楽天証券は9月積立分からクレカ積立の還元率を一部引き下げ、従来の1%から0.2%とする。その理由は「採算性が合わなくなった」点にある。

 では、8月積立分から開始する楽天キャッシュ決済による積立は、なぜ0.5%を還元できるのか。将来はこちらも採算が合わなくなったという理由で、還元率が減る可能性があるのだろうか。

 クレカ積立の事業モデルをもとに、ここについて考えてみよう。

●クレカ積立の事業モデルーー収益は信託報酬の代行手数料

 まず投資信託事業における証券会社の収益源から確認しよう。以前は、投信にも販売手数料が存在したが、今はメジャーな投信のオンライン販売についてはゼロ(ノーロードと呼ばれる)。そのためメインの収益源は、信託報酬だ。

 投資信託保有者は、信託報酬という形で継続的にコストを支払う。信託報酬は、運用会社、信託銀行、販売会社が分け合うが、この販売会社の取り分が証券会社が得る収益となる。

 例えば、楽天証券主催のユーザー投票で先進国株式部門でアクティブファンドトップとなった「キャピタル世界株式ファンド」はどうだろうか。こちらの信託報酬は合計で年率1.694%。うち運用を行う運用会社の取り分が「委託会社分」と呼ばれる0.825%で、販売を行う証券会社の取り分が「代行手数料」と呼ばれる0.825%だ。そして、証券を管理する信託銀行の取り分が「受託会社分」と呼ばれ0.044%となっている。

 なるほど、このファンドを買い付けてもらえれば、残高の中から毎年、0.825%が証券会社に入ることになる。これであれば、買い付け時に1%のポイントを還元しても、2年も保有してもらえれば利益が生まれる。

 これがクレカ積立をスタートした当初の目論見だったわけだ。

 ところが、この数年で人気が爆発したのは、腕利きのファンドマネージャーが投資先を厳しく選別するアクティブファンドではなく、市場平均にそのまま投資するインデックスファンドだ。インデックスファンドの特徴は、信託報酬が低いこと。同投票で先進国株式部門インデックスファンドトップとなった「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」の信託報酬はどうだろうか。

 こちらの信託報酬は0.1023%。この時点で先のアクティブファンドの10分の1以下だ。そして、委託会社分が0.04015%、代行手数料も0.04015%。受託会社分も0.022%となっている。証券会社の取り分も、20分の1以下になっていることが分かる。

 このファンドの買い付け時に1%のポイント還元を行うと、代行手数料で還元分を回収するのに25年もかかる。これではいくらなんでもビジネスとして成り立たない。

●インデックス投信が大人気

 信託報酬の低いファンドもあれば、高いファンドもある。これらがバランスよく売れていれば、平均すれば収益率はそれなりになっただろう。しかし昨今のトレンドは、低報酬のインデックスファンドだ。

 その代表格であるeMAXIS Slimシリーズは、5月に国内公募投信の純流入額で1位、2位を占めた。純流入額とは、購入のための入金額から解約などによる出金額を引いたもの。要は一番売れたファンドだということだ。

 もちろん、クレカ積立の還元率に魅力を感じて口座を作ったユーザーが、別の投資を行うという効果もある。投資信託事業で損失が出ても、顧客獲得コストと割り切る考え方だ。実際、クレカ積立を武器の1つとして成長したのが楽天証券であり、コストがかかっても顧客獲得効果は明白だともいえる。

 ところがそうして獲得したユーザーが200万人にも上ると、状況も変わってくる。2021年12月期の時点で、楽天証券の業績は利益面で足踏みした。原因はポイントやカード決済費用のコストを中心とした取引関係費が大きく膨らんだことだ。前年から41.5%増加し、387億円あまりと費用の中で最大。売上高にあたる営業収益が895億円であることを考えると、この金額の大きさが分かる。

 いくら新規顧客が増加しトップラインが増加しても、このペースでコストが増加しては成り立たなくなる。それが楽天証券が今回の決断に至った背景にある。

●クレカ積立の事業モデルーーコストは決済手数料

 では、楽天キャッシュならば大丈夫なのか? という本題に入る前に、クレカ積立のコスト面をひも解いてみよう。

 クレカ積立は、要はクレジットカード決済で投信を買っているわけで、基本的にはカードでモノを買うのと同じだ。このときのコストは、加盟店と呼ばれる販売側が負担する。クレカ積立でいえば、楽天証券が加盟店にあたる。

 経済産業省は「キャッシュレス・ビジョン」の中で、現状のカード取引のコスト・収益構造を図解している。これによると、加盟店が支払う手数料の平均は3.24%だ。もちろん、楽天証券は楽天カードの子会社にあたり、手数料はグループシナジーのために限界まで下げているだろう。

 それでも最低限必要なコストがある。おそらく楽天証券のアクワイアラは楽天カードだろうからアクワイアラコストはかからないにせよ、オーソリや売上データプロセッシングネットワーク(CAFISなど)にネットワーク接続料を払う必要はあるだろう。また、VisaやMastercardなどの国際ブランドには計0.1%のブランドライセンスフィーを払わなければならない。そしてもちろん、楽天カードは受け取った手数料を原資にして1%分の楽天ポイントを発行するわけだから、その分は少なくとも必要だ。

 こう考えると、楽天証券が支払う加盟店手数料はどんなに少なくても1%を上回る。1〜2%といったところだろうか。ちなみに、年間200万人のクレカ決済ユーザーが全員上限の5万円を積み立てると、2%の場合で年間手数料は240億円に達する計算になる。

●楽天キャッシュ決済の場合

 やっと本題だ。では、楽天キャッシュ決済による投信積立の場合はどうか。ここでは、間に楽天キャッシュを提供する楽天Edy社が入り、お金の流れは4社間となる。

 ユーザーの行動を追うと、まず楽天カードや楽天銀行から楽天キャッシュにチャージする。このとき、楽天カードの加盟店にあたるのは、楽天Edy社であり、加盟店手数料を支払うのも楽天Edy社だ。楽天キャッシュへのチャージでは、楽天カードは0.5%をポイント還元している。通常のショッピングの1%よりも低いわけだが、ここは楽天カードと楽天Edy社の間で手数料についても特別な契約が存在しているのだろう。

 注目は、楽天キャッシュを使って投信を買い付ける部分だ。実は、楽天キャッシュを使った決済については、相手が楽天グループ内の企業の場合、手数料を発生させていない。つまり今回の仕組みにおいて、楽天証券側は基本的にコスト負担が発生しないわけだ。

 楽天キャッシュは現在普及を推進している真っ最中にある。現時点では楽天キャッシュの認知を高め、楽天ポイントに次ぐ楽天経済圏強化の武器にしていきたい考えだ。実際、楽天キャッシュは「楽天ポイントと同様、グループのコアアセットという位置付け」(楽天Edy楽天キャッシュ事業推進室の鍋山隆人副室長)となっている。楽天のグループ内では、楽天ポイントの活用に手数料を支払う必要はないのと同様だ。

 楽天キャッシュ決済の仕組みを改めて見ると、これによって楽天証券のコストは大きく減少することが分かる。

 「今回楽天キャッシュは0.5%還元一律という形。ある程度、採算性としては、変更後のクレカ積立と大きく違わないとご理解いただいていい」と、楽天証券のアセットビジネス事業本部長の由井秀和常務執行役員は言う。

 クレカ積立は、一部で還元率を下げるとはいえ楽天カードへの手数料が発生しているはずだ。採算性が同じということは、楽天キャッシュにおいても、わずかだが楽天Edy社あるいは楽天カードへの支払いが発生しているのかもしれない。それでも、現時点で無理のないコスト感となっているのは間違いない。

 さらに、年末までは楽天キャッシュ決済で+0.5%の追加還元キャンペーンを行っているが、これを実施しているのも楽天キャッシュ側だ。楽天証券側はシステム構築とユーザー移行の促しくらいで、何らコストがかからない取り組みだともいえる。

●楽天キャッシュを普及させる武器に

 いろいろな点で楽天証券側に有利な取り組みのように見えるが、その背景にはアクティブな200万人のユーザーがいることを忘れてはならない。

 楽天証券がクレカ積立を開始した際には、楽天カードが持つ楽天経済圏のユーザーを楽天証券に取り込むことが狙いだった。そのために1%還元のコストを払ってきたわけだが、それは現在の楽天証券の躍進につながっている。

 一方で現在は、毎月5万円近い決済ニーズを持つユーザー200万人を楽天証券が抱えている。決済事業者にとっては、投信積立に対応すれば200万人のアクティブユーザーを取り込めることになる。これは多少のコストを負担してでもメリットがある。楽天キャッシュを普及させたいがために、こんな判断をしたのではないか。

 カード決済のコストが負担になっていた状態から、今度は200万ユーザーを活用して楽天キャッシュ普及の足がかりに転換する。その結果、事業単体として継続可能な形で、0.5%還元を継続できる仕組みを楽天証券は作り上げた。

 これはなかなか他社には真似しにくい。ある大手ネット証券幹部は「クレカ積立をやりませんか? とたびたびクレジットカード会社から提案があるが、絶対に採算が合わない」と漏らす。グループの経済圏をいかに活用し、どうシナジーを提供できるかで、このモデルの長期的な成功が決まるといえよう。