への投資や、究極は「売りに出た銀行株を新生銀行が買い取ることもあるかもしれない」(北尾社長)と、新生銀行を地銀再生の中核に据えて対地銀戦略を展開していくという考えに言及してはいます。

 その一方で、地銀再生に関して毎度“破壊力”に富んだ発言で注目を集めてきた北尾氏にしては、目新しさを感じさせない地味な話に終始した印象であり、若干の違和感が漂っていました。

 その背景には、足元で地銀経営は新たな危機に瀕しつつあるということがあるとみられます。大きな要因は、相次ぐ米国金利の利上げによる外債の急落です。地銀は長期にわたる国内のマイナス金利政策で収益環境が苦しい中、国債の利回りも低下したことでここ数年外国債券での余剰資金運用を積極化してきました。

 米国金利の上昇で外債は下落を続け、体力のある地銀は早めに損切りすることで大きな損失になる前にリスク回避を図ったものの、収益基盤の弱い地銀は外債価格が下がろうともとりあえず持ち続ける以外になく、「その他有価証券評価損」が急拡大しているのです。

●地銀14行が評価損 第二地銀の経営基盤の弱さ浮き彫りに

 22年3月決算で同評価損を計上した地銀は14行。うち清水銀行、スルガ銀行、琉球銀行を除く11行は第二地銀であり、第二地銀の経営基盤の弱さが浮き彫りになった形ではあります。しかしそれ以上に注目すべきは、きらやか、筑波、清水、仙台、島根、福島、東和、大東の7行がSBIの“地銀再生プロジェクト”提携行であるという点です。

 もちろん、経営基盤が弱いからこそSBIに支援を求めたわけで、それはそれで納得ではあるのですが、これら7行の資金運用をSBIが担っていた、という点は大いに気になるところでしょう。

 例えば先陣を切って19年秋にSBIと業務提携を結んだ島根銀行は、21年3月決算ではSBIの指南による有価証券運用益が改善したことで前年の赤字決算から黒字に転じ、北尾社長が鼻高々にSBIの地銀支援効果を誇示する姿が印象的でした。

 しかし22年3月決算では一転、36億円もの有価証券評価損を計上。4月以降ウクライナ情勢の急変、米国の継続的金融引き締め政策の公言等により世界的に相場には重しがかかっており、このままでは外債運用をしている地銀は多額の減損処理を迫られる可能性もあって、島根銀行などは一気に切羽使った状態に追い込まれるかねない状況にあるのです。

 同じくSBIの支援提携先のきらやか銀行は、ここに来ての米国金利の急上昇によって外債中心の所有有価証券の評価損が約121億円にまで拡大し、公的資金申請の検討に入ったと発表するに至りました。

 そもそも「きらやか銀に運用のプロと呼べる人材がいなかった」(金融当局関係者)という状況下で21年3月決算でも評価損を計上していたわけなのですが、SBIとの提携が本格化した22年3月期が昨年との比較で評価損が4.6倍にも拡大しており、SBIとの提携効果は見られないどころか、むしろマイナスに働いたとすら思える状況です。

●SBIの地銀支援力、相場の恩恵受けてただけ?

 SBIの支援提携地銀は、きらやか銀を金額的筆頭に、提携9行中7行までが22年3月決算で多額の有価証券評価損を計上しています。21年に北尾社長が声を大にして語っていた、SBIの地銀支援力は、結局のところ相場が右肩上がりを続けていた恩恵に過ぎなかったのではないかと思えるわけなのです。

 SBI支援地銀の軒並みの評価損拡大で公的資金申請連鎖が始まりそうな現況に、同社に地銀支援のお墨付きを与え、新生銀行の経営権取得までも“黙認”した金融庁も、穏やかならざる面持ちでいるのではないでしょうか。

 SBIは有価証券販売仲介で自社の収益にはプラスを生みながらも、提携地銀の力になっているとはおよそ言い難い状況下にあり、金融庁の手前もあって新生銀行の地銀支援への活用を早期に形にするという姿勢を示す必要があったのでしょう。

 北尾社長がこのタイミングで公に登場する機会となった同社の決算会見で、「地方創生トライアングル戦略」を生煮え状態でも公表せざるを得なかった裏には、このような事情があったと考えられます。

●“限界地銀”対策に無策の金融庁

 当の金融庁についても、“限界地銀”対策に関する無策ぶりはどうなのか、と頭を傾げたくなる部分があります。今回きらやか銀行が申請する公的資金は、従来の最長返済期限15年という縛りもなく申請時の経営責任も問わないという、これまでには考えられなかったほど緩い条件下での資本注入となります。

 これは表向きコロナ禍で地方経済が疲弊する中で地銀に資本増強を促し、地元への必要な資金供給に支障を生まないためとされていますが、今回のようなコロナ禍の影響というよりは自己責任での経営悪化にも同様の対応でいいのか、疑問符が付くところではないでしょうか。

 返済期限も責任も問われないとなれば、当然経営のモラルハザードが懸念されるわけであり、再生に向けた“限界地銀”の緊張感に緩みが出るのではないかと思うところです。それより何より、言ってみれば「ある時払いの催促なし」の資本注入は「タダもらい」も同然なわけで、取引先には融資金の取り立てを厳しく行う銀行に対してこんな姿勢でいいのかと、思わず突っ込みたくもなるところです。はからずも、地銀再生に向け対処療法に終始する金融庁の無策さを示す形になったのではないでしょうか。

 金融庁はこれまで、合併や経営統合をした地銀に対して補助金を出すという改正金融機能強化法の施行や、規制に縛られていた地銀の取扱業務の拡大を認める銀行法の改正などの地銀再生施策を講じてきてはいるものの、大きな成果を見出すには至っていません。

 そのような中で、名門新生銀行の買収を、証券業界の新興勢力で“暴れ馬”のSBIに認めたのは、地銀救済を買って出ていたSBIを逃がさないための苦し紛れの策であったともとれます。

●SBIの地銀支援に変化 「第4のメガバンク」構想の行方

 となると気になるのは、SBIの地銀再生に対する本気度です。同社にしてみれば、提携地銀の余剰資金運用を手伝ったり、地銀の顧客に対して地銀経由で運用商品を販売したりすることは、リスクのない格好のビジネスになっていて、それだけでメリットは十分あります。

 例えば、地銀支援の第1弾だった島根銀行など、当初の何行かには資本注入もしていましたが、提携行の数を追うごとにその金額が減る、あるいは資本注入はしないという方向に転換もしています。このあたり傍目には、SBIの“限界地銀”支援は地銀でもうけるビジネスモデルが確立されたから、いつでも逃げられる姿勢に転じてきたのではないかとも受け取れるのです。

 当初は“限界地銀”支援を「第4のメガバンク構想」などと名付けて威勢の良い話が聞かれていた、SBIの戦略。途中から「提携は10行で打ち止め」と明言するようになったのも、地銀支援から逃げやすい環境づくりを気にし始めたのではないか、と受け取れます。

●地銀再生へ 問われるSBIの本気度

 提携は10行で打ち止めにして、あとは“お客さん”として地銀相手のビジネスを広げていけるなら、ビジネスとしてのうまみは十分にあるわけです。そのような中で出された今回の「地方創生トライアングル戦略」の中身の薄さからは、新たな商売ネタである新生銀行を手に入れて、地銀再生の本気度がますますかすんできたように見えます。

●SMBC、SBIに796億円出資

 さらに最新の動きとして6月23日には、三井住友(SMBC)FGがSBIホールディングスに796億円を出資することが発表されました。この一件は改めて取り上げますが、SBI証券への出資を望んだというSMBCの要望を退け、ホールディングスに出資させた点に注目です。

 新生銀行の買収額が1138億円ですから、その3分の2を他人にカネで賄ったことになるわけです。“剛腕”SMBCを相手にこの力技ですから、その気になれば地銀などひとひねり。どうやらSBIの思惑を中心に地銀との提携が進むことは間違いなく、火中に栗を拾ったかに見えた“限界地銀”救済は、SBIの「対地銀カネもうけ作戦」に終わるようにも思えてきます。

 危機感に乏しく遅々として動かぬまま、SBIを儲けさせ続けるだけの“限界地銀”経営者。片やSBIに逃げられぬよう配慮しつつも、危機に瀕する“限界地銀”をなお延命させるしかない無策の金融庁。そして商売重視で、地銀再生への本気度の薄さが透けて見えてきたSBI。「地銀再生トライアングル」となるはずが「地方創生トライアングル」の名のもとで、“SBI独り勝ち”の構図だけが見えてきたように映ります。