もはや耳にしない日はないのではないかというほどのバズワードとなっている「NFT」「ブロックチェーン」「メタバース」。これらはWeb3.0関連のテーマです。現状約50兆円の市場が、2024年には90兆円市場へ拡大するという予測も出ています。

 6月7日、岸田政権が発表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」。ここでも、Web3.0領域にて下記4点が示されていることから、官民両面からの市場拡大が見込まれます。

(1)インターネットにおける新たな信頼の枠組みの構築

(2)ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)の利用等の Web3.0の推進に向けた環境整備

(3)メタバースも含めたコンテンツの利用拡大(著作権の利用許諾を簡素で一元的な処理で実現)

(4)Fintechの推進(事業者のセキュリティトークンでの資金調達機会を拡大)

 Web3.0市場は果たしてこれからどのような発展を遂げていくのでしょうか。そして、今後の発展の鍵を握ることは何なのか。

 Web3.0を中心にビジネスを展開する企業の視点では、書籍をはじめさまざまな見解や情報が世の中にはあふれています。しかし、その技術や提案を受け、実際にビジネスを展開していく企業側の視点に立った議論は、日本において不足しているようです。

 今回はその企業側の視点を中心にお伝えしていきたいと思います。

●プレーヤーは群雄割拠

 Web3.0領域はFacebookを展開するMetaなどの巨大IT企業から、ベンチャーまでさまざまなプレーヤーが群雄割拠しています。これは、DXのマーケットにおいてプラットフォーマー、コンサル、IT開発ベンダー、SaaSベンチャーなどが乱立しているのと似たような様相となってきています。

 このように、企業をテクノロジーで支援する人たちの知見やノウハウは日々蓄積されています。では、ITではなく、小売、製造、サービス、不動産、外食、宿泊、教育、医療・福祉などの産業ではどうでしょうか。現時点では大手企業の一部イノベーター(革新者)とアーリーアダプター(初期採用層)が着手しているのみで、やっとこれから大手企業のアーリーマジョリティー(前期追随者)が展開をしていくタイミングを迎えています。

 実際にコンサルティングの現場でも、大手企業のワークショップが増えています。ただ、アイディエーション(さまざまな案を出していくこと)から入るケースが多く、暗中模索の段階というのが実情です。

 暗号資産(仮想通貨)のイメージが根強くある企業には、Web3.0が投機対象と感じられてしまい、足踏みをしている状況です。投機ターゲットではなく、一般ユーザーを巻き込んでいくという考え方を基本としなくてはなりません。

●Web3.0における基本的考え方

 日本ではまだまだWeb3.0に対して「慎重派」「様子見」の企業が多いのも事実です。圧倒的情報量を保持している大手企業ですらそうなのです。なぜなのでしょうか。

 その原因を、次のように整理しました。

(1)企業の経営課題とのリンクができていない

(2)決裁をする取締役、執行役員への理解促進・コミュニケーションが不足している

(3)法的側面とブランド毀損(きそん)リスクの整理がなされていない

(4)事業の根幹である商品・サービス・店舗とのリンクが弱く、プロモーション領域を出ない案が多い

(5)コストと収益試算の蓋然性が脆弱(ぜいじゃく)

(6)社内に可能性や必要性を理解できている人が少なく孤軍奮闘状態

(7)上記の(1)〜(6)を総合的に解決してくれるパートナー企業の不足

 Web3.0は、展開する方向性によってビジネスを抜本的に変革していく可能性を秘めており、定款変更さえ要するケースがあります。そうなると株主総会決議が必要となり取締役が管轄すべき事案となります。

 広告宣伝部がプロモーションのひとつとして着手するレベルを超え、経営判断を要する項目が発生するので大手企業では慎重に進めざるを得ません。

 従って、経営層の視点でどのようなメリットとリスクがあるかを明確にし、決議できるための材料を用意する必要性が生じます。これを企業側で設計できる人材はなかなかいません。かといって外部パートナーには技術面に詳しい人は多くても、そこに経営の観点も織り交ぜてサポートできる人材が稀有(けう)なのが現状です。

 さらに、Web3.0領域では斬新なアイデアも求められます。それによってユーザーに新たな驚きや体験を提供することにつながるからです。ロジックだけではなく感性のケイパビリティも求められるのです。

 コンサル会社には斬新なアイデアとブロックチェーンの技術を深く理解している人が不足しています。

●Web3.0ビジネスを支援する企業

 次に、Web3.0ビジネスを支援する企業のポジションを整理しました。

 大きく7つのスキルが求められます。そんな中、総合的に提供できているプレーヤーは現状ではいません。今後、図にあるような赤色のポジションを誰が担うのか、担えるのかという点が注目のポイントです。おそらく、1社でまかなえるエクセレントカンパニーの登場はすぐには望めず、コンソーシアム型の複数企業連携チームがまずは誕生していくことでしょう。

 企業がWeb3.0を展開する際、「何(What)をするのか?」の前に、「何のため(Why)にするのか?」を明確にすることが重要です。その目的を次のように分類しました。

 これらのうち、どの目的で考察するかによって、具体的なアクションは大きく異なります。いくつか例を挙げながら整理したいと思います。

コカ・コーラ

 21年7月米国アトランタ発にて「コカ・コーラ」初のNFTのコレクターズアイテムを制作しました。

 販売されたNFTは1950年代に活躍したクラシックタイプのコカ・コーラの自動販売機を、メタバース(仮想空間)上で表現したものです。大手マーケットプレース「OpenSea」でオークションを実施し、約6200万円で落札されました。販売収益は全額寄付されたのでこれは収益を目的としたものではなく、コカ・コーラブランドの体験を通じたブランディングを目的としていたことがうかがえます。

マッカラン

 21年10月、ウイスキーのマッカランが1991年物の樽のNFTを発売し、230万ドル(約2億6000万円)で落札されました。落札された樽のNFTには、クリプトアーティストであるトレバー・ジョーンズ(Trevor Jones)氏のデジタルアートが付いていました。これは新たな収益創出とブランディングを目的としていたことが考えられます。

サッポロビール

 21年11月「サッポロ SORACHI 1984」のブランドトークンを発行しました。従来のポイントとしての割引サービスの役割に加え、NFTが付与された独自コンテンツや体験と引き換えられるのが特徴です。ユーザー間でのギフトや交換によるコミュニティー拡大、ブランド同士のコラボレーションを可能にするモデルです。同じターゲットであるが、競合ではない異業種のブランドとの連携をする可能性も秘めており、顧客エンゲージメント強化という効果が期待されます。

ウォルマート

 22年1月、独自の仮想通貨とNFT発行準備に入ったことが米特許庁への商標登録出願で明らかになりました。

 しかし準備に入ったことが分かったのみで、どのような内容を構想しているかは現段階では明らかになっていません。独自の仮想通貨を発行するということは、前述した目的の中でトークン経済圏を確立する方向にあることが予想されます。

 筆者は、次のような新たな経済圏を構想しているのではないかと考えます。

 これを日本企業に置き換えれば、ある企業の仮想通貨によってその企業グループのみならず、他の業種の企業との経済活動においても同じ仮想通貨が利用できます。また、ポイント機能や特別な体験が得られるだけでなく、その仮想通貨の価値が上がると自分の収益にもなるという世界が実現します。

 大手企業各社はこのポジションを他社に取られることを恐れ、自社もそのポジションの一社になるしかないと戦々恐々としているのです。特にウォルマートのような企業のコインが図のように利用されることが一般的になったとき、最も影響を受けるのが銀行やクレジットカード会社です。代替品の脅威とはまさにこのことを指すのです。

 投機的な観点だけでWeb3.0が展開されると、限られた層の中で収束してしまいます。新たな楽しさや利便性を実現するアイデアや企画があってこそビジネスの意義が高まっていきます。

 Web3.0のビジネスにはさまざまなステークホルダーが存在します。ITベンチャー、投資家、一般企業、XR系デザイナー、デジタルアーティスト、行政機関、ゲーム開発者、マーケットプレース、既存プラットフォーマーなど多岐に渡ります。

 企画・アイデアにより、どのプレーヤーが関わるかは変動します。ただ、その際に必ずおさえるべきことは、自社の収益だけではなく、関わるステークホルダーの視点で収益性やメリットを明確にすることです。そうでないと、間違いなく絵に描いた餅となります。

 自分たちの思惑と関わる企業の事情がうまく連携しない限り、どこかでパズルのピースがそろわなくなるのです。

 法的整備や規制緩和、スマートグラスの開発などが市場を切り開く要因であることに相違ありません。しかし、同時に、多くの企業が取り組みを加速するように、企業の経営課題解決視点でアイデアを付加していくことが並行して必要になります。

 バーチャルとリアルがつながることも市場が飛躍的に広まるきっかけのひとつです。バーチャル上で多くの商品(リアル)が購入できる、リアルな店舗でバーチャルも同時に体験できる、そのような融合した世界がすぐ近くまで迫っています。

 今回はWeb3.0における企業視点の重要性についてお伝えいたしました。

 最後までお読み頂きありがとうございました。

(佐久間俊一)